『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
4 / 47

第3話 新たな可能性の芽

しおりを挟む
 ノアからステータス値を奪い取ったガンツはご機嫌だった。

「ぐはははっ! 最高の気分だぜっ!」

(ウールとかいうガキの『発現の儀』に付き合わされたのは災難だったが、お蔭でノーマークの『付与』スキル保持者を発見し、誰より先にステータスを奪うことができた。怪我の功名とはこのことだな……)

 この村の楽しみといえば、孤児院を追い出された青年が短剣一本で魔の森に突撃し、どこまで行けるかを賭けたり、酒を飲み女を抱くこと位。

 ステータス値が付与された腕輪を見てガンツはほくそ笑む。

(――奪い取ったステータス値は低かったが、あいつのレベルはまだ5。伸び代は十分ある。団長が飼っていたウールとかいうクソガキのように、レベルを上げさせステータスを奪えば、俺がこの傭兵団の団長になることだって……)

 心に野心という名の炎を燃やしながら、傭兵団の団長・ダグラスの住む邸宅へと向かうガンツ。

「団長、ご報告があります」
『おう。ガンツか入れ』
「はい……」

 邸宅のドアを軽く叩き室内に入ると、そこには数人の女を侍らせ酒を飲むダグラスの姿があった。
 ダグラスは手に持っていた杯をグッと飲み干すと、ガンツに視線を向ける。

「……聞いたぞ。『付与』のスキル保持者を見付けたんだってな。それでステータス値は奪い取ったのか?」

 ダグラスの問いにガンツは息を飲むと、得意気に腕輪を外し提示する。

「はい。この通り腕輪にステータスを……」
「……その腕輪にステータスを、だと?」

 ガンツが提示した腕輪を見て、ダグラスは首を傾げる。

「おい。私が与えた指輪はどうした」
「ゆ、指輪ですか? こ、この通りここに……あ、あれ? 無い。なんでだ? 確かにここに入れたはず……」

 慌ててポケットの中を探すガンツ。
 ガンツの慌てようを見てダグラスは憤りの声を上げた。

「――お、お前、まさか……私が与えた『同化の指輪』ではなく、そのガラクタに『付与』のスキル保持者のステータス値を移した訳じゃないだろうな……」
「うっ! そ、それは……」

 ガンツは、誰よりも先に『付与』のスキル保持者を確保したことに浮かれ切って、そのことを完全に失念していた。

「す、すまねぇ! だ、だがよ。あのガキから奪ったステータス値はゴミのようなものだった。レベルも5だったし、伸びしろもある。へ、へへへっ……次から気を付ける。だから許してくれよ……」

 ガンツの雑な言い訳に、ダグラスはため息を吐く。

「……まったく、勿体ないことを……まあいい。それで? 当然、その『付与』のスキル保持者は捕えてあるんだろうな?」
「――えっ? い、いや、捕えてないけどよ。安心してくれ。体力以外のステータス値を0にしたんだ。どうせ、この村から出られやしねぇよ」
「はあっ?」

 ガンツの返答を聞き、ダグラスは素っ頓狂な声を上げる。

「お、お前……まさか『付与』のスキル保持者を放置してここに来たのかっ!?」
「ま、まあ、その通りだが……」

 まさかこんな馬鹿だとは思いもしなかった。
 ダグラスは心底呆れた表情を浮かべると、次の瞬間、激怒する。

「すぐに『付与』のスキル保持者を連れて来いっ! 今すぐだっ!」
「は、はいっ!!」

 ダグラスに怒声を浴びせられたガンツは、逃げるようにその場から駆け出した。

「は、はあっ、はあっ、はあっ……あ、あのクソガキッ! どこへ行きやがったっ!?」

 裏路地に到着したガンツは必死になって、ノアのことを探す。
 しかし、裏路地にノアの姿はない。

「ク、クソがっ! まさか、あのガキ逃げやがったのかっ!?」

(……こ、このままでは拙い。折角、『付与』のスキル保持者を見つけたっていうのにっ!!)

「どこだ、クソガキッ! 殴られたくなかったら出て来いっ!」

 浮かれて逃げられましたでは話にならない。
 必死になって探していると、目の端に人の影を捉えた。

「そこかっ!」

 屋根の上に視線を向けると、そこには、箒に跨った魔女が宙に浮いていた。

「ふえっ、ふえっ、ふえっ……」

 そう呟くと魔女は『魔の森』の方へと飛んで行く。

「あ、あれは、まさか……『読心』の魔女……?」

 ひょんなことから傭兵団が追っていた『読心』の魔女の手がかりを掴んだガンツは、拳を握り締める。
 そして『読心』の魔女が飛んで行った方向を入念に確認すると、ダグラスの邸宅へと走った。

 ◇◆◇

 ノアの涙が枯れる頃にはもう日が暮れていた。

「逃げなきゃ……この村から……」

 ノアが『付与』の固有スキルを持っていることは、あの教会にいた人たちに知られている。もしレベルが上ったら、奴等はノアのステータス値を奪うために嬉々として襲ってくるだろう。

(逃げなきゃ……逃げなきゃ……)

 荒れた路地裏を幽鬼のようにふらふら歩いていると、なにかを踏ん付けたかのような感触がノアの足裏を伝う。

「なんだ……?」

 ノアが視線を向けると、そこには銀色に輝く指輪が落ちていた。
 指輪を拾い上げ汚れを払い落すと夕日に指輪を当てる。

(綺麗な指輪だ。こんな指輪見たことがない……)

