ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
242 / 381

第242話 それぞれの末路①

しおりを挟む
 村井が契約書にサインするとピンハネは手を合わせて喜んだ。

「――ムライさんは、達筆ですね。それでは、こちらが契約書の副本となります」
「ああ、ありがとう」

 正本は隅から隅まで確認した。副本に正本と違う事が書かれている筈がない。
 村井はピンハネから契約書の副本を受け取ると、碌に確認もせずポケットにしまう。

「それでは、私の運営する宿に案内しますね。着いて来て下さい」
「はい。お世話になります」

 そう言ってピンハネに着いて行く事、数十分。

「はーい。着きました。今日からここがあなたの住む宿ですよ」
「――はっ? これが私の住む宿……??」

 ピンハネに案内された宿。
 そこは、まるで家畜小屋の様な、おおよそ人が住む事をまったく想定していない建物だった。
 建物内には澱んだ空気が滞留し、錆びたトタン張りの屋根と壁。その中で、人が家畜の様な生活を送っている。
 まるで雨風を防げるだけマシとでも言わんばかりの設備に村井は思わず絶句する。

「な、何かの間違いでは……?」
「いえ、間違っていませんよ。ほら、見て下さい。あなたの入所を祝って宿に住むみんなが布団代わりの藁を集めてくれたみたいですよ。良かったですね。そうそう。言い忘れてました。食事は一日二回。パンを二枚支給します。毎月一万コルのお小遣いを差し上げますので、パンでは食事が足りないなと感じたら遠慮なく言って下さい。お小遣いの範囲内で食事をグレードアップできますので……ああ、それに関連して、ここでは仕事の紹介もしています。食事のグレードアップや身の回りの物を揃えるのにお仕事は欠かせませんから。一日十六時間労働で二千コルのお給金が貰えるお仕事からたった一回の労働で一万コルの成功報酬が貰える危険なお仕事まで幅広く扱っておりますので、仕事をしたくなったら遠慮なく言って下さいね?」

 開いた口が塞がらないとはこの事か。
 あまりの悪辣さに吐き気すら催してきた。

「――帰らせて貰おう」

 最後まで話を聞いてから踵を返すと、その瞬間、頭の中で『ビー! ビー!』と警告音が鳴り響く。

「――な、なんだ!?」

 突然、頭の中に鳴り響く警告音に村井は思わず声を上げる。

「えっと、ムライさん? ちゃんと、契約書を読みましたか?」
「け、契約書?」

 ポケットにしまった契約書を取り出すと、村井は慌てて内容を確認する。

「――なっ、なんだこれはぁぁぁぁ!?」

 契約書をよく見ると最後の行に、『甲(ムライ)は乙(ピンハネ)が指定した場所に住まなければならない』といった記載がされていた。

「こ、こんな記載、なかったじゃないかっ!」

 村井がそう反論すると、ピンハネはヤレヤレと首を横に振る。

「契約書の副本にそう書かれているのだから、最初から書いてあったに決まっているじゃあないですか。単にあなたが見落としていただけでしょう?」
「そ、そんな馬鹿な話があるかっ!? それに、契約書はただの契約書で……」

 すると、ピンハネは意味が分からないと首を横に倒す。

「えっ……もしかして、この世界において契約書を結ぶという事がどういう意味を持つのかを知らず契約を結んだのですか?」
「――ち、違う! 契約書を交わす意味位知っているっ! 私はこの頭に響く音が何なのかと聞いて――」

 村井の『私はこの頭に響く音が何なのかと聞いて』という一言を聞き、ピンハネは深い笑みを浮かべる。

「――そうですか。それはそれは……やはり、あなたは契約書を結ぶという意味を理解せず契約をしたと、そういう事でしたか……。こうもトントン拍子に契約が進むなんておかしいと思っていたんですよ。あまりにもわかりやすく困った風を装っていたので、一瞬、罠を疑いましたが、なんてことはない。何も知らないお上りさんでしたか……」

 突然、態度を変えたピンハネを見て、村井は驚愕の表情を浮かべる。

「なっ、それはどういう事だっ!?」
「――いいでしょう。既に契約は成立しています。ですので、特別に、あなたがこれから送る人生について教えて差し上げましょう……」
「こ、これから送る人生だと!? 何を馬鹿なっ!」

 訳も分からずそう言うと、ピンハネは聖母のような微笑みを浮かべ、馬鹿にでも理解できるよう小屋備え付けの黒板に村井の人生を図示していく。

「いいですか? まずはあなたの置かれている状況を推測してお話します。間違っていたら教えて下さいね? 今のあなたは、お金がなく、泊まる場所もなく、頼れる友人もいない。そうではありませんか?」
「な、何故それを……」

 村井が馬鹿正直にぼやくと、ピンハネは「やはり……」と嬉しそうにほくそ笑む。

「……そんな中、あなたは私に騙され契約書を結んでしまった」
「だ、だから、それがどうしたというんだっ! そんな紙切れ一枚で――」
「そんな紙切れ一枚の契約書があなたの今後の人生を決めたのですよ」
「そ、それはどういう……」

 話を遮られた村井は動揺しながらも、現状を打破する為にピンハネから情報を引き出そうとする。その行為自体、既に意味を為さないと知らないままに……。

 ピンハネは、村井と結んだ契約書を見えるように手に持つと、最後に書かれた条項に指先を向ける。

「いいですか? この契約書には強制力があります。この契約書を反故にしようとする者に対し、契約の履行を強制するのです。いいですか? 人が契約の履行を強制するのではありません。神が契約の履行を強制するのです」
「制約の履行を強制!? ……ど、どういう事だっ!」

 そんな事は聞いていない。
 これは普通の契約書じゃなかったのか!?

 半狂乱に陥りながらそう尋ねると、ピンハネは薄笑いを浮かべたまま「くすくす」笑う。

「すぐにわかりますよ。警告音が鳴ったという事はそういう事です」
「ば、馬鹿馬鹿しい。私は帰らせてもらうぞっ!」

 そう言うと村井はこの場から逃げだした。

「あらあら、逃げた所で、どうせすぐ戻ってくる事になるのに……」

 走って逃げる村井を見て、そうぼやくピンハネ。
 一方、ピンハネの下から逃げ出した村井はというと……

「――はあっ、はあっ、はあっ……ここまでくればもう大丈夫だろう……」

 ピンハネの下から逃げ出す事、十数分。追手がない事に安堵すると、城壁の手前に到着してすぐ、村井にとって想定外の言葉が頭の中に響き渡る。

『――プレイヤー名、村井敦教が契約条項を破りました。これよりプレイヤー名、村井敦教に罰則を課します』

「――は、はああああっ!? け、契約条項を破りましたぁぁぁぁ!? ば、罰則とはどういう事だ……あ?」

 すると、自分の意志とは関係なく体が勝手に動き、家畜小屋へとまっすぐ戻っていく。

 ま、待て待て待て待てっ!
 一体どうなっている!?
 なんで私の意思と関係なく体が勝手に動くんだっ!?

 契約書には、『甲(ムライ)は乙(ピンハネ)が指定した場所に住まなければならない』と定められている。その為、この契約は結んでしまった以上、契約書を破棄できる課金アイテムを使わない限り、解除する事はできない。

「――はあっ、はあっ、はあっ……」

 家畜小屋に戻ってきて早々、ピンハネは笑いながら聞いてきた。

「――あ、もう戻ってきたんだ……ねえねえ。折角、私から逃げる為、走り出したのに、自分の足で私の下に戻ってくるってどんな気分? ねえ、どんな気分??」

 言うまでもなく最悪の気分だ。
 出来る事ならもう二度と会いたくなかった。

「…………」

 答えず黙っていると、ピンハネは財布から一万コルを取り出す。

「――さて、本来であれば、この一万コルを君に渡す所なんだけど……君には手をかけられたしねぇ。これは、迷惑料代わりに私が貰っておくよ。それじゃあ、ムライさん。これからよろしくね。私の生活を豊かにする為にも、ここでの生活を少しでも良くする為にも老体に鞭打って頑張って働いてよね。それと――」

 そう呟くと、ピンハネはバッグから隷属の首輪を取り出した。
 そしてそれを契約書の効果で自由に動く事のできない村井の首に嵌めると、満面の笑顔を浮かべ言う。

「――これは、私からのプレゼントだよ。隷属の首輪って言うんだけど、知っているかな? 仮に契約書の効果が切れたとしても、この首輪が嵌っていれば安心だね。一生、奴隷として私の下で働く事ができるよ。それじゃあ、私はもう行くから、もう小屋に戻っていいよ。ここでの生活頑張ってね~」

 ――ま、待てっ! 待ってくれっ!

 そう声に出して叫ぼうとするも、契約書の効果により声を上げる事もできない。
 それ所か、小屋に向かって勝手に体が動き始めた。

 ――待て、待ってくれぇぇぇぇ! 頼む。後生だっ! お願いだからこの首輪を外してくれぇぇぇぇ! これじゃあまるで労働搾取じゃあないかっ! 私が呼びかけ行っていた貧困ビジネスの方がまだマシだ。誰か、誰か助けてくれぇぇぇぇ!

 どんなに助けを求めようとも契約書に縛られては声を出す事もできない。

「――さて、他にもカモはいないかなぁ? できれば、もっと若くて労働力のある男がいいんだけど……まあ、あんな爺さんでも労働力には変わらないし、今日の所はまあいっか……」

 そんな村井の様子を見て嬉しそうな表情を浮かべると、ピンハネは夜の町に戻っていった。

 ◇◆◇

 ここは、新橋警察署の署長室。

「う、うーん。ここは……」

 伍代は辺りを見渡し、頭を抱えながら言う。

「――私の部屋か……しかし……」

 時刻を見ると、午前七時三十分。
 何かがおかしい。朝、出勤した記憶がまるでない。
 朧げな記憶を辿っていくと、昨夜、強い眠気に襲われた事を思い出す。

「ふむ。知らぬ内に疲労が溜まっていたのかも知れないな……」

 最近、ストレスが溜まる出来事が頻発している。
 十分あり得る事だ。
 伍代は椅子から立ち上がると、背伸びする。

「コーヒーでも飲んで目を覚ますか……今日はどのドリップコーヒーにしようか」

 そう言って、棚に手をかけると、急に署長室のドアが開く。
 視線を向けると、そこには、唖然とした表情を浮かべた監察官が立っていた。

 ---------------------------------------------------------------


 次回は2023年4月26日AM7時更新となります。
しおりを挟む
最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
感想 537

あなたにおすすめの小説

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

処理中です...