16 / 47
第15話 第二の鍛練①
しおりを挟む
ノアに休憩時間を与えたブルーノは、砕け散ったドッペル・フィアーの戦斧を手に持ち、心の中で絶叫を上げていた。
(ワシ渾身の力作が……ドッペル・フィアーの戦斧が……)
戦斧の心臓部に当たる魔石。これを割ってしまうと、戦斧まで壊れてしまう。
ノアの鍛練を買って出たのはブルーノ本人。なのでそれについては構わない。
しかし、斧匠の一人として、自らが鍛えた渾身の一振りを壊されるのは心が痛む。
そもそも、この鍛練の目的は、この国における『付与』のスキル保持者の現実を教え、自己の内面を研鑽し高めることにある。
ノアを立派な『付与』スキル保持者として育てるためには、鍛練を……鍛練という名の試練を課さなければならない。
(う、うぬぬぬぬっ……!)
イデアであれば、その多彩な魔法を活かし効率良く三つの鍛練を課しただろう。
しかし、ブルーノが持つスキルが……作り出す戦斧の特性がそれを許さない。
休憩時間三十分。
悩みに悩んだブルーノは、壊れることを前提に、鍛練に最適な戦斧を選択することにした。
「さて、準備はよいか?」
鍛練終了後、己が鍛え上げてきた戦斧が確実に壊れてしまうことを改めて認識したブルーノは、自分に言い聞かせるようにそう言う。
「はい。準備は万端です!」
健気にそう言うノアに、ブルーノは感心した表情を浮かべた。
これまで、鍛練を課してきた人間の殆どが第二の鍛練を待たず、逃げ出していたからだ。
十五歳の折、超常のスキルを手にする『付与』スキル保持者であっても、それは変わらない。多くの者が、第一の鍛練を受けた直後に脱走を試みる。
それほどまでに、第一の鍛練は厳しいものだった。
当然だ。嫌な記憶をほじくり返した挙句、それを現実にし強引に克服させる鍛練なんて、普通の人間に克服できる訳がない。
強い心を持っていないとまず、克服不可能な鍛練である。
ノアはそれを越えた。だからこそ、ブルーム自身も最高の一振りが壊れるかも知れないという覚悟で挑むことにした。
「それでは、始めるぞ」
ブルーノはストレージに手を入れると、中から一つの手斧を取り出した。
手斧には、黒い魔石が付いており、ブルーノが魔力を込めると手斧に嵌められた魔石から黒い煙が流れ出る
「……こ、これは」
「ノアよ。これからお主に、起こりうる未来の姿を見せる。己のスキルの本質。そして、そのスキルを持つが故の危険性を知れ。それが、第二の鍛練じゃ」
「えっ? ブルーノさん!? それは、どういう……??」
ブルーノのいた方向に手を伸ばすノア。
しかし、そこにはブルーノの姿はなく、代わりに銀色の甲冑を身に纏った軍隊の姿が眼下にあった。
「――へっ? 浮いてる??」
『よぉし。行くぞぉおおおおっ!!』
『おおっ!!』
ビリビリと響く轟音。
突如として開かれた戦禍。
突然、置かれた状況に目を丸くしていると、銀色の甲冑を身に纏った軍勢は一方向にバトルホースを走らせる。
その軍勢の百メートルほど前に、どこからともなく一人の青年が降り立った。
「あれは……どこかで見たような……」
金色の髪に赤い目。それにその青年の持つ雰囲気に違和感を覚えるノア。
(えっ、あれ? ちょっと待って? あれって……もしかして、俺っ!?)
