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第1章 城塞都市マカロン
第17話 その頃、キンメッキは……①
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テールスが手渡したのは、巨大化したサボテンダーの体内に創造した冷凍バナナを、同じく体内に創造したオリーブオイルで焼いたもの。
冷凍バナナは、サボテンダーの体内でオリーブオイル焼きにされたことにより真っ黒。しかし、黒くなった皮を剥くと、その見た目からは想像できないほど白い果肉が現れ甘く芳醇な香りが漂ってくる。
「『――これはあなたの体内に創造した冷凍バナナをオリーブオイルで加熱した焼きバナナ……。再生したばかりで免疫力の低いあなたに最適な食べ物ですよ』」
『――サ、サボ……』
自分の体内で焼かれたバナナを見て、なんともいえない表情を浮かべるサボテンダー。
しかし、テールスのことが怖いのか勧められるがまま、焼きバナナを口に含むと、その食感と味を受け、蕩けそうな声を上げた。
『――サ、サボボボボッ……⁉』
「『――そうですか……。それは良かった。さて、私の役目もここまでですね』」
焼きバナナを頬張るサボテンダーを放置し、闘技場を後にすると、テールスに貸していた体の主導権がヒナタに戻ってくる。
「――ふう……(――テールスのお陰で無事、第2回戦を突破することができた。次はいよいよ決勝戦か……)」
決勝戦を勝ち抜けば、優勝賞金、金貨1000枚に手が届く。
当初の目的は品評会にバナナを出品し、賞を取ること。様々なアクシデントに見舞われ本来の目的をすっかり見失ったヒナタに対して、テールスは囁くように言う。
――ええ、泣いても笑っても次で最後です。決勝戦も私にお任せ下さい――
「うん。頼りにしてるよ。でも、いつか自分の力でスキルを十全に扱えるようになれるといいなぁ……」
実際、闘儀に出場して見て、冒険者ギルドで冒険者不適格の烙印を押された理由がよくわかった。
確かに、スキルを使いこなせば人並み以上に戦うこともできるだろう。
それだけのスキルがヒナタには備わっている。しかし、ヒナタには闘いにおけるセンスや経験が圧倒的に足りない。テールスのようなスキルの使い方は今のヒナタには難しい。
――ふふふっ、いつの間にかあなたもこの世界に染まってきましたね。それにこんなにも頼りにして頂けるとは思いもしませんでした――
頼りにしているという言葉が自然と出てきたことにヒナタは少し複雑な表情を浮かべる。
「確かに、色々と染まってきたかも知れないな……」
エデンに転移させられた当初はスキルを十全に使いたいなんて思いもしなかった。
当然のことながら、元の世界に戻りたいという願望はある。しかし、今は……。
「……とりあえず、今日の所は帰ろうか」
なんだか今日は疲れた。
今日も教会のお世話になろう。話したいことも色々ある。
そう呟くと、ヒナタは自分が思いの外、異世界エデンに慣れ親しんでいることに驚きながら教会へ向かって歩き始めた。
◆◇◆
ここは、評儀祭が行われている城の中。
評儀祭の特別室で第2試合を見ていたゴールドメッキ商会の会頭、キンメッキ・ゴールドは呆然とした表情を浮かべ立ち尽くす。
「なぁ……。なんなんだ、あいつは……⁉︎ なぜ、あのサボテンダーに勝てる⁉︎ あのサボテンダーには、ゴブリンの力が宿っていたのだぞっ⁉︎」
サボテリーナに渡した黒い液体……。
それは、ゴブリンの血を濃縮したもの。
動植物をモンスター化させ、モンスター化した動植物を強化する力を持っている。
「それなのに……。それなのになぜ……⁉︎ 巨大化したサボテンダーが4体だ! 巨大化したサボテンダーが4体もいたんだぞ⁇ なのになぜ倒せる⁉︎」
完全に想定外だ。
ヒナタを闘儀に引き摺り込んだことにより想定外が頻発している。
「このままでは、ワシのハーフゴブリンも……⁉︎」
そこまで考え首を振る。
「い、いや……。いやいやいやいや、大丈夫……。大丈夫だ。大丈夫に決まっている。ワシのハーフゴブリンが負けるはずない……!」
