321 / 384
第321話 今後の対応
しおりを挟む
お前みたいな人間性の奴が沢山存在する世界ってなんだ。お前みたいな人間性の奴が沢山存在する世界って……誹謗中傷も大概にしろよ。
どう考えても今、悪い意味合いで発言したよな?
悪い意味合いで発言したよなぁ!
背負投げで地面に背中から叩き付けられ悶絶する元族長ドワーフを睨み付けながら言う。
「――おい、クソ爺。あの穴塞ぐ方法があるのか、ねーのか。『イエス』か『ノー』で答えろ。もしそれ以外の発言をしたら、お前の髭を毟るぞ……」
サンタクロースみたいな髭面と体型しやがって、サンタクロースのイメージが崩れるだろ。
そう告げると、元族長ドワーフは咳き込みながら、『ノー』と呟く。
『――「ノー」だ。ある訳なかろう。そんなもの……!』
「そうか……」
まあ、何となくそうだろうなとは思っていた。
恐らく、空に開いたあの穴は、本来、ヨルムンガルド討伐と共に消えるもの。
ゲーム世界から消えた事でヨルムンガルド討伐判定され、新しい世界が開かれた訳だが、そのヨルムンガルドがあちら側の世界に落ちてしまった為、穴が開きっぱなしになっている。そう考えるのが自然な所だ。
「それならアレだな……お前達はダークエルフと協力して、あの穴の警備に務めろ。何一つとして、向こう側の世界からやってくるものを通すな」
空に開いたあの穴から最初にやってくるのは、偵察用のドローンといった所だろうか。
もし、そんな物があの穴を通りこちら側に来て、穴の中には未知な世界が広がっているという事実を知られても困る。
まあ、世界樹自体が向こう側の世界にも出現しているし、『ああああ』達も捕まっているので、時間の問題かもしれないが、通れる穴があると認識すれば、奴等はまず間違いなく、こちら側の世界に乗り込んでくるだろう。
『え、だが……しかし……』
「あっ? だがしかし? 文句でもあるのか?」
そう告げると、元族長ドワーフはがっくりとした表情を浮かべる。
『いえ、ありません……』
「そうか。それならいいんだ。言っておくが、こちら側の世界にやってくる奴はまず間違いなく武装してやってくる。そして、お前等、ドワーフやダークエルフを見つけたら確実に接触を図ってくるだろう。もし捕らえられたら研究対象として解剖される可能性もあるから十分、注意しろよ」
あっちの世界の人権がこっちの世界の住民に適用されるか分からない。
ダークエルフやドワーフの存在が複数確認されれば、高い確率で捕獲される。研究体が生きているのは色々、厄介だからな。
まず間違いないだろう。
そう告げると、元族長ドワーフは驚愕といった表情を浮かべる。
『お、恐ろしい。そんな野蛮な奴等が住む世界と繋がっているのか……?』
「いや、人の事を奴隷扱いするお前達も十分、野蛮だからな?」
なに、他人事みたいに言っているんだ?
意味が分からん。
思わずそう呟くと、元族長ドワーフは聞き捨てならない事を言う。
『お、お前もワシ等の事を奴隷扱いしとるだろ……』
それが何か?
奴隷にしようと攻撃を仕掛けてきたから撃退し、自分達が如何に酷い事をしているか身を以て理解させる為に奴隷化した。そこに何の問題がある。
「だから、なんだ? 俺のは正当防衛だろ、お前達と一緒にするな」
そう告げると、元族長ドワーフは唖然とした表情を浮かべる。
『な、なっ……』
「話は終わりだな。現状を確認したし、もう俺は行くから」
新しい世界は気になるが、今は『ああああ』達の動向を探る方が先だ。
何だかんだ言ったものの、こいつ等はそれなりに強い。先遣隊位であれば、返り討ちにできるだろう。
『ま、待てっ! どこへ行く!』
「どこへって……帰るんだよ。元々、様子を見に来ただけだし……ああ、そうだ」
近い将来、北極の駐留軍が先遣隊を派遣してくるのはほぼ確定している。工作の一つでもしておくか……。
「一つだけ頼みたい事があった……」
まあ意味ないかも知れないが、幸いな事に空に開いた穴の近くにドワーフの地下集落がある。ダークエルフの国は世界樹の根本。ドローンが最大で二時間弱の飛行が可能だとしても、そこまでたどり着けるとは思えない。
「地下集落の上にでも、質素な集落を作っておいてくれ。こんな感じの奴をさ……」
この辺り一帯、爆撃されて真っ新になったし丁度いいだろ?
