21 / 31
第1章 城塞都市マカロン
第21話 決勝戦①
しおりを挟む
『――評儀祭『闘儀の部』……。決勝戦……。 闘儀に賭けた男たちの最後の戦いが今、まさに始まろうとしております……!』
そう実況が流れると、向かい側から相手選手が歩いてくる。
『金色の目に薄緑色の肌……。大きな棘付き棍棒を片手に現れたのは、仮面を付け闘儀に臨んでいたゴールドメッキ商会が誇る主力奴隷、ハーフゴブリンのリンリン選手……!? だ、大波乱の闘儀祭! ここにきて、人類の敵であるゴブリンが選手であるとが発覚しましたぁぁぁぁ! これは色々な意味で大丈夫なのでしょうかぁぁぁぁ‼︎』
ゴブリンが選手の一人として闘儀祭に参加していると聞き、観客は騒めき声を上げる。
『実況のエルメさん。大変なことになりましたね』
『ええ、リンリン選手はシード枠な上、仮面を着けて試合に臨んでいましたからね。しかし、今になってなぜ、リンリン選手がハーフゴブリンであるとの情報を我々に流してきたのでしょうか……?』
ハーフゴブリンの登場に困惑する実況と観客。そんな騒めき声を打ち消すように、場内放送が流れる。
『あー、マイクテスト、マイクテスト……。ううんっ……。軍務卿のマスだ。その件については、私から説明しよう』
場内放送を流したのはマスという名の軍務卿。マスはまるで機械のように冷徹な声で言う。
『皆も知っての通り、今、マカロンはゴブリンの脅威に晒されている。なぜか……。それはマカロンがゴブリン戦線の最前線だからだ。ハーフゴブリンは敵ではない。むしろ、我ら人間と共に戦う仲間……。彼らハーフゴブリンには、人間の血が半分流れている』
マスの言葉を受け観客たちは不自然に鎮まり返る。
鎮まり返った観客たちを見渡すと、マスは観客たちの感情に訴えかけるようにマイクを握る。
『彼らもまた被害者なのだ……。誰が人類の敵であるゴブリンの血など引いて生まれたいと思うものか。もう一度言おう。ハーフゴブリンは敵ではない。人間である我々と共に戦う仲間だ。これまで、ゴブリンの血を引いているというただそれだけの理由で迫害されてきた彼らにチャンスを与えてやってほしい。私からは以上だ』
実際には、迫害などされていない。
ハーフゴブリンを人為的に生み出したのは、ゴールドメッキ商会。
その存在が周知されたのは今が初めてなのだから……。
マスが放送を打ち切ると、会場は不自然な盛り上がりを見せる。
「――リンリン選手にそんな過去が……」
「――ゴブリンの血が流れているという理由だけで人間がハーフゴブリンを迫害していたなんて、なんと嘆かわしい」
「――が、頑張れー、リンリン!」
「――負けないでー! 勝って、リンリン!」
「「――リンリン、リンリン! リンリン、リンリン!」」
突如として湧き起こるリンリンコール。
そんな観客たちを貴賓室から見下ろし、マスは笑みを浮かべる。
(――やはり、民衆とは愚かだな……)
マスの持つスキルは『扇動』。
何気のない一言でもマスが煽り立てるように口にすれば、それに影響された民衆が勝手に盛り上がり、マスの思う通りに動いてくれる。
「――後は決勝戦だけだ。首尾は万全なのだろうな?」
背後にいるキンメッキにそう話しかけると、キンメッキは揉み手で応える。
「ええ、軍務卿のお陰で首尾は万全。あの小僧には負けるよう脅し付けてあります。正午まで残り3時間……。残り3時間であの土地は法的に私のものとなります。ゲスノーもいい働きをしてくれました……」
「そうか、なら良い。それで? ゲスノーの姿が見えぬようだが、彼は今、なにをやっている?」
マスの問いに、キンメッキは考える素振りを見せる。
「ゲスノーですか? 申し訳ございません。ゲスノーはやることがあると、見張りをスッポかし、どこかに行ってしまいました。まったく困った者です」
「ほう。それは困ったものだ……」
「ええ、困ったものです」
キンメッキの言葉を聞き、マスはほくそ笑む。
(――この愚か者は、なにもわかっていないようだな……)
キンメッキはゲスノーのことを自分の手駒であると思い込んでいるようだが、それは違う。ゲスノーは、キンメッキの手駒ではない。マスの手駒である。