どこか自分に似ている青年が、手に持つ剣を横に薙ぐと、剣線が走り兵士達が真っ二つ裂かれた。
『ぎ、ぎゃああああっ!?』
『あ、悪魔め……やはり、我々では……う、うっぎゃああああっ!!』
追撃の手を緩めず確実に命を刈っていく青年。
手も足も出すことすら許されず散っていく命。血に染まる大地。
剣を振うごとに空間をも根こそぎ薙ぎ払い、大地に亀裂を生み出していく。
亀裂からはマグマが噴出し、噴出したマグマは兵士達を飲み込んでいく。
地獄絵図だ。
たった一人で数千、数万の軍勢を打ち破る未来のノア。
その光景を見て、ノアは戦慄した。
(これが俺の『起こりうる未来』!? 一体、どんな世紀末を生きたらこんな感じの俺になるのっ……!?)
すると、目の前の景色が暗転し、場面が変わった。
(――ここは……荒野? そして、あれは……またしても俺ぇぇぇぇ!?)
万を超える軍勢に退治する青年となった未来のノア。
背後には、百を超える子供たちが目をぎらつかせて開戦を待っていた。
「ちょっと待ってっ! どういうことっ??」
理解が追い付かない。
そうこうしている内に、またしても戦渦が開かれた。
子供たちに向かって放たれる数千、数万の矢。
その矢を、たった一振りで敵陣に吹き飛ばす。
青年となったノアの背後にいた子供たちが咆哮を上げ、敵軍に向かって駆けていく。
『うぉらああああっ!』
そう言って、駆けていく野性味溢れた子供。
(あれは、獣人?)
獣人とは、獣と人間の特徴を併せ持つ種族。
スキルを持たないことから、ある一部の人間たちに神に見捨てられし種族と蔑まされている。
『獣人風情がっ!』
『奴隷の分際で人間様に歯向かい……ぎゃあっ!?』
息を吐く間もなく、敵軍を屠った獣人は、短剣に付着した血を舐めると、瞳孔を開き、次々と兵士たちを屠っていく。
(……あの膂力。あの獣人は間違いなく、到達者クラスの力を持っている。恐らく、未来の俺は子供たちに自分のステータス値を付与した装備品を与えているのだろう。そうでなければ、説明が付かない……でもなんで??)
そして、ノアはまたもや愕然とした。
次、景色が暗転した時、未来の自分が首輪に繋がれ、ギリギリ生かされている。
そんな場面に遭遇したからだ。
(ワシ渾身の力作が……ドッペル・フィアーの戦斧が……)
戦斧の心臓部に当たる魔石。これを割ってしまうと、戦斧まで壊れてしまう。
ノアの鍛練を買って出たのはブルーノ本人。なのでそれについては構わない。
しかし、斧匠の一人として、自らが鍛えた渾身の一振りを壊されるのは心が痛む。
そもそも、この鍛練の目的は、この国における『付与』のスキル保持者の現実を教え、自己の内面を研鑽し高めることにある。
ノアを立派な『付与』スキル保持者として育てるためには、鍛練を……鍛練という名の試練を課さなければならない。
(う、うぬぬぬぬっ……!)
イデアであれば、その多彩な魔法を活かし効率良く三つの鍛練を課しただろう。
しかし、ブルーノが持つスキルが……作り出す戦斧の特性がそれを許さない。
休憩時間三十分。
悩みに悩んだブルーノは、壊れることを前提に、鍛練に最適な戦斧を選択することにした。
「さて、準備はよいか?」
鍛練終了後、己が鍛え上げてきた戦斧が確実に壊れてしまうことを改めて認識したブルーノは、自分に言い聞かせるようにそう言う。
「はい。準備は万端です!」
健気にそう言うノアに、ブルーノは感心した表情を浮かべた。
これまで、鍛練を課してきた人間の殆どが第二の鍛練を待たず、逃げ出していたからだ。
十五歳の折、超常のスキルを手にする『付与』スキル保持者であっても、それは変わらない。多くの者が、第一の鍛練を受けた直後に脱走を試みる。
それほどまでに、第一の鍛練は厳しいものだった。
当然だ。嫌な記憶をほじくり返した挙句、それを現実にし強引に克服させる鍛練なんて、普通の人間に克服できる訳がない。
強い心を持っていないとまず、克服不可能な鍛練である。
ノアはそれを越えた。だからこそ、ブルーム自身も最高の一振りが壊れるかも知れないという覚悟で挑むことにした。
「それでは、始めるぞ」
ブルーノはストレージに手を入れると、中から一つの手斧を取り出した。
手斧には、黒い魔石が付いており、ブルーノが魔力を込めると手斧に嵌められた魔石から黒い煙が流れ出る
