281 / 373
第281話 俺を敵に回さなければ、すべてを失わずに済んだものを……③
しおりを挟む
大正解。聞けば、この部屋は書記が議事録を作成する為に利用している見たいじゃないか。だから、設定させて貰った。補欠理事として誰よりも早く来社し、評議員や理事の待合室としても利用されているこの部屋の会議用ディスプレイの内蔵カメラとマイクをオンにしてな……。
エレメンタルの調査力を舐めるな。
お前の行動パターンはすべて俺に筒抜けなんだよ。
まあ、この展開に持っていく為、様々な策をろうじたが、まさか、もう一人の当事者である白石までここに来て、暴力団員との関係を自分から暴露するとは思いもしなかった。しかも、暴力団員との関係を盛りに盛った状態で……もしかして、脅迫するつもりだったのか?
自ら墓穴を掘りまくるとは、事実は小説よりも奇なりとよく言ったものだ。
自ら墓を用意し、自ら埋葬されにいくスタイルらしい。
これが破滅願望の持ち主か、初めて見た。
「おい! 私の話を聞いているのか! いいから私の質問に答えろ!」
太々しい奴だ。それを聞いて何になるというのだろうか?
取り敢えず、故意にやった訳ではないと身の潔白を証明しておく。
「あー、評議会開催まで時間があったので、テレビを見ようと思って。その時、間違えて設定しちゃったんですかね? どうもすいません」
白々しくそう告げると、長谷川は顔を真っ赤に染める。
「――ふ、巫山戯るなぁぁぁぁ! そんな筈がないだろう! 貴様、自分が何をやったか分かっているのかぁぁぁぁ! お前のせいで私は……私はぁぁぁぁ!」
公金を私的流用していた詐欺師が、自らの行いを顧みず、『お前のせい』と責任転嫁してくるとは、中々、香ばしい。
「巫山戯るな? そりゃあこっちのセリフだろ。何、協会の金を私的流用して偉そうなツラしてんだ。むしろ自分の行いを反省しろよ。犯罪者」
「は、犯罪者だとっ!?」
犯罪者というお気に召さなかったらしい。
「犯罪者じゃなきゃ詐欺師か? 法人に虚偽の申請をし、金銭を騙し取っている時点で犯罪だろ。加えて、法人から巻き上げた金を評議員に金を配って自分の地位を守ろうとしたんだ。贈収賄に特別背任、虚偽文書行使に法人の財産処分に関する罪と……あーあー、理事長ともあろう者が犯罪行為に手を染める何て恥ずかしいと思わないのかねぇ? それとも、バレなきゃいいとでも思ってた? 他の団体もやっている事だとでも?」
「ぐっ、い、言いたい放題言いおって……!」
最近、似た様な反応をどこかで見た様な気がする。
どこの神様だったかな?
まあ、煽りに乗って怒り狂う奴は大体、こういう反応する。気にするだけ無駄か。
俺の煽りを受けプルプル震える長谷川。その横では、環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』の発起人、白石美穂子も長谷川と同様、プルプル震えていた。
「あなた……こんな事をしてタダで済むと思っているの?」
どうやら俺が(故意に)間違えて会議用ディスプレイのカメラとマイクをオンにした事に相当お怒りの様だ。ちょっとした些細なミスも許す事の出来ない完璧主義の人らしい。暴力団員との付き合いや裏金作りには寛容な癖に非常に心が狭い。
「うーん。タダで済むも何も、俺は不注意で会議用ディスプレイのカメラとマイクをオンにしてしまっただけなのですが、それに何の問題が? カメラとマイクがオンになっている事に気付かず、ご自身と暴力団員との関係を意気揚々と話しだしたのはあなたでしょう?」
俺は一切悪くない。
悪いのは、非営利法人に集まった補助金や助成金を目的外使用し、裏金を貯め脱税していた、暴力団員と深い繋がりのある白石と、公益社団法人から金を巻き上げ、その金を評議員に還流し自分の地位を買っていた長谷川の二人。そして、それに協力していた評議員達だけだ。
「それに、弁解するべきは俺にではなく評議員の方々に対してでは? このままじゃ、地位も金も何もかもを失ってしまいますよ?」
そう告げると、初めてその問題を認識したのか、二人は顔を硬らせ会議用ディスプレイに縋りつく様にして弁解し始める。
「――ち、違うんです! 先ほどの発言は、理事長との交渉を少しでも有利に行えるよう、マウントを取ろうとしただけで……」
「わ、私も違う! 私的流用なんて知らん。知らんぞ! 仮に、その金が評議員に渡っていたとしても、一度は私の手に渡った金だ! 普段、お世話になっている方にお礼を渡す事の何が悪い。何が悪い!!」
あははははっ!
