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第291話 緊急記者会見
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ここは公益財団法人アース・ブリッジ協会の理事長室。
評議会で理事に選任され、各種手続きを経て正式な理事長となった俺は、事務員に交じりカッターで鉛筆削りをする前理事長、長谷川の働きっぷりをモニター越しに見ながらインスタントコーヒーを啜る。
「うん。美味い」
やはり、インスタントコーヒーはこうでなくっちゃ。
お湯を注ぐだけでお手軽にコーヒーブレイクを楽しむ事ができるなんていい時代になったものだ。
さて、長谷川よ。公益財団法人アース・ブリッジ協会の理事長だったお前が、他の事務員がいるフロアの一番目立つデスクで鉛筆削りをする気分はどうだ?
聞けば、お前。就業時間中に読んでいたサラリーマン承太郎にハマって、事務員にカッターで鉛筆削りさせていたんだってな?
そして、それを仕事の一部として常態化させ、新入りや中途で入会してきた事務員に業務の一部としてやらせていたとか……それで? 公益財団法人として補助金や助成金を貰いつつ、業務の一部として常態化させた鉛筆削りを黙々とこなす気分はどうだ? 楽しいか? サラリーマン承太郎の様になれそうか?
鉛筆削りはそんな苦悶に満ちた表情で行う様なものじゃないぞ?
あまりに非合理的な業務だったので、ここ数日間、それを考えた張本人に鉛筆削りさせて見たが、実際にやらせてみると本当に非合理な事を嬉々としてやらせていたんだなと呆れるばかりだ。まあ、当人曰く。人間性を鍛えるのに効果的との事なので、汚職にまみれ腐った人間性を鍛え直す為にこれからも頑張って鉛筆を削っていて欲しいと思う。
「白石も、デモ活動に精力的で香ばしいなぁ……」
これまで補助金や助成金を散々、不正受給していた団体が揃いも揃って、補助金支給の在り方に関し、都庁前デモ活動を行うとは……。
俺がやらせておいてなんだが、厚顔無恥とはこの事を言うのだなと改めて思い知らされた。
それだけではない。白石の凄い所は、その類まれなる行動力にある。
暴力団員と深い繋がりのある他責思考を拗らせた脱税環境活動家だけあって、その界隈の人達との繋がりが深く、補助金支給の適正化を問うデモにも拘らず、補助金を不適切に搾取している団体が揃って東京都に対しデモ活動を起こしている。
万が一、このデモが成功し補助金支給が適正化された場合、今、デモに参加している団体に補助金は打ち切られる可能性が非常に高いのだが、彼等はそれを分かっているのだろうか?
その事が分かっているのか、分かっていないのか、それとも脅されて仕方がなくデモに参加しているのかは分からないが、流石である。
授業参観に参加する親の様な面持ちで活躍する白石の勇姿をテレビ越しに眺めていると、緊急記者会見に画面が移り変わる。
どうやら、東京都知事である池谷が臨時の緊急記者会見を行う様だ。
東京都が臨時会見を開く事なんて滅多にない。
池谷は扉から姿を現すと、会見台の前に立ちカメラに視線を向ける。
『――ただいまから、東京都知事の記者会見を始めます。初めに知事から発言がございます。その後、質疑応答となります。それでは、知事、よろしくお願いいたします』
『はい、お待たせ致しました。えー、それでは、始めさせて頂きます。今回、私からお伝えする事は二つ。先日から都庁前を賑わせております市民団体による補助金の不正受給デモを受け、東京都では、現在、行っております補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直し、及び既に支給した団体、個人に対する監査・監督。場合によっては、補助金などの返還を求める取り組みを進めさせて頂く事と致しました。これにより徴収した補助金はすべて都が指定した特定の団体に対して支給させて頂きます』
「――はっ?」
この都知事は何を言ってるんだ?
補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直し??
今まで適当にスルーしていた癖に、これからはガチガチに締め付けますって言ってるの??
