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第203話 途方に暮れる報道関係者
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ここは日毎放送の社長室。
日毎放送の代表取締役社長である猪狩雄三が毎朝の日課であるホット珈琲を飲みながら日経トレンディを読んでいると、スマホから着信音が鳴る。
「うん?」
日経トレンディをから目を離し、スマホの画面を確認すると、妻からの着信の様だ。
仕事中、妻が電話してくる事なんて殆どない。何か問題事でも発生したのだろうか?
それとも秋良の件で何か進展があったのか?
息子の秋良は浮浪者にナイフで刺され入院中……秋良の友達の祐樹君もフォークで刺され入院中だ。
一抹の不安を抱えながら電話に出る。
すると、妻が慌てた様子で話し始めた。
『あ、あなたっ! 大変、大変なのっ! 秋良が……秋良がっ!?』
この慌てよう……秋良に何が……。
しかし、私まで慌てるのはまずい。
まずは落ち着かせて話を聞く事にしよう。
「まあ、まずは落ち着きなさい。秋良がどうした? 何かあったのか?」
相当、テンパっているのだろう。
私の発言を聞き、何故か妻が怒鳴り始めた。
『な、何であなたはそうも冷静でいられるのっ! 秋良が、秋良が大変な事になっているのよっ!』
いや、何も聞かされてないのだから、そんな事を言われても困る。
しかし、それを実直にそう伝えるのはあまりに愚策。
妻の気が動転している今、私だけでも冷静に努めなければ……。
心の中でそう呟くと猪狩は妻を諭す様に言う。
「安心しなさい。私も慌てている。一体、何が起こっているのか検討が付かなくてね。だからお願いだ。まずは冷静になって秋良に何があったのか聞かせてくれないか? そうしなければ、対応することもできない」
そう告げると、少し冷静になったのかポツリ、ポツリと秋良の置かれている状況を話し始める。
「な、何だと……!?」
その結果、わかった事。それは私にとって想定外。晴天の霹靂と呼べるものだった。
「じ、事情聴取? 警察が病院まで来たのか? いや、そんな事より……」
警察は詳しい内容まで教えてくれなかった。
しかし、秋良を問い詰めた所、とある事実が判明する。
「秋良がホームレスに暴行を加え金銭を奪ったというのは本当かっ!?」
シャレにならない。
しかもホームレス相手に……な、何という事を……。
『そ、そうなのよ……秋良ったら、友達の祐樹君と一緒になって……もうどうしたらいいかわからないわ……』
「それで秋良は……? 秋良はどうなる!? 警察はなんと言っていたっ!?」
『そんなの、わからないわよっ! 私が知る訳ないでしょっ! もう嫌よ……秋良がこうなったのも、あなたのせいよっ! 仕事ばかりで秋良に構ってあげなかったからっ……!』
「なっ、それは関係ないだろう! 誰のお陰で生活できていると思っているんだっ! それに秋良がこうなったのは、お前が甘やかして育てたのが悪いんだろっ!」
『わ、私が悪いっていうのっ!? もういい加減にしてよっ! ――プッ』
怒りに任せて受話器を置いたのだろう。
猪狩はスマホを持ったまま愕然とした表情を浮かべる。
「ま、拙い事になった……」
すぐに被害に遭われたホームレスの方に謝罪を……。被害届を取り下げて貰わなければ……。いや、そんな事よりも、何故、ホームレスが警察に被害届を提出できたんだ?
