ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

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第362話 落下後の顛末

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 地面に落とされたルートは悶絶しながら呻き声を上げる。

「う、ごぉぉおおおおぉぉ……!?」

 全身が死ぬほど痛い。息をするだけで苦しい。
 何故だ。何故、この俺がこんな目に……!
 俺はただ、ただ高橋翔を俺と同じ目に合わせてやりたいだけなのに……!

 ルートは上空で舞う風の上位精霊・ジンに視線を向ける。。

「くっそ……。聞いてないぞ……」

 事実、ゲーム世界が現実になる前のエレメンタルは、プレイヤーを少しサポートするだけのいてもないくてもどうでもいい存在だった。
 ゲーム世界が現実となった途端、エレメンタルがこんなに強くなるとは聞いてない。
 こんなの反則だ。ズルい。理不尽だ。何故、あいつばかり……。あいつばかりっ!

「おい。君、大丈夫かっ!?」

 近付いてくる自衛隊員を見て、ルートはほくそ笑む。

 まだ体は痛むが声が出ないほどではない。
 破れかぶれだ。こうなったら、ゲーム世界の事、今、東京都内で起こっている騒動の発端すべてを暴露して高橋翔に一矢報いてやる。

「――おい。大丈夫か!」

 ルートは近寄ってきた自衛隊員に向かって話しかける。

「――こ、この事を国の偉い人に伝えて下さい。今、東京都内で起こっている騒動は、俺達が引き起こした事・・・・・・・・・・で……って、え?」

 えええええっ!?
 い、今、俺は何を……。何故、自白紛いな事を俺は言って……。

「……どういう事ですか? 詳しく話を聞かせて下さい」

 ルートに自衛隊員の鋭い視線が突き刺さる。
 ま、拙い。どうにかして誤魔化さねば……!

 しかし、何とか失言を訂正しようにも、まったく言葉が浮かんでこない。
 それ所か、事態がより悪くなっていく。

「……はい。今、東京都内で起こっている騒動はこのモンスターを発生させるアイテム、モンスターリスポーンの効果によるものです」

 口だけでなく体も勝手に動く。早く止めなければ拙い。
 原因を探る為、目を忙しなく動かすと、視界の端に闇の精霊・ジェイドの姿が映る。
 その瞬間、ルートはすべてを理解した。

 あ、あいつが原因かぁぁぁぁ!!

 原因はハッキリした。しかし、それを除く術がルートにはない。

 ちくしょう。何でこんな事にっ!
 俺が、俺が何をしたって言うんだよぉぉぉぉ!

 ジェイドに操られるまま取り出したモンスターリスポーンを見て、自衛隊員は疑いの眼差しを向けてくる。

「……君、今は非常時だ。冗談にしては笑えないな」

 どうやら自衛隊員は、これを悪戯だと思ったらしい。
 助かった。この場さえ乗り切れば何とかなる。

「いや、実はじょうだ――」

 ホッとしたのも束の間。
 ルートの体が勝手に動き、自衛隊員が持つモンスターリスポーンに手を伸ばす。

「――冗談じゃありませんよ。……って、え?」

 そう言いながら自分の手が勝手に動きモンスター・リスポーンを発動させた事に、ルートは唖然とした表情を浮かべる。
 そして、赤い線が周囲を囲み、至る所から害虫が姿を現した事で現実に引き戻された。

「――ええええええええええええええええっ!?」
「まさか、本当に!?」

 突然の事態に慌てる自衛隊員。
 異変に気付いた他の隊員もこちらに向かってくる。

「君、何をやっている!」
「今すぐこれを止めろ!」

 自分を起点に発生した害虫と害獣。
 それを止める為、次々と駆け付けてくる自衛隊員。
 ルートは顔面蒼白となり震え上がる。

「今すぐこれを止めなさい! 早くっ!」

 こちらとしても止めたいのは山々だが、口と体がいう事を聞かない。
 いや、仮に口と体が自由だったとしても、モンスター・リスポーンの効果は一度発動すれば止めることはできない。