いや、まあそれは別にいいんだけど……返還や廃止を求める取り組みを進めて頂き、徴収した補助金は都が指定した特定の団体に支給するって、なにそれ?
それってただ、現在、補助金を貰っている団体から都知事が指定した団体に金が流れるだけなんじゃ……そんな事、許されるの?
SNSのトレンドを見ると、『緊急記者会見』『補助金廃止』『特定団体支給』といったワードが躍っている。皆、興味津々の様だ。
『――また、事業仕分けという訳ではございませんが、都が独自に行っている全ての事業につきましても、見直しを行います。具体的には、予算執行の現場の実態を踏まえ、都民の方々への透明性を確保しながら、そもそも、その事業が必要なものかどうか判断し、場合によっては廃止。これまで、支給してきた補助金や助成金の返還を進めて参りたいと思います。私からは以上です』
マ、マジでか――!?
ここにきての事業仕分け。
公益財団法人アース・ブリッジ協会は、東京都からも補助金や助成金の支給を受けている。
そして東京都に本店所在地を置いているという事は、公益法人の所管は東京都にあるという事。
アース・ブリッジ協会の理事長交代をしたばかりの最悪のタイミングで、都知事がこんな大胆な政策を打ってくるとは思いもしなかった。都知事選が近いから実績作りに焦っているのだろうか?
テレビ画面の端に小さく映っている活動家達も、呆然と立ち尽くしている。
ただのパフォーマンスのはずが、パフォーマンスじゃなくなってしまったのだから当然だ。
とりあえず、おめでとうの一言を贈っておこう。
良かったね。デモ活動が実って。
これで、補助金打ち切りの憂き目にあう事ができるよ。
俺が理事長を務めるアース・ブリッジ協会と同じだ。
正直、俺が理事長に就任する前のアース・ブリッジ協会には後ろ暗い点しかない。
前理事長の長谷川を手元に残しておいて本当に良かった。すべての責任は前理事長の長谷川に取らせよう。長谷川もきっと、喜んで責任を取ってくれる筈だ。
そんな事を思いながら画面に視線を向けていると、記者達による質疑応答が始まる。
『――×〇新聞の鈴谷です。まず幹事社から二点伺いたいと思います。まず一点、補助金や助成金、交付金支給見直しに至った経緯は何でしょうか。まず一点お願いします』
この記者は、都知事の話を聞いていなかったのだろうか?
冒頭に言っていただろう。市民団体による補助金の不正受給デモを受けとか何とか……。
すると、都知事の池谷はマイクの前で回答する。
『えー、先ほど申し上げましたが、先日より都庁前を賑わせております市民団体による補助金の不正受給デモを受け、補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直しを進めさせて頂く事と致しました。補助金は、行政が公益性を認めた特定の事業や活動の奨励・促進を図るための財政的な支援。政策目的を効率的に実現する手段として、有効かつ重要な機能を果たしており、市民間に不公平が生じないよう公平性の確保が必要となります。また直接的な反対給付を伴わない一方的な支出である事から、一度創設されると、その効果などが十分に評価・検証されないまま継続され、長期化・固定化するといった課題も指摘されております。補助金の原資も都民の皆様方からの貴重な税金である事から、一度、補助事業者との協議を踏まえ見直しを進めて参ります』
至極真っ当なコメントだ。
まさか、都知事がこんなマトモなコメントをするとは思いもしなかった。
一体、何があったのだろうか?