理事の座から転げ落ちそうになって、椅子の足を必死に掴もうとするとは滑稽だ。
しかも、双方共に何を言っているのか理解不能ときた。
今、自分がどんな発言をしてるか客観視できているか?
マウント取ろうとして暴力団員との関係を臭わせたり、『仮に』と言って私的流用を正当化しようとしたり、認知が歪んでいないか心配になるレベルで、とんでもない事を言っているぞ?
懸命になって私は悪くないと自己弁護する二人を見て、モニターに映る評議員達は呆れた表情を浮かべた。
『――評議会を始める前に分かって良かった……』
『ええ、暴力団と繋がりのある理事候補に、協会の金を私的流用する理事長。その金を受け取る評議員ですか……』
『君達も同罪だぞ。賄賂を貰うだなんて恥を知りなさい!』
モニター越しに、長谷川から賄賂を受け取った評議員が顔を下に向けバツの悪そうな顔をするのが見える。
賄賂を渡せば、贈賄罪。賄賂を受け取れば、収賄罪。
理事長の浅はかな行いにより評議員の過半数が、訴えれば罪に問えてしまう状況に置かれてしまった。
理事長、あんたすげーよ。
どうやったら、こんなに犯罪者を……いや、今はまだ容疑者か。容疑者を量産できるんだ?
あんたの味方らしき評議員、皆、顔が真っ青になっているぞ。
対照的にマトモな評議員達は憤怒の表情を浮かべている。
『……補欠理事を選んでいて本当に良かった。さて、そろそろ定刻になる。君達も早く会議室にきたまえ』
「はい。すぐに参ります」
意気揚々に返事し、会議用ディスプレイの電源を落とすと、二人が俺を睨み付けてくる。
「どうしました? 早く行きましょうよ。それとも、評議会を欠席しますか? その場合、相応の理由が必要となりますが?」
やむを得ない事由がある場合を除き、理事は、評議会に出席しなければならない。
これは公益財団法人の規則でそう定められている。
理事候補である白石はともかく、代表理事である長谷川は評議会に参加しなくてはならない。つまりは、公開処刑だ。
「あなたの顔、覚えましたからね……」
おお、怖い。暴力団員と深い繋がりのある白石に顔、覚えられちゃったよ。
「もしかして、脅してます? 暴力団員とか嗾しかけられちゃうんでしょうかね?」
それはとても楽しみだ。
まあ、どうせ不可能だろうけど。
仮に、嗾けられても俺にはエレメンタルが付いている。
万が一、嗾けれたら、嗾けた暴力団員全員をボコボコにした上で、お前の住むマンションに送りつけてやるよ。俺も、お前の顔、覚えたからな。
薄笑いを浮かべながらそう言うと、白石はこめかみに青筋を浮かべ、般若の様な形相を浮かべる。
暴力団員を嗾しかける事ができないと分かっているからか、白石の発した虚勢がいつにも増してより滑稽で面白く感じる。こういう発言を総じて、負け犬の遠吠えと言うのだろう。
白石は、無言で俺の横を素通りすると、会議室に向かっていく。
「それで、あんたはいいのか?」
理事長であり続ける為、評議員に直接、弁解できるチャンスはこれが最後だよ?
これを逃すと、お前はただの犯罪者になってしまうが、参加しなくていいのか?
