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第219話 現役出向の理由
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私の名は、川島賢都。
総務省の自治財政局から現役出向という形でやってきた現役のキャリア国家公務員である。
現役出向という言葉からもわかる通り、私は総務省に籍を残したまま、宝くじ研究会・ピースメーカーという任意団体に出向という形で向かう事となった。
私がこの任意団体に現役出向を受けた理由は三つ。
一つ目の理由は、同期に事務次官が出た為だ。
私達、キャリア国家公務員は、同期に事務次官になる者が現れると、ピラミッド型の組織を新体制にする(若いキャリア国家公務員に私達の席が回るようにする)為、五十代にして早期推奨退職慣行が促される。
ポストの数は決まっているのだからそうなるのは当然だ。自主退職しなければ、新陳代謝が進まない。
勿論、それを拒み定年まで省庁に残る選択肢もあるが、定年退職後はどの道、年金が支給される六十五歳になるまで働ける場所を見つけなくてはならない。職場にいても、煙たがれるだけだ。何せ、私達がそのまま今のポジションに残るという事は、退職するまで約十年、ポストが空かないという事に他ならない。
だからこそ、新陳代謝を促す為にも、天下りというシステムは必要不可欠だったにも拘らず、十数年前に制定された国家公務員法により天下りは禁止されてしまった……。そう、改正国家公務員法により禁止されてしまったのだ。
勿論、抜け道は山ほどある。
しかしながら、ソーシャルメディアが普及したこの時代、下手に天下りをしてバレたりなんかしたらすぐやり玉に挙げられる。
昔であれば普通に行われていた官製談合などもその一つだ。
国民の憂さ晴らしの為か、はたまた、他に目を行かせないようにする為か……。
我々の事を議員秘書のようにこき使ってきた政治家が敵に回り、我々の特権を……退職後、これまで割に合わない仕事をさせられてきた分を回収しようという段階で規制してくるのだ。
本当は知っていたくせに、今初めて聞きましたみたいな、そんな太々しい顔を国民に向けながら、我々を批判してくるのである。
散々、我々を利用しながらそれはない。ありえない。
誰が国会答弁する為の資料を作っていると思っている。政治家が国会答弁する為の資料はすべて我々が作っているんだぞ?
にも拘らず勝手な事を……。
そんなに我々が憎いか?
これまで散々、苦労をかけられてきたのだ。少し位、報われたっていいじゃあないか。我々は、それだけの仕事をしてきたと自負している。貰って然るべき対価だ。
とまあ、色々と愚痴を言ったが、そういう事だ……。
同期から事務次官が出た以上、私はこの職場を去らなければならない。
しかし、天下りは法律により規制されている。
規制がある以上仕方がないが、それでは、折角、これまで労働対価に見合わない働きをしてきた我々の苦労が報われない。
ほとほと困り果てていたそんな時、一般財団法人宝くじ協議会と太いパイプを持つ総務省のキャリア国家公務員OBである村井様から依頼があった為……これが現役出向を受けた二つ目の理由だ。
村井様は、元総務省OBで事務次官に就任された雲の上の存在。
事務処理能力や、頭の良さ、法令知識などが特に目立つような存在ではなく、誰もが認める次官候補や、エースと呼ばれるタイプではなかったものの、仕事に臨むまじめな姿勢や低姿勢で物腰柔らかく、誰も怒らせることなく物事を調整することができる、敵を作らない典型的な調整型官僚として有能であることが評価され事務次官となった素晴らしい人徳の御方だ。
ご高齢の為か偶に、人が変ったかのように怒声を飛ばしてくる事もあるが、そんな事は些細な事だ。実際に会って話をしてみれば、どれだけ素晴らしいお方なのか身に染みて理解できる。
そんな雲の上の存在である村井様が、私に対し、宝くじ研究会・ピースメーカーという任意団体に現役出向という形で探りを入れに行ってくれないかと依頼があった。
話を聞いてみると、既に上とも話が付いている様で、誰かしら出向する事が決まっているらしい。
しかも、出向先の任意団体……。宝くじを当てる為の何らかの手法を持っている様だ。何でも、ここ数ヶ月の間に発行した宝くじの当選くじの大半がこの任意団体が流れているらしい。
