飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
25 / 31
第1章 城塞都市マカロン

第25話 モーリー・マカロンの実力

しおりを挟む
 地下洞窟からゴブリンの群勢が這い出てくることを察知したモーリーが教会に向かうと、教会の扉や窓から多くのゴブリンが出てくるのが見える。

(――くっ、遅かったか……!)
 
 周辺住民の避難は対処済み。
 とはいえ、建物に対する被害は甚大だ。
 事実。既に多くの建物にゴブリンが侵入し、破壊工作を行なっている。
 唯一の幸いはゴブリンがまだこの区画に留まっていること。

(ゴブリンはここで食い止める……!)

 モーリーは腰に掛けた鞘から剣を抜くと、ゴブリンに向かって構える。
 モーリーの持つスキルは『真実の眼』そして『第六感』の2つ。
 どちらも通常時は戦いに向かないスキルだ。
 しかし、未来を左右する重大な局面に対しては話が別。

『――ゲギャ⁉︎』

 モーリーが背後に向かって剣を振るうと、剣先がゴブリンの頭に突き刺さる。

「背後からであれば、俺を倒せるとでも思ったか? 舐められたものだな……」

 背後から強襲をかけようとしていたゴブリンの頭をそのまま切り捨てると、モーリーは教会に向かって一気に駆ける。
 モーリーの持つ『第六感』は、未来を左右する重大な局面に対しては、『極近未来を視るスキル』に変化する。
 相手の動きを予見することが重要となる白兵戦において、モーリーは常勝無敗。

『ゲッ⁉︎』『ギャッ‼︎』『グギャアアアアッ‼︎』(ゴブリンの断末魔の叫び)

 最小限の動きで教会から出てくるゴブリンを仕留めていると、数十体を仕留めた所でモーリーの目に不可思議な光景が写る。

(なんだ……?)

 第六感を使いこなすモーリーだからこそ感じ取れた違和感。
 違和感を感じたモーリーがその場から飛び退くと、空間が歪み地面が爪状に抉り取られる。

「……っ! これは⁉︎」

 モーリーの極近未来を視るスキル『第六感』の力をもってしても視ることのできない不可視の攻撃。
 そんな不可視の攻撃を目の当たりにしたモーリーは目を細め、警戒心を露わにする。

「――おや? 外してしまいましたか……。流石はハードリクトの息子といった所ですかね……」

 頭上から聞こえる男の声。
 声の方向に視線を向けると、そこには本を持つ黒いキャソックを着た男の姿があった。

「……ゴブリンが教会から出ていくスピードが遅くなったと思えば、まったく、困った人ですよ」
「お前は……」

 男の名は、ゲスノー。元神父で教会併設の孤児院に集まった子どもたちを人身売買した罪により受刑中であるはずの男。
 ゲスノーの登場にモーリーは警戒心を露わにする。

「――おっと、そんな怖い顔をしないでください。私はあなたと敵対したい訳ではありません。スキルの相性を鑑みれば、どちらが有利か誰が見ても明らかです。聡明なあなたならわかるでしょう?」

 ゲスノーのスキルは、霊媒。あの世とこの世を繋ぎ霊を降ろすことのできるスキル。このスキルには、物以外にも霊を降ろす力がある。当然、霊による不可視の攻撃も可能。
 白兵戦を主とし、極近未来を視るモーリーとはすこぶる相性が悪い。

