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第328話 ヨトゥンヘイム③
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いやぁ……油断した、油断した……。
霜の巨人は、超人的な強さを持つ精霊寄りの巨人。
氷に属する魔法を使うだろうとは想像していたが、まさか、いきなり攻撃を仕掛けてくるとは……。
握り潰した上、投げ付けられ唾まで吐かれるとは思いもしなかった。
しかし、一週間飯抜きか……俺を庇ってくれた丘の巨人には悪い事をしたな。
ああ、俺?
何で、握り潰されて無事なのかって?
いや、無事じゃないよ??
ヘルと契約を交わしていなければ、まあ違いなく死んでいた。
今、生きていられるのも、ヘルが圧死するのを防いでいてくれていたからに他ならない。
投げられた時も、丘の巨人が極力ダメージが入らない受け方でキャッチをしてくれたから、そこまでダメージを受けずに済んだだけだ。
まあ、吐き捨てられた唾を避ける事はできなかったけど……。
アイテムストレージから上級回復薬を取り出し、一気飲みすると、俺は壁を睨み付ける。
この十数分の間で、面白い位、状況が理解できた。
どうやら、丘の巨人は霜の巨人と隷属関係にあるようだ。
どこぞのドワーフやダークエルフと同じ。
人を奴隷扱いし、労働搾取する。
俺は嫌いだね……。そういうのが大嫌い。
つまり、あいつは晴れて俺の敵になった訳だ。
とはいえ、相手は霜の巨人。wiki情報によれば、超人的な強さを持つ精霊寄りの巨人……。
巨大な人型エレメンタルといっても差支えはない。
『――お、おい。大丈夫か?』
心配そうな表情を浮かべる丘の巨人に俺は問題ないと手を振りアピールする。
「ああ、しかし、申し訳ない。俺を庇ったお陰で一週間、飯抜きにさせられるだなんて……」
しかも、連帯責任で飯抜きの罰を課すとは、なんという悪辣……。
連帯責任は自分一人のミスを、ミスとは関係の無い仲間や友達を巻き込み責任を取らせる事で、通常より強くメンタルに負荷をかける責任のとらせ方。
前時代的なコーチングをしているクラブや部活のコーチにありがちな責任の取らせ方だ。
理不尽なペナルティは、連帯責任の原因を作り出した者への不平や不満を募らせる。
そして、その不平や不満はいつしか苛立ちや怒りに変化し、足を引っ張る者に対する暴力や無視などのいじめに繋がっていく。
霜の巨人からしたら、都合の良いサンドバッグを作り出した位にしか考えていないのだろう。
ストレスの吐け口が仲間内にいる間は、霜の巨人に対する不満を逸らす事ができるからな……。
だが、甘い。考えが余りに甘過ぎる。
させねぇよ? そんな事……。
幸いな事に俺には、それを何とかする力もエレメンタル達も付いている。
カエルを握り潰し、放り投げた位にしか思ってないだろ?
お前からすれば、三歩歩けば忘れてしまう程度のどうでもいい記憶だ。
でもな、それをやられた張本人は忘れない。
握り潰しされ、投げ捨てられ、唾を吐き捨てられた屈辱は忘れねーんだよ。
よくもやってくれたな……。
教えてやるよ。知らず知らずの内に、誰を敵に回したのかを……!
