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第1章 城塞都市マカロン
第22話 決勝戦②
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「――ぎゃあああああッー!?」
『おーっと、リンリン選手! 開始早々、投擲に失敗! バナナの皮を踏み後ろに倒れ込んでしまいましたぁぁぁぁ!』
『あれは痛いですね。思ったより棍棒が重かったのでしょうか?』
突然の事態に実況も驚いているようだ。
棍棒に頭を打ちつけ悶絶するリンリンに近付くと、テールスは満面の笑みを浮かべる。
「『あなたの足下に油を含んだバナナの皮を滑り込ませました。いかがですか? ご自身が持つ棍棒に頭をかち割られた感想は……?』」
「き、貴様ァァァァ! 反撃などして、人質がどうなってもいいのかッ!」
リンリンは棘付き棍棒に打ちつけた頭を押さえながら、涙を浮かべ観客に聞こえぬようにと態々、念話で非難する。
人質を取られ、負けるよう強要されている今、ヒナタの置かれた状況は圧倒的に劣勢。
しかし、テールスは余裕の笑みを絶やさない。
「『――おや? あなたのご主人様が命じたのは決勝戦で負ける。ただ、それだけでしたよね? いつ負けるかについては聞かされておりません。それに今のは反撃ではありません。偶々、足下に現れたバナナの皮を踏んでしまい足を滑らせた、ただそれだけのこと。あなたの注意力散漫を私のせいにされては困ります』」
言葉尻を捉えた『最後に負けてやればいいんだろ? その過程で痛い目に遭ったとしてもガタガタ抜かすな』という副音声。
テールスの悪びれない態度に、リンリンはこめかみに青筋を立て、怒り狂う。
「へぇ、そうかい……。楽に殺してやろうと思っていたがもう辞めだ。俺のご主人様もこの試合を見ている。シスターを人質に取っていることを忘れるなッ!」
リンリンが人差し指を立て示した方向に視線を向けると、建物の一室に口を塞がれたエナとナーヴァの姿が見える。
「『ああ、そこにいたのですか……。おや? これはいけませんね……』」
エナとナーヴァの姿を視認したテールスは、その方向を指差すと、軽く指を弾く。
「貴様、なんのつもりだ……」
テールスの取った不審な行動に、リンリンは警戒心を露わにする。
しかし、テールスは余裕の笑みを絶やさない。
「『ふふふっ、ただ指を弾いただけなのに、その反応……。そんなに私のことが恐ろしいですか? 安心してください。最後の最後にはあなたのご主人様が望む通りちゃんと負けて差し上げますよ』」
テールスの発言が気に障ったのか、リンリンは怒気を露わに激昂する。
「――き、貴様ァァァァ! 俺を舐めるのも大概にしろよ! いいだろう。そこまで言うなら俺の本気を見せてやる! ウオオオオッ‼︎」
咆哮の影響により、足下に亀裂が走り、リンリンの姿がゴブリン寄りに変貌していく。
「お、おい。あれ、見てみろよ」
「まるでゴブリンみたいじゃないか……」
「い、いやぁぁぁぁ⁉︎」
緑色の肌に犬のような牙。尖った耳……。
棘の付いた棍棒を片手に持ったその姿はゴブリンと言って相違ない。
観客席から上がる悲鳴と怯えた人の声。
それもそのはず、ここは城塞都市マカロン。
ゴブリン戦線の最前線。
「『――人並外れたその容姿……。まるでゴブリンのようですね。いいでしょう。お相手して差し上げますよ。あなたの本気を見せてください』」
テールスの浮かべる余裕の表情を見て、リンリンは両こめかみに青筋を立てた。
◇◇◇
ハーフゴブリンであるリンリンと、ただの人間であるヒナタとの戦いを見て、軍務卿のマスは頭を抱える。
「……どうなっている。話が付いていたのではなかったのか?」
バナナの皮に足を滑らせ傷だらけとなっていくリンリンの姿を見て、マスはキンメッキのことを睨み付ける。
「そ、そのはずなのですが……」
闘儀場に目を向けると、バナナの皮で足を滑らせ転倒するリンリンの姿が見える。
『――スリップ、スリップ、スリィィィィップ!! スリップの連鎖が止まりません! 立ち止まってもバナナの皮! 一歩足を動かしてもバナナの皮! リンリン選手、ヒナタ選手の繰り出すバナナの皮攻撃から逃れることができません!』
白熱した実況の割に合わぬほど、あまりに一方的な戦いだ。
ハーフゴブリンであるリンリンが使った肉体強化スキル『ゴブリン化』。
ゴブリン化することにより、人間を超えた膂力を発揮できる。
人間の力をあわせ持つハーフゴブリンにとって、その膂力はネームドゴブリンに匹敵する。にも関わらず、それをものともせずリンリンの足をバナナの皮で滑らせ続けるヒナタの姿を見てマスは、顔を歪めた。
(――あの小僧はなんなのだ……! なぜ、ハーフゴブリンの攻撃をああも易々と躱すことができる⁉︎)
手に持ったバナナの皮を、リンリンの足下に滑り込ませる正確性。ゴブリン化したリンリンを前に一歩も引かないその胆力。
(なにより、あの小僧からは一切魔力を感じない。ここは、マカロンだぞ? ゴブリン戦線の最前線だ⁉︎ なぜ……!)