「モンスター・リスポーンを途中で止めるのは不可能です。モンスターを呼び寄せてしまった以上、倒す以外の解決方法はありません。理解しましたか?」

 完全に終わった……。
 もうお終いだ……。
 自衛隊員はルートを転がすと関節を締め上げ、地面に押さえつける。

「――ぐぅえっ!?」

 容赦ない自衛隊員の関節技をくらい、ルートは短い悲鳴を上げる。

「もう一度聞く。これを止める方法は……?」

 自衛隊員の最後通牒とも取れる言葉に、ルートは心の底から声を上げる。

「だ、だから、止める方法はないって言ってるだろっ! 痛たたたっ! 痛いって! 自衛隊が一般市民を痛め付けていいのかよ。これは問題だ! 問題行為だ! 離せ! 離せよ!」

 これだけの被害を齎しているにも関わらず、都合のいい時だけ一般市民を騙るルートを見て、自衛隊員はため息を吐いた。

 ◆◆◆

 ルートの下に集まる自衛隊員の姿を眼下に収めると、俺こと高橋翔はほくそ笑む。

「……ルートの駒が自衛隊に渡ったか」

 ジェイドの力があれば、俺に関する情報を話さないよう規制するのも容易。
 警察や自衛隊員が状況把握をするのにルートの駒は最適だ。
 まさか自衛隊が派遣されるとは思わなかったが、俺にとっては好都合。
 何せ、俺とピンハネの勝負に自衛隊が味方として参戦してくれるのだ。
 またとないこの機会。精々、利用させて貰おう。

 しかし、予定外だったな。ピンハネに五体目のエレメンタルがいたとは……。
 俺が確認した時は四体だった。
 まさか、アイテムストレージに隠していたのか?
 態々、そんな事するだろうか?
 ルートの話が真実であれば、ピンハネの持っているエレメンタルは、影の上位精霊・スカジという事になる。
 あのピンハネが上位精霊をこんなギリギリになるまでアイテムストレージにしまっておくとは思えない。
 エレメンタルすべてを失い、仕方がなく切り札を切った。
 そう考えるのが自然だ。
 いきなり上位精霊が出てきた事から上位精霊を獲得できるエレメンタル獲得チケットを利用したと考えるのが妥当か。
 ゲーム世界に閉じ込められたプレイヤーを奴隷にしている様だし、その中の一人がエレメンタル獲得チケットを持っていたとしても何ら不思議はない。
 俺の影の精霊達も、影の上位精霊であるスカジに捕らえられたのだろう。
 そう考えれば、現状、俺の影の精霊がロスト扱いとなっていない事の説明も付く。
 そして、奴のアイテムストレージには限りがあるであろう事も……。

「なら、俺にできるのは一つだけ……」

 自衛隊は今、この騒ぎの元凶であるピンハネの下に集結しつつある。
 後は奴の退路を完全に断つ。それだけでいい。

「楽しみだよ。これ程まで執拗に俺と敵対したのはお前が初めてじゃないか?」

 ゲーム世界の力が使えなかった頃の俺なら社会的に抹殺されていてもおかしくなかった。
 俺から先に仕掛けることはまずない。先に仕掛けてきたのはお前だ。
 なら、やり返されたとしても当然文句は言わないよな?
 示談なんてしないぞ?
 当然だよな。だってこれは裁判でも何でもないゲーム世界の力を行使する者同士の小競り合いなのだから。
 社会を巻き込み、これだけ多大な迷惑をかけておいてただで済むと思うな。
 罪には厳罰を以って処す。
 俺の居場所を奪おうとしたんだ。
 ならば俺もお前の居場所を奪わせてもらおうじゃないか。幸いな事にお前の住んでいる国の確証は得ているからな……。

「……さて、行くか。おっと、その前に」

 俺はメニューバーを開くと、アイテムストレージ内に格納されている『エレメンタル進化チケット』を見てほくそ笑む。

 そして、ありったけの進化チケットと強化チケットを使い、ピンハネに捕らえられた影の精霊・シャドウを強化すると満面の笑みを浮かべゲーム世界へとログインした。

 ◆◇◆

 音を立ててこちらに向かってくる自衛隊のヘリコプター。
 ピンハネが視線を向けると、新橋三丁目に差し掛かった所で、ヘリコプターが消失する。

 ソファから立ち上がると、ピンハネは笑みを浮かべながら窓の外を眺める。
 
「――さて、粗方、捕え終えたかな?」

 モンスターリスポーンを使用してから既に六時間が経過した。
 奴隷共も善戦している様だ。戦力も分散され、想定通りに物事が進んでいる。
 奴隷共は混乱を巻き起こし、より質の高い奴隷を手に入れる為の道具でしかない。
 事実、彼等が暴れてくれているお陰で戦力は分散し、多くの自衛官を影の世界に生け捕ることができた。
 後は、自衛隊という駒を使い高橋翔を捕えるだけ……。それで私の計画は成就する。
 さて、そろそろ実行に起こそう。
 高橋翔を隷属し、残る四人を打ち倒す。
 そうすれば、晴れてこの世界は私のものに……。
 窓の外に視線を向け、ピンハネはほくそ笑む。

「おやおや、これはこれは……」

 そこには、高橋翔を捕らえ満面の笑みで手を振る奴隷の姿があった。
 東京都内に解き放った十人の奴隷の内の一人が高橋翔を捕らえてくるとは想定外もいい所だ。
 いや……。これも必然か?
 考えて見れば、奴のエレメンタルは影の上位精霊・スカジが封じ、闇の上位精霊・ディアボロスは私のアイテムストレージの中。
 恐らく、これで戦力の大半を失ったのだろう。だから、奴隷でも捕らえる事ができた。そう考えるのが自然。ごく自然の成り行きだ。
 どうやら私は高橋翔の事を過大評価していたらしい。
 なんて事はない。奴も所詮はただの人間。
 力を持っているのはエレメンタルであって高橋翔ではないのだから当然だ。
 とはいえ、高橋翔なくして奴の持つエレメンタルを操る事はできないのもまた事実……。

 エレベーターで一階に降りると、ピンハネは高橋翔のいるエントランスへと歩み寄る。

「やあ、久しぶりだね。可哀想に……。随分とボロボロじゃないか!」
「…………」
「おやおや、減らず口すら叩けなくなったのか? 哀れだね」

 しかし、どんなに煽っても高橋翔は睨みつけてくるだけ。
 ヤレヤレと首を振るとピンハネは、アイテムストレージから隷属の首輪を取り出し、高橋翔を捕らえた奴隷の下に転がした。

「お前、名前なんだっけ? まあいいか。とりあえず、よくやった。高橋翔を捕えるなんて中々、やるじゃないか。本当は私自ら首輪を嵌めてやりたい所だけど、万が一があったら困るからね。君が付けるんだ。彼の首に……」

 そう命令すると、奴隷は高橋翔の首に受け取った首輪を嵌める。

「流石……。隷属の首輪を嵌められて尚、悲観に暮れないとはね」

 これから奴隷となる者の姿とは思えない程の潔さ。あまりに潔すぎて拍子抜けだ。
 まあいい。

「さて、私に忠誠を誓って貰うよ。そうだな。まずは、私の靴を舐めて貰おうか?」

 そう言って足を差し出すと、高橋翔は命令通り私の足元までやってきて足を手にした。

 やはり何かがおかしい。
 隷属の首輪が嵌っているとはいえ、何故、そんなに落ち着いていられる。
 これまで私が奴隷に堕としてきた者は皆、一様にして悲壮感に暮れ絶望的な表情を浮かべていた。
 隷属の首輪を嵌められて落ち着いていられる訳がない。落ち着いていられるとすれば、それは首に付いた隷属の首輪を外す手段を持つ者以外あり得ない。

 土壇場でその事実に辿り着くも現実は無情。

「……捕まえた」

 高橋翔がそう呟く言葉を聞くと、ピンハネは顔を強張らせた。
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