俺には、エレメンタルが付いているし、ヘルヘイムの王、ヘルへの願いも残されている。
手をついて詫びる程度では駄目だ。
握り潰し、放り投げ、唾を吐き捨てられて対等。そこが俺の気の収まる最低ライン。
なお、怒りは時間の経過と共に大きくなる。
とはいえ、まずはアレだ。
丘の巨人達の食事を用意しなくてはならない。
元々、それは丘の巨人が俺を庇ってくれた事により発生した罰だからな……。
俺が不用意に話しかけなければ、丘の巨人が罰せられる事もなかった。
「心配しないでくれ。一週間分の食料は俺が必ず用意する。こいつを置いていくから、それまでこれで飢えを凌いでくれ」
大量の水、そして、アイテムストレージの肥やしとなっていたマルチイベント限定アイテム、血の滴る肉を積み上げると、隠密マントを羽織り、エレメンタルの力を借りて壁の上に立つ。
俺の事を握り潰し、放り投げ、挙げ句の果てに唾を吐き掛けた愚か者よ。今、逢いに行く。
笑っていられるのも今の内だ。
今という名の平穏な日常を存分に楽しんでおけ……そして、相対した時には……。
それがお前の最後だよ。
「生肉をそのまま食べると腹を壊すからな、ちゃんと焼いて食べろよ」
丘の巨人にそう告げると、俺は壁の内側に足を踏み入れた。
◇◆◇
ここは、壁の内側。
ヨトゥンヘイムの主要都市、ウートガルズからかなり離れた場所にある壁の建設現場。
壁から少し離れた場所には、丘の巨人の寝泊まり用テントが張られ、近くに寄るとすえた臭いが漂ってくる。
『――ふんっ! 相変わらずここ臭いな、臭くて臭くて鼻が曲がりそうだ。反吐が出る。おい! 誰かいないか! 給仕係、早く出てこい!』
この辺り一帯の領主である霜の巨人、ゲスクズは、丘の巨人達に配給する予定の食料庫に足を踏み入れると、給仕係を呼び付ける。
『は、はい……』
ゲスクズの癇癪は日常茶飯事。
癇癪を上げる度に無茶な要求をされる。
しかし、相手は霜の巨人。図体がデカイだけの丘の巨人では太刀打ちできない相手。
今度はどんな無茶難題を吹っかける気なんだと、憔悴の面持ちを浮かべ霜の巨人、ゲスクズの前に出る。
『遅い! お前のお陰で時を無駄にしたではないか! 連帯責任だな、外の奴が仕事をサボっていた罰に加算して、私の時を無駄にした罰を併せ、丘の巨人全員、十日間、飯抜きとする!』
霜の巨人は、精霊寄りの巨人。嗜好品程度に食事を摂るが、別に食事を摂らなくても活動できる。しかし、丘の巨人は違う。
『――と、十日間、飯抜きですか!?』
外で働く巨人達も何かしたのだろうが、少し出てくるのが遅かったという理由で十日間も飯を抜かれたら死んでしまう。
驚愕の表情を浮かべていると、それを見て気を良くした霜の巨人、ゲスクズが食料庫に保管してある食料の前に立つ。
『ああ、十日間飯抜きだ。どうしても飯を食いたければ、仕事終わりにでも雪山に籠って狩りでもするんだな!』
ゲスクズはそう言うと、積み上げられた食料に手を翳し、食料を凍り付かせていく。
そして、貯水槽に手を翳し、食料だけではなく水をも凍り付かせると高笑いを上げた。
『ふはははははははっ! 別にこれを解凍して食べてくれてもいいぞ? まあ、お前等、丘の巨人じゃ無理だろうがなぁ! ああ、私は優しいから一つだけ食えるものを教えてやろう』
そう言うと、ゲスクズは外に出て地面に視線を向ける。
『地面の中には、土壌を綺麗にしてくれるワームが唸るほど、存在している。石の裏にもいるかもしれん。まあ、高々、十日の辛抱だ。ワームでも食べて飢えを凌ぐがいい。先ほども言ったが、もし、その氷に閉じ込められた食料を取り出す事ができるなら食べてくれても構わないぞ? まあ、無理だろうがなぁ! ふははははははっ!!』
『そ、そんなぁ……』
愕然とした表情を浮かべ肩を落とす丘の巨人に、ゲスクズは笑いかける様に言う。
『ああ、わかっているとは思うが仕事はサボるなよ? 特に、ペロペロザウルスの飼育は手を抜くな。腹が減っているからといって、ペロペロザウルスの餌に手を出したら承知しないからな! 何せ、ペロペロザウルスの飼育に成功したのはこの世界でここだけなのだから……』
そう言うと、ゲスクズは満足そうな表情を浮かべ宿舎へと帰っていく。
「へぇ……、ペロペロザウルスの飼育もしているの。そいつは良い事を聞いた」
霜の巨人、ゲスクズの下衆でクズなやり取りを見ていた俺は、ニヤリと笑う。
ペロペロザウルスの卵は、エレメンタル達の大好物。
セントラル王国にある俺の飼育場では、ペロペロザウルスの飼育に成功し、卵の安定供給ができるまでとなっている。
ならば、この俺がそのペロペロザウルスの飼育場とやらを確認してやるよ。
ありがたいと思えよな、ゲスクズ。
さて、その前に……。
「……丘の巨人達の食料を確保しておくか」
目の前には、ゲスクズにより凍らされた丘の巨人達の食料が積み上げられている。
どうやら、丘の巨人達の主食はパンの様だ。
巨大な野菜もあるが、圧倒的にタンパク質が足りてない。
タンパク質は体作りに必要な栄養素。
タンパク質が不足すると、筋肉内のタンパク質がエネルギー源として使われ筋肉量や筋肉の低下に繋がる。
しかし、なるほど、丘の巨人達がひ弱に見えたのはそういう事か……。
タンパク質が不足すると、運動機能や肺活量も低下する。
もしかしたら、この食事には、丘の巨人の反意を削る意味もあるのかも知れない。
壁建設の為に必要最低限の食料を提供し、体力が有り余っている様であれば食事量を減らし、体力を消耗させる。実によく考えられた手法だ。
まあ、俺が丘の巨人側に付いた以上、もうそんな手段は使わせないけど。
アイテムストレージに、凍った食料を格納すると、突然、食料が無くなった事に驚いた給仕係が『へっ?』と素っ頓狂な声を上げる。
霜の巨人、ゲスクズは『もし、その氷に閉じ込められた食料を取り出す事ができるなら食べてくれても構わない』と言っていた。
この給仕係には無理でも、エレメンタルが付いている俺なら、この氷を解かす事ができる。
問題はこの氷が燃えるかどうかだ。
氷が燃えるという時点で意味不明だが、ヨトゥンヘイムに転移してすぐの雪山で、火の上位精霊・フェニックスが方向を指し示す為に火を噴いただけで氷や雪に火が付いた。
どんな原理でそうなるのかは分からない。まあ、それでも俺には秘策があるけどな。
ようは火を使わなければいいのだ。
配給係の事を考え、この場で解凍してやってもいいが、ここら一帯の建設現場は霜の巨人・ゲスクズが担当していると聞く。
ならば、この場で解凍してやっても、難癖を付けられ取り上げられるのが関の山。
だったら、俺が手中に収め、一日三食定期的に食事を配ってやった方がいい。
さて、丘の巨人に配給する食料は手に入れた。
次に向かうはペロペロザウルスの飼育場だな。
くくくっ、霜の巨人。ゲスクズよ。
お前の手札を一枚一枚奪い取ってやる。
後悔しても、もう遅い。図体のデカい者が力を持っている訳ではない事を教えてやるよ。
霜の巨人は、超人的な強さを持つ精霊寄りの巨人。
氷に属する魔法を使うだろうとは想像していたが、まさか、いきなり攻撃を仕掛けてくるとは……。
握り潰した上、投げ付けられ唾まで吐かれるとは思いもしなかった。
しかし、一週間飯抜きか……俺を庇ってくれた丘の巨人には悪い事をしたな。
ああ、俺?
何で、握り潰されて無事なのかって?
いや、無事じゃないよ??
ヘルと契約を交わしていなければ、まあ違いなく死んでいた。
今、生きていられるのも、ヘルが圧死するのを防いでいてくれていたからに他ならない。
投げられた時も、丘の巨人が極力ダメージが入らない受け方でキャッチをしてくれたから、そこまでダメージを受けずに済んだだけだ。
まあ、吐き捨てられた唾を避ける事はできなかったけど……。
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どうやら、丘の巨人は霜の巨人と隷属関係にあるようだ。
どこぞのドワーフやダークエルフと同じ。
人を奴隷扱いし、労働搾取する。
俺は嫌いだね……。そういうのが大嫌い。
つまり、あいつは晴れて俺の敵になった訳だ。
とはいえ、相手は霜の巨人。wiki情報によれば、超人的な強さを持つ精霊寄りの巨人……。
巨大な人型エレメンタルといっても差支えはない。
『――お、おい。大丈夫か?』
心配そうな表情を浮かべる丘の巨人に俺は問題ないと手を振りアピールする。
「ああ、しかし、申し訳ない。俺を庇ったお陰で一週間、飯抜きにさせられるだなんて……」
しかも、連帯責任で飯抜きの罰を課すとは、なんという悪辣……。
連帯責任は自分一人のミスを、ミスとは関係の無い仲間や友達を巻き込み責任を取らせる事で、通常より強くメンタルに負荷をかける責任のとらせ方。
前時代的なコーチングをしているクラブや部活のコーチにありがちな責任の取らせ方だ。
理不尽なペナルティは、連帯責任の原因を作り出した者への不平や不満を募らせる。
そして、その不平や不満はいつしか苛立ちや怒りに変化し、足を引っ張る者に対する暴力や無視などのいじめに繋がっていく。
霜の巨人からしたら、都合の良いサンドバッグを作り出した位にしか考えていないのだろう。
ストレスの吐け口が仲間内にいる間は、霜の巨人に対する不満を逸らす事ができるからな……。
だが、甘い。考えが余りに甘過ぎる。
させねぇよ? そんな事……。
幸いな事に俺には、それを何とかする力もエレメンタル達も付いている。
カエルを握り潰し、放り投げた位にしか思ってないだろ?
お前からすれば、三歩歩けば忘れてしまう程度のどうでもいい記憶だ。
でもな、それをやられた張本人は忘れない。
握り潰しされ、投げ捨てられ、唾を吐き捨てられた屈辱は忘れねーんだよ。
よくもやってくれたな……。
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俺には、エレメンタルが付いているし、ヘルヘイムの王、ヘルへの願いも残されている。
手をついて詫びる程度では駄目だ。
握り潰し、放り投げ、唾を吐き捨てられて対等。そこが俺の気の収まる最低ライン。
なお、怒りは時間の経過と共に大きくなる。
とはいえ、まずはアレだ。
丘の巨人達の食事を用意しなくてはならない。
元々、それは丘の巨人が俺を庇ってくれた事により発生した罰だからな……。
俺が不用意に話しかけなければ、丘の巨人が罰せられる事もなかった。
「心配しないでくれ。一週間分の食料は俺が必ず用意する。こいつを置いていくから、それまでこれで飢えを凌いでくれ」
大量の水、そして、アイテムストレージの肥やしとなっていたマルチイベント限定アイテム、血の滴る肉を積み上げると、隠密マントを羽織り、エレメンタルの力を借りて壁の上に立つ。
俺の事を握り潰し、放り投げ、挙げ句の果てに唾を吐き掛けた愚か者よ。今、逢いに行く。
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それがお前の最後だよ。
「生肉をそのまま食べると腹を壊すからな、ちゃんと焼いて食べろよ」
丘の巨人にそう告げると、俺は壁の内側に足を踏み入れた。
◇◆◇
ここは、壁の内側。
ヨトゥンヘイムの主要都市、ウートガルズからかなり離れた場所にある壁の建設現場。
壁から少し離れた場所には、丘の巨人の寝泊まり用テントが張られ、近くに寄るとすえた臭いが漂ってくる。
『――ふんっ! 相変わらずここ臭いな、臭くて臭くて鼻が曲がりそうだ。反吐が出る。おい! 誰かいないか! 給仕係、早く出てこい!』
この辺り一帯の領主である霜の巨人、ゲスクズは、丘の巨人達に配給する予定の食料庫に足を踏み入れると、給仕係を呼び付ける。
『は、はい……』
ゲスクズの癇癪は日常茶飯事。
癇癪を上げる度に無茶な要求をされる。
しかし、相手は霜の巨人。図体がデカイだけの丘の巨人では太刀打ちできない相手。
今度はどんな無茶難題を吹っかける気なんだと、憔悴の面持ちを浮かべ霜の巨人、ゲスクズの前に出る。
『遅い! お前のお陰で時を無駄にしたではないか! 連帯責任だな、外の奴が仕事をサボっていた罰に加算して、私の時を無駄にした罰を併せ、丘の巨人全員、十日間、飯抜きとする!』
霜の巨人は、精霊寄りの巨人。嗜好品程度に食事を摂るが、別に食事を摂らなくても活動できる。しかし、丘の巨人は違う。
『――と、十日間、飯抜きですか!?』
外で働く巨人達も何かしたのだろうが、少し出てくるのが遅かったという理由で十日間も飯を抜かれたら死んでしまう。
驚愕の表情を浮かべていると、それを見て気を良くした霜の巨人、ゲスクズが食料庫に保管してある食料の前に立つ。
『ああ、十日間飯抜きだ。どうしても飯を食いたければ、仕事終わりにでも雪山に籠って狩りでもするんだな!』
ゲスクズはそう言うと、積み上げられた食料に手を翳し、食料を凍り付かせていく。
そして、貯水槽に手を翳し、食料だけではなく水をも凍り付かせると高笑いを上げた。
『ふはははははははっ! 別にこれを解凍して食べてくれてもいいぞ? まあ、お前等、丘の巨人じゃ無理だろうがなぁ! ああ、私は優しいから一つだけ食えるものを教えてやろう』
そう言うと、ゲスクズは外に出て地面に視線を向ける。
『地面の中には、土壌を綺麗にしてくれるワームが唸るほど、存在している。石の裏にもいるかもしれん。まあ、高々、十日の辛抱だ。ワームでも食べて飢えを凌ぐがいい。先ほども言ったが、もし、その氷に閉じ込められた食料を取り出す事ができるなら食べてくれても構わないぞ? まあ、無理だろうがなぁ! ふははははははっ!!』
『そ、そんなぁ……』
愕然とした表情を浮かべ肩を落とす丘の巨人に、ゲスクズは笑いかける様に言う。
『ああ、わかっているとは思うが仕事はサボるなよ? 特に、ペロペロザウルスの飼育は手を抜くな。腹が減っているからといって、ペロペロザウルスの餌に手を出したら承知しないからな! 何せ、ペロペロザウルスの飼育に成功したのはこの世界でここだけなのだから……』
そう言うと、ゲスクズは満足そうな表情を浮かべ宿舎へと帰っていく。
「へぇ……、ペロペロザウルスの飼育もしているの。そいつは良い事を聞いた」
霜の巨人、ゲスクズの下衆でクズなやり取りを見ていた俺は、ニヤリと笑う。
ペロペロザウルスの卵は、エレメンタル達の大好物。
セントラル王国にある俺の飼育場では、ペロペロザウルスの飼育に成功し、卵の安定供給ができるまでとなっている。
ならば、この俺がそのペロペロザウルスの飼育場とやらを確認してやるよ。
ありがたいと思えよな、ゲスクズ。
さて、その前に……。
「……丘の巨人達の食料を確保しておくか」
目の前には、ゲスクズにより凍らされた丘の巨人達の食料が積み上げられている。
どうやら、丘の巨人達の主食はパンの様だ。
巨大な野菜もあるが、圧倒的にタンパク質が足りてない。
タンパク質は体作りに必要な栄養素。
タンパク質が不足すると、筋肉内のタンパク質がエネルギー源として使われ筋肉量や筋肉の低下に繋がる。
しかし、なるほど、丘の巨人達がひ弱に見えたのはそういう事か……。
タンパク質が不足すると、運動機能や肺活量も低下する。
もしかしたら、この食事には、丘の巨人の反意を削る意味もあるのかも知れない。
壁建設の為に必要最低限の食料を提供し、体力が有り余っている様であれば食事量を減らし、体力を消耗させる。実によく考えられた手法だ。
まあ、俺が丘の巨人側に付いた以上、もうそんな手段は使わせないけど。
アイテムストレージに、凍った食料を格納すると、突然、食料が無くなった事に驚いた給仕係が『へっ?』と素っ頓狂な声を上げる。
霜の巨人、ゲスクズは『もし、その氷に閉じ込められた食料を取り出す事ができるなら食べてくれても構わない』と言っていた。
この給仕係には無理でも、エレメンタルが付いている俺なら、この氷を解かす事ができる。
問題はこの氷が燃えるかどうかだ。
氷が燃えるという時点で意味不明だが、ヨトゥンヘイムに転移してすぐの雪山で、火の上位精霊・フェニックスが方向を指し示す為に火を噴いただけで氷や雪に火が付いた。
どんな原理でそうなるのかは分からない。まあ、それでも俺には秘策があるけどな。
ようは火を使わなければいいのだ。
配給係の事を考え、この場で解凍してやってもいいが、ここら一帯の建設現場は霜の巨人・ゲスクズが担当していると聞く。
ならば、この場で解凍してやっても、難癖を付けられ取り上げられるのが関の山。
だったら、俺が手中に収め、一日三食定期的に食事を配ってやった方がいい。
さて、丘の巨人に配給する食料は手に入れた。
次に向かうはペロペロザウルスの飼育場だな。
くくくっ、霜の巨人。ゲスクズよ。
お前の手札を一枚一枚奪い取ってやる。
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