俺の知る都知事は、黒いのり弁を白くしたり、公約を平然と破るイメージだったんだけど……。
急にマトモな事を言い出した都知事に面食らっていると、×〇新聞の記者が手を上げた。
『ありがとうございます。それではもう一点。徴収した補助金はすべて都が指定した特定の団体に対して支給するとの事ですが、都議会議員の一部から特定の団体のみに補助金を支給するのは不公平ではないか、予算の政治利用ではないかとの指摘があります。こうした指摘に対する知事の考えをお願いします』
それは俺も聞きたい所だ。ナイスな質問だ。グッジョブ記者君。
記者からの質問に対し、池谷は先ほどとは打って変わって不快な表情を浮かべながら返答する。
『えー、質問の意味がよくわかりませんが、地方にはそれぞれの事情があり、各都道府県知事の一番やりやすい形で行政を進めていく事が結局の所、補助金の不正受給を無くす事に繋がるのではないかと考えております。また特定の団体のみに補助金を支給するのは不公平ではないかとの指摘についてですが、知事である私の裁量権を超える事は行っておりません。私からは以上です』
流石は、池谷都知事。不快そうな表情をさせたら天下一だ。威圧感がある。
回答の節々から、裁量権を超えるような事はしていないのだから、問題ないだろう。これ以上、くだらない質問をしてくるんじゃないという意思がヒシヒシと伝わってくる。
『――他に質問のある方はいらっしゃいますか?』
進行役の女性がそう尋ねると、記者達は沈黙する。
池谷の威圧に耐える事ができなかったらしい。
一人の記者が手を挙げようとするも、池谷に睨まれた瞬間、そのまま手を降ろしてしまった。
『質問がない様ですので、質疑応答を終了致します。本日はお忙しい中、お集まり頂き誠にありがとうございました』
進行役の女性がそう告げると同時に、池谷は会見台を離れ、記者達に見向きもせず部屋を出て行く。それと共に画面が切り替わると、複雑そうな顔を浮かべるニュースキャスターの顔が映った。
「ふう……何だか大変な事になってきたな……」
俺がアース・ブリッジ協会の理事長になった時点で、補助金や助成金無しでも協会を運営できる様な体制が整っているが、公益財団法人に与えられた特権すべてをはく奪されるのでは、この協会を手に入れた意味がない。
「とりあえず、事業仕分けもどきが行われる前に、協会の財務諸表を精査しておくか……」
そう呟くと、俺はテレビを消し、意味もなく窓の外を見ながらインスタントコーヒーを啜った。
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次回は2023年9月20日AM7時更新となります。
評議会で理事に選任され、各種手続きを経て正式な理事長となった俺は、事務員に交じりカッターで鉛筆削りをする前理事長、長谷川の働きっぷりをモニター越しに見ながらインスタントコーヒーを啜る。
「うん。美味い」
やはり、インスタントコーヒーはこうでなくっちゃ。
お湯を注ぐだけでお手軽にコーヒーブレイクを楽しむ事ができるなんていい時代になったものだ。
さて、長谷川よ。公益財団法人アース・ブリッジ協会の理事長だったお前が、他の事務員がいるフロアの一番目立つデスクで鉛筆削りをする気分はどうだ?
聞けば、お前。就業時間中に読んでいたサラリーマン承太郎にハマって、事務員にカッターで鉛筆削りさせていたんだってな?
そして、それを仕事の一部として常態化させ、新入りや中途で入会してきた事務員に業務の一部としてやらせていたとか……それで? 公益財団法人として補助金や助成金を貰いつつ、業務の一部として常態化させた鉛筆削りを黙々とこなす気分はどうだ? 楽しいか? サラリーマン承太郎の様になれそうか?
鉛筆削りはそんな苦悶に満ちた表情で行う様なものじゃないぞ?
あまりに非合理的な業務だったので、ここ数日間、それを考えた張本人に鉛筆削りさせて見たが、実際にやらせてみると本当に非合理な事を嬉々としてやらせていたんだなと呆れるばかりだ。まあ、当人曰く。人間性を鍛えるのに効果的との事なので、汚職にまみれ腐った人間性を鍛え直す為にこれからも頑張って鉛筆を削っていて欲しいと思う。
「白石も、デモ活動に精力的で香ばしいなぁ……」
これまで補助金や助成金を散々、不正受給していた団体が揃いも揃って、補助金支給の在り方に関し、都庁前デモ活動を行うとは……。
俺がやらせておいてなんだが、厚顔無恥とはこの事を言うのだなと改めて思い知らされた。
それだけではない。白石の凄い所は、その類まれなる行動力にある。
暴力団員と深い繋がりのある他責思考を拗らせた脱税環境活動家だけあって、その界隈の人達との繋がりが深く、補助金支給の適正化を問うデモにも拘らず、補助金を不適切に搾取している団体が揃って東京都に対しデモ活動を起こしている。
万が一、このデモが成功し補助金支給が適正化された場合、今、デモに参加している団体に補助金は打ち切られる可能性が非常に高いのだが、彼等はそれを分かっているのだろうか?
その事が分かっているのか、分かっていないのか、それとも脅されて仕方がなくデモに参加しているのかは分からないが、流石である。
授業参観に参加する親の様な面持ちで活躍する白石の勇姿をテレビ越しに眺めていると、緊急記者会見に画面が移り変わる。
どうやら、東京都知事である池谷が臨時の緊急記者会見を行う様だ。
東京都が臨時会見を開く事なんて滅多にない。
池谷は扉から姿を現すと、会見台の前に立ちカメラに視線を向ける。
『――ただいまから、東京都知事の記者会見を始めます。初めに知事から発言がございます。その後、質疑応答となります。それでは、知事、よろしくお願いいたします』
『はい、お待たせ致しました。えー、それでは、始めさせて頂きます。今回、私からお伝えする事は二つ。先日から都庁前を賑わせております市民団体による補助金の不正受給デモを受け、東京都では、現在、行っております補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直し、及び既に支給した団体、個人に対する監査・監督。場合によっては、補助金などの返還を求める取り組みを進めさせて頂く事と致しました。これにより徴収した補助金はすべて都が指定した特定の団体に対して支給させて頂きます』
「――はっ?」
この都知事は何を言ってるんだ?
補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直し??
今まで適当にスルーしていた癖に、これからはガチガチに締め付けますって言ってるの??
いや、まあそれは別にいいんだけど……返還や廃止を求める取り組みを進めて頂き、徴収した補助金は都が指定した特定の団体に支給するって、なにそれ?
それってただ、現在、補助金を貰っている団体から都知事が指定した団体に金が流れるだけなんじゃ……そんな事、許されるの?
SNSのトレンドを見ると、『緊急記者会見』『補助金廃止』『特定団体支給』といったワードが躍っている。皆、興味津々の様だ。
『――また、事業仕分けという訳ではございませんが、都が独自に行っている全ての事業につきましても、見直しを行います。具体的には、予算執行の現場の実態を踏まえ、都民の方々への透明性を確保しながら、そもそも、その事業が必要なものかどうか判断し、場合によっては廃止。これまで、支給してきた補助金や助成金の返還を進めて参りたいと思います。私からは以上です』
マ、マジでか――!?
ここにきての事業仕分け。
公益財団法人アース・ブリッジ協会は、東京都からも補助金や助成金の支給を受けている。
そして東京都に本店所在地を置いているという事は、公益法人の所管は東京都にあるという事。
アース・ブリッジ協会の理事長交代をしたばかりの最悪のタイミングで、都知事がこんな大胆な政策を打ってくるとは思いもしなかった。都知事選が近いから実績作りに焦っているのだろうか?
テレビ画面の端に小さく映っている活動家達も、呆然と立ち尽くしている。
ただのパフォーマンスのはずが、パフォーマンスじゃなくなってしまったのだから当然だ。
とりあえず、おめでとうの一言を贈っておこう。
良かったね。デモ活動が実って。
これで、補助金打ち切りの憂き目にあう事ができるよ。
俺が理事長を務めるアース・ブリッジ協会と同じだ。
正直、俺が理事長に就任する前のアース・ブリッジ協会には後ろ暗い点しかない。
前理事長の長谷川を手元に残しておいて本当に良かった。すべての責任は前理事長の長谷川に取らせよう。長谷川もきっと、喜んで責任を取ってくれる筈だ。
そんな事を思いながら画面に視線を向けていると、記者達による質疑応答が始まる。
『――×〇新聞の鈴谷です。まず幹事社から二点伺いたいと思います。まず一点、補助金や助成金、交付金支給見直しに至った経緯は何でしょうか。まず一点お願いします』
この記者は、都知事の話を聞いていなかったのだろうか?