というより、負けられては困る。
今日、軍に追加で100体のハーフゴブリンを貸し出したばかり……。
闘儀で優勝することを条件に軍への配備が内定しており、ハーフゴブリンが闘儀で優勝すると同時にそのことが発表される予定なのだ。
「――随分と荒れているようだが、大丈夫なのだろうな?」
突然、室内に響く声。
キンメッキは目を見開きながら声のした方向へ顔を向ける。
そこには、灰色の軍服に身を包み燻げな視線を向ける男が立っていた。
ノックもなく部屋に入ってきた男の顔を見て、キンメッキは額に汗を浮かべる。
「ぐ、軍務卿……⁉︎ なぜあなたがここに……! い、いえっ、心配はいりません。大丈夫ですよ……」
男の名は、マス・ウラギリー。
マカロンの軍務を担う軍事組織・マカロンムーのトップにして、ハーフゴブリンの軍起用を決めたマカロン重鎮の一人。
マスは、キンメッキの上擦り声を聞き、怪訝な表情を浮かべる。
「……そうか? 部屋の外まで貴殿の声が聞こえてきていた。とても大丈夫なようには聞こえなかったが?」
「そ、それは……⁉︎」
自分の声が思いの外、大きく話が筒抜けだったことに大粒の汗を流すキンメッキ。
マスはソファに座ると、手を組み鋭い視線をキンメッキに送る。
「――ハーフゴブリンの軍起用は既定路線だ。なんとしても試合を勝ち抜き、優勝して貰わなければならない。そのことを理解しているんだろうな?」
当然だ。だからこそ、キンメッキは慌てている。
「――も、もちろん、わかっております。ハーフゴブリンの強さは軍務卿も知っての通りです。第2回戦では、マカロンが誇るB級冒険者、ベータを瞬殺しました。問題ありませんよ……」
マカロンが誇るB級冒険者、ベータは複数のゴブリン相手に単騎で挑み、打ち取るだけの力を持った猛者。
そのベータを試合開始と同時に瞬殺したのだ。
ハーフゴブリンの強さは、推して知るべし。疑いようのないものだ。
しかし、マスの認識は違うらしい。
問題ないと弁明したものの、マスの顔色は優れない。
対するキンメッキの背中も冷や汗でびっしょりだ。
(――ま、まずい。このままでは……。このままでは、例の件まで追求されてしまうかも知れん)
例の件……。それは、教会地上げの件。
教会の地下には、外と繋がる洞窟がある。
元々、孤児院に集まった子供を売買するために利用していたものだが、神父が逮捕されたことで使えなくなってしまったものだ。
神父の取調べの中で、その存在を軍務卿に知られ、ハーフゴブリンの軍起用の見返りとして秘密裏に教会の地上げを打診された。
あの教会の地下には、外に繋がる洞窟への入り口が2つある。
(――軍務卿がなぜ、あの教会を欲しているかは知らんが、教会地下にある洞窟は人身売買をするのに必要不可欠……。なに、洞窟への入り口は2つある。表向きは、このワシがあの教会の所有者となるのだ。軍の連中が常駐する訳でもない。多少、やり難くなるが……。それについては、まあ大丈夫だろう)
教会の地上げは最終局面にある。
金貨1000枚……。
確実に教会を手に入れるため、こちら側の手の者を送り込み、教会内の金銭すべてを回収させた。
その上、地権者である教会のシスターの借用書を偽造させ、絶対に返せない金額の借金を負わせたのだ。
しかし、ここにきて不確定要素が出てきた。
闘儀に強制参加させたあの小僧の存在だ。
奴の名前は、枢木ヒナタ。
冒険者ギルドの訓練場でバナナなる珍妙な食べ物を出し、適正ランクG……。冒険者不適格の称号を得た青年……。
ヒナタのことを頭に思い浮かべ、キンメッキは拳を思い切り握り締める。
(――あの小僧さえ教会のシスターに協力的でなければ、不安を掻き立てられることもなかった……。このワシに余計な心労をかけおって……!)
闘儀の優勝賞金は、金貨1000枚。
万が一、ヒナタが優勝すれば、借金は完済され教会の地上げは無効となり、ハーフゴブリンの軍起用は白紙となる。
(……地上げの件もそうだ。もっと早い段階から打診があれば、余裕を持って進めることができた。こんな切羽詰まった状況に追い詰められることもなかったんだ!)