この世界に生きる人間の誰しもが、大小少なからず魔力を持つ。
しかし、マスの持つ第2のスキル『魔眼』を持ってしても、その存在を確認することはできない。
「(――ゴブリンに匹敵する魔力を持っているのであればまだ理解できる。だが、魔力を持っていないとなると……。あの小僧は一体何者なのだ……⁉︎)いや、そんなことよりも……。あのハーフゴブリン、よりにもよって民衆の前でゴブリン化を……!」
ハーフゴブリンの容姿がまだ人寄りだったからこそマスのスキルでハーフゴブリンのことを好意的に扇動できた。しかし、ゴブリン化してしまっては話が別だ。
あれは、ハーフゴブリンにのみ発現するスキル。
ゴブリン化を目の当たりにした民衆を、ハーフゴブリンに対して好意的に扇動することは不可能。
(どうやら計画を前倒しにするしかないようだな……)
どの道、あと3時間もすれば、その時がやってくる。
椅子から立ち上がると、マスはキンメッキに視線を向ける。
「……キンメッキ。今すぐシスターから土地の権利を奪い取れ」
「おや、よろしいのですか?」
「ああ、事情が変わった……」
すると、キンメッキは満面の笑み浮かべ、懐から紙の束を取り出す。
実際には、ただの独断専行。しかし、キンメッキはそのことを感じさせぬように言う。
「実はそう言われるのではないかと思い、この通り……。既に、土地の権利を取得しております」
エナを椅子に縛り付け、土地の権利を渡さなければ、共に捕らえたナーヴァ共々、孤児院の子どもたちを皆殺しにすると脅し付けた所、エナは簡単に屈服した。
「そうか……。それで? 捕らえたシスターはどうした?」
「ええ、見張りを付け、隣の部屋に閉じ込めておりますが……」
エナとナーヴァはゲスノーに報酬として渡す予定。
そのため、ゲスノーに引き渡すまでは逃がす訳にはいかない。
すると、マスは呟くように言う。
「なるほどな……。ならば、今すぐにでも殺してしまいなさい。先ほど、隣の部屋で物音がしました。借金奴隷になる前に逃げられたら厄介です」
「――っ!? そ、そんな馬鹿な……! わ、わかりましたっ!」
エナとナーヴァを隣の部屋に監禁しているのは秘中の秘。
借金奴隷になった後であればいざ知らず、今、逃げられるのは非常にまずい。
書類を懐にしまい隣の部屋に駆けていくキンメッキ。
「さて、私も行くとするか……」
これから起こることを考えると、キンメッキの部屋に居座っているのは都合が悪い。
椅子から立ち上がり、隠し扉から隣の部屋に移動すると、キンメッキのいた部屋が途端に騒がしくなる。
「おっと、どちらにご用向きですか? キンメッキ殿」
「な、なんでこんな所に兵士がっ⁉︎ ま、まさか……‼︎」
部屋の扉を開けた先に現れたのは、兵士を引き連れた東門の兵士、モーリー。
モーリーを前にキンメッキは、後ろに一歩後退る。
「いえ、実は誰もいないはずの部屋から声が聞こえると通報がありまして……。おや? その鍵は……。なぜ、隣の部屋の鍵をあなたがお持ちに? おかしいですね。キンメッキ殿、申し訳ございませんが、ご同行願えますか? 少々、確認したいことがございまして……」
モーリーの顔を見て、キンメッキは冷や汗を流す。
「い、いや、ち、違う! この鍵はいつの間にか置いてあった。そう、私の部屋に置いてあったのだ!」
あまりに露骨な言い訳を聞き、モーリーはため息を吐く。
「鍵の管理は厳重に行なっています。その鍵は複製されたもの……。そして、その鍵を複製したのはあなたですね?」
モーリーが手に持つ鍵は、正規の鍵。
真実の眼を目に浮かべると、キンメッキは喉に手を当て苦しみながら自白する。
「うっ……⁉︎ がっ、な、なにを……! そ、その通りです……。わ、私が部下に作らせました……」
それもそのはず。モーリーのスキルは、真実の眼。その目に当てられた者は真実を自白するまで耐え難い痛みに襲われる。
(な、なぜ、奴がここにいる……!)