冒頭に言っていただろう。市民団体による補助金の不正受給デモを受けとか何とか……。
すると、都知事の池谷はマイクの前で回答する。
『えー、先ほど申し上げましたが、先日より都庁前を賑わせております市民団体による補助金の不正受給デモを受け、補助金や助成金、交付金支給の抜本的見直しを進めさせて頂く事と致しました。補助金は、行政が公益性を認めた特定の事業や活動の奨励・促進を図るための財政的な支援。政策目的を効率的に実現する手段として、有効かつ重要な機能を果たしており、市民間に不公平が生じないよう公平性の確保が必要となります。また直接的な反対給付を伴わない一方的な支出である事から、一度創設されると、その効果などが十分に評価・検証されないまま継続され、長期化・固定化するといった課題も指摘されております。補助金の原資も都民の皆様方からの貴重な税金である事から、一度、補助事業者との協議を踏まえ見直しを進めて参ります』
至極真っ当なコメントだ。
まさか、都知事がこんなマトモなコメントをするとは思いもしなかった。
一体、何があったのだろうか?
俺の知る都知事は、黒いのり弁を白くしたり、公約を平然と破るイメージだったんだけど……。
急にマトモな事を言い出した都知事に面食らっていると、×〇新聞の記者が手を上げた。
『ありがとうございます。それではもう一点。徴収した補助金はすべて都が指定した特定の団体に対して支給するとの事ですが、都議会議員の一部から特定の団体のみに補助金を支給するのは不公平ではないか、予算の政治利用ではないかとの指摘があります。こうした指摘に対する知事の考えをお願いします』
それは俺も聞きたい所だ。ナイスな質問だ。グッジョブ記者君。
記者からの質問に対し、池谷は先ほどとは打って変わって不快な表情を浮かべながら返答する。
『えー、質問の意味がよくわかりませんが、地方にはそれぞれの事情があり、各都道府県知事の一番やりやすい形で行政を進めていく事が結局の所、補助金の不正受給を無くす事に繋がるのではないかと考えております。また特定の団体のみに補助金を支給するのは不公平ではないかとの指摘についてですが、知事である私の裁量権を超える事は行っておりません。私からは以上です』
流石は、池谷都知事。不快そうな表情をさせたら天下一だ。威圧感がある。
回答の節々から、裁量権を超えるような事はしていないのだから、問題ないだろう。これ以上、くだらない質問をしてくるんじゃないという意思がヒシヒシと伝わってくる。
『――他に質問のある方はいらっしゃいますか?』
進行役の女性がそう尋ねると、記者達は沈黙する。
池谷の威圧に耐える事ができなかったらしい。
一人の記者が手を挙げようとするも、池谷に睨まれた瞬間、そのまま手を降ろしてしまった。
『質問がない様ですので、質疑応答を終了致します。本日はお忙しい中、お集まり頂き誠にありがとうございました』
進行役の女性がそう告げると同時に、池谷は会見台を離れ、記者達に見向きもせず部屋を出て行く。それと共に画面が切り替わると、複雑そうな顔を浮かべるニュースキャスターの顔が映った。
「ふう……何だか大変な事になってきたな……」
俺がアース・ブリッジ協会の理事長になった時点で、補助金や助成金無しでも協会を運営できる様な体制が整っているが、公益財団法人に与えられた特権すべてをはく奪されるのでは、この協会を手に入れた意味がない。
「とりあえず、事業仕分けもどきが行われる前に、協会の財務諸表を精査しておくか……」
そう呟くと、俺はテレビを消し、意味もなく窓の外を見ながらインスタントコーヒーを啜った。
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