基本的に住所不定者は被害届を出す事ができない筈……。
「――と、とにかく、事件として扱われ報道されてしまう前に何とかしなくては……」
日毎放送の社長であるこの私の息子がホームレスに暴行を加えたなんて事がニュースとなり報道されては堪らない。
「と、とりあえず、弁護士に相談を……ニュース報道される前に和解に持ち込まなければ……」
もし、和解できなければ私はお終いだ。
報道する側が報道されるかもしれない恐怖。
かつてない恐怖に、猪狩は怯え、急ぎ弁護士に電話した。
◇◆◇
一方、ホームレス化した更屋敷太一を焚き付け、半ば強制的に被害届を提出させた米沢も猪狩同様、苦境に陥っていた。
『――てめぇ……新橋のガード下で生活していた更屋敷太一をどこに逃がした?』
「そ、それは……。わ、私にも何がなんだか……」
広域暴力団・任侠会から突然、掛ってきた電話。
米沢は震える手で受話器を持ち、心の中で絶叫する。
ど、どうなっているんだ……??
な、何故、広域暴力団・任侠会が俺の自宅に電話を……?
まさか、見ていたのか?
更屋敷太一の言っていた事は本当だったのかっ!?
『何がなんだかじゃねーぞ、コラッ! 更屋敷が余計な事を言わない様に見張りを着けていたのに台無しじゃねーかっ! この落とし前、どうしてくれるんだよ。ああっ!?』
ま、拙い……。拙い。拙い。拙い。拙いぞこれは……。
『広域暴力団・任侠会に目を付けられたから』って……『もし任侠会に私の居場所が知れたらすぐにでも奴らがやってくる。だから、私はこの様な生活を送っているんだ』とか言っていたが、既に居場所を知られているじゃないか……!?
ど、どどど……どうする。どうしたらいい。
とばっちりだ。完全にとばっちり……俺が更屋敷太一を逃がしたと勘違いされてしまった。
よりにもよって、広域暴力団・任侠会にだ……。
警察に相談するか?
い、いや、駄目だ……。
自宅に電話がかかってきたという事は既に俺の住んでいる場所が割れているという事……。
子機を持ったまま窓の外をチラリと覗く。
そこには、二人の男がいた。
「……ひっ!?」
米沢の口から思わず声が出る。
か、堅気じゃない……。
今、俺の自宅を張っている男達の人相。どう考えても堅気の人相じゃないぞっ……!?
『返事はどうした? 返事はどうしたかって聞いているんだよっ!』
「す、すいません……! すいませんでしたっ!」
あ、謝れば許してくれるだろうか、謝れば許してくれるだろうかっ!?
今の俺にできる事なんてこれ位の事しかない。
な、何で俺がこんな目に……??
『……すいませんでしたで済めば警察はいらねーよっ! それで、更屋敷の野郎はどこにいる? どこへ連れて行ったっ!?』
「い、池袋ですっ! 池袋に連れて行きましたっ! た、多分、池袋駅の通路脇にいる筈です!」
『――いる筈ぅ!?』
「い、います! 必ずいます! 池袋駅には連れて行った時、そうアドバイスしました。絶対にいる筈なんですっ!」
な、何でこんなにも更屋敷太一の事を……。
もしかして、更屋敷太一を暴行したのは、暴力団関係者?
高橋翔ではなく暴力団関係者だったのかっ……!?
い、いや、今はそれ所ではない。
『――言ったな? 今、お前は言ったなぁ……。もし更屋敷太一が池袋駅に居なかったらどうする。どうしてくれるんだよっ!』
「い、池袋駅にいなかったらですかっ!?」
そ、そんなの知る訳ないだろっ!
池袋駅に居なかった場合の責任なんて俺には関係ない!
しかし、そんな事を言ったら……。
米沢は涙ぐむ。
何で、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ……。
俺はただ高橋翔に……。
『ああ、そうだよ。ホームレスだったあいつが警察に被害届を出せる筈がねぇ。居住地が無いからな……。誰かが手引きした筈なんだよ。誰かがなぁ……。祐樹坊ちゃんの事を警察に垂れ込んだ奴がなぁ……。誰だろうなぁ? そいつは誰なんだろうなぁ!』
『すいませんでした。それは俺です』なんて言えない。
言ったら殺される。自宅に電話が掛ってきた時点でどう考えても俺の事を疑っているであろう事がわかる。しかし、それを言葉にしたら殺される。
祐樹坊ちゃんと言った。
つまり、更屋敷太一は、暴力団関係者である祐樹坊ちゃんとやらから暴行を受けた。そして、更屋敷太一が被害届を出さないよう見張っていたと、そういう事だ。
そして、最近になって、祐樹坊ちゃんとやらが逮捕された。もしくは、警察から事情聴取を受けた……!