村井様の依頼は二つ。
宝くじを当てる為の手法の調査。そして、調査の結果、問題ない(法令に触れない)様であれば、未来のキャリア国家公務員OBの退職後の生活保障の土壌を育むため、非営利団体化させてほしいとの事だった。
宝くじの還元率は約四十五パーセント。
すべてではないにしろ、それだけ多くの当選金がその任意団体に流れているということになる。これが不正に流れているのだとすれば由々しき問題だ。
しかしながら、その方法が法令に触れない場合、話が違ってくる。
合法的なマネーロンダリング。
つまり、宝くじを購入するだけで、簡単に資金洗浄できるということに他ならない。宝くじを購入すれば当選金が手に入るのだから当然だ。
態々、キャリア国家公務員OBが天下っている団体に補助金名目で国から金を拠出する為の名目を考えたり、公募の募集条件がその団体に対して有利に働くよう設定しなくて済む。それ所か、天下り団体から報酬や退職金として受け取る金額以上の金を合法的に非課税で手に入れる事ができる。
公益法人化し、国の認可を受ければ、国から寄付や補助金名目で金を引っ張る事も可能だ。財団法人化し、公益法人等が行う公益事業への助成名目で、キャリア国家公務員OBが天下っている団体に対して金を配るのもいい。
国の認定を受け公益財団法人になる事で、税金面で様々な優遇を……具体的には、利子や配当、利益の分配等を受ける場合、所得税が課されなかったり、収益事業から得た収益の一部を公益的事業に支出すると、一定金額まで寄付とみなす「みなし寄付」といった税制優遇措置を受ける事ができる。
みなし寄付というのは、元々、どこか別の団体・活動に寄付した分は損金算入(かかった費用を収益から引く事が)できる制度を前身に作られた、自分達の事業に対して資金配分しても構いませんよという制度。
つまり、収益事業のプラス分を非収益事業に充てるもよし、団体や活動に寄付金として支出するもよしな合法的に納める法人税を軽減させる事ができる制度だ。
そういった制度を活用し、助成対象団体に広報や講演会実施などの条件付けをした上で、助成金名目で資金を移動。その後、助成先に講演会などを開かせ、講演会の講師として呼んで貰い講演料を要求。
公益財団法人として得た収入を外部団体に回す事で、助成を受けたその外部団体を経由して金を受け取る事ができる。
当然、講演料の受け取りは、公益財団法人としてではなく、公益財団法人に勤める個人が依頼を受け行った体裁となる為、講演を行った当人のものとなり、そうして実績を積む事により、その道の専門家として省庁側も有識者会議や構成員に選定し易くなる。
有識者会議とは、行政運営上の参考とするため、有識者や市民代表を集め、個々の意見を聴取または意見を交換するために開催する会議。
有識者会議に選任される有識者を特定の関係先で過半数以上占める事ができれば、国民に気付かれる事なく有利に事を進める事ができる。
例えば、ある法令に基づき国から補助金が降りるというという決まりを有識者会議で作ったとする。その際、補助金を受け取る団体は、特定団体の開催する講義を受講しなければならないとしておけば、国からも補助金を受け取りたい団体からも永続的に金を引っ張る事ができる。
そして、三つ目の理由は、私に対して天下り先斡旋の打診があった為だ。
もし解明した宝くじ当選のカラクリが不正によるものだったとしても、現役出向終了後、村井様と関係のある公益法人への再就職が確約されている。
提示された年俸は二千万円。退職金として毎年一千五百万円が積まれていく。
しかも、宝くじ当選のカラクリが公正なもので、且つ公益法人化する事に成功した場合、その法人の理事にしてくれるらしい。
悪くはない話だ。どう転んでも損はない。
自信もある。こう見えてマジックを見破るのは得意なのだ。
だからこそ……だからこそ、村井様の依頼を受け任意団体である宝くじ研究会・ピースメーカーにやってきた訳だが……。
「――ああ、当たりですね。五等の二百円が一枚に四等の千円が二枚、二等の五万円が四枚ですか、まあこのスクラッチくじ、一等が十枚しか入ってないから仕方がないですね……って、あれ? どうかしましたか?」
「い、いや……」
『どうかしましたか?』じゃあない。なんだこれ?