そう尋ねると、長谷川も俺を睨み付けてくる。
「……私を舐めるな。貴様の思い通りにはさせんからな」
「へえ……」
それならまあ頑張って、俺も補欠理事の一人として評議会に参加する。
その場でどんな弁解をするのか今から楽しみだ。
「それじゃあ、会議室に向かいますか」
憤怒の表情を浮かべ、部屋を出て行く長谷川を尻目に、俺も会議室に向かう為、部屋の扉を閉じた。
◇◆◇
ここは公益財団法人アース・ブリッジ協会の会議室。会議室には、理事と評議員が勢揃い。その半数が、頭を抱え苦悩していた。
「――さて、定刻になりましたので、評議会を始めたいと思います。本日は、皆様。何かとご多忙の中、評議会にご出席頂き誠にありがとうございます。評議会の開会に先立ち、まずは長谷川代表理事。先ほど、発覚した資金流用の件で、我々に説明しておきたい事はありますか?」
議長の言葉を受け、長谷川は席を立つ。
「当然だ。先ほどの話が何を指すのか理解に苦しむが、私は疾しい事など一切していない。評議員に賄賂を配ったというのも事実無根であるという事を主張させて頂きます」
長谷川の堂々とした態度に汚職評議員は活路を見出したと言わんばかりに目を輝かせる。
ちょっと、何を言っているのか理解できない。
お前、さっきと言っている事が全然違うだろ。何、事実無根という言葉一つで話を終わらせようとしてるんだ?
「そうですか……理事候補の白石さんは如何です?」
「当然、私も無実を主張致します。そもそも、暴力団と深い繋がりをどうやって得るというのですか? あれは私の事を陥れたい敵対勢力によるデマです。私も理事長と同様、身の潔白を主張させて頂きます」
自ら発していた事をデマと断じるとは、流石は、暴力団員と深い繋がりのある白石理事候補である。あれほどの醜態を晒しておいて無実を主張するとは大したものだ。評議会の進行を務める議長が苦い表情を浮かべている。
素直に謝罪しておけばマトモな評議員達の同情を買う事ができたというのに愚かな奴等である。
「――君達は、これを見て同じ事を言えるのかね?」
議長はテーブルに置かれた書類を手に取ると、二人にそれを確認するよう促す。
「ふん。これがなんだと――うん?」
「まったくですわ――えっ?」
そう言って書類に視線を向けると、二人は盛大に顔を引き攣らせた。
そこには、白石が長谷川を脅迫する為に持ってきた書類、そして、白石の運営する法人の脱税と暴力団員との関係性が書かれた書類のコピーが置かれていた。
---------------------------------------------------------------
次回は2023年8月21日AM7時更新となります。
エレメンタルの調査力を舐めるな。
お前の行動パターンはすべて俺に筒抜けなんだよ。
まあ、この展開に持っていく為、様々な策をろうじたが、まさか、もう一人の当事者である白石までここに来て、暴力団員との関係を自分から暴露するとは思いもしなかった。しかも、暴力団員との関係を盛りに盛った状態で……もしかして、脅迫するつもりだったのか?
自ら墓穴を掘りまくるとは、事実は小説よりも奇なりとよく言ったものだ。
自ら墓を用意し、自ら埋葬されにいくスタイルらしい。
これが破滅願望の持ち主か、初めて見た。
「おい! 私の話を聞いているのか! いいから私の質問に答えろ!」
太々しい奴だ。それを聞いて何になるというのだろうか?
取り敢えず、故意にやった訳ではないと身の潔白を証明しておく。
「あー、評議会開催まで時間があったので、テレビを見ようと思って。その時、間違えて設定しちゃったんですかね? どうもすいません」
白々しくそう告げると、長谷川は顔を真っ赤に染める。
「――ふ、巫山戯るなぁぁぁぁ! そんな筈がないだろう! 貴様、自分が何をやったか分かっているのかぁぁぁぁ! お前のせいで私は……私はぁぁぁぁ!」
公金を私的流用していた詐欺師が、自らの行いを顧みず、『お前のせい』と責任転嫁してくるとは、中々、香ばしい。
「巫山戯るな? そりゃあこっちのセリフだろ。何、協会の金を私的流用して偉そうなツラしてんだ。むしろ自分の行いを反省しろよ。犯罪者」
「は、犯罪者だとっ!?」
犯罪者というお気に召さなかったらしい。
「犯罪者じゃなきゃ詐欺師か? 法人に虚偽の申請をし、金銭を騙し取っている時点で犯罪だろ。加えて、法人から巻き上げた金を評議員に金を配って自分の地位を守ろうとしたんだ。贈収賄に特別背任、虚偽文書行使に法人の財産処分に関する罪と……あーあー、理事長ともあろう者が犯罪行為に手を染める何て恥ずかしいと思わないのかねぇ? それとも、バレなきゃいいとでも思ってた? 他の団体もやっている事だとでも?」
「ぐっ、い、言いたい放題言いおって……!」
最近、似た様な反応をどこかで見た様な気がする。
どこの神様だったかな?
