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第37話 鍛練の裏側で……③

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 傭兵団。それは、金銭などの利益により雇われ、軍事サービスを提供する戦闘のプロフェッショナル集団。
 魔の森に入り込んだミギー傭兵団の団員たちは、『使役』のドワーフと、『読心』の魔女を捕えるため、森を一直線に突き進んでいく。

「――この先に『使役』と『読心』の住処があるんだな?」
「ああ、ダグラス傭兵団……あの連中の話が正しければ、そこに『使役』のドワーフと『読心』の魔女がいるはずだ……」

 ダグラス傭兵団の団長・ダグラスから『使役』と『読心』の事前情報は聞いている。
 魔の森の丁度中心部……そこに『使役』と『読心』の住処がある。
 しかし、それはその情報が正しければの話。
 ミギー傭兵団の団員は、他の傭兵団からの情報を参考にするが完全には鵜呑みにしない。

 結成から十余年……絶えず猜疑心を持つことでこの業界を生き抜いてきた。
 確かに、この場所には『使役』と『読心』の住処があるのだろう。
 しかし、それだけの情報だけでは整合しない……ピースがまるで足りない。
 なにより、総勢百人を超えていたダグラス傭兵団の人員が半分以下に減少していたことの説明がつかない……
 傭兵団の団長・ダグラスからは『使役』が人為的に起こしたスタンピードにより傭兵団は半壊状態に陥ったと説明を受けた。
 しかし、準到達者クラスの力を持つ傭兵が三人もいる傭兵団がスタンピードで半壊状態に陥るだろうか。そもそも、なぜ『使役』と『読心』の住処が魔の森の中心部にあると知っている。辻褄が合わない。
 ダグラス傭兵団には、様々なスキル保持者が在籍していることは知っているが、流石に違和感を感じざるを得ない。傭兵団の団員が魔の森を調査し、『使役』そして『読心』の住処を発見。その過程で交戦状態に陥り、半壊状態に陥った。そう説明された方がまだ納得感がある。
 あの連中からの情報を100%信用することはできない。魔の森に『使役』と『読心』が潜んでいる以上、細心の注意を持ってことに当たるべきだ。

 注意を払いながら木陰に隠れ森の中を進んで行くと、団員の一人が静止の合図を送ってくる。

「……どうかしたか?」
「静かに……あれを見ろ……恐らく『使役』が操る魔物だ……」

 草木に擬態し、視線の先を追うとそこには、焔のように赤く燃える一羽の巨鳥が岩の上に留まり毛繕いをしていた。

「あれは――朱雀……?」

 朱雀。それは、『使役』が好んで使う四聖獣の内の一体。

(――やはりか。あれは『使役』が好んで使う四聖獣の内の一体……ダグラス傭兵団の団員はスタンピードにより半壊状態に陥ったのではない。こいつと交戦状態に陥ったことで半壊状態に陥ったのだっ!)

 一人の団員が発した言葉。
 その団員の発した音階を捉えた朱雀はピクリと体を震わせると、大きく翼を広げ飛び立った。

「――ま、まずいっ!」

 危険を察知した団員はその場から飛び退くと、数瞬前、団員のいた場所を凄まじい熱量の焔が通り過ぎる。

「……お、おいおい。聞いてないぞ。魔の森にこんな化け物が潜んでいるなんてっ!」
「馬鹿野郎。そんなことを言っている場合じゃないだろっ! 前を見ろっ!」
「えっ――う、うぎっ、あぎゃああああっ!」

 忠告と同時に焔に燃やし尽くされる一人の団員。
 朱雀は、燃えカスとなった団員を一瞥すると、それを口ばしでついばみ咀嚼する。

「……酷いことをする鳥だ。しかし、これでハッキリしたな――」

 団員たちは仲間が燃えカスとなり朱雀の腹に収まったことを確認すると、武器を収める。

『――クルゥ?』

 武器を収めたことを疑問に思った朱雀が首を傾げると、突如として、散らばった燃えカスが動き出し、朱雀の口を通じて体内に集まってくる。

『グ、グルッ!! グルゥ――!?』

 なにが起こっているのかわからず困惑する朱雀。
 翼で風を起こし、口の中に入り込もうとする燃えカスを散らそうとするも、その燃えカスは絶えず、口の中に入り込み腹の中で膨張し続ける。

『グ、グルゥゥゥゥ――グギェバグェッ――!!』

 そして、しばらくすると、風船のように膨らんだ朱雀の腹が盛大に裂け中から先程、燃えカスとなり朱雀に喰われた団員が姿を現した。

「――げほっ、げほげほっ! くそっ……酷いことをしてくれる。折角、団長から貰ったばかりの『ライフ』を一つ使ってしまったじゃあないかっ!」
「おい。いいから服を着ろよ。ほら――」
「ああ、ありがとよ。だが、その前に――」

『アイテムボックス』のスキルを持つ団員から服と剣を受け取ると、団員は内側から腹を裂かれピクピクと痙攣する朱雀を一瞥する。

「――こいつは殺しておかねぇとな……」

 そして、受け取ったばかりの剣を振ると、そのまま朱雀の首を切断した。
 朱雀の首を切断した瞬間、折れた紅い手斧に姿を変える朱雀。
 それを見て、団員たちは感心したかのような表情を浮かべた。

「ふむ。なるほど……」
「これが『使役』の使う魔物か……」
「ライフを一つ消費してようやく勝てる魔物と考えるのが妥当だろうな……今のは偶々、腹の中で蘇ったから上手く倒せたが、普通、こうはいくまい」
「――静かにしろっ! なにかがこちらに向かってくる!」

 その言葉に、団員たちは即座に身を潜める。
 すると身を潜めてすぐ、折れた紅い手斧の下になにかが降り立った。

「――ふむ。悲しいのぅ……朱雀がやられてしまったか……」

 突如として、その場に現れたのは、銀色の髭を生やし右手に黒々とした禍々しい意匠の斧を背負ったドワーフ。
 そのドワーフは、地面に置かれた折れた紅い手斧をそっと手に持つと、怒りの表情を浮かべた。
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