飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

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第1章 城塞都市マカロン

第7話 ジャパンネットTAKATA的バナナ販売方法

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(――バナナを買い取って貰えないのであれば仕方がない……)

 商業ギルドで、バナナの買取を拒否されたヒナタは、仕方がなくギルドで営業許可を取り、指定された場所でバナナの屋台販売を行うことにした。

「……要は売れれば問題ないんだ」

 商業ギルドで買い取って貰えなくても、屋台で売れれば問題ない。
 なんといっても原価はゼロ。ヒナタの精神力が尽きるまでバナナを量産することができる。

「ふふふっ、スーパーの試食販売アルバイトで鍛えた腕。今こそ見せてやる……!」

 商業ギルドから借りた屋台に金属製のボウルを並べると、ヒナタはそのボウルに食材を創造していく。

「この城塞都市では、果物があまり出回っていないようだからな……」

 町を散策して調べた俺、独自の調査によるとフルーツのみならず甘味もそう多く出回っている訳ではないようだ。

(――ならば、やることは一つ! 今まで食べたこともない甘味を安く提供し、この城塞都市に住む者全員、朝バナナを食べないと生きられない。そんな体に作り替えてやる……!)

 そんな危ないことを考えながらヒナタは金属ボウルに食材を創造していく。

「……まずはチョコレートだな。バナナといえば、チョコバナナが定番だ」

 屋台で売るなら定番は外せない。

(――折角だ。チョコレート以外にも、どんな食材であれば創造できるのか確認しておこう。まあ、しかし、まずはチョコレートが優先だな……)

 まずは指先から溶けたチョコレートが出るように想像する。
 すると指先に光が集まり、指先からチョコレートが流れ出した。

「お、おおっ(――創造通りとはいえ、中々、すごい光景だな……)指先からチョコレートが流れ出てる……」

(――マジでどうなっているんだ? まあ、そこはご都合主義だと考えておこう。魔法やスキルの原理を知らない俺が、そんなことを考えてもあまり意味はない。できるからできる。そう気楽に考えよう)

 ヒナタはバナナの皮を剥きぶつ切りにして、爪楊枝を刺したバナナをチョコレートでコーティングしていく。

「――これでよし。試供品用のチョコバナナの完成だ」

 作ったチョコバナナを、発泡スチロールのような性質を持つスチの木で作った台座に刺すと、その横にバナナの房を置く。

「次に食パンと砂糖、生クリームを創造して、そこに皮を剥いたバナナまるごと1本を包み込む……確か、生クリームは適量の塩を入れると美味しくなると聞いたことがある。塩も創造し、振りかけて……よし、バナナロールのでき上がりっ!」

(――ノリでやってみたが、まさか、パンと生クリームを食材として想像できると思わなかった。思った以上に、『食材』の範囲が広い。もはやなんでもありだな……バナナ、生クリーム、チョコレート、食パン、塩、砂糖……折角だから他の果物や調味料も創造してみるか……オリーブオイルに胡椒。ああ、調理酒代わりに日本酒と赤ワインを創造して……果物はパイナップルなんかも欲しいな。長期保存も利くし、なにより美味い……よし、パイナップルも創造……あれ? できない⁇ なんで急に……もしかして、創造できるのは10個までとか?? しまったな……こんなことならテールスに確認しておけば良かった……)

 とはいえ、泣き言を言っても仕方がない。
 これならバナナ以外の食品も売れそうだ。
 まあ、瓶とか無いし、お酒の販売はギルドに確認してからになるけど……

「これを、一口サイズにカットして商業ギルドで購入した皿に並べれば……完成だ……」

 バナナ、そして、チョコバナナに、バナナロール。口にして貰えれば、必ず売れる。見本市の開催だ。
 今日は様子見として試供品を配り、明日から本腰を入れて販売する。

(――損して得取れ! 某有名ネットショッピングの売り方を研究してきた俺ならできる。そう、できるはずだ! 商品ではなく、感動を売る! それが営業の達人による商品売買の極意! 高田〇に俺はなる!)

 屋台の前に立つと、ヒナタはバナナ一房を片手にとり甲高い声で熱弁する。

「――えー皆さん、本日ご紹介するのは、南国の果物、バナナ! そこのお嬢さん、バナナをご存じですか?」
「えっ? 知りませんが……」

 突然、声をかけられた女性は困惑した表情を浮かべる。

「――バナナをご存じない? それはもったいない。バナナには、美容ビタミンと言われるビタミンB群が多く含まれているんですよ。つまり、バナナを食べればお肌つるっつる! その美肌効果に彼氏さんや旦那さんがあなたにゾッコンになること間違いなしです! 今回、そんな美肌効果のある美容食、バナナを沢山、ご用意させて頂きました。本日は、ここにあるバナナすべてを試供品として提供させて頂きたいと思います。よろしければ、こちらをどうぞ」

 試供品用の一口サイズチョコバナナを差し出すと、女性はそれを指に取る。

「えっと、これは……」
「これは、美肌効果のあるバナナをチョコレートでコーティングしたチョコバナナです。ねっとりとした口当たりにチョコレートのパリパリ感。ぜひ、食べてみてください」
「は、はい。それじゃあ、遠慮なく……」

 もぐっ……もぐもぐ……(チョコバナナを咀嚼し、飲み込む音)

 チョコバナナを食べた女性は、目を見開き驚愕の表情を浮かべる。

「――え、なにこれ、甘ーい!」
「そうでしょう? このバナナは、果物があまり流通していない城塞都市マカロンの方々のために特別にご用意した果物です。ご興味のある方は、どうぞこちらへ! お一人様、一つまで本日に限り無料でご提供させて頂きます!」
「へー、無料だってさ」
「食べてみようぜ」