まあ、煽りに乗って怒り狂う奴は大体、こういう反応する。気にするだけ無駄か。
俺の煽りを受けプルプル震える長谷川。その横では、環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』の発起人、白石美穂子も長谷川と同様、プルプル震えていた。
「あなた……こんな事をしてタダで済むと思っているの?」
どうやら俺が(故意に)間違えて会議用ディスプレイのカメラとマイクをオンにした事に相当お怒りの様だ。ちょっとした些細なミスも許す事の出来ない完璧主義の人らしい。暴力団員との付き合いや裏金作りには寛容な癖に非常に心が狭い。
「うーん。タダで済むも何も、俺は不注意で会議用ディスプレイのカメラとマイクをオンにしてしまっただけなのですが、それに何の問題が? カメラとマイクがオンになっている事に気付かず、ご自身と暴力団員との関係を意気揚々と話しだしたのはあなたでしょう?」
俺は一切悪くない。
悪いのは、非営利法人に集まった補助金や助成金を目的外使用し、裏金を貯め脱税していた、暴力団員と深い繋がりのある白石と、公益社団法人から金を巻き上げ、その金を評議員に還流し自分の地位を買っていた長谷川の二人。そして、それに協力していた評議員達だけだ。
「それに、弁解するべきは俺にではなく評議員の方々に対してでは? このままじゃ、地位も金も何もかもを失ってしまいますよ?」
そう告げると、初めてその問題を認識したのか、二人は顔を硬らせ会議用ディスプレイに縋りつく様にして弁解し始める。
「――ち、違うんです! 先ほどの発言は、理事長との交渉を少しでも有利に行えるよう、マウントを取ろうとしただけで……」
「わ、私も違う! 私的流用なんて知らん。知らんぞ! 仮に、その金が評議員に渡っていたとしても、一度は私の手に渡った金だ! 普段、お世話になっている方にお礼を渡す事の何が悪い。何が悪い!!」
あははははっ!
理事の座から転げ落ちそうになって、椅子の足を必死に掴もうとするとは滑稽だ。
しかも、双方共に何を言っているのか理解不能ときた。
今、自分がどんな発言をしてるか客観視できているか?
マウント取ろうとして暴力団員との関係を臭わせたり、『仮に』と言って私的流用を正当化しようとしたり、認知が歪んでいないか心配になるレベルで、とんでもない事を言っているぞ?
懸命になって私は悪くないと自己弁護する二人を見て、モニターに映る評議員達は呆れた表情を浮かべた。
『――評議会を始める前に分かって良かった……』
『ええ、暴力団と繋がりのある理事候補に、協会の金を私的流用する理事長。その金を受け取る評議員ですか……』
『君達も同罪だぞ。賄賂を貰うだなんて恥を知りなさい!』
モニター越しに、長谷川から賄賂を受け取った評議員が顔を下に向けバツの悪そうな顔をするのが見える。
賄賂を渡せば、贈賄罪。賄賂を受け取れば、収賄罪。
理事長の浅はかな行いにより評議員の過半数が、訴えれば罪に問えてしまう状況に置かれてしまった。
理事長、あんたすげーよ。
どうやったら、こんなに犯罪者を……いや、今はまだ容疑者か。容疑者を量産できるんだ?