そう言うと俺は地面に石でできた建物を描く。
地面に描いた絵をまじまじと見つめ首を傾げる元族長ドワーフ。
『……こんなものでいいのか?』
「ああ、出来ればでいい。建物の近くに畑や井戸なんかも一緒に作っておいてくれ。何人かはそこに住み、空に開いた穴から何かが入り込んできた時に対処できるようにしてくれると助かる」
石材を使った古代ローマの建築様式。歴史を少しでもかじっている奴がいればいい感じに誤認してくれる筈だ。
この世界の文明はこの位なのかなってさ。
木材や藁を使った日本の建築様式でもいいが、ファンタジーに満ちた世界で日本様式は違和感がある。
「――ちなみに言っておくが、これはお前達を異世界からの侵略から護る為に必要な事だ。手を抜くなよ。その分、納めるレアメタルの量は減らしてやる」
これで元族長としての矜持も少しは保たれるだろう。
何せ、俺から譲歩を引き出したのだからな。
『――今の発言は本当か?』
俺の発言を聞き、元族長ドワーフは信じられない者でも見るかの様な視線を浮かべる。
疑り深い奴だ。
「ああ、本当だ」
お前等を護る事は、俺の利益を護る事に繋がる。北極の駐在軍が侵攻してくる可能性が少しでもある以上、万全を尽くすのみ。
『――分かった。ワシに任せておけ!』
そう言うと、元族長ドワーフは意気揚々と地下集落に向かっていく。
「さて……」
現状は何となくだが把握した。
北極の動向はニュースで確認しつつ、エレメンタルには申し訳ないが、現地調査に行って貰うか……。
「エレメンタル……悪いけど、『ああああ』達を捕らえた北極の駐留軍の動向を探ってくれ」
そう言って数体のエレメンタルを放つと、エレメンタル達は空に開いた穴を通り『ああああ』達が捕らえられている北極の駐留軍の下に向かっていく。
「俺も一度、ログアウトするか……」
こう見えて俺も忙しい。
新しい世界の事は気になるが、東京都によるアース・ブリッジ協会の事業仕分け対応も重要だ。
事業仕分けとは、過去に政府が実施した事業評価の手法の一つ。
仕分け人がその事業が必要か否かを判断し、無駄を省こうというものだ。
既に、東京都からは事業シートの記載を求められている。
北極の駐留軍の動きや『ああああ』達の事は気になるが、それはそれ。一旦、後回しだ。
そう呟くと、俺はゲーム世界からログアウトする事にした。
◆◇◆
その頃、北極駐留の軍事施設は、巨大な毒蛇、ヨルムンガルド突然の出現により大混乱に陥っていた。
『な、なんなんだ、あれは……』
駐留軍の兵士一人が双眼鏡でヨルムンガルドを見ながら呟く。
『まるで怪獣ではないか…』
北極にあった数十の軍事拠点の大半はヨルムンガルド出現により大混乱に陥っている。
壊滅状態とはいかぬものの、軍事拠点の間を縫う様にヨルムンガルドの尾や胴体がある為、迂闊に爆撃できぬ状況だ。
『ぐっ、化け物め……!』
我々は偶々、砕氷艦に乗船していたから無事だった。
突如として空から現れたあの化け物はなんだ!?
見た所、巨大な蛇に見えるが、蛇の割に寒さに強い……のか?
今でこそ氷の上で活動を停止しているが、先ほどまでは、北極海を縦横無尽に泳ぎ回り、出来たばかりの飛行場や貴重な大型軍用車両を壊して回っていた。
爬虫類の様に寒さに弱いと見るのは危険だ。
『司令官。あの者達はいかが致しましょう?』
『……うん? ああ、あいつ等か』
一応、詳しい事情を知っているであろう、あの大蛇と共に空から降ってきた日本人と思わしき人間達を捕らえた。
今は緊急事態の為、見張り付きで倉庫の一角に押し込めてあるが……。
『情報を引き出せ。多少手荒になっても構わん。今は少しでも情報が欲しい』
『はっ!』
そう命令すると、一兵卒は『ああああ』達の閉じ込められている倉庫に向かっていく。
北極に現れた大蛇。
観測物に突如として開いた穴。
その穴の中から現れた日本人と思わしき人間達……。分からない事だらけだ。
まずは、尋問して見ない事には何も始まらない。
『有益な情報を持っていてくれれば良いのだが……』
そう呟くと、司令官はため息を吐きながら、ヨルムンガルドに視線を向けた。
◇◆◇
「な、何だ……このデタラメな決算書類は……」
東京都が行う事業仕分けに備える為、公益財団法人アース・ブリッジ協会に戻ってきた俺こと高橋翔は、国や東京都から補助金や助成金を受け取るにあたり提出していた過去、数年分の財務諸表を見て愕然とした表情を浮かべる。
「適当やってるなとは思っていたが、まさかここまでとは……」
こんな杜撰な会計しか……いや、補助金や助成金を得る為、意図的にやってんのか?
