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第287話 破滅への輪舞曲③
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よく言ったものだ。
「――暴力団なんかと繋がりたくなかった。脱税だってそう、そうしなきゃどうしようもない理由があった? はあっ? 何を言っているんだお前は?? 確かに、お前は当初、社会を変える為に活動していたのかも知れない。だが、今は違うだろ? 暴力団員と繋がりをもってしまったのは、手足となって泥を被ってくれる活動家達を守るため……、国や地方自治体から受け取っている補助金や助成金を目的外利用したり、謝礼を水増ししたり、本来、収益事業として計上すべき売上を公益事業に振り替え脱税したりして二億貯めたのは、貯めこんだ裏金で土地を買いビルを建て、いつ打ち切られるかも分からない補助金や助成金に頼る生活から抜け出すため。……お前、そのコンゴの子供達を救う為に、集めた補助金や助成金の中から一体、どれだけの支援金を使った?」
調べた限り、環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』のコンゴ支援は数年前に終わっている。
ホームページや活動報告書には、未だ、コンゴの子供達の為に公金や寄付金を使い支援しているかの様なことが書いてあるが、すべて嘘だ。
支援活動なんて一切していないにも拘らず、壊れたラジオの様に『コンゴの子供達の為に――』と叫び、補助金や寄付金を詐取。それを環境活動家としての活動資金として利用する迷惑なおばさんに成り果てている。
「なあ、聞こえてる? コンゴの子供達の為にどれだけの支援金を使ったのか聞いてるんだけど?」
そう問い詰めると、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、しどろもどろになりながら弁明し始める。
「そ、それは――コンゴからの紛争鉱物を規制するよう法律や規則の整備を求めたり、人々にコンゴの紛争鉱物問題の現状を知って貰う為、啓発活動に努めたりして……」
「――啓発活動? つまり、集めた補助金や助成金、寄付金はコンゴの子供達に渡っておらず、紛争鉱物問題の現状を知って貰う為の啓発活動に用いられている訳だ……。何でそれが、コンゴの子供達の為になると思ってんの? ただ問題解決策を考えるだけの組織に成り下がってんじゃねーか!」
よくそんな体たらくで補助金や助成金を貰って当然見たいな顔できるな。
面の皮が厚すぎるだろ。つーか、なんでコンゴの子供達限定!?
紛争鉱物問題抱えている所なんて他にもあるだろ!
支援はどこにいった!?
全然、コンゴの子供達を助ける為に補助金や寄付金、使ってね―じゃねーか!
普通、貰えねーよ。地域振興に係るならともかく、そんな社会活動家がやるような活動を支援する為に補助金なんか出ねーよ!
俺達の血税が活動家の活動資金になっているというだけで、頭がおかしくなりそうだ。
おそらく最初は本当にコンゴの紛争鉱物問題解決の為にどんな支援ができるのか考え行動していたのだろう。非営利法人立ち上げ当初は、碌に寄付金も集まらずこの世の不条理に嘆いていた筈だ。
しかし、政治団体と繋がりを持った事により状況が変わった。
政治団体経由に働きかけ都知事を動かした事で、寄付に頼らなくとも億単位の補助金が下りる様になり、感覚が狂ってしまったのだろう。『本来これは誰がやるべき仕事なのか。やるべき人がやらないから私が(過剰な……そもそも支給されるべきではない)補助金や助成金を貰いやってやっているんだ』と……。
他に活動する同じ様な団体の方がまだマシな活動をしているぞ。
そもそも、国が国際経済協力という形で人道支援を行うならまだしも、国や地方自治体が非営利法人に補助金や助成金を支給し、支援させるという時点で意味が分からん。
環境活動家の一人として、紛争鉱物問題に目を向け問題意識を持ち、寄付を募り、コンゴの子供達に人道支援をしたいというなら勝手にすればいい。
だが、環境活動家としての活動をするためにコンゴの子供達を利用し、補助金や助成金を詐取するのは許さん。補助金の原資は血税だ。
今すぐ手を床につき泣いて詫びろ。
詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。