あんたの味方らしき評議員、皆、顔が真っ青になっているぞ。
対照的にマトモな評議員達は憤怒の表情を浮かべている。
『……補欠理事を選んでいて本当に良かった。さて、そろそろ定刻になる。君達も早く会議室にきたまえ』
「はい。すぐに参ります」
意気揚々に返事し、会議用ディスプレイの電源を落とすと、二人が俺を睨み付けてくる。
「どうしました? 早く行きましょうよ。それとも、評議会を欠席しますか? その場合、相応の理由が必要となりますが?」
やむを得ない事由がある場合を除き、理事は、評議会に出席しなければならない。
これは公益財団法人の規則でそう定められている。
理事候補である白石はともかく、代表理事である長谷川は評議会に参加しなくてはならない。つまりは、公開処刑だ。
「あなたの顔、覚えましたからね……」
おお、怖い。暴力団員と深い繋がりのある白石に顔、覚えられちゃったよ。
「もしかして、脅してます? 暴力団員とか嗾しかけられちゃうんでしょうかね?」
それはとても楽しみだ。
まあ、どうせ不可能だろうけど。
仮に、嗾けられても俺にはエレメンタルが付いている。
万が一、嗾けれたら、嗾けた暴力団員全員をボコボコにした上で、お前の住むマンションに送りつけてやるよ。俺も、お前の顔、覚えたからな。
薄笑いを浮かべながらそう言うと、白石はこめかみに青筋を浮かべ、般若の様な形相を浮かべる。
暴力団員を嗾しかける事ができないと分かっているからか、白石の発した虚勢がいつにも増してより滑稽で面白く感じる。こういう発言を総じて、負け犬の遠吠えと言うのだろう。
白石は、無言で俺の横を素通りすると、会議室に向かっていく。
「それで、あんたはいいのか?」
理事長であり続ける為、評議員に直接、弁解できるチャンスはこれが最後だよ?
これを逃すと、お前はただの犯罪者になってしまうが、参加しなくていいのか?
そう尋ねると、長谷川も俺を睨み付けてくる。
「……私を舐めるな。貴様の思い通りにはさせんからな」
「へえ……」
それならまあ頑張って、俺も補欠理事の一人として評議会に参加する。
その場でどんな弁解をするのか今から楽しみだ。
「それじゃあ、会議室に向かいますか」
憤怒の表情を浮かべ、部屋を出て行く長谷川を尻目に、俺も会議室に向かう為、部屋の扉を閉じた。
◇◆◇
ここは公益財団法人アース・ブリッジ協会の会議室。会議室には、理事と評議員が勢揃い。その半数が、頭を抱え苦悩していた。
「――さて、定刻になりましたので、評議会を始めたいと思います。本日は、皆様。何かとご多忙の中、評議会にご出席頂き誠にありがとうございます。評議会の開会に先立ち、まずは長谷川代表理事。先ほど、発覚した資金流用の件で、我々に説明しておきたい事はありますか?」
議長の言葉を受け、長谷川は席を立つ。
「当然だ。先ほどの話が何を指すのか理解に苦しむが、私は疾しい事など一切していない。評議員に賄賂を配ったというのも事実無根であるという事を主張させて頂きます」
長谷川の堂々とした態度に汚職評議員は活路を見出したと言わんばかりに目を輝かせる。
ちょっと、何を言っているのか理解できない。
お前、さっきと言っている事が全然違うだろ。何、事実無根という言葉一つで話を終わらせようとしてるんだ?
「そうですか……理事候補の白石さんは如何です?」
「当然、私も無実を主張致します。そもそも、暴力団と深い繋がりをどうやって得るというのですか? あれは私の事を陥れたい敵対勢力によるデマです。私も理事長と同様、身の潔白を主張させて頂きます」
自ら発していた事をデマと断じるとは、流石は、暴力団員と深い繋がりのある白石理事候補である。あれほどの醜態を晒しておいて無実を主張するとは大したものだ。評議会の進行を務める議長が苦い表情を浮かべている。
素直に謝罪しておけばマトモな評議員達の同情を買う事ができたというのに愚かな奴等である。
「――君達は、これを見て同じ事を言えるのかね?」
議長はテーブルに置かれた書類を手に取ると、二人にそれを確認するよう促す。
「ふん。これがなんだと――うん?」
「まったくですわ――えっ?」
そう言って書類に視線を向けると、二人は盛大に顔を引き攣らせた。
そこには、白石が長谷川を脅迫する為に持ってきた書類、そして、白石の運営する法人の脱税と暴力団員との関係性が書かれた書類のコピーが置かれていた。
---------------------------------------------------------------
次回は2023年8月21日AM7時更新となります。
32
お気に入りに追加
1,105
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる