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第374話 新教皇誕生
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「――まったく、凡愚ごときがこの私の問いかけに答えぬとは不敬だぞ。うん? 何をしている。早く、起き上がれ」
顔に無数の蹴りを受け、凡愚と呼ばれた第三秘書は虫の息。
「はぁ……。やれやれだ」
セイヤはそう呟くと、アイテムストレージから初級回復薬を取り出し、凡愚の顔にぶち撒ける。
そして、凡愚の顔が修復された事を確認すると、もうひと蹴り凡愚の腹にきめた。
「ぐうっ!?」
呻き声を上げてもお構いなく……。
「ぐうっ! ぐうっ!? ぐうっ!!」
遠慮なく腹に蹴りを入れていく。
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
「ぼ、ぼうやべでぐだざい……」
しかし、セイヤが蹴りを止めることはない。
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
「――おい。凡愚。話をちゃんと聞いているか? 私は早く起き上がれといったのだ」
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
無数の蹴りが腹目掛けて飛んでくるのに立ち上がれる訳がない。
「…………っ!」
いつ終わると知れない苦痛に耐えていると、セイヤは蹴るのを止め、深いため息を吐く。
「はあ……。やはり凡愚だな。ミズガルズ聖国の修道士はこの程度の罰を与えても私が一声掛ければ笑顔を浮かべ立ち上がる。それに比べ、お前はなんだ……?」
セイヤのまるで聞き分けのない子供を諭すような視線を受け、第三秘書は恐怖する。
「……っ」
セイヤと出会って十五分。
たったそれだけの時間でセイヤを気狂い認定した第三秘書は腹を蹴られた痛みに苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる。
蹴りの止んだこの瞬間に立ち上がらなければ更に蹴られそうだった為だ。
「……なんだ。ちゃんと立てるではないか。しかし、表情がなっていない。手で腹を押さえているのも減点だ」
そう言って、足を払うと第三秘書は横向きに転倒し、床に体を強打する。
「ぐ、ぐうぅぅぅぅ……」
苦痛に呻く第三秘書。
そんな第三秘書を見てセイヤは呟く様に言う。
「……所詮は凡愚。これ以上、指導しても無駄だな。ここは手っ取り早く行くか」
セイヤはアイテムストレージから白紙の契約書を取り出すと、遵守させたい項目を書き込み、第三秘書にペンを持たせ、無理矢理サインさせる。
サインと言っても氏名を記入した訳ではない。ミミズの様な線を契約書に書かせただけ……。しかし、それで十分。突然手を取られ、サインさせられた書類を見て第三秘書は顔を青ざめさせる。
「……な、何を!?」
「うん? 奴隷契約を結ぶ為の契約書だがそんな事もわからんか?」
セイヤが契約書に書いた言語は聖言語。
ミズガルズ聖国にのみ伝わる聖なる言語だ。
生粋の日本人である第三秘書にわかる筈がない。
しかし、セイヤが手に持った物に心当たりのあった第三秘書は悲痛の声を上げる。
「――け、契約書!?」
遅ばせながら自分が何にサインしたのかを知り第三秘書は顔を歪ませる。
「何、安心するがいい。お前の事はこの私が有効に使ってやる。もし万が一、お前が死ぬ時は私の役に立った時だ。嬉しかろう。ヴァルハラへ逝く事ができるぞ。さて、時間が惜しい。凡愚よ、命令だ。この二人を差し出せ……。その上で、この私の下僕になるのだ。私の有利に働くよう動き、死ぬ時は私の役に立ってから死ね」
絶望顔の第三秘書にそう言うと、セイヤは盛大な笑みを浮かべた。
◆◆◆
ミズガルズ聖国。
北欧神話における全知全能の神、オーディンを崇めるこの国の総本山では、今、この国の教皇、ビスマルク・ミズガルズが祈りを捧げていた。
「…………」
終始無言で捧げる祈り。
ビスマルクは心の中で神に問いかける。
何故、神は民を争いに巻き込むような神託をされたのか。
何故、神託がすべての民に向けて発信されたのか。
聖国に住む民の中には、新しい世界の攻略を声高に叫ぶ者もいる。
すべては、他でもない神によって、全国民に神の住む世界『アースガルズ』以外の世界が解放された事を周知された為だ。
今、この国は、神に直接会う為、新しい世界の攻略に力を入れるべきだという攻略派と現状維持を是とする教皇派に割れている。
ビスマルクは苦悩していた。
攻略派を調査した所、派閥の中に実の息子が参加している事が判明した為だ。
蝶よ花よと育てていたら、とんでもないモンスターに変貌を遂げていた。
幼き頃から我が儘で傲慢な子だと思っていたが、まさかこんな風に育つとは……。
将来お前はこの国の教皇となるのだと言い聞かせ育てたのが悪かったのかも知れない。
いや、それだけではない。碌に構ってやれなかった事も原因の一つか……。
親の愛を知らずに育った為か、情愛を求め常習的に修道士に手を出していたとの報告もあった。
念の為、息子と関係を持った修道士はそれとなく処分したが、敢えて罰しなかった事で増長した可能性もある。
困った。非常に困った。
どうか神よ。息子が馬鹿な真似をしないよう見守りください。
そう神頼みしていると、部屋の扉が開く。
まだ、祈りを捧げている最中だというのに……。
「――何用ですか? まだ祈祷は終わっておりませんよ」
外には枢機卿が待機している。
もしかして、また神託が降りてきたのだろうか?