物思いに耽っていると、考えが纏まったのかマスが声をかけてくる。
「ふむ……。貴殿はそう言うが、あの青年の存在は明らかな脅威だ。このままでは、我々の邪魔になりかねん」
「し、しかし、ハーフゴブリンの力を以ってすれば……」
問題ありません。
そう告げようとしたキンメッキに、マスは被せるように言う。
「……ハーフゴブリンの力を以ってしても五分五分といった所だろうな。ハーフゴブリンは所詮、ゴブリンの紛い物。確実に勝てるとは限らぬ」
「――なっ⁉︎」
マスの言葉に、キンメッキは目を見開く。
「ぐ、軍務卿は私のハーフゴブリンが負けると、そう仰るのですかっ⁉︎」
ハーフゴブリンは人とゴブリンの混血。
人間の知能とスキル、ゴブリンの力を持っている。
私のハーフゴブリンが高々、人間如きに負けるはずがない。
憤りの声を上げるキンメッキを見て、マスは呆れた表情を浮かべる。
「……私の? ああ、そうだったな。今はまだ君の物だったか……。キンメッキ君。君はなにか勘違いをしているようだ」
「か、勘違い? 勘違いもなにも、今、軍務卿は……」
マスは、話を遮ろうとするキンメッキに鋭い視線を向ける。
「――キンメッキ君……。いいか? 私の話を遮るな。話は最後まで聞け。いつ私がハーフゴブリンが負けると言った? 私は確実に勝てるとは限らぬと言ったのだ」
「で、ですがそれでは、実質、負けるかも知れないと言ったようなもので……」
「――見解の相違だな。いいか? 目的をはき違えるなよ。闘儀で優勝できなければ、ハーフゴブリンの軍起用も白紙となる。私は心配しているのだよ……。もし万が一、この件が白紙になれば、私だけではない。君にも悪い影響が及ぶ。なにせ君は私に裏金を渡し、正式な契約を結ぶ前にハーフゴブリンを軍に配備させたんだ。当然だろう? もしかしたら、取引停止命令が下るかも知れない」
「なっ⁉︎ それは……!」
裏金を要求してきたのは他でもないマス自身だ。それを逆手に取り、脅しかけてきたことにキンメッキは驚きの声を上げる。
「……勘違いするな。私はただ最悪を想定したまでのこと。私は君の味方だ。その証拠に、一つ手を打っておいた。外を見てみるといい」
そう言うと、マスは指先を窓に向ける。
マスが指を向けた方向に視線を移すと、そこには軍部のスカウトを受けるヒナタの姿があった。
冷凍バナナは、サボテンダーの体内でオリーブオイル焼きにされたことにより真っ黒。しかし、黒くなった皮を剥くと、その見た目からは想像できないほど白い果肉が現れ甘く芳醇な香りが漂ってくる。
「『――これはあなたの体内に創造した冷凍バナナをオリーブオイルで加熱した焼きバナナ……。再生したばかりで免疫力の低いあなたに最適な食べ物ですよ』」
『――サ、サボ……』
自分の体内で焼かれたバナナを見て、なんともいえない表情を浮かべるサボテンダー。
しかし、テールスのことが怖いのか勧められるがまま、焼きバナナを口に含むと、その食感と味を受け、蕩けそうな声を上げた。
『――サ、サボボボボッ……⁉』
「『――そうですか……。それは良かった。さて、私の役目もここまでですね』」
焼きバナナを頬張るサボテンダーを放置し、闘技場を後にすると、テールスに貸していた体の主導権がヒナタに戻ってくる。
「――ふう……(――テールスのお陰で無事、第2回戦を突破することができた。次はいよいよ決勝戦か……)」
決勝戦を勝ち抜けば、優勝賞金、金貨1000枚に手が届く。
当初の目的は品評会にバナナを出品し、賞を取ること。様々なアクシデントに見舞われ本来の目的をすっかり見失ったヒナタに対して、テールスは囁くように言う。
――ええ、泣いても笑っても次で最後です。決勝戦も私にお任せ下さい――
「うん。頼りにしてるよ。でも、いつか自分の力でスキルを十全に扱えるようになれるといいなぁ……」
実際、闘儀に出場して見て、冒険者ギルドで冒険者不適格の烙印を押された理由がよくわかった。
確かに、スキルを使いこなせば人並み以上に戦うこともできるだろう。
それだけのスキルがヒナタには備わっている。しかし、ヒナタには闘いにおけるセンスや経験が圧倒的に足りない。テールスのようなスキルの使い方は今のヒナタには難しい。
――ふふふっ、いつの間にかあなたもこの世界に染まってきましたね。それにこんなにも頼りにして頂けるとは思いもしませんでした――
頼りにしているという言葉が自然と出てきたことにヒナタは少し複雑な表情を浮かべる。
「確かに、色々と染まってきたかも知れないな……」
エデンに転移させられた当初はスキルを十全に使いたいなんて思いもしなかった。
当然のことながら、元の世界に戻りたいという願望はある。しかし、今は……。
「……とりあえず、今日の所は帰ろうか」
なんだか今日は疲れた。
今日も教会のお世話になろう。話したいことも色々ある。
そう呟くと、ヒナタは自分が思いの外、異世界エデンに慣れ親しんでいることに驚きながら教会へ向かって歩き始めた。
◆◇◆
ここは、評儀祭が行われている城の中。
評儀祭の特別室で第2試合を見ていたゴールドメッキ商会の会頭、キンメッキ・ゴールドは呆然とした表情を浮かべ立ち尽くす。
「なぁ……。なんなんだ、あいつは……⁉︎ なぜ、あのサボテンダーに勝てる⁉︎ あのサボテンダーには、ゴブリンの力が宿っていたのだぞっ⁉︎」
サボテリーナに渡した黒い液体……。
それは、ゴブリンの血を濃縮したもの。
動植物をモンスター化させ、モンスター化した動植物を強化する力を持っている。
「それなのに……。それなのになぜ……⁉︎ 巨大化したサボテンダーが4体だ! 巨大化したサボテンダーが4体もいたんだぞ⁇ なのになぜ倒せる⁉︎」
完全に想定外だ。
ヒナタを闘儀に引き摺り込んだことにより想定外が頻発している。
「このままでは、ワシのハーフゴブリンも……⁉︎」
そこまで考え首を振る。
「い、いや……。いやいやいやいや、大丈夫……。大丈夫だ。大丈夫に決まっている。ワシのハーフゴブリンが負けるはずない……!」
というより、負けられては困る。
今日、軍に追加で100体のハーフゴブリンを貸し出したばかり……。
闘儀で優勝することを条件に軍への配備が内定しており、ハーフゴブリンが闘儀で優勝すると同時にそのことが発表される予定なのだ。
「――随分と荒れているようだが、大丈夫なのだろうな?」
突然、室内に響く声。
キンメッキは目を見開きながら声のした方向へ顔を向ける。
そこには、灰色の軍服に身を包み燻げな視線を向ける男が立っていた。
ノックもなく部屋に入ってきた男の顔を見て、キンメッキは額に汗を浮かべる。
「ぐ、軍務卿……⁉︎ なぜあなたがここに……! い、いえっ、心配はいりません。大丈夫ですよ……」
男の名は、マス・ウラギリー。
マカロンの軍務を担う軍事組織・マカロンムーのトップにして、ハーフゴブリンの軍起用を決めたマカロン重鎮の一人。
マスは、キンメッキの上擦り声を聞き、怪訝な表情を浮かべる。
「……そうか? 部屋の外まで貴殿の声が聞こえてきていた。とても大丈夫なようには聞こえなかったが?」
「そ、それは……⁉︎」
自分の声が思いの外、大きく話が筒抜けだったことに大粒の汗を流すキンメッキ。
マスはソファに座ると、手を組み鋭い視線をキンメッキに送る。
「――ハーフゴブリンの軍起用は既定路線だ。なんとしても試合を勝ち抜き、優勝して貰わなければならない。そのことを理解しているんだろうな?」
当然だ。だからこそ、キンメッキは慌てている。
「――も、もちろん、わかっております。ハーフゴブリンの強さは軍務卿も知っての通りです。第2回戦では、マカロンが誇るB級冒険者、ベータを瞬殺しました。問題ありませんよ……」
マカロンが誇るB級冒険者、ベータは複数のゴブリン相手に単騎で挑み、打ち取るだけの力を持った猛者。
そのベータを試合開始と同時に瞬殺したのだ。
ハーフゴブリンの強さは、推して知るべし。疑いようのないものだ。
しかし、マスの認識は違うらしい。
問題ないと弁明したものの、マスの顔色は優れない。
対するキンメッキの背中も冷や汗でびっしょりだ。
(――ま、まずい。このままでは……。このままでは、例の件まで追求されてしまうかも知れん)
例の件……。それは、教会地上げの件。
教会の地下には、外と繋がる洞窟がある。
元々、孤児院に集まった子供を売買するために利用していたものだが、神父が逮捕されたことで使えなくなってしまったものだ。
神父の取調べの中で、その存在を軍務卿に知られ、ハーフゴブリンの軍起用の見返りとして秘密裏に教会の地上げを打診された。
あの教会の地下には、外に繋がる洞窟への入り口が2つある。
(――軍務卿がなぜ、あの教会を欲しているかは知らんが、教会地下にある洞窟は人身売買をするのに必要不可欠……。なに、洞窟への入り口は2つある。表向きは、このワシがあの教会の所有者となるのだ。軍の連中が常駐する訳でもない。多少、やり難くなるが……。それについては、まあ大丈夫だろう)
教会の地上げは最終局面にある。
金貨1000枚……。
確実に教会を手に入れるため、こちら側の手の者を送り込み、教会内の金銭すべてを回収させた。
その上、地権者である教会のシスターの借用書を偽造させ、絶対に返せない金額の借金を負わせたのだ。
しかし、ここにきて不確定要素が出てきた。
闘儀に強制参加させたあの小僧の存在だ。
奴の名前は、枢木ヒナタ。
冒険者ギルドの訓練場でバナナなる珍妙な食べ物を出し、適正ランクG……。冒険者不適格の称号を得た青年……。
ヒナタのことを頭に思い浮かべ、キンメッキは拳を思い切り握り締める。
(――あの小僧さえ教会のシスターに協力的でなければ、不安を掻き立てられることもなかった……。このワシに余計な心労をかけおって……!)
闘儀の優勝賞金は、金貨1000枚。
万が一、ヒナタが優勝すれば、借金は完済され教会の地上げは無効となり、ハーフゴブリンの軍起用は白紙となる。
(……地上げの件もそうだ。もっと早い段階から打診があれば、余裕を持って進めることができた。こんな切羽詰まった状況に追い詰められることもなかったんだ!)
物思いに耽っていると、考えが纏まったのかマスが声をかけてくる。
「ふむ……。貴殿はそう言うが、あの青年の存在は明らかな脅威だ。このままでは、我々の邪魔になりかねん」
「し、しかし、ハーフゴブリンの力を以ってすれば……」
問題ありません。
そう告げようとしたキンメッキに、マスは被せるように言う。
「……ハーフゴブリンの力を以ってしても五分五分といった所だろうな。ハーフゴブリンは所詮、ゴブリンの紛い物。確実に勝てるとは限らぬ」
「――なっ⁉︎」
マスの言葉に、キンメッキは目を見開く。
「ぐ、軍務卿は私のハーフゴブリンが負けると、そう仰るのですかっ⁉︎」
ハーフゴブリンは人とゴブリンの混血。
人間の知能とスキル、ゴブリンの力を持っている。
私のハーフゴブリンが高々、人間如きに負けるはずがない。
憤りの声を上げるキンメッキを見て、マスは呆れた表情を浮かべる。
「……私の? ああ、そうだったな。今はまだ君の物だったか……。キンメッキ君。君はなにか勘違いをしているようだ」
「か、勘違い? 勘違いもなにも、今、軍務卿は……」
マスは、話を遮ろうとするキンメッキに鋭い視線を向ける。
「――キンメッキ君……。いいか? 私の話を遮るな。話は最後まで聞け。いつ私がハーフゴブリンが負けると言った? 私は確実に勝てるとは限らぬと言ったのだ」
「で、ですがそれでは、実質、負けるかも知れないと言ったようなもので……」
「――見解の相違だな。いいか? 目的をはき違えるなよ。闘儀で優勝できなければ、ハーフゴブリンの軍起用も白紙となる。私は心配しているのだよ……。もし万が一、この件が白紙になれば、私だけではない。君にも悪い影響が及ぶ。なにせ君は私に裏金を渡し、正式な契約を結ぶ前にハーフゴブリンを軍に配備させたんだ。当然だろう? もしかしたら、取引停止命令が下るかも知れない」
「なっ⁉︎ それは……!」
裏金を要求してきたのは他でもないマス自身だ。それを逆手に取り、脅しかけてきたことにキンメッキは驚きの声を上げる。
「……勘違いするな。私はただ最悪を想定したまでのこと。私は君の味方だ。その証拠に、一つ手を打っておいた。外を見てみるといい」
そう言うと、マスは指先を窓に向ける。
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