こんな事はあり得ない。
何故、十枚一セット購入して、その内、七枚も当選するんだ?
スクラッチくじを十枚袋入りで購入した場合、規定上の最低当選金が当たるよう保証されている。その為、十枚一セットを購入し、五等の二百円、そしてもう一枚、当たりくじが出るならばわかる。
だが、当選した当たりくじの枚数は七枚。十枚中七枚だ。どう考えてもおかしい。常軌を逸している。
私は震える手でスクラッチくじを凝視する。
スクラッチくじ自体が偽造されたものである可能性も考慮し、手に取って確認して見るも偽造とは思えない。一体、どんなトリックを使えばこんな事ができる……いや、宝くじ売り場の販売員を抱え込めばそれも可能か?
いや、そんな事は不可能だ。
そんな事で当たりくじが引けるなら誰もがやっている。
そもそも、袋に入ったスクラッチくじのどれが当たりかなんてわかる筈がない。
甘く見ていた……。
完全に甘く捉えていた。
まさか、こんな事があり得るなんて……。
「……おっ? 見て下さい。俺のスクラッチくじにも当たりが出ましたよ」
「な、なにっ? 見せてみろ。こ、これは……」
そう言って手にしたスクラッチくじの当選金額は二百万円。
他にも二等の五万円が三枚に、三等の一万円が三枚、そして五等の二百円が一枚。
「な、なっ……?」
何故、こんなに多く当たりくじが引けるのだっ……!?
高橋翔がやった事と言えば、宝くじ売り場の販売員に二千円を渡し、スクラッチくじを購入。そして、スクラッチを五円玉で削っただけ……。
あまりの意味のわからなさに、私は呆然とした表情を浮かべた。
---------------------------------------------------------------
次回は2022年2月16日AM7時更新となります。
総務省の自治財政局から現役出向という形でやってきた現役のキャリア国家公務員である。
現役出向という言葉からもわかる通り、私は総務省に籍を残したまま、宝くじ研究会・ピースメーカーという任意団体に出向という形で向かう事となった。
私がこの任意団体に現役出向を受けた理由は三つ。
一つ目の理由は、同期に事務次官が出た為だ。
私達、キャリア国家公務員は、同期に事務次官になる者が現れると、ピラミッド型の組織を新体制にする(若いキャリア国家公務員に私達の席が回るようにする)為、五十代にして早期推奨退職慣行が促される。
ポストの数は決まっているのだからそうなるのは当然だ。自主退職しなければ、新陳代謝が進まない。
勿論、それを拒み定年まで省庁に残る選択肢もあるが、定年退職後はどの道、年金が支給される六十五歳になるまで働ける場所を見つけなくてはならない。職場にいても、煙たがれるだけだ。何せ、私達がそのまま今のポジションに残るという事は、退職するまで約十年、ポストが空かないという事に他ならない。
だからこそ、新陳代謝を促す為にも、天下りというシステムは必要不可欠だったにも拘らず、十数年前に制定された国家公務員法により天下りは禁止されてしまった……。そう、改正国家公務員法により禁止されてしまったのだ。
勿論、抜け道は山ほどある。
しかしながら、ソーシャルメディアが普及したこの時代、下手に天下りをしてバレたりなんかしたらすぐやり玉に挙げられる。
昔であれば普通に行われていた官製談合などもその一つだ。
国民の憂さ晴らしの為か、はたまた、他に目を行かせないようにする為か……。
我々の事を議員秘書のようにこき使ってきた政治家が敵に回り、我々の特権を……退職後、これまで割に合わない仕事をさせられてきた分を回収しようという段階で規制してくるのだ。
本当は知っていたくせに、今初めて聞きましたみたいな、そんな太々しい顔を国民に向けながら、我々を批判してくるのである。
散々、我々を利用しながらそれはない。ありえない。
誰が国会答弁する為の資料を作っていると思っている。政治家が国会答弁する為の資料はすべて我々が作っているんだぞ?
にも拘らず勝手な事を……。
そんなに我々が憎いか?
これまで散々、苦労をかけられてきたのだ。少し位、報われたっていいじゃあないか。我々は、それだけの仕事をしてきたと自負している。貰って然るべき対価だ。
とまあ、色々と愚痴を言ったが、そういう事だ……。
同期から事務次官が出た以上、私はこの職場を去らなければならない。
しかし、天下りは法律により規制されている。
規制がある以上仕方がないが、それでは、折角、これまで労働対価に見合わない働きをしてきた我々の苦労が報われない。
ほとほと困り果てていたそんな時、一般財団法人宝くじ協議会と太いパイプを持つ総務省のキャリア国家公務員OBである村井様から依頼があった為……これが現役出向を受けた二つ目の理由だ。
村井様は、元総務省OBで事務次官に就任された雲の上の存在。
事務処理能力や、頭の良さ、法令知識などが特に目立つような存在ではなく、誰もが認める次官候補や、エースと呼ばれるタイプではなかったものの、仕事に臨むまじめな姿勢や低姿勢で物腰柔らかく、誰も怒らせることなく物事を調整することができる、敵を作らない典型的な調整型官僚として有能であることが評価され事務次官となった素晴らしい人徳の御方だ。
ご高齢の為か偶に、人が変ったかのように怒声を飛ばしてくる事もあるが、そんな事は些細な事だ。実際に会って話をしてみれば、どれだけ素晴らしいお方なのか身に染みて理解できる。
そんな雲の上の存在である村井様が、私に対し、宝くじ研究会・ピースメーカーという任意団体に現役出向という形で探りを入れに行ってくれないかと依頼があった。
話を聞いてみると、既に上とも話が付いている様で、誰かしら出向する事が決まっているらしい。
しかも、出向先の任意団体……。宝くじを当てる為の何らかの手法を持っている様だ。何でも、ここ数ヶ月の間に発行した宝くじの当選くじの大半がこの任意団体が流れているらしい。
村井様の依頼は二つ。
宝くじを当てる為の手法の調査。そして、調査の結果、問題ない(法令に触れない)様であれば、未来のキャリア国家公務員OBの退職後の生活保障の土壌を育むため、非営利団体化させてほしいとの事だった。
宝くじの還元率は約四十五パーセント。
すべてではないにしろ、それだけ多くの当選金がその任意団体に流れているということになる。これが不正に流れているのだとすれば由々しき問題だ。
しかしながら、その方法が法令に触れない場合、話が違ってくる。
合法的なマネーロンダリング。
つまり、宝くじを購入するだけで、簡単に資金洗浄できるということに他ならない。宝くじを購入すれば当選金が手に入るのだから当然だ。
態々、キャリア国家公務員OBが天下っている団体に補助金名目で国から金を拠出する為の名目を考えたり、公募の募集条件がその団体に対して有利に働くよう設定しなくて済む。それ所か、天下り団体から報酬や退職金として受け取る金額以上の金を合法的に非課税で手に入れる事ができる。
公益法人化し、国の認可を受ければ、国から寄付や補助金名目で金を引っ張る事も可能だ。財団法人化し、公益法人等が行う公益事業への助成名目で、キャリア国家公務員OBが天下っている団体に対して金を配るのもいい。
国の認定を受け公益財団法人になる事で、税金面で様々な優遇を……具体的には、利子や配当、利益の分配等を受ける場合、所得税が課されなかったり、収益事業から得た収益の一部を公益的事業に支出すると、一定金額まで寄付とみなす「みなし寄付」といった税制優遇措置を受ける事ができる。
みなし寄付というのは、元々、どこか別の団体・活動に寄付した分は損金算入(かかった費用を収益から引く事が)できる制度を前身に作られた、自分達の事業に対して資金配分しても構いませんよという制度。
つまり、収益事業のプラス分を非収益事業に充てるもよし、団体や活動に寄付金として支出するもよしな合法的に納める法人税を軽減させる事ができる制度だ。
そういった制度を活用し、助成対象団体に広報や講演会実施などの条件付けをした上で、助成金名目で資金を移動。その後、助成先に講演会などを開かせ、講演会の講師として呼んで貰い講演料を要求。
公益財団法人として得た収入を外部団体に回す事で、助成を受けたその外部団体を経由して金を受け取る事ができる。
当然、講演料の受け取りは、公益財団法人としてではなく、公益財団法人に勤める個人が依頼を受け行った体裁となる為、講演を行った当人のものとなり、そうして実績を積む事により、その道の専門家として省庁側も有識者会議や構成員に選定し易くなる。
有識者会議とは、行政運営上の参考とするため、有識者や市民代表を集め、個々の意見を聴取または意見を交換するために開催する会議。
有識者会議に選任される有識者を特定の関係先で過半数以上占める事ができれば、国民に気付かれる事なく有利に事を進める事ができる。
例えば、ある法令に基づき国から補助金が降りるというという決まりを有識者会議で作ったとする。その際、補助金を受け取る団体は、特定団体の開催する講義を受講しなければならないとしておけば、国からも補助金を受け取りたい団体からも永続的に金を引っ張る事ができる。
そして、三つ目の理由は、私に対して天下り先斡旋の打診があった為だ。
もし解明した宝くじ当選のカラクリが不正によるものだったとしても、現役出向終了後、村井様と関係のある公益法人への再就職が確約されている。
提示された年俸は二千万円。退職金として毎年一千五百万円が積まれていく。
しかも、宝くじ当選のカラクリが公正なもので、且つ公益法人化する事に成功した場合、その法人の理事にしてくれるらしい。
悪くはない話だ。どう転んでも損はない。
自信もある。こう見えてマジックを見破るのは得意なのだ。
だからこそ……だからこそ、村井様の依頼を受け任意団体である宝くじ研究会・ピースメーカーにやってきた訳だが……。
「――ああ、当たりですね。五等の二百円が一枚に四等の千円が二枚、二等の五万円が四枚ですか、まあこのスクラッチくじ、一等が十枚しか入ってないから仕方がないですね……って、あれ? どうかしましたか?」
「い、いや……」
『どうかしましたか?』じゃあない。なんだこれ?
こんな事はあり得ない。
何故、十枚一セット購入して、その内、七枚も当選するんだ?
スクラッチくじを十枚袋入りで購入した場合、規定上の最低当選金が当たるよう保証されている。その為、十枚一セットを購入し、五等の二百円、そしてもう一枚、当たりくじが出るならばわかる。
だが、当選した当たりくじの枚数は七枚。十枚中七枚だ。どう考えてもおかしい。常軌を逸している。
私は震える手でスクラッチくじを凝視する。
スクラッチくじ自体が偽造されたものである可能性も考慮し、手に取って確認して見るも偽造とは思えない。一体、どんなトリックを使えばこんな事ができる……いや、宝くじ売り場の販売員を抱え込めばそれも可能か?
いや、そんな事は不可能だ。
そんな事で当たりくじが引けるなら誰もがやっている。
そもそも、袋に入ったスクラッチくじのどれが当たりかなんてわかる筈がない。
甘く見ていた……。
完全に甘く捉えていた。
まさか、こんな事があり得るなんて……。
「……おっ? 見て下さい。俺のスクラッチくじにも当たりが出ましたよ」
「な、なにっ? 見せてみろ。こ、これは……」
そう言って手にしたスクラッチくじの当選金額は二百万円。
他にも二等の五万円が三枚に、三等の一万円が三枚、そして五等の二百円が一枚。
「な、なっ……?」
何故、こんなに多く当たりくじが引けるのだっ……!?
高橋翔がやった事と言えば、宝くじ売り場の販売員に二千円を渡し、スクラッチくじを購入。そして、スクラッチを五円玉で削っただけ……。
あまりの意味のわからなさに、私は呆然とした表情を浮かべた。
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