そんな事を考えながら立ち上がると、パンッ!という渇いた音と共に衝撃が体を突き抜ける。
「はっ……?」
痛みを感じた場所に手をやると、血がじんわり滲んでくる。
「な、何が……」
べっトリと手に付いた血。
流れ出る冷や汗。視線を前に向けると、そこにはこの場所にいる筈のない帝国の人間が両手で銃を持ち立っていた。
「そ、そなたは……。だ、誰か助け……」
――パァン、パァン!
教皇が助けを求めると同時に発射される凶弾。
凶弾が教皇の眉間を貫くと同時に、部屋が騒がしくなる。
その日、ミズガルズ聖国の教皇、ビスマルク・ミズガルズは帝国の人間による凶弾に倒れ帰天した。
◆◆◆
教皇が帝国の人間による銃撃を受け帰天した話は瞬く間に伝わった。
教皇帰天を聞き付け、いの一番にやってきたセイヤは、棺で眠る父の姿を見て涙を流す。
「ち、父上……。何故。何故、こんな事に……!」
部屋の外で待機していた枢機卿と、室内で祈りを捧げていた教皇を殺害した帝国の人間はその場で自害。
聖堂には、聖国関係者しか入る事はできない。当然、警備も厳重だ。誰かが手引きしなければ、侵入する事は不可能。
父の手を強く握り立ち上がると、セイヤは鋭い視線を聖堂の警備をしていた聖騎士と連れの聖騎士に向ける。
「……警備していた者の中に、賊を手引きした犯人がいる。全員捕らえて処刑しろ。己の職責すら全うできぬ者には死が相応しい」
「し、処刑!? で、ですが……!!」
「――口答えするな! 処刑と言ったら処刑だ! 賊の侵入を許し、父と枢機卿の殺害を許した時点で死以外の選択肢はあるまい! 断頭台を広場の中央に設置し、民衆の前で罪人として処刑しろ!!」
「は、はい! 教皇が帰天された日に警備をしていた聖騎士を捕えよ! 教皇を見殺しにした大罪人だ! 捕らえた聖騎士は断頭台にて処刑する!」
その言葉と共に聖堂内が騒がしくなる。
「――い、嫌だ! まだ死にたくない!」
「手引きなんて……。賊の手引きなんてしておりません! 信じて下さい!!」
「……父と枢機卿を見殺しにした貴様らの言葉など信じるに値しない。捕らえた者は即刻処刑せよ!!」
泣き喚く聖騎士達の言葉を一刀両断すると、セイヤは連れて行かれる聖騎士達を見て、誰にも気付かれる事なくほくそ笑む。
――計画通り。
教皇は枢機卿による選挙により選出される。
教皇と枢機卿達が亡くなった今、残る枢機卿は私一人だ。
つまり、父親である教皇が死んだ瞬間から教皇の座は私の物。
くくくくくっ……。
笑いが止まらない。
表情に出さない様にするのが難しい。
ようやく邪魔な父親が消えてくれた。
素直に教皇の地位を譲り渡せば死なずに済んだものを……。
保身に走り、攻略派の言う事を聞かぬからそうなるのだ。
セイヤは棺で横たわる父親に視線を向ける。
「――これから先は、私が聖国を導いていきますよ。あなたはヴァルハラでその光景を眺めているといい」
聖国の伝承によると神の住む世界『アーズガルズ』に向かう為には、虹の橋を渡る必要があるという。
元々、ミズガルズ聖国はアースガルズの一部。
伝承によると、虹の橋は混沌と共にミズガルズ聖国に現れ、アースガルズへの道を切り開くと言われている。
アースガルズ以外の世界が解放された今、我々がやる事はただ一つ。
「この世に真なる混沌をもたらそう。多くの人が死に絶え、絶望の歌が地上に響く時、神の国へと繋がる虹の橋が聖なる国へ架けられる。この私が教皇に就任して初めに行う事……。それは帝国への宣戦布告だ。教皇殺しの報復戦争と言う名のな……」
別世界に渡った甲斐があったというものだ。
まさか、帝国の皇子二人が仁海の下で捕らわれていたとはな。
しかも、その二人は私と同じ神に選ばれた六人のうちの二人だという事がわかった。
そして、一人を尖兵として帝国に送り返し、もう一人には枢機卿と教皇の殺害及び犯行後の自害を命令した。
教会の連中は何故、帝国の人間……。それも皇子が誰にも気付かれる事なく聖堂に入り込むことができたのか疑問に思っているようだが、枢機卿にして未来の教皇であるこの私が暗躍しているのだ。
神から賜った生きた人間を格納する事のできるアイテムストレージや上位精霊獲得チケットを有効に使えば、この位、容易いこと。
更に枢機卿と教皇を殺した犯人が帝国の皇子である事が判明した今、戦争の回避は不可能に近い。
楽しくなってきた。
いや、これまでが退屈過ぎたのだ。
教皇は聖国の教えを広める為、各国に治外法権を求め、そこに教会を建立した。
枢機卿達は、教えを広めるためならと教皇に賛同していたが私は違う。
各国に建てた教会は戦争を有利に働かせる為の拠点に過ぎない。
「さあ、私の為に踊ってもらうぞ……!」
そう呟くと、セイヤは黒い笑みを浮かべた。
顔に無数の蹴りを受け、凡愚と呼ばれた第三秘書は虫の息。
「はぁ……。やれやれだ」
セイヤはそう呟くと、アイテムストレージから初級回復薬を取り出し、凡愚の顔にぶち撒ける。
そして、凡愚の顔が修復された事を確認すると、もうひと蹴り凡愚の腹にきめた。
「ぐうっ!?」
呻き声を上げてもお構いなく……。
「ぐうっ! ぐうっ!? ぐうっ!!」
遠慮なく腹に蹴りを入れていく。
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
「ぼ、ぼうやべでぐだざい……」
しかし、セイヤが蹴りを止めることはない。
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
「――おい。凡愚。話をちゃんと聞いているか? 私は早く起き上がれといったのだ」
ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!
無数の蹴りが腹目掛けて飛んでくるのに立ち上がれる訳がない。
「…………っ!」
いつ終わると知れない苦痛に耐えていると、セイヤは蹴るのを止め、深いため息を吐く。
「はあ……。やはり凡愚だな。ミズガルズ聖国の修道士はこの程度の罰を与えても私が一声掛ければ笑顔を浮かべ立ち上がる。それに比べ、お前はなんだ……?」
セイヤのまるで聞き分けのない子供を諭すような視線を受け、第三秘書は恐怖する。
「……っ」
セイヤと出会って十五分。
たったそれだけの時間でセイヤを気狂い認定した第三秘書は腹を蹴られた痛みに苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる。
蹴りの止んだこの瞬間に立ち上がらなければ更に蹴られそうだった為だ。
「……なんだ。ちゃんと立てるではないか。しかし、表情がなっていない。手で腹を押さえているのも減点だ」
そう言って、足を払うと第三秘書は横向きに転倒し、床に体を強打する。
「ぐ、ぐうぅぅぅぅ……」
苦痛に呻く第三秘書。
そんな第三秘書を見てセイヤは呟く様に言う。
「……所詮は凡愚。これ以上、指導しても無駄だな。ここは手っ取り早く行くか」
セイヤはアイテムストレージから白紙の契約書を取り出すと、遵守させたい項目を書き込み、第三秘書にペンを持たせ、無理矢理サインさせる。
サインと言っても氏名を記入した訳ではない。ミミズの様な線を契約書に書かせただけ……。しかし、それで十分。突然手を取られ、サインさせられた書類を見て第三秘書は顔を青ざめさせる。
「……な、何を!?」
「うん? 奴隷契約を結ぶ為の契約書だがそんな事もわからんか?」
セイヤが契約書に書いた言語は聖言語。
ミズガルズ聖国にのみ伝わる聖なる言語だ。
生粋の日本人である第三秘書にわかる筈がない。
しかし、セイヤが手に持った物に心当たりのあった第三秘書は悲痛の声を上げる。
「――け、契約書!?」
遅ばせながら自分が何にサインしたのかを知り第三秘書は顔を歪ませる。
「何、安心するがいい。お前の事はこの私が有効に使ってやる。もし万が一、お前が死ぬ時は私の役に立った時だ。嬉しかろう。ヴァルハラへ逝く事ができるぞ。さて、時間が惜しい。凡愚よ、命令だ。この二人を差し出せ……。その上で、この私の下僕になるのだ。私の有利に働くよう動き、死ぬ時は私の役に立ってから死ね」
絶望顔の第三秘書にそう言うと、セイヤは盛大な笑みを浮かべた。
◆◆◆
ミズガルズ聖国。
北欧神話における全知全能の神、オーディンを崇めるこの国の総本山では、今、この国の教皇、ビスマルク・ミズガルズが祈りを捧げていた。
「…………」
終始無言で捧げる祈り。
ビスマルクは心の中で神に問いかける。
何故、神は民を争いに巻き込むような神託をされたのか。
何故、神託がすべての民に向けて発信されたのか。
聖国に住む民の中には、新しい世界の攻略を声高に叫ぶ者もいる。
すべては、他でもない神によって、全国民に神の住む世界『アースガルズ』以外の世界が解放された事を周知された為だ。
今、この国は、神に直接会う為、新しい世界の攻略に力を入れるべきだという攻略派と現状維持を是とする教皇派に割れている。
ビスマルクは苦悩していた。
攻略派を調査した所、派閥の中に実の息子が参加している事が判明した為だ。
蝶よ花よと育てていたら、とんでもないモンスターに変貌を遂げていた。
幼き頃から我が儘で傲慢な子だと思っていたが、まさかこんな風に育つとは……。
将来お前はこの国の教皇となるのだと言い聞かせ育てたのが悪かったのかも知れない。
いや、それだけではない。碌に構ってやれなかった事も原因の一つか……。
親の愛を知らずに育った為か、情愛を求め常習的に修道士に手を出していたとの報告もあった。
念の為、息子と関係を持った修道士はそれとなく処分したが、敢えて罰しなかった事で増長した可能性もある。
困った。非常に困った。
どうか神よ。息子が馬鹿な真似をしないよう見守りください。
そう神頼みしていると、部屋の扉が開く。
まだ、祈りを捧げている最中だというのに……。
「――何用ですか? まだ祈祷は終わっておりませんよ」
外には枢機卿が待機している。
もしかして、また神託が降りてきたのだろうか?
そんな事を考えながら立ち上がると、パンッ!という渇いた音と共に衝撃が体を突き抜ける。
「はっ……?」
痛みを感じた場所に手をやると、血がじんわり滲んでくる。
「な、何が……」
べっトリと手に付いた血。
流れ出る冷や汗。視線を前に向けると、そこにはこの場所にいる筈のない帝国の人間が両手で銃を持ち立っていた。
「そ、そなたは……。だ、誰か助け……」
――パァン、パァン!
教皇が助けを求めると同時に発射される凶弾。
凶弾が教皇の眉間を貫くと同時に、部屋が騒がしくなる。
その日、ミズガルズ聖国の教皇、ビスマルク・ミズガルズは帝国の人間による凶弾に倒れ帰天した。
◆◆◆
教皇が帝国の人間による銃撃を受け帰天した話は瞬く間に伝わった。
教皇帰天を聞き付け、いの一番にやってきたセイヤは、棺で眠る父の姿を見て涙を流す。
「ち、父上……。何故。何故、こんな事に……!」
部屋の外で待機していた枢機卿と、室内で祈りを捧げていた教皇を殺害した帝国の人間はその場で自害。
聖堂には、聖国関係者しか入る事はできない。当然、警備も厳重だ。誰かが手引きしなければ、侵入する事は不可能。
父の手を強く握り立ち上がると、セイヤは鋭い視線を聖堂の警備をしていた聖騎士と連れの聖騎士に向ける。
「……警備していた者の中に、賊を手引きした犯人がいる。全員捕らえて処刑しろ。己の職責すら全うできぬ者には死が相応しい」
「し、処刑!? で、ですが……!!」
「――口答えするな! 処刑と言ったら処刑だ! 賊の侵入を許し、父と枢機卿の殺害を許した時点で死以外の選択肢はあるまい! 断頭台を広場の中央に設置し、民衆の前で罪人として処刑しろ!!」
「は、はい! 教皇が帰天された日に警備をしていた聖騎士を捕えよ! 教皇を見殺しにした大罪人だ! 捕らえた聖騎士は断頭台にて処刑する!」
その言葉と共に聖堂内が騒がしくなる。
「――い、嫌だ! まだ死にたくない!」
「手引きなんて……。賊の手引きなんてしておりません! 信じて下さい!!」
「……父と枢機卿を見殺しにした貴様らの言葉など信じるに値しない。捕らえた者は即刻処刑せよ!!」
泣き喚く聖騎士達の言葉を一刀両断すると、セイヤは連れて行かれる聖騎士達を見て、誰にも気付かれる事なくほくそ笑む。
――計画通り。
教皇は枢機卿による選挙により選出される。
教皇と枢機卿達が亡くなった今、残る枢機卿は私一人だ。
つまり、父親である教皇が死んだ瞬間から教皇の座は私の物。
くくくくくっ……。
笑いが止まらない。
表情に出さない様にするのが難しい。
ようやく邪魔な父親が消えてくれた。
素直に教皇の地位を譲り渡せば死なずに済んだものを……。
保身に走り、攻略派の言う事を聞かぬからそうなるのだ。
セイヤは棺で横たわる父親に視線を向ける。
「――これから先は、私が聖国を導いていきますよ。あなたはヴァルハラでその光景を眺めているといい」
聖国の伝承によると神の住む世界『アーズガルズ』に向かう為には、虹の橋を渡る必要があるという。
元々、ミズガルズ聖国はアースガルズの一部。
伝承によると、虹の橋は混沌と共にミズガルズ聖国に現れ、アースガルズへの道を切り開くと言われている。
アースガルズ以外の世界が解放された今、我々がやる事はただ一つ。
「この世に真なる混沌をもたらそう。多くの人が死に絶え、絶望の歌が地上に響く時、神の国へと繋がる虹の橋が聖なる国へ架けられる。この私が教皇に就任して初めに行う事……。それは帝国への宣戦布告だ。教皇殺しの報復戦争と言う名のな……」
別世界に渡った甲斐があったというものだ。
まさか、帝国の皇子二人が仁海の下で捕らわれていたとはな。
しかも、その二人は私と同じ神に選ばれた六人のうちの二人だという事がわかった。
そして、一人を尖兵として帝国に送り返し、もう一人には枢機卿と教皇の殺害及び犯行後の自害を命令した。
教会の連中は何故、帝国の人間……。それも皇子が誰にも気付かれる事なく聖堂に入り込むことができたのか疑問に思っているようだが、枢機卿にして未来の教皇であるこの私が暗躍しているのだ。
神から賜った生きた人間を格納する事のできるアイテムストレージや上位精霊獲得チケットを有効に使えば、この位、容易いこと。
更に枢機卿と教皇を殺した犯人が帝国の皇子である事が判明した今、戦争の回避は不可能に近い。
楽しくなってきた。
いや、これまでが退屈過ぎたのだ。
教皇は聖国の教えを広める為、各国に治外法権を求め、そこに教会を建立した。
枢機卿達は、教えを広めるためならと教皇に賛同していたが私は違う。
各国に建てた教会は戦争を有利に働かせる為の拠点に過ぎない。
「さあ、私の為に踊ってもらうぞ……!」
そう呟くと、セイヤは黒い笑みを浮かべた。
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「最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
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