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第26話 夢の世界での鍛練⑤
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残り時間は五分を切っている。
ノアは灰燼丸に魔力を込め、紅い翼を羽ばたかせると、一直線にイデアを捕らえた球体状の悪魔の下に向かっていく。
インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』は手に持っていなくとも魔力さえ注ぎ込めば、その魔力が尽きるまでの間、ノアの意思一つで操作可能。
(――悪魔さんたち、イデアさんが逃げられないよう囲い込んでっ!)
ノアは『魔戦斧・666』の力を使い悪魔を召喚すると、球体状の悪魔周辺の空間を燃やし、イデアの逃げ場を狭めていく。
残り時間は三分。
灰燼丸の炎と悪魔たちで球体状の悪魔を取り囲んだノアは、魔戦斧の力でイデアを体内に閉じ込めていた悪魔の召喚を解除した。
その瞬間、悪魔の体はボロボロと崩れ、中からイデアが姿を現す。
「――ふえっ、ふえっ、ふえっ……そういうことかいっ……!」
イデアを取り囲むように燃え盛る炎。
その炎の中でイデアは楽しそうに笑う。
「――まさか、私の『読心』を封じてくるとはねぇ……」
インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』には、召喚した悪魔の体内に取り込んだ者のスキルを封じる力がある。
ノアが封じたのは、イデアの持つ『読心』の力。
制限時間内に対象を捕らえなければならない『オーガごっこ』においてイデアの持つ『読心』スキルの無効化は必須。
「はい。イデアさんの『読心』は最も警戒するべきスキルですから……」
ノアの言葉にイデアは嬉しそうな表情を浮かべる。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……確かに久しぶりだったねぇ。声が頭に響かなくなるのは……」
残り時間はあと一分。
ノアが近寄ると、イデアは杖を構える。
「……無駄な抵抗はやめて下さい。こうなった以上、俺の勝ちです」
「そうかい? 見解の相違だね。それじゃあ、この私を捕らえて見せな……」
イデアの言葉を強がりと判断したノアは、イデアを捕らえるため一歩踏み込む。
「それじゃあ、行きますね?」
そして、緩急を付けると、イデアを捕まえるため、後ろ足で思い切り地面を蹴った。
「――捕まえたっ!」
逃げ場のない空間。
交差する視線。
そして、捕らえようとした刹那、姿を消したイデア。
「――って、ええええっ⁉︎」
空を切る手。
喜色の表情が崩れ、ノアの顔が強張っていく。
「――2、1、0秒。ふえっ、ふえっ、ふえっ……油断大敵。私の勝ちだね」
突如として背後に現れたイデアに、ノアは目を見開かせる。
「な、なんでっ……」
(――確実に捕らえることができるよう周囲は、悪魔と炎で囲んでいたのに、逃げられるはずが……)
イデアはノアの心を読んだかのように微笑む。
「――『転移』だよ。私を本気で捕らえたいと思うなら悪魔ごと攻撃するべきだった。余裕かまして『それじゃあ、行きますね』なんて言っているからそうなるのさ」
イデアがそう言った瞬間、ガラスのように景色が崩れ、虹色の光が射していく。
「――ノアよ。お前さんは敵を攻撃する時、合図をしてから攻撃するのかい?」
「ううっ――⁉︎」
イデアの言葉にノアは顔を赤らめる。
「優位に立った時、人は誰しも慢心する。それを悪いこととは言わないさ。それが人間の性だからねぇ……驕ってもいい。慢心してもいい。だが、決着が着くその時までは侮るのだけは止めときな。手負いの敵ほど怖いものはないからねぇ。覚えておくといい……さて――次もまたノアがオーガ役だね?」
そう言うと、イデアは意地悪な笑みを浮かべる。
「ええっ――⁉︎ ま、まだやるんですかっ⁉︎」
「当然だろう? まだ鍛練を始めて一時間も経っちゃいないよ――」
(ううっ、ブルーノさんとの鍛練より厳しいよ……)
イデアの言葉を聞き、ガックリと肩を落とすノア。
そんなノアにイデアは言葉を続ける。
「――しかし、今のゲームは中々だった。『読心』を封じられた時にはヒヤリとさせられたものさ……」
「……えっ?」
そう言うとイデアはノアの頭を撫でる。
「……ノアは強くなる。それだけの素養を持っている。私たちが保証人だよ……スキルを十全に使いこなし、私たちを越えて見せな――」
「イデアさん……?」
イデアの言葉にポカンとした表情を浮かべるノア。
そんなノアの尻を叩き、イデアは笑みを浮かべる。
「――まあ、まだまだ負けるつもりは無いけどねぇ?」
そう言って、イデアが指を弾くと、ノアの体から魔力が一気に徴収される。
「イ、イデアさん……!? ち、ちょっと、魔力の徴収量が多いような……」
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……そりゃあ、そうさ。新しく夢の世界を創り直しているのだからねぇ? ノアの魔力が尽きるか、私たちを捕まえるまで今日の鍛練は終らないよ」
イデアがそう言った瞬間、足元が震動し、地面から白い町並みが浮き上がってくる。
「――それじゃあ、第三ラウンドと行こうか? 今度の『オーガごっこ』では、制限を付けようかねぇ?」
「せ、制限……!?」
「ああ、そうさ。このゲームでは、あの白い町並みを壊すことを禁ずる。もちろん、町並みを壊さなければ、なにをしてもいいよ。今度こそ、私たちを捕まえて見せなっ……!」
「えっ!? ちょっと待ってっ!」
(――たった三十分でイデアさんとブルーノさんの二人を捕えるなんて無理だよぉー!)
イデアとブルーノが満面の笑みを浮かべ町の中へと消えて行く中、心の中でノアはそう声を上げた。
ノアは灰燼丸に魔力を込め、紅い翼を羽ばたかせると、一直線にイデアを捕らえた球体状の悪魔の下に向かっていく。
インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』は手に持っていなくとも魔力さえ注ぎ込めば、その魔力が尽きるまでの間、ノアの意思一つで操作可能。
(――悪魔さんたち、イデアさんが逃げられないよう囲い込んでっ!)
ノアは『魔戦斧・666』の力を使い悪魔を召喚すると、球体状の悪魔周辺の空間を燃やし、イデアの逃げ場を狭めていく。
残り時間は三分。
灰燼丸の炎と悪魔たちで球体状の悪魔を取り囲んだノアは、魔戦斧の力でイデアを体内に閉じ込めていた悪魔の召喚を解除した。
その瞬間、悪魔の体はボロボロと崩れ、中からイデアが姿を現す。
「――ふえっ、ふえっ、ふえっ……そういうことかいっ……!」
イデアを取り囲むように燃え盛る炎。
その炎の中でイデアは楽しそうに笑う。
「――まさか、私の『読心』を封じてくるとはねぇ……」
インテリジェンス・ウェポン化した『魔戦斧・666』には、召喚した悪魔の体内に取り込んだ者のスキルを封じる力がある。
ノアが封じたのは、イデアの持つ『読心』の力。
制限時間内に対象を捕らえなければならない『オーガごっこ』においてイデアの持つ『読心』スキルの無効化は必須。
「はい。イデアさんの『読心』は最も警戒するべきスキルですから……」
ノアの言葉にイデアは嬉しそうな表情を浮かべる。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……確かに久しぶりだったねぇ。声が頭に響かなくなるのは……」
残り時間はあと一分。
ノアが近寄ると、イデアは杖を構える。
「……無駄な抵抗はやめて下さい。こうなった以上、俺の勝ちです」
「そうかい? 見解の相違だね。それじゃあ、この私を捕らえて見せな……」
イデアの言葉を強がりと判断したノアは、イデアを捕らえるため一歩踏み込む。
「それじゃあ、行きますね?」
そして、緩急を付けると、イデアを捕まえるため、後ろ足で思い切り地面を蹴った。
「――捕まえたっ!」
逃げ場のない空間。
交差する視線。
そして、捕らえようとした刹那、姿を消したイデア。
「――って、ええええっ⁉︎」
空を切る手。
喜色の表情が崩れ、ノアの顔が強張っていく。
「――2、1、0秒。ふえっ、ふえっ、ふえっ……油断大敵。私の勝ちだね」
突如として背後に現れたイデアに、ノアは目を見開かせる。
「な、なんでっ……」
(――確実に捕らえることができるよう周囲は、悪魔と炎で囲んでいたのに、逃げられるはずが……)
イデアはノアの心を読んだかのように微笑む。
「――『転移』だよ。私を本気で捕らえたいと思うなら悪魔ごと攻撃するべきだった。余裕かまして『それじゃあ、行きますね』なんて言っているからそうなるのさ」
イデアがそう言った瞬間、ガラスのように景色が崩れ、虹色の光が射していく。
「――ノアよ。お前さんは敵を攻撃する時、合図をしてから攻撃するのかい?」
「ううっ――⁉︎」
イデアの言葉にノアは顔を赤らめる。
「優位に立った時、人は誰しも慢心する。それを悪いこととは言わないさ。それが人間の性だからねぇ……驕ってもいい。慢心してもいい。だが、決着が着くその時までは侮るのだけは止めときな。手負いの敵ほど怖いものはないからねぇ。覚えておくといい……さて――次もまたノアがオーガ役だね?」
そう言うと、イデアは意地悪な笑みを浮かべる。
「ええっ――⁉︎ ま、まだやるんですかっ⁉︎」
「当然だろう? まだ鍛練を始めて一時間も経っちゃいないよ――」
(ううっ、ブルーノさんとの鍛練より厳しいよ……)
イデアの言葉を聞き、ガックリと肩を落とすノア。
そんなノアにイデアは言葉を続ける。
「――しかし、今のゲームは中々だった。『読心』を封じられた時にはヒヤリとさせられたものさ……」
「……えっ?」
そう言うとイデアはノアの頭を撫でる。
「……ノアは強くなる。それだけの素養を持っている。私たちが保証人だよ……スキルを十全に使いこなし、私たちを越えて見せな――」
「イデアさん……?」
イデアの言葉にポカンとした表情を浮かべるノア。
そんなノアの尻を叩き、イデアは笑みを浮かべる。
「――まあ、まだまだ負けるつもりは無いけどねぇ?」
そう言って、イデアが指を弾くと、ノアの体から魔力が一気に徴収される。
「イ、イデアさん……!? ち、ちょっと、魔力の徴収量が多いような……」
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……そりゃあ、そうさ。新しく夢の世界を創り直しているのだからねぇ? ノアの魔力が尽きるか、私たちを捕まえるまで今日の鍛練は終らないよ」
イデアがそう言った瞬間、足元が震動し、地面から白い町並みが浮き上がってくる。
「――それじゃあ、第三ラウンドと行こうか? 今度の『オーガごっこ』では、制限を付けようかねぇ?」
「せ、制限……!?」
「ああ、そうさ。このゲームでは、あの白い町並みを壊すことを禁ずる。もちろん、町並みを壊さなければ、なにをしてもいいよ。今度こそ、私たちを捕まえて見せなっ……!」
「えっ!? ちょっと待ってっ!」
(――たった三十分でイデアさんとブルーノさんの二人を捕えるなんて無理だよぉー!)
イデアとブルーノが満面の笑みを浮かべ町の中へと消えて行く中、心の中でノアはそう声を上げた。
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