モーリーは城塞都市マカロン領主の息子。
正義感が強く。思慮深い男だ。
モーリーの登場にマスは焦りの色を浮かべる。
(くっ……! まさか、この段階になって奴に気取られるとは……。もはや一刻の猶予もない)
モーリーは過去にマカロンの危機を幾度となく退けてきた。
おそらく、今回もモーリーのスキルが発動したのだろう。
そう予想したマスは、モーリーに気取られぬよう慎重に部屋を出ると、門の外に向かい走り出す。
そして、懐に入れていた通信用の魔道具を取り出すと、ただ一言「……私だ。やれ」と呟いた。
ズガガガガッ‼︎ ドオオオオンッ‼︎
その瞬間、マカロン全域で轟音が鳴り響き、城壁が崩れ落ちる。
城塞都市は外からの防御に優れているものの、内側からの攻撃に弱い。
軍務卿の地位を最大限に利用し、城壁の一番脆い部分を攻撃させたのだ。
城壁の崩落は開始の合図。
内と外からゴブリンの群勢が雪崩れ込めば、マカロンは崩壊する。
「――ふはっ、ふははははっ‼︎ 終わりの始まりだ! 泣け、叫べっ! ゴブリンよ。このマカロンに大いなる災いをもたらすのだ!」
阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた民衆は、崩れゆく城壁を前に立ち尽くす。
そして崩れ落ちた城壁の向こう側にいるゴブリンの群勢を見て絶叫を上げた。
『おーっと、リンリン選手! 開始早々、投擲に失敗! バナナの皮を踏み後ろに倒れ込んでしまいましたぁぁぁぁ!』
『あれは痛いですね。思ったより棍棒が重かったのでしょうか?』
突然の事態に実況も驚いているようだ。
棍棒に頭を打ちつけ悶絶するリンリンに近付くと、テールスは満面の笑みを浮かべる。
「『あなたの足下に油を含んだバナナの皮を滑り込ませました。いかがですか? ご自身が持つ棍棒に頭をかち割られた感想は……?』」
「き、貴様ァァァァ! 反撃などして、人質がどうなってもいいのかッ!」
リンリンは棘付き棍棒に打ちつけた頭を押さえながら、涙を浮かべ観客に聞こえぬようにと態々、念話で非難する。
人質を取られ、負けるよう強要されている今、ヒナタの置かれた状況は圧倒的に劣勢。
しかし、テールスは余裕の笑みを絶やさない。
「『――おや? あなたのご主人様が命じたのは決勝戦で負ける。ただ、それだけでしたよね? いつ負けるかについては聞かされておりません。それに今のは反撃ではありません。偶々、足下に現れたバナナの皮を踏んでしまい足を滑らせた、ただそれだけのこと。あなたの注意力散漫を私のせいにされては困ります』」
言葉尻を捉えた『最後に負けてやればいいんだろ? その過程で痛い目に遭ったとしてもガタガタ抜かすな』という副音声。
テールスの悪びれない態度に、リンリンはこめかみに青筋を立て、怒り狂う。
「へぇ、そうかい……。楽に殺してやろうと思っていたがもう辞めだ。俺のご主人様もこの試合を見ている。シスターを人質に取っていることを忘れるなッ!」
リンリンが人差し指を立て示した方向に視線を向けると、建物の一室に口を塞がれたエナとナーヴァの姿が見える。
「『ああ、そこにいたのですか……。おや? これはいけませんね……』」
エナとナーヴァの姿を視認したテールスは、その方向を指差すと、軽く指を弾く。
「貴様、なんのつもりだ……」
テールスの取った不審な行動に、リンリンは警戒心を露わにする。
しかし、テールスは余裕の笑みを絶やさない。
「『ふふふっ、ただ指を弾いただけなのに、その反応……。そんなに私のことが恐ろしいですか? 安心してください。最後の最後にはあなたのご主人様が望む通りちゃんと負けて差し上げますよ』」
テールスの発言が気に障ったのか、リンリンは怒気を露わに激昂する。
「――き、貴様ァァァァ! 俺を舐めるのも大概にしろよ! いいだろう。そこまで言うなら俺の本気を見せてやる! ウオオオオッ‼︎」
咆哮の影響により、足下に亀裂が走り、リンリンの姿がゴブリン寄りに変貌していく。
「お、おい。あれ、見てみろよ」
「まるでゴブリンみたいじゃないか……」
「い、いやぁぁぁぁ⁉︎」
緑色の肌に犬のような牙。尖った耳……。
棘の付いた棍棒を片手に持ったその姿はゴブリンと言って相違ない。
観客席から上がる悲鳴と怯えた人の声。
それもそのはず、ここは城塞都市マカロン。
ゴブリン戦線の最前線。
「『――人並外れたその容姿……。まるでゴブリンのようですね。いいでしょう。お相手して差し上げますよ。あなたの本気を見せてください』」
テールスの浮かべる余裕の表情を見て、リンリンは両こめかみに青筋を立てた。
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「……どうなっている。話が付いていたのではなかったのか?」
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「そ、そのはずなのですが……」
闘儀場に目を向けると、バナナの皮で足を滑らせ転倒するリンリンの姿が見える。
『――スリップ、スリップ、スリィィィィップ!! スリップの連鎖が止まりません! 立ち止まってもバナナの皮! 一歩足を動かしてもバナナの皮! リンリン選手、ヒナタ選手の繰り出すバナナの皮攻撃から逃れることができません!』
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ハーフゴブリンであるリンリンが使った肉体強化スキル『ゴブリン化』。
ゴブリン化することにより、人間を超えた膂力を発揮できる。
人間の力をあわせ持つハーフゴブリンにとって、その膂力はネームドゴブリンに匹敵する。にも関わらず、それをものともせずリンリンの足をバナナの皮で滑らせ続けるヒナタの姿を見てマスは、顔を歪めた。
(――あの小僧はなんなのだ……! なぜ、ハーフゴブリンの攻撃をああも易々と躱すことができる⁉︎)
手に持ったバナナの皮を、リンリンの足下に滑り込ませる正確性。ゴブリン化したリンリンを前に一歩も引かないその胆力。
(なにより、あの小僧からは一切魔力を感じない。ここは、マカロンだぞ? ゴブリン戦線の最前線だ⁉︎ なぜ……!)
この世界に生きる人間の誰しもが、大小少なからず魔力を持つ。
しかし、マスの持つ第2のスキル『魔眼』を持ってしても、その存在を確認することはできない。
「(――ゴブリンに匹敵する魔力を持っているのであればまだ理解できる。だが、魔力を持っていないとなると……。あの小僧は一体何者なのだ……⁉︎)いや、そんなことよりも……。あのハーフゴブリン、よりにもよって民衆の前でゴブリン化を……!」
ハーフゴブリンの容姿がまだ人寄りだったからこそマスのスキルでハーフゴブリンのことを好意的に扇動できた。しかし、ゴブリン化してしまっては話が別だ。
あれは、ハーフゴブリンにのみ発現するスキル。
ゴブリン化を目の当たりにした民衆を、ハーフゴブリンに対して好意的に扇動することは不可能。
(どうやら計画を前倒しにするしかないようだな……)
どの道、あと3時間もすれば、その時がやってくる。
椅子から立ち上がると、マスはキンメッキに視線を向ける。
「……キンメッキ。今すぐシスターから土地の権利を奪い取れ」
「おや、よろしいのですか?」
「ああ、事情が変わった……」
すると、キンメッキは満面の笑み浮かべ、懐から紙の束を取り出す。
実際には、ただの独断専行。しかし、キンメッキはそのことを感じさせぬように言う。
「実はそう言われるのではないかと思い、この通り……。既に、土地の権利を取得しております」
エナを椅子に縛り付け、土地の権利を渡さなければ、共に捕らえたナーヴァ共々、孤児院の子どもたちを皆殺しにすると脅し付けた所、エナは簡単に屈服した。
「そうか……。それで? 捕らえたシスターはどうした?」
「ええ、見張りを付け、隣の部屋に閉じ込めておりますが……」
エナとナーヴァはゲスノーに報酬として渡す予定。
そのため、ゲスノーに引き渡すまでは逃がす訳にはいかない。
すると、マスは呟くように言う。
「なるほどな……。ならば、今すぐにでも殺してしまいなさい。先ほど、隣の部屋で物音がしました。借金奴隷になる前に逃げられたら厄介です」
「――っ!? そ、そんな馬鹿な……! わ、わかりましたっ!」
エナとナーヴァを隣の部屋に監禁しているのは秘中の秘。
借金奴隷になった後であればいざ知らず、今、逃げられるのは非常にまずい。
書類を懐にしまい隣の部屋に駆けていくキンメッキ。
「さて、私も行くとするか……」
これから起こることを考えると、キンメッキの部屋に居座っているのは都合が悪い。
椅子から立ち上がり、隠し扉から隣の部屋に移動すると、キンメッキのいた部屋が途端に騒がしくなる。
「おっと、どちらにご用向きですか? キンメッキ殿」
「な、なんでこんな所に兵士がっ⁉︎ ま、まさか……‼︎」
部屋の扉を開けた先に現れたのは、兵士を引き連れた東門の兵士、モーリー。
モーリーを前にキンメッキは、後ろに一歩後退る。
「いえ、実は誰もいないはずの部屋から声が聞こえると通報がありまして……。おや? その鍵は……。なぜ、隣の部屋の鍵をあなたがお持ちに? おかしいですね。キンメッキ殿、申し訳ございませんが、ご同行願えますか? 少々、確認したいことがございまして……」
モーリーの顔を見て、キンメッキは冷や汗を流す。
「い、いや、ち、違う! この鍵はいつの間にか置いてあった。そう、私の部屋に置いてあったのだ!」
あまりに露骨な言い訳を聞き、モーリーはため息を吐く。
「鍵の管理は厳重に行なっています。その鍵は複製されたもの……。そして、その鍵を複製したのはあなたですね?」
モーリーが手に持つ鍵は、正規の鍵。
真実の眼を目に浮かべると、キンメッキは喉に手を当て苦しみながら自白する。
「うっ……⁉︎ がっ、な、なにを……! そ、その通りです……。わ、私が部下に作らせました……」
それもそのはず。モーリーのスキルは、真実の眼。その目に当てられた者は真実を自白するまで耐え難い痛みに襲われる。
(な、なぜ、奴がここにいる……!)
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正義感が強く。思慮深い男だ。
モーリーの登場にマスは焦りの色を浮かべる。
(くっ……! まさか、この段階になって奴に気取られるとは……。もはや一刻の猶予もない)
モーリーは過去にマカロンの危機を幾度となく退けてきた。
おそらく、今回もモーリーのスキルが発動したのだろう。
そう予想したマスは、モーリーに気取られぬよう慎重に部屋を出ると、門の外に向かい走り出す。
そして、懐に入れていた通信用の魔道具を取り出すと、ただ一言「……私だ。やれ」と呟いた。
ズガガガガッ‼︎ ドオオオオンッ‼︎
その瞬間、マカロン全域で轟音が鳴り響き、城壁が崩れ落ちる。
城塞都市は外からの防御に優れているものの、内側からの攻撃に弱い。
軍務卿の地位を最大限に利用し、城壁の一番脆い部分を攻撃させたのだ。
城壁の崩落は開始の合図。
内と外からゴブリンの群勢が雪崩れ込めば、マカロンは崩壊する。
「――ふはっ、ふははははっ‼︎ 終わりの始まりだ! 泣け、叫べっ! ゴブリンよ。このマカロンに大いなる災いをもたらすのだ!」
阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた民衆は、崩れゆく城壁を前に立ち尽くす。
そして崩れ落ちた城壁の向こう側にいるゴブリンの群勢を見て絶叫を上げた。
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突如、姿を消した謎の先代勇者の過去と現在が交差し、次第に嘘と真実が明らかになるにつれて、暗雲が立ち込めていった勇者たち。
遂に互いの錆びかけた刃に火花を散らし、満身創痍の二人の間に、再び、望まぬ襲来者の影が静かに忍び寄っていた。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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