「……やって見なければわからないさ。意外と簡単にお前のことを無力化することができるかも知れないぜ?」

 モーリーの煽り言葉を聞き、ゲスノーはヤレヤレと首を横に振る。

「強がりを……。私にはやらなければならないことがあるのでね。あなたに構っていられるほど暇ではないのですよ」
「……やらなければならないこと?」

 そう尋ねると、ゲスノーは目を細める。

「ええ……。何者かは知りませんが、私の部屋から勝手に2人を連れだした不届者がいるようでしてね。この後、私はエナとナーヴァを取り返しに行かねばなりません」

 エナとナーヴァの2人を救出されたことに対し、静かに怒るゲスノー。
 そんなゲスノーにモーリーは剣を向ける。

「折角、救出したんだ。させる訳がないだろ」
「そうですか、あなたが……。見逃して上げよう思っていたのに残念です」

 ゲスノーの眼光から怪しい光が帯びる。
 その瞬間、その場から飛び退くと、モーリーがいた場所に鋭い爪撃が走る。

「おっと……。効かないな!」

 モーリーの目には、極近未来が視えている。
 攻撃される際に発せられる空間の揺らぎ。
 注意して見れば、避けることは造作もない。
 霊からの攻撃を避けるモーリーの姿を見て、ゲスノーは少し感心した表情を浮かべる。

「中々、やりますね。ならばこれならどうです? 起きろゴブリン……。リビングデッド……」

 ゲスノーがそう言うと、死んだゴブリンの霊魂が白い靄となり、辺り一体を白く染め上げていく。

「こ、これは……」

 まるで濃霧の中にいるようだ。
 モーリーが剣を構えると「さあ、行きますよ?」と、ゲスノーの声が響く。
 その瞬間、視界の端に違和感を感じる。
 そして、地面に横たわっていたゴブリンの手がバネに弾かれたかのように動くと、モーリーの足首を思い切り掴みにかかる。

 ――スパンッ!(ゴブリンの亡骸の手を切る音)

 動きを察知したモーリーが瞬時にゴブリンの手首を切り落とすと、ゲスノーは不気味な笑みを浮かべる。

「――ほう。屍の動きを察知しましたか……。ですが、まだまだ……」

 ゲスノーがそう言うと、倒したはずのゴブリンがおぼつかない様子で立ち上がる。

「なっ⁉︎」

 これには、流石のモーリーも驚愕といった表情を浮かべた。
 倒したはずのゴブリンの目は虚で、足もおぼつかない。生きていた時より格段に動きは悪くなっている。
 しかし、モーリーの目には数瞬後の未来が……。倒したはずのゴブリンに自身が捕らえられる未来が見えていた。

(――拙い。未来が確定して……!)

 モーリーのスキル『第六感』は、未来予知に類されるスキル。重大な局面を変える力を持っているものの、効果は限定的で、副次的に極近未来の未来が視えているに過ぎない。
 特に未来を変えるべく動いている時の未来は酷く朧気で確定した未来は鮮明に視える。

「起きろ、起きろ、起きろ、起きろ、起きろ……」

 ゲスノーがそう呟く度、周囲に漂っていた死霊がゴブリンの骸に宿り、生きる屍として復活していく。
 その光景を見て後退るモーリー。
 ゲスノーはモーリーに視線を向けると、口元を三日月状にして笑う。
 そして「死ねェェェェ!」と叫ぶと、生きる屍と化したゴブリンが一斉に襲い掛かった。
 地面からは手が伸び、上下左右には夥しいほどのゴブリンがいる。

(くっ……! これはっ⁉︎)

 グラグラ……。(大地が揺れる音)

 モーリーが決死の覚悟を決めた瞬間、大地が揺れ、視えていた未来が書き換わる。

 グラグラグラグラグラグラグラグラッ!(大地が大きく揺れる音)
 グラグラグラグラグラグラグラグラッ!(大地が大きく揺れる音)

「な、なんだ、これはっ⁉︎ 地面が……。地面が揺れている⁉︎」

 ピンポイントで地面が隆起し、大地に開いた大きな穴に呑まれ消えていくゴブリンを見て、ゲスノーは驚愕の表情を浮かべる。

「馬鹿な……! こんなことが……。こんなことがあっていいはず……!」

 地震の影響により地面に這いつくばるゴブリン。モーリーは、進路を阻むゴブリンを切り捨てると跳躍し、ゲスノーの下へ一気に突き進む。

「うぉおおおおおおおおっ‼︎」
「な、しまっ……⁉︎」

 雄叫び声を上げるモーリーと、想定外の事態に慌てふためくゲスノー。
 既に未来は確定している。

「こんな……! こんな所でェェェェ⁉︎」

 慌てふためきつつも迎撃体制に入ろうとするゲスノー。
 モーリーは、確定した未来に沿って刃を滑らせる。

「――ぎっ⁉︎」

 首に喰い込む刃。
 首に赤い線が走ると、ゲスノーは目を血走らせる。

(な、なにが……⁉︎ 一体なにが起こった⁉︎)

 突然発生した地震。
 優勢からの劣勢。

 ――ドサッ! ゴロゴロゴロッ!(ゲスノーの首が落ち、転がる音)

 答えが見つからず、混濁したまま教会の中に転がる自身の首。
 ゲスノーは胴体を失った頭で考える。

(私は優勢……。優勢だったはずだ……。なのに、なぜ……。なぜェェェェ!)

 だが、終わってみればこの通り。

「しぶといな……。まだ、生きているのか……」

 様子を見にきたモーリーの呟きに、ゲスノーは笑って答える。

「当然だ……。私も……。化したのだから……。な……。このまま……。終わると思うな……」
「いや、お前はここでお終いだ」

 教会のシンボルであるガラスでできた巨大な十字架。
 ダモクレスの剣のように吊り下げられた十字架の紐が突然切れると、十字架の先端が吸い込まれるようにゲスノーに向かって落ちていく。

「……(う、うわぁああああああああっ⁉︎)」

 首だけどなったゲスノーの声にならない声。
 十字架の先端がゲスノーを貫くと、地震の影響も相まって地面に亀裂が走る。

 ビシッ……!(地面に亀裂が入る音)
 ビシビシッ!(地面の亀裂が広がる音)

 教会の下を通る地下洞窟。
 地震の影響で緩くなった地盤がゲスノーを奈落の底に落としていく。
 ゲスノーの最後を見届けると、モーリーは壁に背を預ける。

「ふーっ……(ゲスノーは倒した。ゲスノーは倒したが……)」

 モーリーが視線を向ける先には教会の地下洞窟から這い出るゴブリンの姿が見える。
 ゴブリンの生命力は強い。
 先ほどの地震はおそらく城塞都市マカロンの守護者。父親にして領主のハードリクトが起こしたもの。
 教会の地下洞窟は地震の影響により崩落。
 地下洞窟にいたゴブリンの大部分は崩落に巻き込まれた。
 しかし、すべてのゴブリンが巻き込まれた訳ではない。

『ゲギャ』『ゲギャゲギャ』

 ゲスノーとの戦いにより手負となったモーリーの姿を見て、ゴブリンがゲギャゲギャ笑う。

「これは少しキツイな……。やはり、コリーに付き添ってもらうべきだったか?」

 そう呟きながら立ち上がると、モーリーはゴブリンたちに剣を向ける。
『第六感』のスキルは発動中、尋常ではない精神力と体力を削られる。
 ゲスノーは強敵だった。それこそ、常時『第六感』を発動させておかなければならないほどに……。

『ゲキャゲキャゲキャゲキャ!!』

 手負いのモーリーが剣を構えたことに嘲笑するゴブリン。
 ゴブリンに囲まれ目を閉じようとすると、モーリーの目に未来の光景が書き換わる。

「これは……」

 それを見てニヤリと笑うモーリー。

「よく来てくれた。ヒナタ君……」

 そう呟くと、突然、ゴブリンが苦しみだし、足を滑らせたゴブリンが地下洞窟へと転がり落ちていく。

「『――あなた方の体内に、生のニンニクを創造しました。いかがです? 生のニンニクを10個以上創造された感想は……』」

 生のニンニクには、アリシンという強力な殺菌作用を持つ物質が含まれている。その力は、半玉で腸内細菌を死滅させるほどの力。
 例えゴブリンといえど、腸内に必要な細菌まで滅菌されてしまえば、当然、体調を崩し、尋常ではない腹痛に襲われる。
 神であるテールスが創造した生のニンニクならば、尚のことだ。

 モーリーはヒナタに視線を向けると、ホッとした表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...