公益財団法人でこれとか、NPOや一般社団法人を含むすべての公益法人に会計検査院による調査が入って欲しいレベルで杜撰だ。
これで、補助金や助成金を得たり、第三者機関からの認証を受け環境ラベルを添付させる取り組みをしているとか意味が分からん。
やはり、公金の入っている公益法人は一度、すべてを潰した方がいい気がしてきた。
こんなのに血税が注入されているなんて、マトモな納税者からしたら発狂レベルだ。
しかし、やはり現地で行う調査は違うな。
アース・ブリッジ協会の財務諸表が適当な事は、エレメンタルによる調査である程度分かっていたが、それ以上に杜撰とは……。
掘れば掘るほど不正や改ざんの証拠が出てくるな……。
長谷川よぉ……お前、もうちょっとしっかりしろよ。
公益財団法人って、どんなことをする法人なのかちゃんと理解しているか?
「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づいて設立された「公益事業を行う法人」だぞ?
都知事にどれだけの献金して公益認定貰ったかは知らないが雑過ぎるだろ。
何だか、頭が痛くなってきた。
既に、汚職理事や評議員は解任したし、奴等が汚職により手にした金は一部を除き返還されている。これなら、まあ公益認定が取り消される事はギリギリないだろう。
まあ、最悪、公益認定を外されても問題ないか……って、うん?
何だか外が騒がしいな……。
ふらっと立ち上がり窓の外に視線を向ける。
すると、そこには、自撮り棒を持ち「公金チューチュー」と叫ぶ男達の姿があった。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、1月1日(月)AM7時となります。
今年は大変お世話になりました。
来年は、または来年も、皆様にとって良い年でありますように。
願わくば来年は、ネタが豊富ながら良い一年になりますように。
どう考えても今、悪い意味合いで発言したよな?
悪い意味合いで発言したよなぁ!
背負投げで地面に背中から叩き付けられ悶絶する元族長ドワーフを睨み付けながら言う。
「――おい、クソ爺。あの穴塞ぐ方法があるのか、ねーのか。『イエス』か『ノー』で答えろ。もしそれ以外の発言をしたら、お前の髭を毟るぞ……」
サンタクロースみたいな髭面と体型しやがって、サンタクロースのイメージが崩れるだろ。
そう告げると、元族長ドワーフは咳き込みながら、『ノー』と呟く。
『――「ノー」だ。ある訳なかろう。そんなもの……!』
「そうか……」
まあ、何となくそうだろうなとは思っていた。
恐らく、空に開いたあの穴は、本来、ヨルムンガルド討伐と共に消えるもの。
ゲーム世界から消えた事でヨルムンガルド討伐判定され、新しい世界が開かれた訳だが、そのヨルムンガルドがあちら側の世界に落ちてしまった為、穴が開きっぱなしになっている。そう考えるのが自然な所だ。
「それならアレだな……お前達はダークエルフと協力して、あの穴の警備に務めろ。何一つとして、向こう側の世界からやってくるものを通すな」
空に開いたあの穴から最初にやってくるのは、偵察用のドローンといった所だろうか。
もし、そんな物があの穴を通りこちら側に来て、穴の中には未知な世界が広がっているという事実を知られても困る。
まあ、世界樹自体が向こう側の世界にも出現しているし、『ああああ』達も捕まっているので、時間の問題かもしれないが、通れる穴があると認識すれば、奴等はまず間違いなく、こちら側の世界に乗り込んでくるだろう。
『え、だが……しかし……』
「あっ? だがしかし? 文句でもあるのか?」
そう告げると、元族長ドワーフはがっくりとした表情を浮かべる。
『いえ、ありません……』
「そうか。それならいいんだ。言っておくが、こちら側の世界にやってくる奴はまず間違いなく武装してやってくる。そして、お前等、ドワーフやダークエルフを見つけたら確実に接触を図ってくるだろう。もし捕らえられたら研究対象として解剖される可能性もあるから十分、注意しろよ」
あっちの世界の人権がこっちの世界の住民に適用されるか分からない。
ダークエルフやドワーフの存在が複数確認されれば、高い確率で捕獲される。研究体が生きているのは色々、厄介だからな。
まず間違いないだろう。
そう告げると、元族長ドワーフは驚愕といった表情を浮かべる。
『お、恐ろしい。そんな野蛮な奴等が住む世界と繋がっているのか……?』
「いや、人の事を奴隷扱いするお前達も十分、野蛮だからな?」
なに、他人事みたいに言っているんだ?
意味が分からん。
思わずそう呟くと、元族長ドワーフは聞き捨てならない事を言う。
『お、お前もワシ等の事を奴隷扱いしとるだろ……』
それが何か?
奴隷にしようと攻撃を仕掛けてきたから撃退し、自分達が如何に酷い事をしているか身を以て理解させる為に奴隷化した。そこに何の問題がある。
「だから、なんだ? 俺のは正当防衛だろ、お前達と一緒にするな」
そう告げると、元族長ドワーフは唖然とした表情を浮かべる。
『な、なっ……』
「話は終わりだな。現状を確認したし、もう俺は行くから」
新しい世界は気になるが、今は『ああああ』達の動向を探る方が先だ。
何だかんだ言ったものの、こいつ等はそれなりに強い。先遣隊位であれば、返り討ちにできるだろう。
『ま、待てっ! どこへ行く!』
「どこへって……帰るんだよ。元々、様子を見に来ただけだし……ああ、そうだ」
近い将来、北極の駐留軍が先遣隊を派遣してくるのはほぼ確定している。工作の一つでもしておくか……。
「一つだけ頼みたい事があった……」
まあ意味ないかも知れないが、幸いな事に空に開いた穴の近くにドワーフの地下集落がある。ダークエルフの国は世界樹の根本。ドローンが最大で二時間弱の飛行が可能だとしても、そこまでたどり着けるとは思えない。
「地下集落の上にでも、質素な集落を作っておいてくれ。こんな感じの奴をさ……」
この辺り一帯、爆撃されて真っ新になったし丁度いいだろ?
そう言うと俺は地面に石でできた建物を描く。
地面に描いた絵をまじまじと見つめ首を傾げる元族長ドワーフ。
『……こんなものでいいのか?』
「ああ、出来ればでいい。建物の近くに畑や井戸なんかも一緒に作っておいてくれ。何人かはそこに住み、空に開いた穴から何かが入り込んできた時に対処できるようにしてくれると助かる」
石材を使った古代ローマの建築様式。歴史を少しでもかじっている奴がいればいい感じに誤認してくれる筈だ。
この世界の文明はこの位なのかなってさ。
木材や藁を使った日本の建築様式でもいいが、ファンタジーに満ちた世界で日本様式は違和感がある。
「――ちなみに言っておくが、これはお前達を異世界からの侵略から護る為に必要な事だ。手を抜くなよ。その分、納めるレアメタルの量は減らしてやる」
これで元族長としての矜持も少しは保たれるだろう。
何せ、俺から譲歩を引き出したのだからな。
『――今の発言は本当か?』
俺の発言を聞き、元族長ドワーフは信じられない者でも見るかの様な視線を浮かべる。
疑り深い奴だ。
「ああ、本当だ」
お前等を護る事は、俺の利益を護る事に繋がる。北極の駐在軍が侵攻してくる可能性が少しでもある以上、万全を尽くすのみ。
『――分かった。ワシに任せておけ!』
そう言うと、元族長ドワーフは意気揚々と地下集落に向かっていく。
「さて……」
現状は何となくだが把握した。
北極の動向はニュースで確認しつつ、エレメンタルには申し訳ないが、現地調査に行って貰うか……。
「エレメンタル……悪いけど、『ああああ』達を捕らえた北極の駐留軍の動向を探ってくれ」
そう言って数体のエレメンタルを放つと、エレメンタル達は空に開いた穴を通り『ああああ』達が捕らえられている北極の駐留軍の下に向かっていく。
「俺も一度、ログアウトするか……」
こう見えて俺も忙しい。
新しい世界の事は気になるが、東京都によるアース・ブリッジ協会の事業仕分け対応も重要だ。
事業仕分けとは、過去に政府が実施した事業評価の手法の一つ。
仕分け人がその事業が必要か否かを判断し、無駄を省こうというものだ。
既に、東京都からは事業シートの記載を求められている。
北極の駐留軍の動きや『ああああ』達の事は気になるが、それはそれ。一旦、後回しだ。
そう呟くと、俺はゲーム世界からログアウトする事にした。
◆◇◆
その頃、北極駐留の軍事施設は、巨大な毒蛇、ヨルムンガルド突然の出現により大混乱に陥っていた。
『な、なんなんだ、あれは……』
駐留軍の兵士一人が双眼鏡でヨルムンガルドを見ながら呟く。
『まるで怪獣ではないか…』
北極にあった数十の軍事拠点の大半はヨルムンガルド出現により大混乱に陥っている。
壊滅状態とはいかぬものの、軍事拠点の間を縫う様にヨルムンガルドの尾や胴体がある為、迂闊に爆撃できぬ状況だ。
『ぐっ、化け物め……!』
我々は偶々、砕氷艦に乗船していたから無事だった。
突如として空から現れたあの化け物はなんだ!?
見た所、巨大な蛇に見えるが、蛇の割に寒さに強い……のか?
今でこそ氷の上で活動を停止しているが、先ほどまでは、北極海を縦横無尽に泳ぎ回り、出来たばかりの飛行場や貴重な大型軍用車両を壊して回っていた。
爬虫類の様に寒さに弱いと見るのは危険だ。
『司令官。あの者達はいかが致しましょう?』
『……うん? ああ、あいつ等か』
一応、詳しい事情を知っているであろう、あの大蛇と共に空から降ってきた日本人と思わしき人間達を捕らえた。
今は緊急事態の為、見張り付きで倉庫の一角に押し込めてあるが……。
『情報を引き出せ。多少手荒になっても構わん。今は少しでも情報が欲しい』
『はっ!』
そう命令すると、一兵卒は『ああああ』達の閉じ込められている倉庫に向かっていく。
北極に現れた大蛇。
観測物に突如として開いた穴。
その穴の中から現れた日本人と思わしき人間達……。分からない事だらけだ。
まずは、尋問して見ない事には何も始まらない。
『有益な情報を持っていてくれれば良いのだが……』
そう呟くと、司令官はため息を吐きながら、ヨルムンガルドに視線を向けた。
◇◆◇
「な、何だ……このデタラメな決算書類は……」
東京都が行う事業仕分けに備える為、公益財団法人アース・ブリッジ協会に戻ってきた俺こと高橋翔は、国や東京都から補助金や助成金を受け取るにあたり提出していた過去、数年分の財務諸表を見て愕然とした表情を浮かべる。
「適当やってるなとは思っていたが、まさかここまでとは……」
こんな杜撰な会計しか……いや、補助金や助成金を得る為、意図的にやってんのか?
公益財団法人でこれとか、NPOや一般社団法人を含むすべての公益法人に会計検査院による調査が入って欲しいレベルで杜撰だ。
これで、補助金や助成金を得たり、第三者機関からの認証を受け環境ラベルを添付させる取り組みをしているとか意味が分からん。
やはり、公金の入っている公益法人は一度、すべてを潰した方がいい気がしてきた。
こんなのに血税が注入されているなんて、マトモな納税者からしたら発狂レベルだ。
しかし、やはり現地で行う調査は違うな。
アース・ブリッジ協会の財務諸表が適当な事は、エレメンタルによる調査である程度分かっていたが、それ以上に杜撰とは……。
掘れば掘るほど不正や改ざんの証拠が出てくるな……。
長谷川よぉ……お前、もうちょっとしっかりしろよ。
公益財団法人って、どんなことをする法人なのかちゃんと理解しているか?
「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づいて設立された「公益事業を行う法人」だぞ?
都知事にどれだけの献金して公益認定貰ったかは知らないが雑過ぎるだろ。
何だか、頭が痛くなってきた。
既に、汚職理事や評議員は解任したし、奴等が汚職により手にした金は一部を除き返還されている。これなら、まあ公益認定が取り消される事はギリギリないだろう。
まあ、最悪、公益認定を外されても問題ないか……って、うん?
何だか外が騒がしいな……。
ふらっと立ち上がり窓の外に視線を向ける。
すると、そこには、自撮り棒を持ち「公金チューチュー」と叫ぶ男達の姿があった。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、1月1日(月)AM7時となります。
今年は大変お世話になりました。
来年は、または来年も、皆様にとって良い年でありますように。
願わくば来年は、ネタが豊富ながら良い一年になりますように。
22
お気に入りに追加
1,129
あなたにおすすめの小説

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる