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第317話 因果応報⑥
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腹に深々と突き刺さる包丁を見て、ハリーは脂汗を流す。
――ち、違う……私は、高橋翔なんかじゃ……ない。
「勘違いを……いや、そんな事よりバッグを……バッグを取って……中に……」
バッグの中には、初級回復薬一本が入っている。
ハリーは自らを刺した張本人、松永雄一郎に懇願する。
「ふーん。バッグねぇ……」
松永はハリーのバッグを奪い取ると、中から初級回復薬の瓶を取り出す。
「そ、それ……早く……いいから早く、それを……」
腹部から流れ出る血が地面に赤い水たまりを作り、腹部に走る痛みで立つ事も儘ならない。膝立ちになると、松永は手に取った初級回復薬を見て薄笑いを浮かべる。
「へえ、これが欲しいの……いいぜ。くれてやるよ」
松永の手をすり抜け地面に落ちていく初級回復薬の入った瓶。
――パリンッ!
「――あ、あああああああっ……!?」
地面のシミとなった初級回復薬と割れた瓶の残骸を見て、ハリーはかすれた声を上げる。
「――あははははっ! 残念でしたぁ! 素直に渡すと思ったか? そんな訳ないだろ、バーカァ! そんな事よりお前、この私に……いや、俺になんか言う事ない訳?」
「……い、言う事っ??」
何を言っている。と、いうよりさっきから誰と勘違いしている。
私はハリー・レッテル。高橋翔ではない!
「あれ、分からないの? 俺にあんな酷い事しておいてさぁ! 謝罪の一つもないのかよ!」
「――ぎっ……」
そう言って、刺さったままの包丁の取っ手を持ち思い切り捻ると、ハリーは絶叫を上げた。
「……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
こ、殺される。
何故……何故、何故、何故、この私がこんな目に遭わなくてはならない。闇の精霊・ジェイドはっ!? 私を守る為に側に着いていてくれたのではなかったのか??
闇の精霊・ジェイドに視線を向けるも無機質な視線が返ってくるだけ。
ハリーは、腹部に走る激痛に耐えながらも這いつくばり、その場から逃げようとする。
「ぐっ……ごほっ、ごほっ!」
に、逃げなければ……とにかく、この場から……私は、私はまだ死にたくない。
周りにいる連中も、誰か……誰か助けて……誰でもいい。誰かこいつを止めてくれぇぇぇぇ!
しかし、ハリーの願いは叶わない。
「高橋翔くぅん。逃げちゃダメでしょ……お前はまだ、俺に言うべき事を言ってないよね? ほら、死なない様に急所は避けたんだから言えよ。誠意があれば言えるだろ? 俺が受けた屈辱はこんなもんじゃねーぞ? おい。言えよ。松永様の人生ぶっ壊してすいませんって言えよ。言えよっ!!」
「――あがっ……」
後ろ髪を引っ張られハリーは嗚咽を漏らす。
そんなハリーに顔を近付けると、松永は狂った表情で告げる。
「……俺の支援者によると、狂った演技をしねーと、裁判で精神障害が認められないみたいなんだわ。残念だったなぁ。お前は死に俺は生きる。社会的ステータスは失う事になるが、精神障害が認められれば、賠償金の支払いをする必要もなくなるし、万が一、実刑が付いても、俺の支援者が優秀な弁護士を付けてくれる。資源エネルギー庁の長官ポストより高い年俸で雇われる事も確定している。だからさ、精々、苦しんで死んでくれよ。そうでもしなきゃ俺の気が収まらねぇだろっ!」
「――ぎゃあっ!!」
松永が持っていた二本目の包丁が背中に突き刺さった瞬間、ハリーは堪らず絶叫を上げる。
「――あははははははははははははっ! 全部、全部、お前が悪いんだっ! 素直にレアメタル連合を差し出して置けば死ぬ事もなかった。全部、全部、お前が悪いんだぁぁぁぁ!」
ぐ、この愚か者が……!
お前の言う支援者はこの私だ!
私を殺せば、お前の未来はここで終わる。何故、それが分からない!
ウーウー、ピーポーピーポー!
「ちっ、誰かが通報しやがった……!」
町中に響くパトカーに、救急車のサイレン音。
松永は頬の内側を歯で噛むと、地面に這いつくばるハリーに視線を向ける。
「――まあいいや。どの道結果は変わらない。俺の異常性は周囲の人達が証言してくれる。裁判になった所で精神鑑定に回され無罪放免。残念だったなぁ……まあ、最後位、良い声で鳴いてくれよ。俺の気が晴れる様に甲高い声で……じゃあなぁ! 地獄に落ちろや、高橋翔!!」
背中に刺さった包丁を抜き思い切り上に振り被り振り下ろすと、突如として、這いつくばり涙を流す血塗れの高橋翔の姿が、ハリーに変わる。
「――はっ??」
驚きで勢いを緩めるも既に手遅れ。
ハリーの背に包丁を突き立てると松永は戸惑いながらその場から離れ後退る。
「――えっ? はっ? え、ええ……えええええええええっ!? ハ、ハリーさん?? な、何でこんな……た、高橋翔は? 俺は確かに高橋翔を刺して……お、おい! 大丈夫か! 誰か、誰か救急車を……救急車を呼んでくれぇぇぇぇ!」
人を刺しておいて救急車を呼んでくれと連呼するサイコパスを前に、近くにいた人達も身の危険を感じる後退る。
「おい! 誰か、誰でもいい! 早く救急車を! ハリーさん? ハリーさん! 大丈夫ですか!? 死ぬな。死ぬんじゃない! あんたが死んだら誰が俺の面倒を見るんだ。俺の人生はどうなるんだぁぁぁぁ!」
あまりに身勝手な絶叫。駆け付けた警察官が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「君、何をやっている!」
「今すぐ彼女を離しなさい!」
現着した警察官と救急隊員に連れていかれる松永とハリーの姿をリアルタイムで見ていた高橋翔は呟く様に言う。
「コワ~……」
何あれ、マジでヤバいな……。
良かった。ハリー・レッテルとかいう奴に付いていた闇の精霊・ジェイドを密かに倒し、俺の闇の精霊・ジェイドに見張らせておいて……。
何かを企んでいる事自体は、エレメンタルの調べで知っていたが、まさかこんな事になるとは……。何はともあれ俺に危害が及ばなくて本当に良かった。
まったく、自分の思い通りにならないからといって怒り狂い、人をめった刺しにして笑う気狂いを焚き付けるなんて何を考えているんだ?
隠密マントで身を隠したハリー・レッテルに対して、闇の精霊・ジェイド経由で俺の姿を投影して貰わなければ大変な事になっていた所だ。
まあ、気狂いを焚き付けた責任は、焚き付けた馬鹿が身を以て取ってくれたみたいだけど……。
腹と背中を刺され虫の息で運ばれていくハリーを見て、俺はため息を吐く。
「警察呼んどいてよかった。しかし……まさか、ゲーム世界からやってきている奴が三人もいるとはなぁ……」
村井元事務次官の下に向かわせたエレメンタルが戻ってこない事を受け、調査するエレメンタルの数を十倍に増やした所、三人、ゲーム世界からこちらの世界に来ている事が確認できた。
一人目は、総務省の元事務次官である村井。二人目は、陰でこそこそ動いた結果、松永とかいう男に刺され病院送りとなったハリー・レッテル。そして、三人目は、四体のエレメンタルを操る女。ピンハネ・ポバティー。
通りで情報が手に入らない訳だ。
まさか、敵の手の中にエレメンタル使いが紛れているとは……。
気狂いに刺され緊急搬送されたハリー・レッテルは除くとしても、権力の中枢に座する村井とピンハネが厄介だ。
ハリーに付いていたエレメンタルを一体倒した事から奴もこちらの存在に気付いた筈……こちらも対策を取らねば拙そうだ。
「――でも、暫くは大丈夫かな?」
今、東京では至る所で似非市民によるデモ活動が行われている。
デモ活動に邁進する似非市民にとって国や東京都からの補助金は生命線。
その生命線を断たれたのだから、似非市民が騒ぐのも当然だ。
溝渕エンターテイメントの性加害問題に介入し、多額の賠償請求をされて解散した筈の市民団体員までデモに参加している。
恥知らず、厚顔無恥とは、彼等の為にある言葉なのだろう。
そんな事する暇があるなら、人の名誉と企業価値を棄損した分、金銭か人生で償えよ。
よくそんな体たらくで市民団体なんて起こせたものだ。市民団体というのは、地域の課題を解決する組織だと思っていたが、違った様である。問題を解決する為に組織されたのではなく、問題が無くなり補助金が貰えなくなったら困る人達の集まり。それが市民団体なんだなという事を再認識させられた。
真に地域の事を考え、課題を解決する為に活動している極僅かな市民団体に謝れ。手をついて詫びろ。汚らわしいので二度と市民団体を名乗るな。
俺も今回の件ではよく考えさせられた。
政治家の次に信用してはならないもの。それは似非市民団体とメディアだ。
隙あらば世論操作を仕掛けてくるし、行政と結託し補助金に集ろうとする。
東京都がいい例だ。
『のり弁やめます』と都民にそんな公約を掲げ当選したにも関わらず、都合が悪くなれば、最初からそんな公約ありませんでしたとでも言わんばかりに、秘密裏に公約を党のホームページから削除し、黒塗りののり弁を白塗りにしてでも、公金の使い方に疑問を持った市民から懇意にしている市民団体を守り抜く。
立場が変われば見方も変わる。もはや、公約なんてどうでもいいのだろう。自分達が東京大改革の一丁目一番とまでいった情報公開を蔑ろにしている時点でお察しだ。
まあ、東京都知事の裏には村井とピンハネがいた様なので、頭がおかしくなってしまったのはこの二人のせいかも知れないけど……。
「さてと……」
ハリー・レッテルは病院に送られ、俺を害そうとした馬鹿は警察にドナドナされた。
ピンハネを守る四体のエレメンタルの内、一体を再起不能状態に追い込んだし、ピンハネと共に都庁内にいる村井は似非市民共が東京都庁を取り囲んでいる為、出る事はできない。
問題事が粗方片付いたな……。
「そろそろ行くか……」
今日は、テレビ局を始めとしたマスコミ各社の取締役会開催日。
その内、数社に俺も社外取締役の一人として参加する予定だ。
溝渕エンターテイメントの第三者委員会に補助として参加したのが功を奏したのか、はたまた、BAコンサルティングの大株主の一人として、弁護団に口利きして欲しいのか、自分達に批判的な第三者委員会のメンバーを入れる事で変わった事をアピールしたいのかは分からないが、奴等は最高に愚かな選択をした。
まさか、俺直々に引導を渡す機会を与えるとはなぁ……。
溝渕エンターテイメントは、タレントの事を考え大人の対応をしたが、俺は違う。
数週間の話とはいえ、テレビ局を始めとしたマスコミがアース・ブリッジ協会の現理事長である俺の情報を世間に流しまくってくれた事を、俺は忘れていない。つーか、忘れない。
上層部の首を切り、金を出す事で責任取ったつもりでいる様だが、ちげーだろ?
お前等が、俺と溝渕エンターテイメントに求めていたのは、それだけじゃねーもんなぁ?
上層部の首切った所で母体が癌細胞に侵されていたら意味はない。
まだ会社名変わってませんよ?
いつまで被害者の気持ちを逆撫でし続ける気だ。被害者がテレビ局の名称を見てフラッシュバックに襲われたらどうする。
人権意識がなってねーな。そんなんだからいつまで経っても駄目なんだよ。
お前等が俺等に要求した事すべてを飲んで始めて贖罪された事になるんだろうが。
お前等、求めていたよな……解体的出直しって奴を……。
少なくともテレビ局は、放送免許返納して解体的出直しを図るのが筋じゃねーの?
とはいえ、すべての局に放送免許返納させるのは、クライアントである溝渕エンターテイメントの経営に関わる。
「でも、見せしめって奴は必要だよなぁ……」
最低でも、俺が社外取締役を務める事になったマスコミ数社には責任を取って貰う。誤報した責任を取らないマスコミなんて人為的な公害以外の何物でもないからな。
そう呟くと、俺はテレビ局へと向かった。
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次回は2023年12月7日AM7時更新となります。
――ち、違う……私は、高橋翔なんかじゃ……ない。
「勘違いを……いや、そんな事よりバッグを……バッグを取って……中に……」
バッグの中には、初級回復薬一本が入っている。
ハリーは自らを刺した張本人、松永雄一郎に懇願する。
「ふーん。バッグねぇ……」
松永はハリーのバッグを奪い取ると、中から初級回復薬の瓶を取り出す。
「そ、それ……早く……いいから早く、それを……」
腹部から流れ出る血が地面に赤い水たまりを作り、腹部に走る痛みで立つ事も儘ならない。膝立ちになると、松永は手に取った初級回復薬を見て薄笑いを浮かべる。
「へえ、これが欲しいの……いいぜ。くれてやるよ」
松永の手をすり抜け地面に落ちていく初級回復薬の入った瓶。
――パリンッ!
「――あ、あああああああっ……!?」
地面のシミとなった初級回復薬と割れた瓶の残骸を見て、ハリーはかすれた声を上げる。
「――あははははっ! 残念でしたぁ! 素直に渡すと思ったか? そんな訳ないだろ、バーカァ! そんな事よりお前、この私に……いや、俺になんか言う事ない訳?」
「……い、言う事っ??」
何を言っている。と、いうよりさっきから誰と勘違いしている。
私はハリー・レッテル。高橋翔ではない!
「あれ、分からないの? 俺にあんな酷い事しておいてさぁ! 謝罪の一つもないのかよ!」
「――ぎっ……」
そう言って、刺さったままの包丁の取っ手を持ち思い切り捻ると、ハリーは絶叫を上げた。
「……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
こ、殺される。
何故……何故、何故、何故、この私がこんな目に遭わなくてはならない。闇の精霊・ジェイドはっ!? 私を守る為に側に着いていてくれたのではなかったのか??
闇の精霊・ジェイドに視線を向けるも無機質な視線が返ってくるだけ。
ハリーは、腹部に走る激痛に耐えながらも這いつくばり、その場から逃げようとする。
「ぐっ……ごほっ、ごほっ!」
に、逃げなければ……とにかく、この場から……私は、私はまだ死にたくない。
周りにいる連中も、誰か……誰か助けて……誰でもいい。誰かこいつを止めてくれぇぇぇぇ!
しかし、ハリーの願いは叶わない。
「高橋翔くぅん。逃げちゃダメでしょ……お前はまだ、俺に言うべき事を言ってないよね? ほら、死なない様に急所は避けたんだから言えよ。誠意があれば言えるだろ? 俺が受けた屈辱はこんなもんじゃねーぞ? おい。言えよ。松永様の人生ぶっ壊してすいませんって言えよ。言えよっ!!」
「――あがっ……」
後ろ髪を引っ張られハリーは嗚咽を漏らす。
そんなハリーに顔を近付けると、松永は狂った表情で告げる。
「……俺の支援者によると、狂った演技をしねーと、裁判で精神障害が認められないみたいなんだわ。残念だったなぁ。お前は死に俺は生きる。社会的ステータスは失う事になるが、精神障害が認められれば、賠償金の支払いをする必要もなくなるし、万が一、実刑が付いても、俺の支援者が優秀な弁護士を付けてくれる。資源エネルギー庁の長官ポストより高い年俸で雇われる事も確定している。だからさ、精々、苦しんで死んでくれよ。そうでもしなきゃ俺の気が収まらねぇだろっ!」
「――ぎゃあっ!!」
松永が持っていた二本目の包丁が背中に突き刺さった瞬間、ハリーは堪らず絶叫を上げる。
「――あははははははははははははっ! 全部、全部、お前が悪いんだっ! 素直にレアメタル連合を差し出して置けば死ぬ事もなかった。全部、全部、お前が悪いんだぁぁぁぁ!」
ぐ、この愚か者が……!
お前の言う支援者はこの私だ!
私を殺せば、お前の未来はここで終わる。何故、それが分からない!
ウーウー、ピーポーピーポー!
「ちっ、誰かが通報しやがった……!」
町中に響くパトカーに、救急車のサイレン音。
松永は頬の内側を歯で噛むと、地面に這いつくばるハリーに視線を向ける。
「――まあいいや。どの道結果は変わらない。俺の異常性は周囲の人達が証言してくれる。裁判になった所で精神鑑定に回され無罪放免。残念だったなぁ……まあ、最後位、良い声で鳴いてくれよ。俺の気が晴れる様に甲高い声で……じゃあなぁ! 地獄に落ちろや、高橋翔!!」
背中に刺さった包丁を抜き思い切り上に振り被り振り下ろすと、突如として、這いつくばり涙を流す血塗れの高橋翔の姿が、ハリーに変わる。
「――はっ??」
驚きで勢いを緩めるも既に手遅れ。
ハリーの背に包丁を突き立てると松永は戸惑いながらその場から離れ後退る。
「――えっ? はっ? え、ええ……えええええええええっ!? ハ、ハリーさん?? な、何でこんな……た、高橋翔は? 俺は確かに高橋翔を刺して……お、おい! 大丈夫か! 誰か、誰か救急車を……救急車を呼んでくれぇぇぇぇ!」
人を刺しておいて救急車を呼んでくれと連呼するサイコパスを前に、近くにいた人達も身の危険を感じる後退る。
「おい! 誰か、誰でもいい! 早く救急車を! ハリーさん? ハリーさん! 大丈夫ですか!? 死ぬな。死ぬんじゃない! あんたが死んだら誰が俺の面倒を見るんだ。俺の人生はどうなるんだぁぁぁぁ!」
あまりに身勝手な絶叫。駆け付けた警察官が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「君、何をやっている!」
「今すぐ彼女を離しなさい!」
現着した警察官と救急隊員に連れていかれる松永とハリーの姿をリアルタイムで見ていた高橋翔は呟く様に言う。
「コワ~……」
何あれ、マジでヤバいな……。
良かった。ハリー・レッテルとかいう奴に付いていた闇の精霊・ジェイドを密かに倒し、俺の闇の精霊・ジェイドに見張らせておいて……。
何かを企んでいる事自体は、エレメンタルの調べで知っていたが、まさかこんな事になるとは……。何はともあれ俺に危害が及ばなくて本当に良かった。
まったく、自分の思い通りにならないからといって怒り狂い、人をめった刺しにして笑う気狂いを焚き付けるなんて何を考えているんだ?
隠密マントで身を隠したハリー・レッテルに対して、闇の精霊・ジェイド経由で俺の姿を投影して貰わなければ大変な事になっていた所だ。
まあ、気狂いを焚き付けた責任は、焚き付けた馬鹿が身を以て取ってくれたみたいだけど……。
腹と背中を刺され虫の息で運ばれていくハリーを見て、俺はため息を吐く。
「警察呼んどいてよかった。しかし……まさか、ゲーム世界からやってきている奴が三人もいるとはなぁ……」
村井元事務次官の下に向かわせたエレメンタルが戻ってこない事を受け、調査するエレメンタルの数を十倍に増やした所、三人、ゲーム世界からこちらの世界に来ている事が確認できた。
一人目は、総務省の元事務次官である村井。二人目は、陰でこそこそ動いた結果、松永とかいう男に刺され病院送りとなったハリー・レッテル。そして、三人目は、四体のエレメンタルを操る女。ピンハネ・ポバティー。
通りで情報が手に入らない訳だ。
まさか、敵の手の中にエレメンタル使いが紛れているとは……。
気狂いに刺され緊急搬送されたハリー・レッテルは除くとしても、権力の中枢に座する村井とピンハネが厄介だ。
ハリーに付いていたエレメンタルを一体倒した事から奴もこちらの存在に気付いた筈……こちらも対策を取らねば拙そうだ。
「――でも、暫くは大丈夫かな?」
今、東京では至る所で似非市民によるデモ活動が行われている。
デモ活動に邁進する似非市民にとって国や東京都からの補助金は生命線。
その生命線を断たれたのだから、似非市民が騒ぐのも当然だ。
溝渕エンターテイメントの性加害問題に介入し、多額の賠償請求をされて解散した筈の市民団体員までデモに参加している。
恥知らず、厚顔無恥とは、彼等の為にある言葉なのだろう。
そんな事する暇があるなら、人の名誉と企業価値を棄損した分、金銭か人生で償えよ。
よくそんな体たらくで市民団体なんて起こせたものだ。市民団体というのは、地域の課題を解決する組織だと思っていたが、違った様である。問題を解決する為に組織されたのではなく、問題が無くなり補助金が貰えなくなったら困る人達の集まり。それが市民団体なんだなという事を再認識させられた。
真に地域の事を考え、課題を解決する為に活動している極僅かな市民団体に謝れ。手をついて詫びろ。汚らわしいので二度と市民団体を名乗るな。
俺も今回の件ではよく考えさせられた。
政治家の次に信用してはならないもの。それは似非市民団体とメディアだ。
隙あらば世論操作を仕掛けてくるし、行政と結託し補助金に集ろうとする。
東京都がいい例だ。
『のり弁やめます』と都民にそんな公約を掲げ当選したにも関わらず、都合が悪くなれば、最初からそんな公約ありませんでしたとでも言わんばかりに、秘密裏に公約を党のホームページから削除し、黒塗りののり弁を白塗りにしてでも、公金の使い方に疑問を持った市民から懇意にしている市民団体を守り抜く。
立場が変われば見方も変わる。もはや、公約なんてどうでもいいのだろう。自分達が東京大改革の一丁目一番とまでいった情報公開を蔑ろにしている時点でお察しだ。
まあ、東京都知事の裏には村井とピンハネがいた様なので、頭がおかしくなってしまったのはこの二人のせいかも知れないけど……。
「さてと……」
ハリー・レッテルは病院に送られ、俺を害そうとした馬鹿は警察にドナドナされた。
ピンハネを守る四体のエレメンタルの内、一体を再起不能状態に追い込んだし、ピンハネと共に都庁内にいる村井は似非市民共が東京都庁を取り囲んでいる為、出る事はできない。
問題事が粗方片付いたな……。
「そろそろ行くか……」
今日は、テレビ局を始めとしたマスコミ各社の取締役会開催日。
その内、数社に俺も社外取締役の一人として参加する予定だ。
溝渕エンターテイメントの第三者委員会に補助として参加したのが功を奏したのか、はたまた、BAコンサルティングの大株主の一人として、弁護団に口利きして欲しいのか、自分達に批判的な第三者委員会のメンバーを入れる事で変わった事をアピールしたいのかは分からないが、奴等は最高に愚かな選択をした。
まさか、俺直々に引導を渡す機会を与えるとはなぁ……。
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数週間の話とはいえ、テレビ局を始めとしたマスコミがアース・ブリッジ協会の現理事長である俺の情報を世間に流しまくってくれた事を、俺は忘れていない。つーか、忘れない。
上層部の首を切り、金を出す事で責任取ったつもりでいる様だが、ちげーだろ?
お前等が、俺と溝渕エンターテイメントに求めていたのは、それだけじゃねーもんなぁ?
上層部の首切った所で母体が癌細胞に侵されていたら意味はない。
まだ会社名変わってませんよ?
いつまで被害者の気持ちを逆撫でし続ける気だ。被害者がテレビ局の名称を見てフラッシュバックに襲われたらどうする。
人権意識がなってねーな。そんなんだからいつまで経っても駄目なんだよ。
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お前等、求めていたよな……解体的出直しって奴を……。
少なくともテレビ局は、放送免許返納して解体的出直しを図るのが筋じゃねーの?
とはいえ、すべての局に放送免許返納させるのは、クライアントである溝渕エンターテイメントの経営に関わる。
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最低でも、俺が社外取締役を務める事になったマスコミ数社には責任を取って貰う。誤報した責任を取らないマスコミなんて人為的な公害以外の何物でもないからな。
そう呟くと、俺はテレビ局へと向かった。
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次回は2023年12月7日AM7時更新となります。
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「最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
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