そして、マス自身もマカロン領主一族に仕えている訳ではない。
使えるべき主人はマカロンの外におり、ゲスノーには、地下洞窟の扉を開き、ゴブリンを招き入れるため、教会に向かっている。
(――ハーフゴブリンは、既に配置済……。そして、教会の地下洞窟には数多のゴブリンが集結しつつある。残すは決勝のみ。決勝が終わると共に闘儀祭も終わりを迎え、城壁に配置したハーフゴブリンが祝祭用の火薬球を城壁に打ち込み、内と外からゴブリンが襲撃をかけることになっている。滅びの時は近い……。そして、私が壊したかったのはマカロンだけではない)
マカロンの物流を握るこの男……。
キンメッキ・ゴールドも対象の一人だ。
(――あの土地を買い取るために、シスターを借金奴隷に堕とし、土地の権利を物理的にも、法的にも取得……。その後、教会の奥にある地下洞窟からゴブリンがあふれ出れば、その責任を取るのはゴールドメッキ商会の会頭であるキンメッキ・ゴールドを差し置いて他にいない)
ゴブリンのマカロン侵入に一役買ったと知られれば、ゴールドメッキ商会はお終いだ。
なにせ、このマカロンはゴブリン戦線の最前線……。
ゴブリンに与する者は死罪が相当。
例外は存在しない。
「さて、そろそろ試合が始まるな……」
未だ響き渡るリンリンコール。
観客が熱狂する中、ヒナタが闘技場の入り口に足を踏み入れると、再び実況中継が始まる。
『――さあ、右手から現れたのは、数々の猛者をトイレ送りにしたFランク商人、ヒナタ・クルルギィィィィ! リンリン選手に勝つ気満々! 両手に持ったバナナでどの様な試合を見せてくれるのでしょうかぁぁぁぁ!』
両手にバナナを持つヒナタの姿を見て、マスは怪訝な表情を浮かべる。
(おかしい。キンメッキと話が付いているのではなかったのか? あの小僧の目……。あれは諦めた者の目ではない。一体、どうなって……)
鋭い視線をキンメッキに向ける。
しかし、当の張本人であるキンメッキは気付いていないようだ。
「うん? どうかしましたかな?」
マスが睨み付けているにも関わらず、キンメッキは呆けたことを言うばかり……。
「(なにか嫌な予感を感じる。いや、だが……)なんでもない」
今まで感じたことのない焦燥感。
理由もわからず、心の内に湧き上がるその感情に身を焦がしながら、マスは闘儀場に視線を向けた。
◇◆◇
闘儀場へと続く道を一歩、また一歩と進む度に聞こえてくる観客からのリンリンコール。
完全にアウェイとなってしまった闘儀場の土を踏むと、決勝戦の相手選手であるハーフゴブリンが話しかけてくる。
「ゲキャキャキャキャ! よく来たなァ。俺の名はリンリン。ゴールドメッキ商会のリンリン様だァ! 話は聞いているぜ? 負けるために試合に参加するなんてご苦労なこったなァ!」
言葉の節々から感じる輩感。
その笑い声を聞いただけで、このハーフゴブリンがゴブリンと人間のどちら側の血を色濃く引いているかよくわかる。
「おいおい。どーした、まさかビビっている訳じゃねーだろうなァ? ああ、そうか、緊張しているのか。無様に負けるにしても相応の理由が必要だろうからなァ!」
挑発に次ぐ挑発。
リンリンはゴールドメッキ商会の奴隷……。つまりは商品だ。
商品であるからには、ある程度の礼節が求められる。
「おいッ! 俺の話を聞いているのか!」
しかし、リンリンに最低限の礼節が備わっているようには思えない。
闘儀場で露わとなったリンリンの素行に、ゴールドメッキ商会も今頃、頭を抱えていることだろう。
『おーっと、両選手、向かい合ったまま微動だにしません! 一体、どうしたのでしょうか?』
向かい合ったままで、微動だにしない両選手を見て、実況が声を上げる。
どうやら会話内容は実況や観客に聞こえていないようだ。
ヒナタはひたすら挑発してくるリンリンの言葉を受け流し、所定の位置につく。
(――試合開始前、モーリーさんは言っていた……。『できるだけ時間を稼げ』と……)
借金返済期限は3時間後。
ヒナタはエナとナーヴァという人質を取られ負けることを強要されている。
時間を稼ぐことに意味があるならやるべきだ。それが今、ヒナタにできる唯一のこと。
ヒナタは拳を握り、テールスに話しかける。
(――テールス、準備はいい?)
この世界に来て間もないヒナタでは、スキルを十全に使えない。
そして、時間を稼ぐならスキルを十全に使うことのできるテールスが出場するのがヒナタにとっての最善。
――ええ、もちろんです。あなたが望むのであれば、3時間といわず数百でも、数千時間でも時間を稼いで見せましょう。それでは、参りますよ――
そう言われた瞬間、ヒナタの体を触媒にテールス神が降臨する。
「『――御託は結構です。さあ、決勝戦を始めましょう?』」
テールス神が降臨したヒナタの言葉を受け、リンリンは笑みを浮かべる。
「ゲキャキャキャキャ! 決勝戦だァ? 負け戦の間違いだろ。まあいい……。そんなに死にたいなら殺してやる。今日の俺は気分がいい。なにせ、この試合が終われば、自由が確約されてるんだからなァ!」
リンリンは大きな棘付き棍棒を片手に構えると、ヒナタに視線を向ける。
テールスも手に持ったバナナを握り構えると、その様子を見ていた実況がマイクを握った。
『――どうやら双方共に試合の準備ができたようです! 果たして、どんな勝負を見せてくれるのでしょうか! お待たせしました。それでは、決勝戦、開始ですっ!』
――カーンッ!
闘技場内に鳴り響く試合開始のゴングの音。
「――いくぞ……?」
リンリンは大きな棘付き棍棒を片手で持ち上げると、ヒナタに向かって投擲するため足に力を込める。
「死ねェェェェ!」
「『――バナナ・スリップ』」
リンリンが足を一歩踏み出した瞬間、テールスにより足下に投げ込まれた油分たっぷりのバナナの皮。
バナナの皮を踏み足を滑らせたリンリンは、そのまま後ろに倒れ込み、手に持っていた大きな棘付き棍棒に頭を打ちつけた。
そう実況が流れると、向かい側から相手選手が歩いてくる。
『金色の目に薄緑色の肌……。大きな棘付き棍棒を片手に現れたのは、仮面を付け闘儀に臨んでいたゴールドメッキ商会が誇る主力奴隷、ハーフゴブリンのリンリン選手……!? だ、大波乱の闘儀祭! ここにきて、人類の敵であるゴブリンが選手であるとが発覚しましたぁぁぁぁ! これは色々な意味で大丈夫なのでしょうかぁぁぁぁ‼︎』
ゴブリンが選手の一人として闘儀祭に参加していると聞き、観客は騒めき声を上げる。
『実況のエルメさん。大変なことになりましたね』
『ええ、リンリン選手はシード枠な上、仮面を着けて試合に臨んでいましたからね。しかし、今になってなぜ、リンリン選手がハーフゴブリンであるとの情報を我々に流してきたのでしょうか……?』
ハーフゴブリンの登場に困惑する実況と観客。そんな騒めき声を打ち消すように、場内放送が流れる。
『あー、マイクテスト、マイクテスト……。ううんっ……。軍務卿のマスだ。その件については、私から説明しよう』
場内放送を流したのはマスという名の軍務卿。マスはまるで機械のように冷徹な声で言う。
『皆も知っての通り、今、マカロンはゴブリンの脅威に晒されている。なぜか……。それはマカロンがゴブリン戦線の最前線だからだ。ハーフゴブリンは敵ではない。むしろ、我ら人間と共に戦う仲間……。彼らハーフゴブリンには、人間の血が半分流れている』
マスの言葉を受け観客たちは不自然に鎮まり返る。
鎮まり返った観客たちを見渡すと、マスは観客たちの感情に訴えかけるようにマイクを握る。
『彼らもまた被害者なのだ……。誰が人類の敵であるゴブリンの血など引いて生まれたいと思うものか。もう一度言おう。ハーフゴブリンは敵ではない。人間である我々と共に戦う仲間だ。これまで、ゴブリンの血を引いているというただそれだけの理由で迫害されてきた彼らにチャンスを与えてやってほしい。私からは以上だ』
実際には、迫害などされていない。
ハーフゴブリンを人為的に生み出したのは、ゴールドメッキ商会。
その存在が周知されたのは今が初めてなのだから……。
マスが放送を打ち切ると、会場は不自然な盛り上がりを見せる。
