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第337話 ヨトゥンヘイム⑫

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 まずは一匹……。

「――ありがとう。ベヒモス……。引き続き、同族に鞭を振るう馬鹿共をシバき倒してくれる?」

 地の上位精霊・ベヒモスにそうお願いすると、様子を見ていた鞭を振るう丘の巨人達が『ヒッ!』と声を上げる。
 同族を傷付け何とも思わないゴミクズ共がどうなろうが俺にとってはどうでもいい。
 俺が買い取った領地にそんなゴミクズを住まわせたくないからだ。
 今まで同族を虐げる事で良い思いをしてきたんだろ?
 悲鳴を上げれば許されると思ったか?
 許される筈がないだろ。今まで同族を虐げてきた分、虐げられろ。
 一方的に虐げられてきた奴等の千倍虐げられてようやくイーブンだ。
 まあ、虐げてきた過去は変わらないので、贖罪を終えた後も窮屈な毎日が待っているだろうが、それも俺の知った事ではない。

『――ひっ!?』
『――や、やめ……ぎゃっ!!?』
『――だ、誰か助け……が……はっ!!?』

 ベヒモスの鞭による打撃を体に受け壁に激突していく元カースト上位の丘の巨人達。
 おそらく何が起こっているのか分かっていないのだろう。
 元カースト上位の丘の巨人達が鞭で打ちのめされていく姿を見て、カースト下位の丘の巨人達はポカンとした表情を浮かべる。

「――ゴミクズ領に蔓延るゴミクズ共の排除は終わったな……。まあ、あれだ。お前等みたいなゴミクズは幾らでも湧いて出てくる。その度に、叩き潰すのも面倒臭いから、お前等、ゴミクズはとりあえず、この領地から出て行ってくれ」

 ベヒモスにより一か所に集められたゴミクズ共を前にそう告げるも、聞いている者は誰一人としていない。すべて、ベヒモスにより気絶させられているからだ。

「……まったく。余計な手間を掛けさせるなよ。誰が気絶していいと言った? 今すぐ目を覚まさないと強制的に領から放り出すぞ?」

 しかし、誰も目を覚まさない。
 まるで屍の様だ。

「仕方がないな……」

 この地を治める新たな領主として、ゴミクズ共の掃除くらいしてやるか……。
 ゴミクズ共を放逐して野盗になられても困るしな。
 日本には臭い物に蓋をするという素晴らしい諺がある。
 今、壁に叩き付け気絶させた丘の巨人共は正しく丘の巨人の面汚しにしてゴミクズ。
 そして、今丁度、五つの太陽に照らされ灼熱地獄と化したゲスクズ領という名の焼却炉も完備されている。
 すべて俺が利用料を支払っている領土だ。
 ならゴミは焼却炉に捨てなきゃいけないよね。
 そうと決まれば話は早い。

「ベヒモス。ちょっとの間、このゴミクズ共をお願いできるかな?」

 ベヒモスに視線を向けそうお願いすると、ベヒモスは地面に手を付け、ゴミクズ共が入りそうな巨大な球体を作り上げる。
 そして、その中に、元カースト上位にいた丘の巨人を詰めると、出てこれないよう蓋をして転がし始めた。
 流石はベヒモス。ゴミクズ共の扱いをよく分かっている。
 しかし、困ったな……。
 一つの領を回っただけでこれか……。
 ゲスクズ領にウマシカ領。思い返して見ると、どの領にも霜の巨人に与する者がいた。

