飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

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第1章 城塞都市マカロン

第19話 ゲスノー襲来

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 ――トントン(孤児院の扉を叩く音)

「……はい。どちら様でしょう?」

 エナがそう尋ねるも、来訪者からの返事はない。ただ『トントン』とノックする音だけが部屋に響く。

 ――トントン、トントン(孤児院の扉を激しく叩く音)

 段々と激しくなるノックの音。
 異変を感じ取ったエナとナーヴァの2人は顔を見合わせると、部屋で遊ぶ子供たちを別の部屋に移動させる。

「みんな、隣の部屋で遊びましょうか」
「それじゃあ、こっちの部屋へ移動しましょうね」

 すると、その動きを察知したのか、ノックの音が激しくなる。

 ――ドンドン、ドンドンッ!(孤児院の扉を激しく叩く音)

 その音に反応し、子供たちは一様に怯えた表情を浮かべる。

「こ、怖いよ。エナ姉……」
「ナーヴァ姉……」

「……大丈夫よ。あなたたちは隣の部屋にいなさい」
「しっかり鍵を閉めて、私たちがいいと言うまで出てきてはいけませんからね」

 怖がる子供たちを隣の部屋に移すと、エナとナーヴァは伸ばし棒とフライパンを武器代わりに扉の前に立つ。
 そして、防犯のため設置した覗き穴から扉の外を覗くと、ナーヴァは驚きのあまり息を飲んだ。
 扉の外にいたのは、ミラと共謀し教会で保護した孤児を売り捌いていた元神父、ゲスノー。

「な、なんで神父様がここに――」

 逮捕されたはずのゲスノーの姿を見て、ナーヴァは思わず声を上げる。

 その瞬間、ピタリと止むノックの音。
 警戒心を露わにエナとナーヴァが扉から距離を取ると、扉の外から掠れた声が聞こえてくる。

『だ、誰か、助け……て……』

 外から聞こえてきたのは幼い子どもが助けを求める声。
 ゲスノーに怯え衰弱しているのがその声色から分かる。
 その声を聞いたエナは扉に手を伸ばす。

「エ、エナ……。あなた、なにをする気? まさか……!?」

 扉を開けようとするエナの姿を見て、ナーヴァは思わず声を上げる。
 ナーヴァに声をかけられたエナは泣きそうな表情を浮かべ振り向いた。

「――外に衰弱した子どもがいるのよ⁉︎ 放っておけないじゃない!」

 エナの気持ちは痛いほどわかる。
 ナーヴァ自身もできることなら扉を開け、外にいる子どもを助けたい。
 しかし、この建物の中には、他にも子どもたちがいる。
 扉の外にゲスノーがいる以上、安易に扉を開ける訳にはいかない。扉を開けるということは子どもたちを危険に曝すことに繋がる。
 ナーヴァはエナのことを嗜めるように言う。

「……いい? 落ち着いて聞きなさい。確かに、外には衰弱した子どもがいるのかもしれない。でも、外にはあの神父様もいるのよ。扉を開ければどうなるか少し想像すればわかるでしょう?」

 扉を開ければ、エナやナーヴァだけではない。中にいる子どもたちにも確実に危害が及ぶ。

「で、でも……⁉︎」

 ナーヴァの説得を受け、歯を食い縛るエナ。
 扉を開けるか開けないか苦悩していると、外から『仕方がないですねぇ……』と呟くゲスノーの声が聞こえてきた。

『まったく……。素直だった頃のあなたたちはもういないようだ。ガッカリですよ』

 ――ガスッ!(なにかを殴る音)

 次の瞬間、人を殴ったかのような鈍い音と子どもの嗚咽声が外から聞こえてきた。

『う……あ、もう止め……痛い。痛いよ……あ、あああああああっ……‼︎』

 外から聞こえてくるのは思わず悲鳴を上げたくなるほど悲痛な声。

「もう止めてぇぇぇぇ!」

 声にもならない子どもの声を聞き絶叫するエナ。
 大粒の涙を浮かべ床にへたり込むと、ガチャリと扉の鍵が開く音が聞こえてくる。
 視線を向けると、そこには隣の部屋に避難させたはずの子どもたちの姿があった。

「……な、なんで」

 扉に視線を向けると、ドアノブを回し部屋の中に入ってくるゲスノーの姿が見える。その表情は愉悦に満ちていた。

「……エナ、ナーヴァ。久しぶりですねぇ」

 獲物を見るようなゲスノーの視線。
 ゲスノーに視線を向けられた、エナとナーヴァは恐怖で体をこわばらせる。
 体がこわばり動けないエナとナーヴァを一瞥すると、ゲスノーはしゃがみこみ、扉の鍵を開けてくれた子どもの頭を撫でた。

「――ひっ!?」

 頭を撫でられた子どもはビクリと体を震わせ、小さな悲鳴を上げる。
 そんな子どもの様子を見て、ゲスノーはしゃがみ込む。

「君はとても良い子ですね。鍵を開けて頂きありがとうございました。もしよろしければ、鍵を開けてくれた理由を教えて頂けませんか?」

 ゲスノーの質問に子どもは怯えながら答える。

「――だ、だって、エナ姉もナーヴァ姉も助けたいって泣いてたし、お外から助けてって声が聞こえたから……」

 その回答にゲスノーは深い笑みを浮かべる。

「ほう。そうですか、そうですか。君はとても素直で優しい子なのですね。反吐が出るほどに……」

 ゲスノーは子どもの頭を鷲掴みすると、床に向かって突き飛ばす。

「うっ……。あっ⁉︎」

 突然、突き飛ばされ呆然とした表情を浮かべる子ども。
 エナはこわばる体に活を入れると、床と子どもの間に体を滑り込ませる。

――ドン!(壁に体をぶつける音)

「――っ!? だ、大丈夫?」

 勢いよく突き飛ばされた子どもを受け止めるとエナはゲスノーを睨み付ける。

「ゲスノー……。あなた、なにをするのですっ!」

 それを見たゲスノーは目を丸くする。

「おやおや、これは驚きですねぇ……」
「『驚きですねぇ』じゃありません! 今すぐ外にいる子を解放し、ここから出て行きない! さもないと兵士を呼びますよ!」

 マカロンの町は、ゴブリン戦線の最前線。
 侵攻に備え、絶えず兵士が巡回している。

「誰か助け――うっ⁉︎」

 エナが助けを呼ぶため大きな声を上げようとすると、その声を遮るようにゲスノーが手で口を塞いだ。

「……調子に乗るなよ」

 腹の底から響く悪意に満ちたゲスノーの声。
 ゲスノーは冷めた表情を浮かべると、エナとナーヴァに視線を向ける。

「エナ、ナーヴァ……。子どもたちに危害を加えられたくなければ、私と一緒に来なさい。もし、断るというのであれば、こちらにも考えがあります」

 そう言うと、ゲスノーは指を軽く弾く。
 すると、外から子どもの弱々しい声が聞こえてきた。

『痛い。痛いよ。誰か助けてよ。誰か……』

 子どもの悲痛な叫びを聞き、エナはゲスノーを睨み付ける。

「元神父ともあろう者が、なんということを……。あなた……地獄に落ちるわよ」

 教会の教えでは、人は死後、善行を積んだ者は天国と呼ばれる天上の地へ、悪行を重ねた者は地獄と呼ばれる苦しみの地へ送られる。
 エナが教義に基づきそう言うと、ゲスノーは歯を見せて笑う。

「――地獄? 地獄ですか、面白いことを言いますねぇ……。折角です。元神父として断言しましょう。地獄などというものは存在しません。それは悪行を犯した者を罰したいと考えた宗教家が考えた空想上の産物です。仮に地獄というものが実在し、死んだら地獄に落ちるというのであれば死ななければいいだけの……。ああ、これ以上は言い過ぎですね。少なくともあなた方が知る必要のないことだ……」

 怖がる子どもたちの声をBGM代わりにそう言うと、ゲスノーは背負っていた魔法の鞄から縄を取り出した。
 魔法の鞄は、過去にゲスノーが子どもの売買をするのに使っていた特別な物。その鞄には空間拡張の魔法が付与され見た目以上の物品を収納することのできる魔法道具。
 一般には普及しておらず、その鞄の中は、100平米ほどの空間が広がっており、生き物も収納することができる。

「そ、それは……まさか!」

 考えを察したエナがそう声を上げると、ゲスノーは薄笑いを浮かべる。

「別にここにいる全員を連れ帰ってもいいのですけどねぇ……。あいにく私には時間がない。もう一度だけ言います。子どもたちに危害を加えられたくなければ、縄で縛られ自ら魔法の鞄へと入りなさい」
「――くっ!?」

 背後にいるナーヴァに視線を向けると、ナーヴァは手を握り締め、薄く目を瞑る姿が目に映る。
 そして、ナーヴァはゲスノーの前に立つと、両手首をゲスノーの目の前に差し出した。

「――子どもたちには指一本触れないで頂戴……。もし、子どもたちに危害を加えたら……」

 ナーヴァの気迫に、ゲスノーは少し驚いた表情を浮かべる。

「怖い、怖い……。安心して下さい。約束は守ります。あなたたちさえ、指示に従って頂ければ危害を加えるような真似はしませんよ」

 心配そうな表情を浮かべる子どもたち。
 そんな子どもたちと、ナーヴァの姿を見て、エナもゲスノーの前に立ち、両手首を提示する。

「ナーヴァ姉……」
「――嫌だよ。ナーヴァ姉もエナ姉も、どこにも行かないで……」

 両手首を縄で縛られながらも、エナとナーヴァは子どもたちを心配させないよう気丈に振る舞う。

「――大丈夫。すぐに帰ってくるから心配しないで……」
「ちゃんと、ご飯を食べるのですよ」

 そして、エナとナーヴァが魔法の鞄の中に消えていくのを見届けると、子どもたちは目に大粒の涙が浮かべた。

「優しいシスターでよかったですねぇ……。それでは私はこれで……」

 魔法の鞄を持ち出て行こうとするゲスノーに一人の子どもが声をかける。

「外にいる子は……」
「――外にいる子?」

 意味がわからないと言わんばかりに首を傾けると、ゲスノーはポンと掌を打った。

「ああ、いましたね。そんな子も……」
「えっ?」

 子どもたちの前に手のひらを見せると、ゲスノーは笑顔を浮かべながら言う。

「あなたたちの言う外にいる子というのは、この子のことでしょうか?」

 ゲスノーの手のひらで嘆きの声を上げるカラベラ人形。骸骨を模して作られた人形を見た子どもたちは恐怖で顔を引き攣らせる。

「――可愛いでしょう? このカラベラ人形には、幼い子どもの霊が宿っているのですよ。私のスキルによってねぇ……」

 ゲスノーの持つスキルは、霊媒。あの世とこの世を繋ぎ霊を降ろすことのできるスキル。ゲスノーがカラベラ人形を指で軽く弾くと、人形はまるで生きた子どものような仕草で泣き喚く。

『痛い。痛いよ。誰か助けてよ。誰か……』
「あー、良い響きだ……この子たちの奏でる声こそ私の心の癒し……! ウットリしますねぇ……。ゾクゾクしますねぇ! 本来であれば、あなた方も私のコレクションに加えて差し上げたい所ではありますが、あいにく私は忙しい」

 チラリと外に視線を向けると、教会に向かいやってくるヒナタの姿が見える。

「小僧に言っておきなさい。エナとナーヴァの命が惜しければ、このことは誰にも話さず決勝戦で負けなさいと……」

 そう言うと、ゲスノーは裏口の扉を開け、ニヤリと笑う。

「必ず……必ずですよ? もし約束を違えたら……」

 ゲスノーがそう呟くとカラベラ人形の首が捩じり落ちる。

「「「――ひっ!?」」」

 それを見た子どもたちは悲鳴を上げる。
 子どもたちの声にならない悲鳴を聞き、ゾクゾクと体を震わせるゲスノー。

「――いいですね?」

 ゲスノーは子どもたちに舐めるような視線を向けると再度忠告して外に出て行く。

「ただいま。皆、マカロン焼きを買って……。きたよ……?」

 エナとナーヴァのいなくなった教会。

「うわぁぁぁぁん!」
「エナ姉が……。エナ姉とナーヴァ姉がぁぁぁぁ!」

 面扉が開かれ、ヒナタの姿を視認した子どもたちは一斉に涙を流した。
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