「――リンリン選手にそんな過去が……」
「――ゴブリンの血が流れているという理由だけで人間がハーフゴブリンを迫害していたなんて、なんと嘆かわしい」
「――が、頑張れー、リンリン!」
「――負けないでー! 勝って、リンリン!」
「「――リンリン、リンリン! リンリン、リンリン!」」
突如として湧き起こるリンリンコール。
そんな観客たちを貴賓室から見下ろし、マスは笑みを浮かべる。
(――やはり、民衆とは愚かだな……)
マスの持つスキルは『扇動』。
何気のない一言でもマスが煽り立てるように口にすれば、それに影響された民衆が勝手に盛り上がり、マスの思う通りに動いてくれる。
「――後は決勝戦だけだ。首尾は万全なのだろうな?」
背後にいるキンメッキにそう話しかけると、キンメッキは揉み手で応える。
「ええ、軍務卿のお陰で首尾は万全。あの小僧には負けるよう脅し付けてあります。正午まで残り3時間……。残り3時間であの土地は法的に私のものとなります。ゲスノーもいい働きをしてくれました……」
「そうか、なら良い。それで? ゲスノーの姿が見えぬようだが、彼は今、なにをやっている?」
マスの問いに、キンメッキは考える素振りを見せる。
「ゲスノーですか? 申し訳ございません。ゲスノーはやることがあると、見張りをスッポかし、どこかに行ってしまいました。まったく困った者です」
「ほう。それは困ったものだ……」
「ええ、困ったものです」
キンメッキの言葉を聞き、マスはほくそ笑む。
(――この愚か者は、なにもわかっていないようだな……)
キンメッキはゲスノーのことを自分の手駒であると思い込んでいるようだが、それは違う。ゲスノーは、キンメッキの手駒ではない。マスの手駒である。
そして、マス自身もマカロン領主一族に仕えている訳ではない。
使えるべき主人はマカロンの外におり、ゲスノーには、地下洞窟の扉を開き、ゴブリンを招き入れるため、教会に向かっている。
(――ハーフゴブリンは、既に配置済……。そして、教会の地下洞窟には数多のゴブリンが集結しつつある。残すは決勝のみ。決勝が終わると共に闘儀祭も終わりを迎え、城壁に配置したハーフゴブリンが祝祭用の火薬球を城壁に打ち込み、内と外からゴブリンが襲撃をかけることになっている。滅びの時は近い……。そして、私が壊したかったのはマカロンだけではない)
マカロンの物流を握るこの男……。
キンメッキ・ゴールドも対象の一人だ。
(――あの土地を買い取るために、シスターを借金奴隷に堕とし、土地の権利を物理的にも、法的にも取得……。その後、教会の奥にある地下洞窟からゴブリンがあふれ出れば、その責任を取るのはゴールドメッキ商会の会頭であるキンメッキ・ゴールドを差し置いて他にいない)
ゴブリンのマカロン侵入に一役買ったと知られれば、ゴールドメッキ商会はお終いだ。
なにせ、このマカロンはゴブリン戦線の最前線……。
ゴブリンに与する者は死罪が相当。
例外は存在しない。
「さて、そろそろ試合が始まるな……」
未だ響き渡るリンリンコール。
観客が熱狂する中、ヒナタが闘技場の入り口に足を踏み入れると、再び実況中継が始まる。
『――さあ、右手から現れたのは、数々の猛者をトイレ送りにしたFランク商人、ヒナタ・クルルギィィィィ! リンリン選手に勝つ気満々! 両手に持ったバナナでどの様な試合を見せてくれるのでしょうかぁぁぁぁ!』
両手にバナナを持つヒナタの姿を見て、マスは怪訝な表情を浮かべる。
(おかしい。キンメッキと話が付いているのではなかったのか? あの小僧の目……。あれは諦めた者の目ではない。一体、どうなって……)
鋭い視線をキンメッキに向ける。
しかし、当の張本人であるキンメッキは気付いていないようだ。
「うん? どうかしましたかな?」
マスが睨み付けているにも関わらず、キンメッキは呆けたことを言うばかり……。
「(なにか嫌な予感を感じる。いや、だが……)なんでもない」
今まで感じたことのない焦燥感。
理由もわからず、心の内に湧き上がるその感情に身を焦がしながら、マスは闘儀場に視線を向けた。
◇◆◇
闘儀場へと続く道を一歩、また一歩と進む度に聞こえてくる観客からのリンリンコール。
完全にアウェイとなってしまった闘儀場の土を踏むと、決勝戦の相手選手であるハーフゴブリンが話しかけてくる。
「ゲキャキャキャキャ! よく来たなァ。俺の名はリンリン。ゴールドメッキ商会のリンリン様だァ! 話は聞いているぜ? 負けるために試合に参加するなんてご苦労なこったなァ!」
言葉の節々から感じる輩感。
その笑い声を聞いただけで、このハーフゴブリンがゴブリンと人間のどちら側の血を色濃く引いているかよくわかる。
「おいおい。どーした、まさかビビっている訳じゃねーだろうなァ? ああ、そうか、緊張しているのか。無様に負けるにしても相応の理由が必要だろうからなァ!」
挑発に次ぐ挑発。
リンリンはゴールドメッキ商会の奴隷……。つまりは商品だ。
商品であるからには、ある程度の礼節が求められる。
「おいッ! 俺の話を聞いているのか!」
しかし、リンリンに最低限の礼節が備わっているようには思えない。
闘儀場で露わとなったリンリンの素行に、ゴールドメッキ商会も今頃、頭を抱えていることだろう。
『おーっと、両選手、向かい合ったまま微動だにしません! 一体、どうしたのでしょうか?』
向かい合ったままで、微動だにしない両選手を見て、実況が声を上げる。
どうやら会話内容は実況や観客に聞こえていないようだ。
ヒナタはひたすら挑発してくるリンリンの言葉を受け流し、所定の位置につく。
(――試合開始前、モーリーさんは言っていた……。『できるだけ時間を稼げ』と……)
借金返済期限は3時間後。
ヒナタはエナとナーヴァという人質を取られ負けることを強要されている。
時間を稼ぐことに意味があるならやるべきだ。それが今、ヒナタにできる唯一のこと。
ヒナタは拳を握り、テールスに話しかける。
(――テールス、準備はいい?)
この世界に来て間もないヒナタでは、スキルを十全に使えない。
そして、時間を稼ぐならスキルを十全に使うことのできるテールスが出場するのがヒナタにとっての最善。
――ええ、もちろんです。あなたが望むのであれば、3時間といわず数百でも、数千時間でも時間を稼いで見せましょう。それでは、参りますよ――
そう言われた瞬間、ヒナタの体を触媒にテールス神が降臨する。
「『――御託は結構です。さあ、決勝戦を始めましょう?』」
テールス神が降臨したヒナタの言葉を受け、リンリンは笑みを浮かべる。
「ゲキャキャキャキャ! 決勝戦だァ? 負け戦の間違いだろ。まあいい……。そんなに死にたいなら殺してやる。今日の俺は気分がいい。なにせ、この試合が終われば、自由が確約されてるんだからなァ!」
リンリンは大きな棘付き棍棒を片手に構えると、ヒナタに視線を向ける。
テールスも手に持ったバナナを握り構えると、その様子を見ていた実況がマイクを握った。
『――どうやら双方共に試合の準備ができたようです! 果たして、どんな勝負を見せてくれるのでしょうか! お待たせしました。それでは、決勝戦、開始ですっ!』
――カーンッ!
闘技場内に鳴り響く試合開始のゴングの音。
「――いくぞ……?」
リンリンは大きな棘付き棍棒を片手で持ち上げると、ヒナタに向かって投擲するため足に力を込める。
「死ねェェェェ!」
「『――バナナ・スリップ』」
リンリンが足を一歩踏み出した瞬間、テールスにより足下に投げ込まれた油分たっぷりのバナナの皮。
バナナの皮を踏み足を滑らせたリンリンは、そのまま後ろに倒れ込み、手に持っていた大きな棘付き棍棒に頭を打ちつけた。
112
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる