ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
364 / 381

第364話 はっ……?

しおりを挟む
「はっ……?」

 人間牧場があった筈の更地。
 それがまっさらな更地になっているのを見て、ピンハネはもう一度、目を瞑る。

「…………」

 おかしいな。場所を間違えたか?
 何で、私の人間牧場が更地になっている?
 借金奴隷共を連れて来た時はまだ更地ではなかった。
 そもそも何で更地になっているんだ。ここは私の人間牧場。
 ミズガルズ聖国には、家畜業としか伝えていない。
 カモフラージュ代わりとして、本物の家畜も飼っていたし、内部に入り込み詳しく調べなければ分からない筈だ。

 ピンハネは一縷の望みを賭け、もう一度だけ目を開く。
 しかし、目の前の光景は変わらない。
 そこには、まっさらな更地が広がるだけ。
 ピンハネは膝をつくと、呆然とした表情を浮かべる。

「な、何で……」

 何故、私の人間牧場が更地になっている。
 人間牧場で飼っていた家畜共はどこに行った。
 まさか、逃げたのか? 逃げたのか!?
 家畜の分際で人間様に逆らいやがって……!
 それとも、家畜共が脱走し、聖国に人間牧場の事を話したのか?
 もし、そうだとしたら絶対に許さない。

 誰に向ければいいのか分からない怒りの炎が、ピンハネの心を焼いていく。

「誰だ……誰が私の牧場を勝手に……勝手に……!」

 勝手に更地にしたァァァァ!
 何の権利があって……! 何で、何で、何でェェェェ!

 その場に座り込み嘆いていると、背後から声が聞こえてくる。

「あ、いたいた。ここにいたんですか。探しましたよ」

 振り向くと、そこには、まるで人間らしい格好をした家畜が立っていた。
 表情は笑顔に溢れ、ピンハネとは対照的。

「家畜13号……」
「嫌だなぁ。家畜13号だなんて、そんな呼び方やめて下さいよ。僕には、スタインっていう名前があるんですから」

 スタイン? 何を馬鹿な……。それは、家畜の代表格であるホルスタインを捩り、私がふざけて付けた呼び名だろ。
 しかし、そんな事はどうでもいい。

 ピンハネはスタインに詰め寄ると、状況説明を求める。

「……スタイン。質問に答えろ。何故、私の牧場が更地になっている。他の家畜共はどこに行った」

 そう尋ねると、スタインは近くに建てられた小屋を見ながら言う。

「ああ、そうでした。そうでした。まあ話せば長くなると言いますか……。僕もピンハネさんに伝えなきゃいけないことがあるんですよ。質問に答えますので、ちょっと座れる場所に行きませんか?」
「……いいだろう。詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

 今のピンハネは怒り心頭。色々な事が立て続けに起こり冷静さを欠いている。
 だから気付かない。数日前までは、あんな小屋が無かった事に……。

「こちらです。飲み物を持ってきますので、座ってお待ちください」
「ああ……」

 小屋の中に入りスタインに促されるまま席に座る。

「色々あってお疲れでしょう。疲れを癒す効能のあるハーブティーです。さて、どこから話しましょうかね……」

 口の中を湿らす程度にハーブティーを軽く口に含むと、ピンハネは手に持つティーカップをテーブルに叩き付ける。

「どこからでもいい! 情報の取捨選択は私が行う。余計な事を考えるな。お前はあった事を一から話していけばい……」

 そこまで話すと、急に眩暈に襲われる。

「こ、これは、一体……」

 あまりの怒りに血管が切れてしまったのだろうか?
 テーブルの上に伏せる様にして脱力した体。

「スタイン。手を貸せ、私を横に……」

 動けない訳ではないが、あまりにもしんどい。
 手を借りる為、スタインに手を伸ばすと、スタインは満面の笑みを浮かべ手を払う。

「流石……。即効性のある薬は違いますな。どうです? ピンハネさん。動けないでしょう?」
「な……。どういう事だ……」

 まさか、盛ったのか?
 この私に怪しげな薬を盛ったのか??

「私が何を……」
「私が何を?」

 ピンハネの言葉に、先程まで笑顔だったスタインが、顔を真っ赤にしながら激昂する。

「――私が何をじゃないだろっ! いつまで主人気取りでいるつもりだ貴様ァァァァ! 僕はもうお前の奴隷じゃないんだよ! 偉そうな事を言うなァァァァ!」
「なっ……! どういう事だ……」

 この男には返しきれない程の借金を背負わせた筈だ。逆らう事ができぬ様、契約書で縛りも入れた。にも関わらず、何故、逆らう様な事ができる!?

 すると、ピンハネの思考を読んだスタインが怒りながら言う。

「――返せるはずが無いとでも思っていただろ! 残念だったな! あんたの留守中に訪れた人が僕達の借金をぜーんぶ肩代わりしてくれたんだよ! 特別なアイテムで契約書も破棄して貰った! あんたの人間牧場を国に告発する事を条件になっ!」
「な、なんだって!?」

 ふ、ふざけやがって!

「誰だ。誰がそんな事を……。うっ!?」

 気力を振りしぶり声を上げると、その瞬間、頭をテーブルに押し付けられる。

「――いつまで上位者のつもりだ。終わったんだよ。あんたが僕等の上にいた時代は! いい加減、自分が今、置かれた立ち位置を自覚しろ!」

 ぐっ、おのれェェェェ!

 今まで見下していた相手にそう言われるのが一番腹が立つ。
 何が自覚しろだ! ただ借金を肩代わりして貰っただけ。主人が変わっただけで、結局、何も変わっていないじゃないか!

「うぐぐぐぐっ……! 調子に乗るなよ。お前、一人などすぐにでも無力化できる。その事をわかっているんだろうなァァァァ」

 幸いな事にアイテムストレージには一枠の空きがある。
 このクズを収納し、解毒薬を飲めば形勢逆転。その後、拷問するなりして情報を聞き出せばいい。

 スタインをアイテムストレージ内に格納すべく手を伸ばすと、突然、小屋の扉が開き数名の衛兵が入ってくる。

「そこまでだ。無駄な抵抗は止め大人しくしなさい」
「ぐっ、貴様ァァァァ!」

 小屋の中に入ってきた衛兵を見て、ピンハネはスタインを睨み付ける。
 小屋に入ってきた衛兵に視線を向けると、スタインは安堵のため息を吐いた。

「ふ、ははっ……。残念だったね。聖国には既に告発済みさ! 人間牧場が更地になっている事からそれくらい察しろよ。バーカ!」

 そうか、貴様がっ……!!

「……殺す。お前だけは絶対にぶっ殺す!」

 小屋の中に衛兵が入ってきたという事は、最初から私を捕えるつもりだったという事に他ならない。
 事情聴取もなく牧場を更地にされたんだ。
 既に証拠も抑えられているのだろう。

 衛兵は、ピンハネに見せ付ける様にして紙を拡げると、声高らかにそれを読み上げる。

「罪人、ピンハネ・ポバティー。貴様を人身売買及び奴隷の不法所持、殺害、傷害の罪により投獄する」

 ぐっ……勝手な事を……!
 修道士との間に生まれた赤子や背教者の処理。
 聖国がひた隠しにする闇。その処分を担ってきたのが、この私だ。
 自分達の汚い部分は棚に上げ、責任全てをこの私に押し付ける気か!?
 冗談じゃない。冗談じゃない!!

「……私を投獄していいのか? 何なら全てを白日の下にしてもいいんだぞ? でも、それだと君達の上司も困るんじゃないかな?」

 投獄された所で、外と連絡を取る手段などいくらでもある。

 いつもであれば通じる脅し文句。
 しかし、証拠を抑えられた今と昔とでは置かれた状況があまりに違う。
 ピンハネがそう告げた瞬間、小屋の中の空気が重くなる。
 衛兵達は鍔に手を掛けると、互いに顔を見合わせ、ピンハネに視線を向けた。

「……ならば残念。あなたには消えて貰う他、ありません」

 衛兵の一人が抜剣すると、もう一人がピンハネを抑え込む。

「あ、がっ! 貴様、何のつもりだ!」
「首を両断します。安心して下さい。痛いのは最初だけです。大人しくして下さい」
「な、何だとっ! ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」

 何で、そんな話になる!?
 違うだろ、そこは上司に確認を取り、一旦、話を持ち帰る所だろう。この愚か者がァァァァ!

 迫り来る刃。
 心の中で絶叫を上げると、ピンハネは抑え付けている衛兵をアイテムストレージに収納し、迫り来る刃の前で解放する。

「ぎ、ぎゃああああっ!?」
「な、何っ!?」

 味方を袈裟斬りにした衛兵は動揺し、手に持っていた剣を取りこぼす。
 その隙を抜い、もう一人の衛兵をアイテムストレージに格納すると、解毒薬を取り出し、気力で飲み切った。

「う、うわぁああああっ! 誰か、誰か助けて! 衛兵さァァァァん!」

 小屋から逃げ出すスタインに視線を向け、ピンハネは冷や汗を拭う。

 あ、危なかった。
 今まで感じた事のない命の危機。
 相当強い薬だったのだろう。解毒薬を飲んで尚、体の怠さが抜けない。

「衛兵さん! ピンハネが! ピンハネが衛兵二人を……!」

 小屋の外から聞こえるスタインの声。
 おそらく、外に衛兵が待機しているのだろう。
 今になって高橋翔の言葉を理解する。
『好きな方を選べ』とはこの事を言っていたのだと……。

 自衛の為とはいえ、衛兵を倒したという事実は間違いなく悪い方向に作用する。
 今、衛兵に捕まれば、私はまず間違いなく死罪となるだろう。
 おそらく、高橋翔はこうなる事を予期していた。生か死か。つまり、奴は私に選択を迫っているのだ。

「こっちの世界で裁かれ物理的に死ぬか、むこうの世界で社会的に死ぬか……か……」

 なんて酷い選択肢だろうか。
 あちらの世界に転移すれば、その瞬間、自衛隊員に取り押さえられる。
 あれほどの事をしたのだ。
 死にはしないだろう。しかし、タダで済むとも思えない。
 良くて長い有期刑。悪ければ、無期刑といった所……。
 しかし、それでも生き残る選択肢がある以上、遥かにマシだ。
 ここにいれば、まず間違いなく死が訪れる。

「衛兵さん! 早く、あいつを……! ピンハネを捕まえて下さい!」

 不快なスタインの声と、小屋に向かってくる衛兵の足音。
 選択の時間は残されていない。

「くそっ……。こんな事になると分かっていれば……」

 こんな事になると分かっていれば、最初から神の言う事に耳を傾けなかった。
 輝かしい未来を幻視し、高橋翔を侮った結果がこれか。
 しかも、奴隷に裏切られ衛兵に売られる始末……。不本意な結果ではあるが時間もない。

「……今回は潔く負けを認めようじゃないか」

 しかし、私はまだ終わらない。地獄の底からでも這い上がってみせる。

「……転移。新橋」

 自嘲気味にそう呟くと、ピンハネは、自衛隊が闊歩する新橋へと転移した。
しおりを挟む
最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
感想 537

あなたにおすすめの小説

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

処理中です...