「……こ、これは」
「ノアよ。これからお主に、起こりうる未来の姿を見せる。己のスキルの本質。そして、そのスキルを持つが故の危険性を知れ。それが、第二の鍛練じゃ」
「えっ? ブルーノさん!? それは、どういう……??」
ブルーノのいた方向に手を伸ばすノア。
しかし、そこにはブルーノの姿はなく、代わりに銀色の甲冑を身に纏った軍隊の姿が眼下にあった。
「――へっ? 浮いてる??」
『よぉし。行くぞぉおおおおっ!!』
『おおっ!!』
ビリビリと響く轟音。
突如として開かれた戦禍。
突然、置かれた状況に目を丸くしていると、銀色の甲冑を身に纏った軍勢は一方向にバトルホースを走らせる。
その軍勢の百メートルほど前に、どこからともなく一人の青年が降り立った。
「あれは……どこかで見たような……」
金色の髪に赤い目。それにその青年の持つ雰囲気に違和感を覚えるノア。
(えっ、あれ? ちょっと待って? あれって……もしかして、俺っ!?)
どこか自分に似ている青年が、手に持つ剣を横に薙ぐと、剣線が走り兵士達が真っ二つ裂かれた。
『ぎ、ぎゃああああっ!?』
『あ、悪魔め……やはり、我々では……う、うっぎゃああああっ!!』
追撃の手を緩めず確実に命を刈っていく青年。
手も足も出すことすら許されず散っていく命。血に染まる大地。
剣を振うごとに空間をも根こそぎ薙ぎ払い、大地に亀裂を生み出していく。
亀裂からはマグマが噴出し、噴出したマグマは兵士達を飲み込んでいく。
地獄絵図だ。
たった一人で数千、数万の軍勢を打ち破る未来のノア。
その光景を見て、ノアは戦慄した。
(これが俺の『起こりうる未来』!? 一体、どんな世紀末を生きたらこんな感じの俺になるのっ……!?)
すると、目の前の景色が暗転し、場面が変わった。
(――ここは……荒野? そして、あれは……またしても俺ぇぇぇぇ!?)
万を超える軍勢に退治する青年となった未来のノア。
背後には、百を超える子供たちが目をぎらつかせて開戦を待っていた。
「ちょっと待ってっ! どういうことっ??」
理解が追い付かない。
そうこうしている内に、またしても戦渦が開かれた。
子供たちに向かって放たれる数千、数万の矢。
その矢を、たった一振りで敵陣に吹き飛ばす。
青年となったノアの背後にいた子供たちが咆哮を上げ、敵軍に向かって駆けていく。
『うぉらああああっ!』
そう言って、駆けていく野性味溢れた子供。
(あれは、獣人?)
獣人とは、獣と人間の特徴を併せ持つ種族。
スキルを持たないことから、ある一部の人間たちに神に見捨てられし種族と蔑まされている。
『獣人風情がっ!』
『奴隷の分際で人間様に歯向かい……ぎゃあっ!?』
息を吐く間もなく、敵軍を屠った獣人は、短剣に付着した血を舐めると、瞳孔を開き、次々と兵士たちを屠っていく。
(……あの膂力。あの獣人は間違いなく、到達者クラスの力を持っている。恐らく、未来の俺は子供たちに自分のステータス値を付与した装備品を与えているのだろう。そうでなければ、説明が付かない……でもなんで??)
そして、ノアはまたもや愕然とした。
次、景色が暗転した時、未来の自分が首輪に繋がれ、ギリギリ生かされている。
そんな場面に遭遇したからだ。
19
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!


聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!
つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。
しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。
宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。
「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」
悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。
————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる