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第204話 途方に暮れる報道関係者②
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米沢がレンタカーを借りる為、近くのステーションに向かってから数時間後の明朝、広域暴力団・任侠会にも危機が迫っていた。
任侠会の事務所に向かう黒いスーツ姿の強面の集団。
ドアの前に立つと、おもむろにドアを叩き始める。
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『おい、開けんかぃ! 開けんかい、こらっ!』
『はよ、開けぇ! 開けぇよ、おらぁ!』
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『出てこい、こらぁ!』
事務所のドアを叩く音が聞こえる。
人の声も……それも複数いる。
どっちがヤクザかわからないこの物言い。
「――か、若頭。大変です。サツがガサ入れに来ました……!」
「何っ? 警察がガサ入れに? つい最近、入ったばかりだろうがっ……」
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『はよ、開けぇ! こらぁ!』
朝からまったく煩い奴等だ……。
「おい。開けてやれ……」
「……いいんですか?」
「――いいって、言ってんだろっ! 警察にドア壊されねぇ内にさっさと開けぇ!」
「は、はいっ……!」
そう声を荒げると、舎弟達が玄関に向かって走っていく。
警察の奴等は捜索令状があると途端に強気になってとんでもない無茶をしよるからな……。前にチェーンソーで玄関を破壊された時にはビックリしたわ。
そこまでやるか普通?
絶対にやらんやろ。
「――若頭。もしや、警察が来たのは祐樹坊ちゃんの件では……」
「ああっ? 坊ちゃんの?」
京極祐樹……。広域暴力団・任侠会の会長・京極政木が可愛がっている孫の名前だ。最近、新橋駅近くのガード下にいたホームレスからカツアゲして逆に刺された馬鹿野郎の名前でもある。
会長が可愛がっているせいか非常に扱い難いガキだ。
「……ちっ、そんな小さな事で警察がガサ入れなんかする訳ねーだろ」
任侠会の若頭、新田柴はそれを聞き舌打ちした。
「――くそっ、親父がいねぇ時に、警察のガサ入れなんてツイてねぇな……」
親父は今、流行病に掛かり病院で入院中。
幸いな事に事務所には、疾しいものは何も置いていない。
ガサ入れだか何だか、知らねぇがご苦労なこった。
チラリと窓から外を見ると、マスコミのカメラがスタンバイしてある。
つまり、これは民衆に対するポーズ……。
何を調べたくてガサ入れしたかわからねぇが、週刊誌に写真が載る。
カメラの前だけ適当に抵抗して、さっさと終わらせるか……。
警察も大変だねぇ。テレビや雑誌向けにパフォーマンスをしなくちゃいけないなんて……。
「はよ、開けんろや、こらぁ!」
すると、玄関口が騒がしくなってきた。
舎弟達に家宅捜索許可状を見せると、警察の捜査員が事務所に雪崩れ込んでくる。
「なんやこらっ!」
「何を偉そうに言うとるんじゃ!」
しかし……何だ? いつもと様子が違うな……?
警察もこの事務所には何も置いとらんと知っている筈なのに、何故、ガサ入れを?
捜査員達の先頭にいた男が警察手帳を見せながら言う。
「何で来たかわかるか?」
随分と高圧的な態度だ。
俺は肩を竦めながら返答する。
「いや……?」
「そうか……。ならいい。後でわからせてやる。おい――」
先頭の男がそう言うと、捜査官が動き始め、ガサ入れが始まった。
何が目的なのかはわからないが棚やタンスをすべてひっくり返し、目的の物を探していく。
――やはり何かがおかしい。
何だかよくわからないが、今回のガサ入れは警察の本気度が違う。
まるで、『権力に楯突くとこうなるんだぞ』と言わんばかりの力の入れ様……。
「持ってる携帯電話をここに出して――」
「――はいはい。わかっ……!?」
舌打ちしながら捜査員の言う通りスマホをポケットから取り出すと、丁度、舎弟がSNSが届く。スマホを提出するふりをして、内容を確認するとそこには、信じられないメッセージが書いてあった。
「――な、なにっ!」
ガサ入れが入っているのは、この事務所だけじゃない……!?
二次団体や三次団体……フロント企業にも警察のガサ入れがっ!?
二次団体とは、会長から直接盃を受けた組員が組長となっている団体。
三次団体とは、二次団体の下に従属している団体を指している。
これまで警察がここまで本気でガサ入れを強行しようとした事なんて一度もない。
確かに、暴力団員と関わる堅気を取り締まる暴力団排除条例のお陰で肩身の狭い生活を余儀なくされているが、それでも警察は俺達の事を潰そうとはしなかった。
それなのに何故……。
「――おい。何をやっている。いいからスマホを出せっ!」
「くっ……!」
捜査員にスマホを預けると、俺は舌打ちする。
これはどういう事だっ……!
会長宅を含む、任侠会に関係のあるすべての拠点にガサ入れが入っている事を知った新田は顔を強張らせる。
すべての拠点に対し、ガサ入れが入るなんて前代未聞だ。警察が任侠会を潰したがっているとしか思えない。
睨み付けるような捜査員達の目。
その目を見れば警察の本気度が伺える。
すると、点けていたテレビに、ニュースが流れる。
『――昨日、警察官と女性を拉致したなどとして、準暴力団・万秋会のメンバーらが逮捕されました。暴行、誘拐及び公務執行妨害の疑いで逮捕されたのは、指定暴力団・任侠会系の三次団体で……警察によりますと……』
「――はっ?」
その瞬間、時が止まったかの様な錯覚に陥った。
い、今、なんて言った?
三次団体の準暴力団・万秋会が警察官を拉致……??
暴行、誘拐及び公務執行妨害だとっ!?
捜査官に顔を向けると、露骨に視線を外される。
――い、いや……いやいやいやいや……いやいやいやいやいやいやいやいや、どういう事だこれぇぇぇぇ!
さ、三次団体の万秋会が警察官を拉致、暴行?
一番やっちゃ駄目な奴だろ、それっ!
警察官に危害を加えれば、警察が一丸となって任侠会を叩く事なんてわかんだろっ!
ガサ入れを仕掛けてきた理由を一瞬にして理解した新田柴は心の中で本日何度目になるかわからない舌打ちをする。
新橋一帯に根を張り、数々の凶暴な事件を引き起こしてきた広域暴力団・任侠会が、三次団体・万秋会の暴走一つで……。
警察官一人拉致した位でやり過ぎだ。
しかし、すべての関係各所にガサ入れしてるって事は本気。
警察は、本気で別件・微罪逮捕するつもりだ……。
微罪逮捕とは、通常では微罪として黙認や注意で終わるような犯罪行為に対して警察が逮捕を行う事。別件逮捕と同様、通常は微罪逮捕そのものが単独で行われることはなく、別に取り調べの必要な案件を持つ被疑者の身柄を手っ取り早く確保する目的で行われる。
警察は機会を逃さない。
親父は勿論、傘下団体の幹部も同時に逮捕するつもりなのだろう。
確か、万秋会は秋永が仕切っていたな……。
あの野郎、調子に乗って下手打ちやがって……。
「……放免したら覚えていろよ」
この日、三次団体・万秋会の警察官拉致及び暴行が発端となり、広域暴力団・任侠会を含む傘下団体すべてで家宅捜索が行われ、任侠会・会長を含む多くの幹部が検挙される事となった。
◇◆◇
三次団体・万秋会が発端となり、広域暴力団・任侠会にガサ入れが入っている頃、米沢は顔を真っ青にしながら池袋駅地下構内を徘徊していた。
「い、居ないっ?? なんでっ! なんでっ!?」
構内の脇で横になっているホームレス一人一人の顔を覗き込んでは声を荒げる米沢。
当然だ。米沢は今、広域暴力団・任侠会に脅されている。
何故、脅されているのか。
それは、新橋のガード下で更屋敷太一を襲った男。それを高橋翔だと思い込み。米沢が住所を貸す事で警察に被害届を出させた事が発端となっていた。
「――更屋敷太一さーん! どこにいるんですかぁー!?」
今の米沢に恥も外聞もない。
自分の命を救う為、必死になって構内を走り更屋敷太一を探していく。
「――拙い。拙いぞ。もし更屋敷太一が見付からなかったら、私は……私は……!」
広域暴力団・任侠会の暴力団員によって、山に埋められてしまう。
任侠会と言えば、暴力団排除条例が施行以降も、一般人への切り付けや放火、銃撃など様々な事件を起こしてきた暴力団。
もし更屋敷太一を引き渡す事ができなければ、まず間違いなく埋められる。
「なのにっ……! どこにいるんだぁぁぁぁ!」
昨日からずっと池袋駅構内を徘徊している。
それなのに、全然、見付かる気配がない。
米沢は腕時計を見て呟く。
「――あ、あと、一時間……? あと一時間しかない……」
その時間を過ぎれば、晴れて俺は土の中。
「じ、冗談じゃないっ!」
ふと、背後を振り返ると、そこにはサングラスをかけた暴力団関係者と思わしき二人組と目が合う。
「……っ!?」
か、監視……監視されているっ!
「さ、更屋敷太一さーん。どこですかぁ……」
暴力団員の監視に気付いた米沢は、更屋敷太一を探す振りをして、アップルロードから外に出て、西口にあるパーキングへと向かった。
当然、ダッシュだ。走って向かった。
幸いな事に暴力団関係者と思わしき二人組は気付いていない。
運良く人ごみに紛れる事ができた。パーキングに戻るとレンタカーに乗り込み勢いよく発車する。
「だ、駄目だ……時間がない。レンタカーを返却したらすぐに逃げよう。東京にはもういられない。局には……地方への異動を願い出るしか……」
しかし、局に戻っている余裕は一切ない。
そんな事をしていては捕まってしまう。
電話で上司に願い出て見るか……?
いや、駄目だ……すぐに異動なんてさせて貰えない。
有給も残り少ないし、は、八方塞がりだ……。
こうなったら、形振り構わず、仕事を辞めて逃げるしかないが……。
ううっ……。なんで俺がそんな事をしなくちゃならないんだっ!
正直、レンタカーを返却する時間すら惜しい。
しかし、こればかりはちゃんと返却しなければ、後々、大変な事になる。
借りたレンタカーを返却しなかった場合、無断延長で恐ろしい金額を請求される恐れがある所か、横領罪で逮捕されてしまう可能性があるのだ。
暴力団員に捕まり殺されるよりマシだと思うかも知れないが、俺は俺を狙う暴力団員のいない土地にこれから逃げる。
だからこそ、この手続きは必要だ。
そうこうしている内に、ステーションに到着した。
米沢はステーションにレンタカーを停めると、急いで車を出る。
「……どこへ行くつもりだ?」
その瞬間、背筋が凍りつく。
車のドアを開けたまま、ゆっくり、振り向くとそこには、米沢を見張っていた暴力団員二人組とボロボロの姿となった更屋敷太一の姿があった。
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2022年1月5日AM7時更新となります。
任侠会の事務所に向かう黒いスーツ姿の強面の集団。
ドアの前に立つと、おもむろにドアを叩き始める。
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『おい、開けんかぃ! 開けんかい、こらっ!』
『はよ、開けぇ! 開けぇよ、おらぁ!』
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『出てこい、こらぁ!』
事務所のドアを叩く音が聞こえる。
人の声も……それも複数いる。
どっちがヤクザかわからないこの物言い。
「――か、若頭。大変です。サツがガサ入れに来ました……!」
「何っ? 警察がガサ入れに? つい最近、入ったばかりだろうがっ……」
――ドンドンッ! ドンドンッ!
『はよ、開けぇ! こらぁ!』
朝からまったく煩い奴等だ……。
「おい。開けてやれ……」
「……いいんですか?」
「――いいって、言ってんだろっ! 警察にドア壊されねぇ内にさっさと開けぇ!」
「は、はいっ……!」
そう声を荒げると、舎弟達が玄関に向かって走っていく。
警察の奴等は捜索令状があると途端に強気になってとんでもない無茶をしよるからな……。前にチェーンソーで玄関を破壊された時にはビックリしたわ。
そこまでやるか普通?
絶対にやらんやろ。
「――若頭。もしや、警察が来たのは祐樹坊ちゃんの件では……」
「ああっ? 坊ちゃんの?」
京極祐樹……。広域暴力団・任侠会の会長・京極政木が可愛がっている孫の名前だ。最近、新橋駅近くのガード下にいたホームレスからカツアゲして逆に刺された馬鹿野郎の名前でもある。
会長が可愛がっているせいか非常に扱い難いガキだ。
「……ちっ、そんな小さな事で警察がガサ入れなんかする訳ねーだろ」
任侠会の若頭、新田柴はそれを聞き舌打ちした。
「――くそっ、親父がいねぇ時に、警察のガサ入れなんてツイてねぇな……」
親父は今、流行病に掛かり病院で入院中。
幸いな事に事務所には、疾しいものは何も置いていない。
ガサ入れだか何だか、知らねぇがご苦労なこった。
チラリと窓から外を見ると、マスコミのカメラがスタンバイしてある。
つまり、これは民衆に対するポーズ……。
何を調べたくてガサ入れしたかわからねぇが、週刊誌に写真が載る。
カメラの前だけ適当に抵抗して、さっさと終わらせるか……。
警察も大変だねぇ。テレビや雑誌向けにパフォーマンスをしなくちゃいけないなんて……。
「はよ、開けんろや、こらぁ!」
すると、玄関口が騒がしくなってきた。
舎弟達に家宅捜索許可状を見せると、警察の捜査員が事務所に雪崩れ込んでくる。
「なんやこらっ!」
「何を偉そうに言うとるんじゃ!」
しかし……何だ? いつもと様子が違うな……?
警察もこの事務所には何も置いとらんと知っている筈なのに、何故、ガサ入れを?
捜査員達の先頭にいた男が警察手帳を見せながら言う。
「何で来たかわかるか?」
随分と高圧的な態度だ。
俺は肩を竦めながら返答する。
「いや……?」
「そうか……。ならいい。後でわからせてやる。おい――」
先頭の男がそう言うと、捜査官が動き始め、ガサ入れが始まった。
何が目的なのかはわからないが棚やタンスをすべてひっくり返し、目的の物を探していく。
――やはり何かがおかしい。
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まるで、『権力に楯突くとこうなるんだぞ』と言わんばかりの力の入れ様……。
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三次団体とは、二次団体の下に従属している団体を指している。
これまで警察がここまで本気でガサ入れを強行しようとした事なんて一度もない。
確かに、暴力団員と関わる堅気を取り締まる暴力団排除条例のお陰で肩身の狭い生活を余儀なくされているが、それでも警察は俺達の事を潰そうとはしなかった。
それなのに何故……。
「――おい。何をやっている。いいからスマホを出せっ!」
「くっ……!」
捜査員にスマホを預けると、俺は舌打ちする。
これはどういう事だっ……!
会長宅を含む、任侠会に関係のあるすべての拠点にガサ入れが入っている事を知った新田は顔を強張らせる。
すべての拠点に対し、ガサ入れが入るなんて前代未聞だ。警察が任侠会を潰したがっているとしか思えない。
睨み付けるような捜査員達の目。
その目を見れば警察の本気度が伺える。
すると、点けていたテレビに、ニュースが流れる。
『――昨日、警察官と女性を拉致したなどとして、準暴力団・万秋会のメンバーらが逮捕されました。暴行、誘拐及び公務執行妨害の疑いで逮捕されたのは、指定暴力団・任侠会系の三次団体で……警察によりますと……』
「――はっ?」
その瞬間、時が止まったかの様な錯覚に陥った。
い、今、なんて言った?
三次団体の準暴力団・万秋会が警察官を拉致……??
暴行、誘拐及び公務執行妨害だとっ!?
捜査官に顔を向けると、露骨に視線を外される。
――い、いや……いやいやいやいや……いやいやいやいやいやいやいやいや、どういう事だこれぇぇぇぇ!
さ、三次団体の万秋会が警察官を拉致、暴行?
一番やっちゃ駄目な奴だろ、それっ!
警察官に危害を加えれば、警察が一丸となって任侠会を叩く事なんてわかんだろっ!
ガサ入れを仕掛けてきた理由を一瞬にして理解した新田柴は心の中で本日何度目になるかわからない舌打ちをする。
新橋一帯に根を張り、数々の凶暴な事件を引き起こしてきた広域暴力団・任侠会が、三次団体・万秋会の暴走一つで……。
警察官一人拉致した位でやり過ぎだ。
しかし、すべての関係各所にガサ入れしてるって事は本気。
警察は、本気で別件・微罪逮捕するつもりだ……。
微罪逮捕とは、通常では微罪として黙認や注意で終わるような犯罪行為に対して警察が逮捕を行う事。別件逮捕と同様、通常は微罪逮捕そのものが単独で行われることはなく、別に取り調べの必要な案件を持つ被疑者の身柄を手っ取り早く確保する目的で行われる。
警察は機会を逃さない。
親父は勿論、傘下団体の幹部も同時に逮捕するつもりなのだろう。
確か、万秋会は秋永が仕切っていたな……。
あの野郎、調子に乗って下手打ちやがって……。
「……放免したら覚えていろよ」
この日、三次団体・万秋会の警察官拉致及び暴行が発端となり、広域暴力団・任侠会を含む傘下団体すべてで家宅捜索が行われ、任侠会・会長を含む多くの幹部が検挙される事となった。
◇◆◇
三次団体・万秋会が発端となり、広域暴力団・任侠会にガサ入れが入っている頃、米沢は顔を真っ青にしながら池袋駅地下構内を徘徊していた。
「い、居ないっ?? なんでっ! なんでっ!?」
構内の脇で横になっているホームレス一人一人の顔を覗き込んでは声を荒げる米沢。
当然だ。米沢は今、広域暴力団・任侠会に脅されている。
何故、脅されているのか。
それは、新橋のガード下で更屋敷太一を襲った男。それを高橋翔だと思い込み。米沢が住所を貸す事で警察に被害届を出させた事が発端となっていた。
「――更屋敷太一さーん! どこにいるんですかぁー!?」
今の米沢に恥も外聞もない。
自分の命を救う為、必死になって構内を走り更屋敷太一を探していく。
「――拙い。拙いぞ。もし更屋敷太一が見付からなかったら、私は……私は……!」
広域暴力団・任侠会の暴力団員によって、山に埋められてしまう。
任侠会と言えば、暴力団排除条例が施行以降も、一般人への切り付けや放火、銃撃など様々な事件を起こしてきた暴力団。
もし更屋敷太一を引き渡す事ができなければ、まず間違いなく埋められる。
「なのにっ……! どこにいるんだぁぁぁぁ!」
昨日からずっと池袋駅構内を徘徊している。
それなのに、全然、見付かる気配がない。
米沢は腕時計を見て呟く。
「――あ、あと、一時間……? あと一時間しかない……」
その時間を過ぎれば、晴れて俺は土の中。
「じ、冗談じゃないっ!」
ふと、背後を振り返ると、そこにはサングラスをかけた暴力団関係者と思わしき二人組と目が合う。
「……っ!?」
か、監視……監視されているっ!
「さ、更屋敷太一さーん。どこですかぁ……」
暴力団員の監視に気付いた米沢は、更屋敷太一を探す振りをして、アップルロードから外に出て、西口にあるパーキングへと向かった。
当然、ダッシュだ。走って向かった。
幸いな事に暴力団関係者と思わしき二人組は気付いていない。
運良く人ごみに紛れる事ができた。パーキングに戻るとレンタカーに乗り込み勢いよく発車する。
「だ、駄目だ……時間がない。レンタカーを返却したらすぐに逃げよう。東京にはもういられない。局には……地方への異動を願い出るしか……」
しかし、局に戻っている余裕は一切ない。
そんな事をしていては捕まってしまう。
電話で上司に願い出て見るか……?
いや、駄目だ……すぐに異動なんてさせて貰えない。
有給も残り少ないし、は、八方塞がりだ……。
こうなったら、形振り構わず、仕事を辞めて逃げるしかないが……。
ううっ……。なんで俺がそんな事をしなくちゃならないんだっ!
正直、レンタカーを返却する時間すら惜しい。
しかし、こればかりはちゃんと返却しなければ、後々、大変な事になる。
借りたレンタカーを返却しなかった場合、無断延長で恐ろしい金額を請求される恐れがある所か、横領罪で逮捕されてしまう可能性があるのだ。
暴力団員に捕まり殺されるよりマシだと思うかも知れないが、俺は俺を狙う暴力団員のいない土地にこれから逃げる。
だからこそ、この手続きは必要だ。
そうこうしている内に、ステーションに到着した。
米沢はステーションにレンタカーを停めると、急いで車を出る。
「……どこへ行くつもりだ?」
その瞬間、背筋が凍りつく。
車のドアを開けたまま、ゆっくり、振り向くとそこには、米沢を見張っていた暴力団員二人組とボロボロの姿となった更屋敷太一の姿があった。
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