寄付金以外の国や地方自治体から詐取した補助金や助成金に延滞税加算し、全額返済した上で詫びろ。二度と、補助金や助成金を詐取しませんと誓い、刑に服せ。
すると、白石は手に持った包丁を震わせながら言う。
「――今まで紛争鉱物問題に対して何の興味も関心も示さなかった奴にそんな事言われたくない。啓発活動も立派な活動でしょ! 日本がコンゴから紛争鉱物を購入しなければ……日本が海外の様に紛争鉱物取引規制を導入すれば、結果としてコンゴの子供達は救われる。だから――」
「だから、国や地方公共団体から受け取った補助金や助成金。コンゴの子供達を助ける為に集めた寄付金を目的外使用しても問題ないってか? んな訳ねーだろ、アホかお前は!」
「な、なんですって!」
補助金の目的外利用は、三年以下の懲役もしくは五十万円以下の罰金が科せられる立派な犯罪だ。
それを知ってか知らずか、都合のいい情報ばかりを集め、虚飾で彩る時点でお笑い草。結局の所、自分の活動を正当化したいだけ。
少なくとも、紛争鉱物問題は国が扱うべき問題であって、非営利法人が国や地方自治体から補助金や助成金を受け取ってやるべき問題じゃない。
「――殺す。絶対に殺す。殺してやる……!」
目が本気だ。本気と書いてマジと読む。
血税受け取っておいて、正論ぶつけられたら発狂するとか意味が分からん。
「…………」
無言でいると、包丁を持った白石がふらつきながら近付いてくる。
そして、徐々に足早になると「死ねぇぇぇぇ!」と言いながら俺に包丁を突き付けてきた。
どうやら俺の事を本気で刺し殺す気らしい。でも、残念。
吸い込まれるかの様に刃が俺の腹に刺さると思いきや、背後から無色透明な手が伸び、俺の脇腹をかすめる形で包丁が壁に深々と刺さる。
「――はい。残念でしたぁ」
俺には、ヘルヘイムを治める神、ヘルの守護がある。
そう言って笑うと、白石はハッとした表情を浮かべる。
「な、なんで……確かに刺したと思ったのに……! 殺したと思ったのにっ!!」
そして、言質ゲーット!
明確な殺意があった訳ですね?
これで殺人未遂成立だ。
殺人未遂は、殺害行為に及んだものの被害者が死亡しなかった場合に成立する。
そこに被害者負傷の有無は関係ない。
ありがとう。俺の思惑通りに動いてくれて……。
正直、お前みたいな活動家は厄介過ぎる。
脱税で刑事罰を受けるにしても実刑判決を受けるとは限らない。
懲役になる基準が曖昧だからな。しかし、殺人未遂の場合は話が別だ。
死刑または無期、もしくは五年以上の有期懲役。初犯だからといって、執行猶予が付く事はまずない。
「さて、茶番はもう終わりにしよう」
そう告げると、丁度よく警備員が駆け付けてきた。
「刃物を持っているぞ!」
「取り押さえろ!」
迅速な判断だ。流石は俺が配置した警備員。
態々、金を支払って雇い入れただけの事はある。
「触るな! 触らないで! セクハラで訴えるわよ! 私に触るなぁぁぁぁ!」
駆け付けてきた警備員を見て、白石は狼狽する。
しかし、残念。
確かに、不用意に体を触った場合、セクハラ認定されるだろう。だが、刃物を持った犯罪者を捕らえる場合は話が別だ。人はこれを私人逮捕という。
「離せ。離せよ! 捕らえるべきは私じゃなくて、あの男でしょ! あの男を捕えなさいよ! あの男を! あの男が私を刺そうとしたのよ!」
必死に罪を擦り付けようとしているが、残念。俺を掠める形で壁に刺さった包丁に目撃者。何より、この状況を抑えた隠しカメラがある限り俺の優位は揺るがない。
加害者の分際で、加害の事実を擦り付け被害者振るとはお笑いだ。面白過ぎて反吐が出る。
あの男が私を刺そうとした?
馬鹿を言うな。俺は、お前みたいな気狂いとは違うのだよ。
俺が人を社会的に抹殺するなら、突発的な感情に流されず入念に準備してからにする。
例えば、元理事長の長谷川が理事長室を開けた後を狙って隠しカメラを設置し、決定的な瞬間撮影後、無事、白石の奴を確保できるよう自前で用意した警備員を配置したり、このビルの管理会社が手配した警備員だと万が一がある為、金を惜しまず、態々、自前の警備員を用意したりして、その上でお前を確保しようとするだろう。今のようにな。
メンヘラに常識は通用しない。
俺の殺害に失敗したら、絶対に罪を擦りつけてくると思っていたよ。
つーか、万が一、俺の殺害に成功していた場合、どうするつもりだったんだ?
チラリと廊下に視線を向けると、長谷川の姿が目に映る。
なるほど……おあつらえ向きな老害がいたか。
まあ、このもしも論に意味はない。
警備員が白石を取り押さえた事を確認すると、白石と同じ目線で話をする為、しゃがみ込んだ。
「さて、白石さん。話し合いをしましょうか?」
そう優しく問いかけると白石は怒りを露わに発言する。
「……話す事なんて何もないわ。いいから、今すぐ私を解放しなさい!」
話す事はない? それは困った。
「その場合、証拠と共にあなたを警察に突き出す事になりますが……それでもいいんですか?」
笑顔でそう言うと、白石の顔が引き攣る。
どうやら、まだシャバに未練があるらしい。
「そういえば、白石さんって、今、何歳でしたっけ? ああ、セクハラ認定されたくないので、答えたくなければ答えなくていいですよ。しかし、刑務所から出てきた時には浦島太郎ですか……」
「……何がいいたいのよ」
「いえ、頼れる人もいない。賞罰が仇となって就職もままならない。活動家としての活動も疎まれる。俺は今、あなたの送る今後の人生を憂いているんです」
仕掛けていた隠しカメラの動画チェックをしながらそう言うと、白石は無言の視線を送ってくる。
「俺はね。白石さんの行動力だけは買ってるんですよ?」
環境活動家としては全然、買ってないけどね。
「白石さんには、今、二つの道がある。一つ目の道はすべてを失う浦島太郎への道。二つ目の道は不正受給していたあなた自身が反面教師となり、国や地方自治体に補助金や助成金の在り方を訴えかける社会活動家の道……」
当然、俺が用意した二つの道なので、罪は帳消し、これまで通り環境活動家として活動する事が許される欲張りバリューセットの様な道は残していない。
「……どちらの道がお好みですか?」
そう問いかけると、白石は歯を食いしばり渋面を浮かべた。
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次回は2023年9月8日AM7時更新となります。
「――暴力団なんかと繋がりたくなかった。脱税だってそう、そうしなきゃどうしようもない理由があった? はあっ? 何を言っているんだお前は?? 確かに、お前は当初、社会を変える為に活動していたのかも知れない。だが、今は違うだろ? 暴力団員と繋がりをもってしまったのは、手足となって泥を被ってくれる活動家達を守るため……、国や地方自治体から受け取っている補助金や助成金を目的外利用したり、謝礼を水増ししたり、本来、収益事業として計上すべき売上を公益事業に振り替え脱税したりして二億貯めたのは、貯めこんだ裏金で土地を買いビルを建て、いつ打ち切られるかも分からない補助金や助成金に頼る生活から抜け出すため。……お前、そのコンゴの子供達を救う為に、集めた補助金や助成金の中から一体、どれだけの支援金を使った?」
調べた限り、環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』のコンゴ支援は数年前に終わっている。
ホームページや活動報告書には、未だ、コンゴの子供達の為に公金や寄付金を使い支援しているかの様なことが書いてあるが、すべて嘘だ。
支援活動なんて一切していないにも拘らず、壊れたラジオの様に『コンゴの子供達の為に――』と叫び、補助金や寄付金を詐取。それを環境活動家としての活動資金として利用する迷惑なおばさんに成り果てている。
「なあ、聞こえてる? コンゴの子供達の為にどれだけの支援金を使ったのか聞いてるんだけど?」
そう問い詰めると、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、しどろもどろになりながら弁明し始める。
「そ、それは――コンゴからの紛争鉱物を規制するよう法律や規則の整備を求めたり、人々にコンゴの紛争鉱物問題の現状を知って貰う為、啓発活動に努めたりして……」
「――啓発活動? つまり、集めた補助金や助成金、寄付金はコンゴの子供達に渡っておらず、紛争鉱物問題の現状を知って貰う為の啓発活動に用いられている訳だ……。何でそれが、コンゴの子供達の為になると思ってんの? ただ問題解決策を考えるだけの組織に成り下がってんじゃねーか!」
よくそんな体たらくで補助金や助成金を貰って当然見たいな顔できるな。
面の皮が厚すぎるだろ。つーか、なんでコンゴの子供達限定!?
紛争鉱物問題抱えている所なんて他にもあるだろ!
支援はどこにいった!?
全然、コンゴの子供達を助ける為に補助金や寄付金、使ってね―じゃねーか!
普通、貰えねーよ。地域振興に係るならともかく、そんな社会活動家がやるような活動を支援する為に補助金なんか出ねーよ!
俺達の血税が活動家の活動資金になっているというだけで、頭がおかしくなりそうだ。
おそらく最初は本当にコンゴの紛争鉱物問題解決の為にどんな支援ができるのか考え行動していたのだろう。非営利法人立ち上げ当初は、碌に寄付金も集まらずこの世の不条理に嘆いていた筈だ。
しかし、政治団体と繋がりを持った事により状況が変わった。
政治団体経由に働きかけ都知事を動かした事で、寄付に頼らなくとも億単位の補助金が下りる様になり、感覚が狂ってしまったのだろう。『本来これは誰がやるべき仕事なのか。やるべき人がやらないから私が(過剰な……そもそも支給されるべきではない)補助金や助成金を貰いやってやっているんだ』と……。
他に活動する同じ様な団体の方がまだマシな活動をしているぞ。
そもそも、国が国際経済協力という形で人道支援を行うならまだしも、国や地方自治体が非営利法人に補助金や助成金を支給し、支援させるという時点で意味が分からん。
環境活動家の一人として、紛争鉱物問題に目を向け問題意識を持ち、寄付を募り、コンゴの子供達に人道支援をしたいというなら勝手にすればいい。
だが、環境活動家としての活動をするためにコンゴの子供達を利用し、補助金や助成金を詐取するのは許さん。補助金の原資は血税だ。
今すぐ手を床につき泣いて詫びろ。
詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。詫びろ。
寄付金以外の国や地方自治体から詐取した補助金や助成金に延滞税加算し、全額返済した上で詫びろ。二度と、補助金や助成金を詐取しませんと誓い、刑に服せ。
すると、白石は手に持った包丁を震わせながら言う。
「――今まで紛争鉱物問題に対して何の興味も関心も示さなかった奴にそんな事言われたくない。啓発活動も立派な活動でしょ! 日本がコンゴから紛争鉱物を購入しなければ……日本が海外の様に紛争鉱物取引規制を導入すれば、結果としてコンゴの子供達は救われる。だから――」
「だから、国や地方公共団体から受け取った補助金や助成金。コンゴの子供達を助ける為に集めた寄付金を目的外使用しても問題ないってか? んな訳ねーだろ、アホかお前は!」
「な、なんですって!」
補助金の目的外利用は、三年以下の懲役もしくは五十万円以下の罰金が科せられる立派な犯罪だ。
それを知ってか知らずか、都合のいい情報ばかりを集め、虚飾で彩る時点でお笑い草。結局の所、自分の活動を正当化したいだけ。
少なくとも、紛争鉱物問題は国が扱うべき問題であって、非営利法人が国や地方自治体から補助金や助成金を受け取ってやるべき問題じゃない。
「――殺す。絶対に殺す。殺してやる……!」
目が本気だ。本気と書いてマジと読む。
血税受け取っておいて、正論ぶつけられたら発狂するとか意味が分からん。
「…………」
無言でいると、包丁を持った白石がふらつきながら近付いてくる。
そして、徐々に足早になると「死ねぇぇぇぇ!」と言いながら俺に包丁を突き付けてきた。
どうやら俺の事を本気で刺し殺す気らしい。でも、残念。
吸い込まれるかの様に刃が俺の腹に刺さると思いきや、背後から無色透明な手が伸び、俺の脇腹をかすめる形で包丁が壁に深々と刺さる。
「――はい。残念でしたぁ」
俺には、ヘルヘイムを治める神、ヘルの守護がある。
そう言って笑うと、白石はハッとした表情を浮かべる。
「な、なんで……確かに刺したと思ったのに……! 殺したと思ったのにっ!!」
そして、言質ゲーット!
明確な殺意があった訳ですね?
これで殺人未遂成立だ。
殺人未遂は、殺害行為に及んだものの被害者が死亡しなかった場合に成立する。
そこに被害者負傷の有無は関係ない。
ありがとう。俺の思惑通りに動いてくれて……。
正直、お前みたいな活動家は厄介過ぎる。
脱税で刑事罰を受けるにしても実刑判決を受けるとは限らない。
懲役になる基準が曖昧だからな。しかし、殺人未遂の場合は話が別だ。
死刑または無期、もしくは五年以上の有期懲役。初犯だからといって、執行猶予が付く事はまずない。
「さて、茶番はもう終わりにしよう」
そう告げると、丁度よく警備員が駆け付けてきた。
「刃物を持っているぞ!」
「取り押さえろ!」
迅速な判断だ。流石は俺が配置した警備員。
態々、金を支払って雇い入れただけの事はある。
「触るな! 触らないで! セクハラで訴えるわよ! 私に触るなぁぁぁぁ!」
駆け付けてきた警備員を見て、白石は狼狽する。
しかし、残念。
確かに、不用意に体を触った場合、セクハラ認定されるだろう。だが、刃物を持った犯罪者を捕らえる場合は話が別だ。人はこれを私人逮捕という。
「離せ。離せよ! 捕らえるべきは私じゃなくて、あの男でしょ! あの男を捕えなさいよ! あの男を! あの男が私を刺そうとしたのよ!」
必死に罪を擦り付けようとしているが、残念。俺を掠める形で壁に刺さった包丁に目撃者。何より、この状況を抑えた隠しカメラがある限り俺の優位は揺るがない。
加害者の分際で、加害の事実を擦り付け被害者振るとはお笑いだ。面白過ぎて反吐が出る。
あの男が私を刺そうとした?
馬鹿を言うな。俺は、お前みたいな気狂いとは違うのだよ。
俺が人を社会的に抹殺するなら、突発的な感情に流されず入念に準備してからにする。
例えば、元理事長の長谷川が理事長室を開けた後を狙って隠しカメラを設置し、決定的な瞬間撮影後、無事、白石の奴を確保できるよう自前で用意した警備員を配置したり、このビルの管理会社が手配した警備員だと万が一がある為、金を惜しまず、態々、自前の警備員を用意したりして、その上でお前を確保しようとするだろう。今のようにな。
メンヘラに常識は通用しない。
俺の殺害に失敗したら、絶対に罪を擦りつけてくると思っていたよ。
つーか、万が一、俺の殺害に成功していた場合、どうするつもりだったんだ?
チラリと廊下に視線を向けると、長谷川の姿が目に映る。
なるほど……おあつらえ向きな老害がいたか。
まあ、このもしも論に意味はない。
警備員が白石を取り押さえた事を確認すると、白石と同じ目線で話をする為、しゃがみ込んだ。
「さて、白石さん。話し合いをしましょうか?」
そう優しく問いかけると白石は怒りを露わに発言する。
「……話す事なんて何もないわ。いいから、今すぐ私を解放しなさい!」
話す事はない? それは困った。
「その場合、証拠と共にあなたを警察に突き出す事になりますが……それでもいいんですか?」
笑顔でそう言うと、白石の顔が引き攣る。
どうやら、まだシャバに未練があるらしい。
「そういえば、白石さんって、今、何歳でしたっけ? ああ、セクハラ認定されたくないので、答えたくなければ答えなくていいですよ。しかし、刑務所から出てきた時には浦島太郎ですか……」
「……何がいいたいのよ」
「いえ、頼れる人もいない。賞罰が仇となって就職もままならない。活動家としての活動も疎まれる。俺は今、あなたの送る今後の人生を憂いているんです」
仕掛けていた隠しカメラの動画チェックをしながらそう言うと、白石は無言の視線を送ってくる。
「俺はね。白石さんの行動力だけは買ってるんですよ?」
環境活動家としては全然、買ってないけどね。
「白石さんには、今、二つの道がある。一つ目の道はすべてを失う浦島太郎への道。二つ目の道は不正受給していたあなた自身が反面教師となり、国や地方自治体に補助金や助成金の在り方を訴えかける社会活動家の道……」
当然、俺が用意した二つの道なので、罪は帳消し、これまで通り環境活動家として活動する事が許される欲張りバリューセットの様な道は残していない。
「……どちらの道がお好みですか?」
そう問いかけると、白石は歯を食いしばり渋面を浮かべた。
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「最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
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