ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
244 / 381

第244話 その後の顛末

しおりを挟む
 窓の外をそっと見ると、マスコミが壊れた機材を抱え、右往左往している。
 局に連絡を取ろうにも、連絡を取る事ができず困惑している様だ。
 スマホも無事、文鎮化したようで、まったくもって、何よりである。

「――い、今の音は一体……」

 すると、外から聞こえてきた破壊音に驚いたのか、警察署長が謝罪そっちのけで窓の外を覗く。

「機材から煙が出ているし、どうやら、報道機材が壊れ困っているようですね」

 いけしゃあしゃあとそう言うと、新橋警察署の新警察署長はズーンと表情を曇らせた。
 新橋大学附属病院を出る際、「誤認逮捕してしまった者への謝罪は済ませた」的な取材を報道陣から受けるつもりだったのだろう。

 残念でした。させる訳がないだろ、そんな事。
 謝罪を受けただけで、受け入れた訳ではないのだ。今回の件、警察の対応を許す気は更々ない。ただ、個人的な報復が済んでいる為、謝罪を受けただけに過ぎない。
 まあ、報復が済んだ以上、こちらとしては、俺が許そうと思える時がくるまで、永遠に謝罪しろなどという恥知らずな要求は一切しないので、安心して欲しい。
 警察側も謝罪をしたというパフォーマンスが取れれば、それで満足なのだろう。それ以上の事は何も言わない筈だ。
 さて、警察署長の頭頂部を見るのはもう飽きた。
 そろそろ、お引き取り願おう。
 そう言うと、俺はベッドの上でのた打ち回る。

「ごほっ、ごほっ……! 誤認逮捕で逮捕されたストレスと、留置場に二日間も入れられたショックでストレス性の胃腸炎が……!」

 そう言いながら、ナースコールを押すと、コンシェルジュが部屋の中に入ってくる。

「――高橋翔さん、高橋翔さん!? 大丈夫ですか!? すぐに石井先生を呼んで! 早く! 大変危険な状態です。皆様は部屋の外でお待ち下さい」

 当然の事ながら、コンシェルジュさんには謝罪に来た警察署長を自然に追い払って貰うよう事前の打ち合わせをしてるので、俺がこんなバカみたいな演技をする事を知っている。

 皮肉と合わせて病気が併発したと思わせれば、流石の警察も当分の間、俺の前に姿を現す事もないだろう。

「――そ、それでは、私達はこれで失礼します。この度は誠に申し訳ございませんでした」

 慌てて特別個室を出て行く新警察署長を見送ると、コンシェルジュさんがピタリと演技を止める。

「……これでよろしかったでしょうか?」

 勿論、満足のいく演技だった。
 流石はコンシェルジュさんである。

「はい。ありがとうございます。とても助かりました」

 禊は済んでいる。対外的に謝罪は済んだとすんなり言われるのが癪だったので認めなかったが、新しく新橋警察署の警察署長に就任した人に謝罪を貰っても別に何も感じない。
 ただただ煩わしく思うだけだ。新警察署長に怨みはないしね。

「それでは、私はこれで失礼致します」

 そう言って退室していくコンシェルジュを見送ると、折角、集めたマスコミと共に退散していく新警察署長達を窓から見下ろしながら呟く。

「さて、ようやく雑事が片付いたし、そろそろ、レアメタル事業を本格稼働させるか……」

 村井元事務次官はゲーム世界に放置してきた。その後、どんな生活を送っているか分からないが、フレンドリストにある名前がグレーになっていない以上、とりあえず、生きてはいるのだろう。
 伍代は……まあどうでもいい。
 村井元事務次官をゲーム世界に放置してから三週間。多くの出来事があった。
 まず初めに、村井元事務次官が呼びかけ設立した一般社団法人やNPO法人はちゃんと活動していた一部の法人を残し、すべて解散となった。
 住民監査請求も異例の速さで開示され、これまで不正に受け取ってきた助成金や委託金すべてを返還する旨、勧告を出し、国税局査察部が動いた結果、恐ろしい金額の課徴金が掛かり解散せざるを得なくなったようだ。
 国庫に返納された金額たるや、七年間で約七十億円。
 流石は元事務次官が呼びかけ設立した公益法人だけの事はある。
 この事が問題となり、監督官庁の存在しなかった一般社団法人や都道府県に管轄権限のあったNPO法人に対し、財団法人と同じく監督官庁が付いた。
 これにより、一般社団法人とNPO法人は毎年、事業報告・予算書・決算書提出を義務付けられた。まあ元々、一般社団法人に監督官庁がないというのがあり得ない話だ。
 零細企業でも、財務諸表を作成し、これを元に銀行から融資を受けたり、納税の義務を果たしている。青色申告をしているフリーランスですら、複式簿記で帳簿を作成しているのだ。非営利型一般社団法人だから、非営利型NPO法人だからというのは全く理由になっていない。
 むしろそれが不正の温床になっていた訳だし、非営利型一般社団法人のメリットだけを享受しようなんて厚かましい。勿論、個人的にボランティアしようと思うなら話は別だが、ちゃんとした会計報告できないなら、最初から法人を設立するべきではないとすら俺は思う。

 俺もレアメタル事業を行うにあたって、その辺りの事はちゃんと行う予定だ。
 白色申告のままでいこうと思っているので、複式簿記ではなく単式簿記の超簡単な報告になるかも知れないけど、顧問税理士を雇う予定だし、まあ問題はないだろう。

 それともう一つ。
 この三週間で、北極圏に領土を持つ八カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国)が参加する国際協議団体、北極評議会で会議が開かれた。
 近々、こちら側の世界からゲーム世界に調査隊を送り込む事が決まったらしい。
 これには俺も危機感を覚えている。主に世界が崩壊してしまうのではないかという危機感を……。
 北極に突如出現したゲーム世界を球体に覆う薄い膜の中には巨大な毒蛇ヨルムンガルドの姿が確認されている。
 流石にあの大きさのヨルムンガルドを倒すのは、今の俺には不可能。核兵器を使ってワンチャンあるかないかとすら思っている。
 それほどまでにレベル制の恩恵はデカい。
 俺の場合、レベルアップによる基礎能力アップ以外、防御力にステ振りしていないので普通に刺されれば痛いし、当たり所によっては死ぬ事もある。
 世界の外側を回遊するヨルムンガルドの姿。あれはおそらく、隠しボスに相当するモンスター。レベルもステータスも計り知れないくらい強大な筈だ。
 あれを見て喧嘩を売る様な馬鹿がこの世界にいない事を切に願うばかりである。

 まあ、イザとなったらゲーム世界に逃げればいいし、まあいいか……。
 政治家や時の為政者の無謀な判断に付き合う義理は俺にない。

 そんな事を考えていると、スマホから『オープニング』の着信音が流れ出す。

「はい。高橋ですが……」
『――高橋君ですか? 大変です!』

 電話を取ると、耳元から会田さんの声が響いた。
 一体、何が大変なのだろうか?

「えっと、まずは落ち着いて……何があったの?」

 そう尋ねると、会田さんは――

『レアメタル事業の理事を勤める川島さんが逮捕されてしまったんですよ!』――と、大きな声を上げた。

 どうやら川島の奴が逮捕されたらしい。
 村井元事務次官の手の者に暗殺されそうになったり、逮捕されたりと落ち着きがない奴である。本当に元キャリア国家公務員なのだろうかる
 とはいえ、原因は既に分かっている為、逮捕された事自体驚かない。

「そっか……それで?」
『――えっ?』

 そう答えると、何故か疑問符で返された。

「ああ、そっか……」

 よく考えて見れば、会田さんにはまだ何も話してなかった様な気がする。
 最近、色々な事が起き過ぎて、どうでもいい事は忘れちゃうんだよね。

『えっと、そっかとは一体……』
「いや、そう言えば、会田さんには話してなかったなと思ってさ」

 そう言うと、俺は会田さんに事情を説明する事にした。

「実は先日、川島からレアメタルの納入業者から納入量に応じてキックバックを貰うことにした連絡があってね。どうやら前金として一億円貰ってしまったようなんだ」
『――はっ? 直接本人から業務上横領の報告があったんですか?』
「うん。そうだよ? 良心の呵責に耐え切れなかったんだろうね。自分から警察に行くっていうから、俺も川島の気持ちを忖度し、後押しする為、刑事告発して上げたんだ」

 刑事告発といっても、警察に被害届を出しただけだ。
 業務上横領は、被害を受けた人または会社が捜査機関に被害を申告しない限り、横領犯が逮捕される事はない。
 キックバックの金額も億を超えていて中々、巨額だったので業務上横領罪の最大の法定刑十年の懲役刑を求刑するよう俺の顧問弁護士を務めるBAコンサルティングに話を通しておいた。
 もうね。最近、俺が適当に訴えまくるから裁判を抱え込んで手が回らなくなっているらしい。
 最近、BAコンサルティングにいったら、代表の小沢さんの髪が真っ白に染まっていた。
 まあ、一度は経営破綻目前まで行ったので、髪が真っ白に染まるほど仕事が舞い込んできて天手古舞になるのはきっと良い事なのだろう。

 折角、丁寧に説明して上げたというのに、会田さんは「え」しか言わなくなってしまった。

「え、えええっ? えっ?? どういう事ですか?」

 どうもこうもない。

「出頭したいと言ってきたから、そのアシストをして上げたんだ。まあ、大丈夫だよ。この三週間、川島は自分の言伝すべてを使って頑張ってくれた。後は俺達が利益を手に入れるだけだ」

 現に、今、宝くじ研究会・レアメタル事業部はその大半が元キャリア国家公務員で埋まっている。どの方々も、契約書の術中に引っ掛かり、俺に対して反旗の旗を上げる事もできず、月給二十五万円で働く有能なシルバー人材だ。

 流石は元キャリア公務員……使えるコネは使わないとね。
 勿論、この法人の役員定年は二年なので、二年経ったら、ここにいる全員を正規の天下り団体に回す予定である。

「さて、そんな事よりレアメタル事業の話を詰めよう。そう言えば、以前、お願いしていたレアメタルを保管しておく土地見つかったかな?」
『え、ええ、見つけましたが……ええっ? 川島さんの話はそれでお終いなんですか!?」
「うん。まあ、今回の事は、川島が業務上横領をしたと連絡してきた。だから、俺は警察署に告訴状を描いた。ただそれだけを理解してくれればそれでいいよ?」

 簡潔にそう言うも納得のいかない会田。
 しかし、これここに至っては納得するしかない。

『そうなんですか……わかりました』

 会田さんはただそれだけ呟くと、そのまま思考を放棄した。

 ---------------------------------------------------------------

 次回は2023年5月2日AM7時更新となります。
しおりを挟む
最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
感想 537

あなたにおすすめの小説

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...