 試供品を食べた女性の一言が呼び水となり、客足が屋台に殺到する。

「あー、押さないでください! まだまだ、試供品はたっぷり用意してありますので――あ、そこの方、一人一個までですよ。えっ? 今日、バナナを売らないのか? はい。本日は試供品の無料配布のみとなっております。バナナは、明日以降、この場所で販売させて頂く予定です」

(――まさか、こんなにも人が殺到するとは……作っても作ってもキリがない)

 創造したバナナを一口サイズにカットしたらチョコレートでコーティングして、スチの木に刺していく。
 その作業はギルドで定められた屋台の利用時間が終わるまで続いた。

「――ふう。終わったぁ……汗びっしょりだ……」

 ヒナタは調理器具を片付けながら、汗を拭う。

(――でも、これなら、明日もまた人が来てくれるかもしれない。しかし、マズったな……圧倒的に人手が足りないぞ? でも、人を雇うにもお金がかかるし、スキルのことを聞かれるのも嫌だ。一体どうしたら……うん?)

 一人で考え込んでいると、子供がヒナタの袖を引いていることに気付く。

「(――子供?)なにか用かな?」

 子供はもじもじしながら俯くと、しばらくして顔を上げる。

「……もうバナナないの?」

(――ああ、そういうことか……屋台には大人たちが殺到していたから……)

 ヒナタは笑みを浮かべると、手を後ろに回してバナナを一房創造する。

「もちろん、あるよー。ほら、食べてごらん」
「うわぁー!」

 バナナを一本もいで渡すと、子供は満面の笑みを浮かべる。

「バナナはね。黄色い皮を剥いて、白い果肉を食べるんだ」

 実演代わりに、もう一本バナナをもぎ取るとヒナタは皮を剥いてそのまま口に含んだ。

 ――もぐもぐ、ごっくん。(バナナを咀嚼し、飲み込む音)

(――ああ、バナナの甘味が五臓六腑に染み渡る……)

「んんんん――⁉」

 子供もバナナを一口食べると目を輝かせ、夢中に食べ進めていく。

(――なんていうか……この町に住む人は皆、反応がオーバーだなぁ……)

 大人も子供も、皆が皆、初めてアイスクリームを食べた赤子のような反応をする。

「(――まあ、おいしそうに食べてくれるのは嬉しいからいいんだけど……)どう、おいしい?」

 そう尋ねると、子どもは全力で首を縦に振る。

「うん。おいしい! こんな食べ物初めて食べた!」
「そっか、それはよかった! (そりゃあまあ、この世界に存在しない食べ物だからね)」

 食べたことがなくて当たり前だ。

「折角だし、このバナナも上げるよ。家族、皆で食べてね」
「うん! あっ……」

 バナナ一房を渡すと、重たかったのか、子供はバナナ一房を地面に置く。

「重い……」
「そっか、重いかぁ……それじゃあ、仕方がないね」

 地面に置いてあるバナナを手に取ると、子供はなぜか、悲しそうな顔を浮かべる。

(――あれ、これはもしかして、取り上げられたと勘違いさせちゃったかな?)

 ヒナタは子供の頭を軽く撫でると、調理器具をリュックサックに入れ肩に掛ける。

「バナナって重いよね? もう暗くなってきたし、子供が一人で出歩くのは危ないから、家の近くまで運んで上げるよ。案内してくれるかな?」

 そう告げると、子供はポカンとした表情を浮かべた後、喜色の表情を浮かべる。

「うん! こっち、着いてきてっ!」
「ああ、でもあんまり走らないようにね。転んでも知らな――」
「ふぎゅ……」

 言った側から足を絡ませすっ転ぶ。
 しかし、泣くことなく立ち上がると喜色の表情を浮かべたまま、ヒナタを先導していく。

「こっちだよー! 早く、早くー!」
「ああ、わかったよ(――元気いっぱいだな。しかし……大丈夫か? 親切心でバナナを届けると提案したものの不審者と間違われたりしないだろうか?)」

 今更ながら不安を感じるヒナタ。

(まあいいか、ただバナナ届けるだけだし……悪いこともしていない。邪険にされることはないだろう)

 そこから歩くこと三十分。

「け、結構、歩くんだね……」
「もうすぐだよー。あ、見えてきた! あれが私たちの住んでいる家だよー」
「あ、あれが……って、えっ?」

 子供が指差す先にあった建物。
 そこには古びた教会が建っていた。

「……えっと、あれが君の家?」
「うん。そうだよー。シスターと一緒に暮らしているの!」
「シ、シスターと……へえー」

 すると、教会内からシスターが飛び出てきた。シスターは、子供に視線を向けるとキッとした表情を浮かべ、こちらに向かってくる。

「あ、これ、あかんやつだ……」

 シスターは子供を背後に隠すと、思い切り頬を叩かれた。

 ◇◆◇

 ここは廃れた教会の中。

「ううっ、親父にも打たれたことないのに……」

 オロオロする子供たちの前で、わざとらしくそう不貞腐れると、シスターが勢いよく頭を下げる。

「ほ、本当に申し訳ございませんでした! 私ったらとんだ勘違いを……」

 銀髪、緋色の瞳をしたシスター。
 出るとこは出ていて締まる所は締まったボディ。控えめにいって素晴らしい。

「いえいえ、冗談ですよ。美女からの平手打ちは界隈ではご褒美です。むしろ、ありがとうございます」

 そう告げると、シスターは変質者でも見るかのような視線を送ってくる。

「……冗談ですよ。しかし、なんであんなことを?」

 子ども必死の訴えにより、誤解は解けた。
 しかし、理由も聞かず平手打ちするのは頂けない。
 過剰とも取れるシスターの反応。

「はい。実は……」

 そう呟くと、シスターはポツリポツリとその理由を話し始めた。
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