 幾何学的な文字が走っている指輪。
 ノアは服で指輪を拭くとポケットに入れ、秘密の抜け穴から村の外に出ることにした。サクシュ村は木製の柵で囲われている。魔物からの襲撃に備えるためだ。
 しかし、抜け道がない訳ではない。

 教会の裏側にある柵。ノアがまだ成人を迎える前、外側からわからないように工夫して、柵を取り外し可能な状態にしてあるのだ。

(あの時は必死だったからな……)

 ノア自身、まさか、ステータスが初期化されると思ってもみなかった。
 だからこそ、ステータスがリセットされてからのこの五年間、神父の目を盗んでは、魔物の生息する『魔の森』に向かい。木の上に基地を作って、ホーン・ラビット等の比較的に簡単に倒せる魔物を倒しレベル上げをしていた。

 柵を外し外に出ると、柵を元に戻し、内側につっかえ棒を置く。

(これで問題無いはずだ。それに、こんな所に抜け道があるなんて誰も思わないだろうな。実際に気付かれた形跡もない……)

 それに、今は『魔の森』よりもこの村の方が危険だ。
 完全に暗くなるまでの間に、秘密基地に辿り着き、当分の間、そこでレベル上げを行う。幸いなことにあの場所の近くには川が流れているし、短剣も置いてある。

(レベルを上げてさっさとこの村から離れよう。確か、魔の森を抜けた先に別の村があったはずだ……その村を更に東に進むと王都がある。村の連中も流石にそこまで追ってはこないはずだ……)

『魔の森』に視線を向けると、人や魔物に見つからないよう警戒しながら基地へと向かって進んで行く。

(あった……)

 木の上に建てられたツリーハウス。
 魔の森に来る度に増改築を繰り返し建築した力作だ。
 傭兵団が狩りに来ない東側の森に建築した。

 ツリーハウスを建築したのは、マップルという栄養価が高く瑞々しい手のひらサイズの赤い果実のなる木の上で、年中、獲ることができるため、食べ物には困らない。
 近くに川もあるし、肉が食べたくなったら、ホーン・ラビットを狩って食べればいい。もちろん、他の魔物に横取りされなければの話だけど……

 ノアはツリーハウスのあるマップルの木の下に辿り着くと、木をよじ登り、ツリーハウスに辿り着く。

(うん。これなら、当分の間、生活できそうだ。でも……)

 このステータスで魔物を倒し、レベルを上げるのは厳しい。

(……どうしよう)

 ツリーハウスで横になり、何気なく『ステータス』を確認していると、ノアの視界に自身の持つ固有スキル『リセット』の文字が目に入る。

(……確か、この固有スキルは、レベルとステータスを初期化するスキル。レベル1からなら比較的簡単にレベルを上げることができるかも)

 それに『付与』の固有スキルがあれば、『体力:4』を持ち越すことができ、赤子並の体力からやり直す心配もない。

(でも、なににステータスを付与しよう……)

 なにかステータスを付与する物は無いか考えていると、指輪を拾ったことを思い出す。

(そうだ。これにステータスを付与すれば……!)

 思い立ったが吉日。
 指輪を親指に嵌めると、ノアが賜わった固有スキル『付与』でステータスを指輪に移していく。
『体力:4』のステータス値を指輪に移した瞬間、ノアの体を力が抜ける感覚が駆け抜ける。しかし、ステータスを移す前に指輪を嵌めていたため、赤子と同じ体力になることは無かった。

 ノアの今のステータスは次の通りだ。

 ◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ノア・アーク
【年 齢】15    【レベル】‌5
【スキル】リセット 【ジョブ】なし
     付与
【STR】体力:5(0+5)  魔力:0
     攻撃:0    防御:0
     知力:0    運命:0
 ◆――――――――――――――――――◆

 次にステータス画面にある『リセット』に指を当てると『本当によろしいですか?』といった画面がノアの前に現れる。
 少し迷ったものの、画面に映る『はい』を選択すると、ノアのレベルとステータス値は初期値にリセットされた。

「……えっ?」

 リセットされたステータスを見て、ノアは声を上げる。
 そこには、想定外のステータスが表示されていた。

 ◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ノア・アーク
【年 齢】15    【レベル】‌1
【スキル】リセット 【ジョブ】なし
     付与
【STR】体力:6(1+5)   魔力:1
     攻撃:1    防御:1
     知力:1    運命:1
 ◆――――――――――――――――――◆

 てっきり、レベルのみ初期化されると思っていたのに、すべてのステータスが1になっていたのだ。

「一体なんでっ……あっ!」

 初めてステータスを『リセット』した時、すべてのステータスが1になっていたことを思い出したノアはハッとした表情を浮かべる。

(あの時はステータスが初期化されたことに動転して気が付かなかったけど、これなら……)

 ノアは、『リセット』そして『付与』の固有スキルに視線を向ける。
 気付けば、ステータス画面にある『付与』に指を当てていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~

カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。 「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」 魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜

ばふぉりん
ファンタジー
 こんなスキルあったらなぁ〜?  あれ?このスキルって・・・えい〜できた  スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。  いいの?

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...