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第14話 第一の鍛練②
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「う、ううっ‼︎」
ノアの『恐怖』を写し取りガンツに姿を変えたドッペル・フィアーはノアの記憶を読み取るとステータス値を奪われた際、ガンツがノアに植え付けた『恐怖』で揺さぶりをかける。
『――悪く思うなよ。悪いのは全部、「付与」のスキルを賜わったお前なんだからなぁ。恨むんなら神を恨みな!』
そう言って、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーが振った剣。
ノアは恐怖を押し殺し、短剣で受け流すと、震える足に活を入れ距離を取る。
(……違う。こいつは俺のステータス値を奪い取った男・ガンツじゃない! ブルーノさんが言っていたじゃないかっ!)
「なんのことを言っているかわからないよっ!」
ドッペル・フィアーの言葉は支離滅裂。
ノアの心の中にある恐怖という感情の揺らぎを感じ取り、言葉を再生しているだけに過ぎない。
『安心しな、全ステータス値を寄こせなんて言わねぇよ。体力値だけは残しておいてもいいぜ? お前にはまだ使い道があるからなぁ……』
「――だから、なんのことを言ってるか、わからないってっ!」
交差する刃。
金属同士がぶつかる甲高い音が響き、その度に、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの剣が削れていく。
「こ、これならっ……⁉︎」
しかし、ドッペル・フィアーの強さは本物だった。
目の前のドッペル・フィアーは哂うと、地面に溶けるかのように消え忽然と姿を晦ます。
『……お前は黙って「はい」って言えばいいんだよ。わかったか?』
次の瞬間、ドッペル・フィアーはノアの背後に現れると、手に持っていた剣の刃先をノアの首筋に当てた。
(――つ、強い……到達者クラスのステータス値を持って、なお……目では追い付いていたのにっ!?)
動作を封じられ、汗を流すノア。
どうしても一瞬、反応が遅れる。
地面を伝い背後に回ったのは見えていた。
(……なのに、思うように動くことができないっ! なんでっ……!?)
それを見ていたブルーノは哂う。
「ノアよ……心と体に刻み込まれた『恐怖』というのは、本当に厄介じゃのぅ。本人が思っているより深刻で、その時、受けた『恐怖』は時が経過するにつれ、より大きくなっていく……」
ドッペル・フィアーがノアの首から剣を放し、上段に構えると首を刎ねるため、剣を横に凪いだ。
『悪く思うなよ』
(――勝てない。殺られるっ……!)
ドッペル・フィアーの声がノアに届くと同時に振られた剣。
迫りくる剣先に思わず目を瞑ると、首筋に軽い衝撃が走った。
『……はっ?』
バラバラになって飛び散る破片。
首を狩る所か、粉々に砕け散った剣の刃。
茫然とした表情を浮かべるノア。
それを見たブルーノは笑みを浮かべる。
「それでどうじゃ? それは、『恐怖』に足る存在じゃったかのぅ? ノアよ」
「…………」
ノアは茫然とした表情を浮かべたまま、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーに視線を向ける。
そこには、目を丸くし、慌てふためくドッペル・フィアーの姿があった。
『ああ、あああっ⁉︎ なんでっ? なんでっ⁉︎』
足の震えが止まり、手に力が籠っていく。心の内にあったガンツに対する恐怖が……ステータス値を奪われるかも知れないという恐怖が霧散していく。
(――そうか、俺がガンツに抱いていた『恐怖』。それは……ステータス値を奪われるかも知れないという『恐怖』。なにもできず、人の手を借りることでしか生きることのできなかった十歳の頃に戻ることに対する『恐怖』だったんだ……)
それを自覚したノアは、短剣を力強く握り、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの体に刃を突き立てた。
『――ぎ、ぎゃああああっ‼』
刃を突き立てると、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの体が崩れ消えていく。
「……ありがとう。ドッペル・フィアー」
(君のお蔭で俺は、自分の中にある『恐怖』を初めて直視できた気がするよ……)
――パキンッ
なにかが割れる音。
気付けば、目の前には、砕け散った戦斧が落ちていた。
その戦斧の破片を一つ一つ拾っていくブルーノ。その目には、なぜか涙が浮かんでいた。
(うおぉぉぉぉ! うぉおおおおっ! ドッペル・フィアーの戦斧がっ! ドッペル・フィアーの戦斧がバラバラになってしまった。バラバラになってしまったぁぁぁぁ!)
心の中で渾身の作品であるドッペル・フィアーの戦斧がバラバラに砕け散ってしまったことに心を痛めつつ、ノアが第一の鍛練を突破したことを器用に喜ぶブルーノ。
ブルーノは、己の力作が壊されてしまったことに対し、嘆いていることを気取らせぬように言う。
「……よくやった。第一の鍛練はこれにて終了じゃ。『付与』のスキル保持者は常に狙われている。『付与』のスキル保持者が一番に恐れるべきは、自分のステータス値を奪われ無くすこと。これは自分のためであり、他人のためでもある。ステータス値とスキルが奪われたことにより、他の『付与』のスキル保持者が被害に遭う可能性があるからのぅ……それほど『付与』のスキル保持者の持つスキルは強力じゃ」
「……だからこそ、その恐怖に打ち勝つ必要があった」
「その通りじゃ……。とはいえ、疲れたじゃろ。三十分ほど休憩にするとしよう」
(――ワシも疲れた……主に、自身が打った渾身の一振りを壊されたことによって……)
ノアの気を遣う振りを見せながら、ブルームは心の中でそう呟き涙を流す。
「……はい。ありがとうございます」
ノアはそう呟くと、その場で目を瞑った。
ノアの『恐怖』を写し取りガンツに姿を変えたドッペル・フィアーはノアの記憶を読み取るとステータス値を奪われた際、ガンツがノアに植え付けた『恐怖』で揺さぶりをかける。
『――悪く思うなよ。悪いのは全部、「付与」のスキルを賜わったお前なんだからなぁ。恨むんなら神を恨みな!』
そう言って、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーが振った剣。
ノアは恐怖を押し殺し、短剣で受け流すと、震える足に活を入れ距離を取る。
(……違う。こいつは俺のステータス値を奪い取った男・ガンツじゃない! ブルーノさんが言っていたじゃないかっ!)
「なんのことを言っているかわからないよっ!」
ドッペル・フィアーの言葉は支離滅裂。
ノアの心の中にある恐怖という感情の揺らぎを感じ取り、言葉を再生しているだけに過ぎない。
『安心しな、全ステータス値を寄こせなんて言わねぇよ。体力値だけは残しておいてもいいぜ? お前にはまだ使い道があるからなぁ……』
「――だから、なんのことを言ってるか、わからないってっ!」
交差する刃。
金属同士がぶつかる甲高い音が響き、その度に、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの剣が削れていく。
「こ、これならっ……⁉︎」
しかし、ドッペル・フィアーの強さは本物だった。
目の前のドッペル・フィアーは哂うと、地面に溶けるかのように消え忽然と姿を晦ます。
『……お前は黙って「はい」って言えばいいんだよ。わかったか?』
次の瞬間、ドッペル・フィアーはノアの背後に現れると、手に持っていた剣の刃先をノアの首筋に当てた。
(――つ、強い……到達者クラスのステータス値を持って、なお……目では追い付いていたのにっ!?)
動作を封じられ、汗を流すノア。
どうしても一瞬、反応が遅れる。
地面を伝い背後に回ったのは見えていた。
(……なのに、思うように動くことができないっ! なんでっ……!?)
それを見ていたブルーノは哂う。
「ノアよ……心と体に刻み込まれた『恐怖』というのは、本当に厄介じゃのぅ。本人が思っているより深刻で、その時、受けた『恐怖』は時が経過するにつれ、より大きくなっていく……」
ドッペル・フィアーがノアの首から剣を放し、上段に構えると首を刎ねるため、剣を横に凪いだ。
『悪く思うなよ』
(――勝てない。殺られるっ……!)
ドッペル・フィアーの声がノアに届くと同時に振られた剣。
迫りくる剣先に思わず目を瞑ると、首筋に軽い衝撃が走った。
『……はっ?』
バラバラになって飛び散る破片。
首を狩る所か、粉々に砕け散った剣の刃。
茫然とした表情を浮かべるノア。
それを見たブルーノは笑みを浮かべる。
「それでどうじゃ? それは、『恐怖』に足る存在じゃったかのぅ? ノアよ」
「…………」
ノアは茫然とした表情を浮かべたまま、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーに視線を向ける。
そこには、目を丸くし、慌てふためくドッペル・フィアーの姿があった。
『ああ、あああっ⁉︎ なんでっ? なんでっ⁉︎』
足の震えが止まり、手に力が籠っていく。心の内にあったガンツに対する恐怖が……ステータス値を奪われるかも知れないという恐怖が霧散していく。
(――そうか、俺がガンツに抱いていた『恐怖』。それは……ステータス値を奪われるかも知れないという『恐怖』。なにもできず、人の手を借りることでしか生きることのできなかった十歳の頃に戻ることに対する『恐怖』だったんだ……)
それを自覚したノアは、短剣を力強く握り、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの体に刃を突き立てた。
『――ぎ、ぎゃああああっ‼』
刃を突き立てると、ガンツの姿を模したドッペル・フィアーの体が崩れ消えていく。
「……ありがとう。ドッペル・フィアー」
(君のお蔭で俺は、自分の中にある『恐怖』を初めて直視できた気がするよ……)
――パキンッ
なにかが割れる音。
気付けば、目の前には、砕け散った戦斧が落ちていた。
その戦斧の破片を一つ一つ拾っていくブルーノ。その目には、なぜか涙が浮かんでいた。
(うおぉぉぉぉ! うぉおおおおっ! ドッペル・フィアーの戦斧がっ! ドッペル・フィアーの戦斧がバラバラになってしまった。バラバラになってしまったぁぁぁぁ!)
心の中で渾身の作品であるドッペル・フィアーの戦斧がバラバラに砕け散ってしまったことに心を痛めつつ、ノアが第一の鍛練を突破したことを器用に喜ぶブルーノ。
ブルーノは、己の力作が壊されてしまったことに対し、嘆いていることを気取らせぬように言う。
「……よくやった。第一の鍛練はこれにて終了じゃ。『付与』のスキル保持者は常に狙われている。『付与』のスキル保持者が一番に恐れるべきは、自分のステータス値を奪われ無くすこと。これは自分のためであり、他人のためでもある。ステータス値とスキルが奪われたことにより、他の『付与』のスキル保持者が被害に遭う可能性があるからのぅ……それほど『付与』のスキル保持者の持つスキルは強力じゃ」
「……だからこそ、その恐怖に打ち勝つ必要があった」
「その通りじゃ……。とはいえ、疲れたじゃろ。三十分ほど休憩にするとしよう」
(――ワシも疲れた……主に、自身が打った渾身の一振りを壊されたことによって……)
ノアの気を遣う振りを見せながら、ブルームは心の中でそう呟き涙を流す。
「……はい。ありがとうございます」
ノアはそう呟くと、その場で目を瞑った。
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