「大掃除が必要だな……」

 俺の領に怠け者と軋轢を生むようなゴミクズは必要ない。
 やはり、ゴミクズ共は焼却炉にぶち込んでおくに限る。ぶっちゃけ、それが一番手っ取り早い。

「よし。決めた……。少し面倒だが、すべての領の大掃除をするか」

 ゴミクズ共が大量発生するかもしれないが、これも領を治めるのに必要な作業。

「生憎俺はゴミを世話する趣味はないんでね」

 そう呟くと、俺は次の領へ向かった。

 ◆◇◆

『あ、暑い……苦しい。一体、いつまで閉じ込めておくつもりなのだ……』

 上を見れば、身を焦がす灼熱の太陽が五つ。
 地面は砂漠を通り越してマグマとなり、我が身を焼いている。

『我々はいつまで、この場に留まっておれば良いのだ……。もう一週間だぞ……!』

 皆がイライラするのも分かる。
 精霊は飲まず食わずでも生きていける。
 しかし、魔力の補給無くして生きていくのは難しい。
 魔力を含む食べ物やそれに類する物。
 その補給が無ければ、人間と同様に霜の巨人も死を迎える。

『煩いぞ……怒りは余計な体力を使う。もう喋るな。そんな事をしている暇があれば、知恵を働かせ、この場を乗り切る為の案を考えろ……』

 ゲスクズの言葉に、他の領主達は激怒する。

『被害者振るでないわ! 元はと言えば、貴様のせいだろうがぁぁぁぁ!』
『そうだ! 我々がこんな非道な目に遭っているのは全て貴様のせいだ!』
『貴様さえ我々をこの領地に誘わなければこんな事にはならなかった!』

 激昂する領主達を見てゲスクズはほくそ笑む。

『……ならばどうする。試しに私を殺してみるか? 貴様らにそれができるならやってみるがいい』

 ゲスクズがそう発破をかけると、剣呑な空気がその場に流れる。

『……やめておけ。体力の無駄だ。何より、今ここでゲスクズを殺せば、私達も終わる。ここまで生き永らえているのは、ペロペロザウルスの卵を食べ魔力を貯めていたゲスクズのお陰である事を忘れるな』

 ペロペロザウルスの卵には、豊富な魔力が含まれている。
 この場にいる霜の巨人全員が生きていられるのは、ゲスクズが貯めていた豊富な魔力があったからに他ならない。
 外野から援護射撃があった事に気を良くしたゲスクズは調子に乗って声を上げる。

『そうだ! ヘタレバカの言う通り、この私がいなければ、とうの昔にお前らは死んでいる。今、お前らが生きていられるのもすべて私のお陰だ。その事を忘れるなっ!』
 
 ゲスクズの言葉に青筋を浮かべる領主達。
 そんな領主達の顔を見てゲスクズは不満気な表情を浮かべる。

『……なんだその表情は? この私に助けて貰っている分際で何か文句があるのか? 別に私一人の為に力を使う事もできる。お前達を助けてやっているのは、あくまでも温情だ。不満があるなら別にいいんだぞ?』
『ぐっ!? き、貴様ぁぁぁぁ!!』

 ゲスクズに向かって声を上げると足下にヒビが入る。
 ゴミクズは『ひっ!?』と悲鳴を上げると、ゲスクズに視線を向けた。

『まったく……。立場が分かっていないようだな。私がその気になれば、お前ら全員を灼熱地獄に叩き出す事ができる。碌に魔力も提供できない分際で、その事を忘れるでないわ!』

 ゲスクズの言葉に不満気に押し黙る領主達。
 しかし、ゲスクズも静観している訳ではない。

 彼奴は必ずこの地に戻ってくる。
 次に会ったら目に物を見せてくれるわ……。

 流石のゲスクズもエレメンタルには敵わない。だからこそ、エレメンタルを使役するカケル張本人に狙いを定める。

 我々を殺す機会は多分にあった。
 しかし、殺さず封じ込める選択をしたという事は、奴に巨人を殺す度胸がないという事を端的に示している。

 モブフェンリルの皮を被っていようが、所詮は人間。この地を数百年に渡り統治してきた霜の巨人の敵ではない。

『くくくっ、次、私の目の前に姿を現した時……それがお前の最後だ……!』

 すると、ゲスクズの想定よりだいぶ早くその時が訪れる。

「……お前の最後? まさか、俺の事を言っているのか?」
『……っ!?』

 見上げると、ゲスクズの目に忌々しきモブフェンリルの姿が写る。
 ゲスクズが生み出した檻は、フィールド魔法『砂漠』の効果を受けぬようゲスクズが作り出した氷の檻。
 その外側にカケルがいる事を認識したゲスクズは檻の形状を槍に変え、攻撃する為、氷でできた槍を伸ばす。

『このクソモブフェンリルがぁぁぁぁ! 死ねぇぇぇぇ!』

 威勢よく吠えるゲスクズ。
 そんなゲスクズを嘲笑うかの様に檻の真横に地の上位精霊・ベヒモスが顕現すると、思い切り鞭を振りかぶる。

『ま、まさか……! や、やめろぉぉぉぉ!』

 自分達を守っていた氷の檻が壊されそうになり慌て叫ぶゲスクズ。
 他の領主達もベヒモスの出現に慌てふためき顔を引き攣らせる。

「やめろ? やめる訳がないだろ。今、お前何しようとした? 俺に攻撃を仕掛けようとしたよなぁ!? なら、反撃されても文句はねーよなぁ!? ベヒモスッ! 霜の巨人を守るその檻をぶっ壊せ!」
『『『や、やめろぉぉぉぉ!!』』』

 しなる鞭。
 ベヒモスが思い切り力を込め、檻に鞭を打ち付けると、氷でできた檻にヒビが入り、霜の巨人達の自重により容易く崩壊していく。

『ぎゃああああっ!?』
『あ、熱い! 熱いぃぃぃぃ!』
『誰か! 誰でもいい! 誰か助けてくれぇぇぇぇ!』

 自分達を守っていた氷の檻が壊れた事で、再び灼熱の太陽に焼かれる事になった霜の巨人達は絶叫を上げ、誰彼構わず助けを求める。

「――そんなに助けて欲しいなら、助けてやってもいいぞ。ほら、助けて欲しい奴はその首輪を嵌めろ」

 防熱防寒効果のあるモブフェンリルスーツを装備した俺は、アイテムストレージから隷属の首輪を取り出すと、灼熱の太陽に焼かれのたうち回る霜の巨人達の目の前に放った。
 隷属の首輪を見て呆然とした表情を浮かべる霜の巨人。

『――ま、まさか、この首輪を付けろとでもいうつもりか?』
『ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! 高々、人間の分際でこの私達に指図をするだとぉぉぉぉ!?』

 ふざけてなどいない。至って大真面目に言っている。
 しかし、太陽に焼かれているというのに我慢強い奴等だ。さっきまで助けてとほざいていたのに嘘の様である。

「何を言うかと思えば……別に強制している訳じゃない。これは温情だ。助かりたい奴だけ首輪を付けろ。そのまま溶けて無くなりたい奴は好きにしたらいい」

 そう冷たく突き放すと、霜の巨人達は滝のような汗を流しながら隷属の首輪を凝視する。
 隷属の首輪を嵌めたが最後、逆らう事ができなくなる。だからこそ、隷属の首輪を嵌める事を躊躇しているのだろう。
 その判断は大正解だ。
 何故なら、その隷属の首輪は呪われている。
 そして、その呪いは解呪不能。

 隷属の首輪に付いている呪いは、絶対遵守の呪い。
 一度嵌めたら最後、隷属の首輪の持ち主の言う事を絶対に遵守しなければならない解呪不能な呪い。
 しかも、隷属の首輪を付けるかどうか迷っている内に隷属の首輪に熱が伝わり真っ赤に熱されている。首に嵌めた瞬間、二重の意味で痛い目を見る事が確定している呪いの首輪だ。

「さあ、どうした? 隷属の首輪を付けるのか付けねーのか、さっさと決めろ」

 そう告げると、大半の霜の巨人が固唾を飲む中、その内、一人が隷属の首輪に手を伸ばした。

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 次の更新は、4月18日(木)AM7時となります。
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