拙い。どう考えても拙い。
今すぐに被害届を取り下げなくては……取り下げて貰わなければ……!
更屋敷太一が余計な事を言わない様に、口裏を合わせる必要もある。
更屋敷太一を唆し、被害届を提出させたのが俺だとバレたら非常に拙い。
殺されるかもしれない。
しかし、その一方で、被害届は、刑事処分に大きな影響を与えるため、電話で取り下げて貰う事はできない。また、被害者である更屋敷太一が直接、被害届を取り下げなくてはならない。
早い所、更屋敷太一を探して被害届を取り下げさせねばっ!
「――さ、探します! 探させて下さいっ! 更屋敷太一を探すのを協力させて下さいっ! お願いします!」
米沢は受話器を持ち目を瞑ると頭を下げる。
『……ちっ!』
受話器から舌打ちが聞こえてくる。
暴力団も更屋敷太一が見付からず焦っているのだろう。
何となく希望が見えてきた。
『……いいだろう。一日だ。一日だけ時間をやる。もし見付からなかったらどうなるか、わかっているだろうな?』
暴力団員の言葉に米沢は背筋を伸ばす。
「は、はいっ! 必ず、見付けて見せます!」
『ああ、それともう一つ。お前が言っていた池袋だが、更屋敷の野郎はそこに居なかった。その事だけ伝えておく。いいか? 一日だ。明日のこの時間までに更屋敷の野郎が見付からず、被害届が取り下げられなかったら……』
「ひ、被害届が取り下げられなかったら……?」
『――お前を山に埋める。警察に言っても埋める。必ずだ。必ず、実行する……わかったな? ――プッ、ツーツーツー』
その言葉を聞き、米沢は戦慄する。
本気だ……。もし俺が更屋敷太一を見付け、被害届を取り下げられなかったら、奴等は本気で俺を山に埋めるつもりだ……。
山に埋めた死体が偶然見つかって殺人事件が発覚するのは稀と聞く。
そして相手は広域暴力団・任侠会。やるといったら、必ずやる。必ずだ。
米沢は持っていた受話器を床に落とすと、財布を持ち家を出た。
「――さ、探さなければ……探さなければっ! 絶対に更屋敷を探さなければっ!」
探してすぐに被害届を取り下げねば、俺は土の中……!
その事を強く認識した米沢はスマホでレンタカーの予約をしながら走り出す。
家を出た際、暴力団関係者と思わしき二人組がこちらを睨み付けてきた。
おそらく、この二人は俺の監視。そう俺は監視されているっ!
そう認識した米沢は一心不乱にレンタカーを借りるため近くのステーションへと向かった。
---------------------------------------------------------------
明けましておめでとうございます!
今年が皆様にとって、幸多き一年でありますように!
今年もどうぞよろしくお願いします!
2022年1月3日AM7時更新となります。
びーぜろ
日毎放送の代表取締役社長である猪狩雄三が毎朝の日課であるホット珈琲を飲みながら日経トレンディを読んでいると、スマホから着信音が鳴る。
「うん?」
日経トレンディをから目を離し、スマホの画面を確認すると、妻からの着信の様だ。
仕事中、妻が電話してくる事なんて殆どない。何か問題事でも発生したのだろうか?
それとも秋良の件で何か進展があったのか?
息子の秋良は浮浪者にナイフで刺され入院中……秋良の友達の祐樹君もフォークで刺され入院中だ。
一抹の不安を抱えながら電話に出る。
すると、妻が慌てた様子で話し始めた。
『あ、あなたっ! 大変、大変なのっ! 秋良が……秋良がっ!?』
この慌てよう……秋良に何が……。
しかし、私まで慌てるのはまずい。
まずは落ち着かせて話を聞く事にしよう。
「まあ、まずは落ち着きなさい。秋良がどうした? 何かあったのか?」
相当、テンパっているのだろう。
私の発言を聞き、何故か妻が怒鳴り始めた。
『な、何であなたはそうも冷静でいられるのっ! 秋良が、秋良が大変な事になっているのよっ!』
いや、何も聞かされてないのだから、そんな事を言われても困る。
しかし、それを実直にそう伝えるのはあまりに愚策。
妻の気が動転している今、私だけでも冷静に努めなければ……。
心の中でそう呟くと猪狩は妻を諭す様に言う。
「安心しなさい。私も慌てている。一体、何が起こっているのか検討が付かなくてね。だからお願いだ。まずは冷静になって秋良に何があったのか聞かせてくれないか? そうしなければ、対応することもできない」
そう告げると、少し冷静になったのかポツリ、ポツリと秋良の置かれている状況を話し始める。
「な、何だと……!?」
その結果、わかった事。それは私にとって想定外。晴天の霹靂と呼べるものだった。
「じ、事情聴取? 警察が病院まで来たのか? いや、そんな事より……」
警察は詳しい内容まで教えてくれなかった。
しかし、秋良を問い詰めた所、とある事実が判明する。
「秋良がホームレスに暴行を加え金銭を奪ったというのは本当かっ!?」
シャレにならない。
しかもホームレス相手に……な、何という事を……。
『そ、そうなのよ……秋良ったら、友達の祐樹君と一緒になって……もうどうしたらいいかわからないわ……』
「それで秋良は……? 秋良はどうなる!? 警察はなんと言っていたっ!?」
『そんなの、わからないわよっ! 私が知る訳ないでしょっ! もう嫌よ……秋良がこうなったのも、あなたのせいよっ! 仕事ばかりで秋良に構ってあげなかったからっ……!』
「なっ、それは関係ないだろう! 誰のお陰で生活できていると思っているんだっ! それに秋良がこうなったのは、お前が甘やかして育てたのが悪いんだろっ!」
『わ、私が悪いっていうのっ!? もういい加減にしてよっ! ――プッ』
怒りに任せて受話器を置いたのだろう。
猪狩はスマホを持ったまま愕然とした表情を浮かべる。
「ま、拙い事になった……」
すぐに被害に遭われたホームレスの方に謝罪を……。被害届を取り下げて貰わなければ……。いや、そんな事よりも、何故、ホームレスが警察に被害届を提出できたんだ?
基本的に住所不定者は被害届を出す事ができない筈……。
「――と、とにかく、事件として扱われ報道されてしまう前に何とかしなくては……」
日毎放送の社長であるこの私の息子がホームレスに暴行を加えたなんて事がニュースとなり報道されては堪らない。
「と、とりあえず、弁護士に相談を……ニュース報道される前に和解に持ち込まなければ……」
もし、和解できなければ私はお終いだ。
報道する側が報道されるかもしれない恐怖。
かつてない恐怖に、猪狩は怯え、急ぎ弁護士に電話した。
◇◆◇
一方、ホームレス化した更屋敷太一を焚き付け、半ば強制的に被害届を提出させた米沢も猪狩同様、苦境に陥っていた。
『――てめぇ……新橋のガード下で生活していた更屋敷太一をどこに逃がした?』
「そ、それは……。わ、私にも何がなんだか……」
広域暴力団・任侠会から突然、掛ってきた電話。
米沢は震える手で受話器を持ち、心の中で絶叫する。
ど、どうなっているんだ……??
な、何故、広域暴力団・任侠会が俺の自宅に電話を……?
まさか、見ていたのか?
更屋敷太一の言っていた事は本当だったのかっ!?
『何がなんだかじゃねーぞ、コラッ! 更屋敷が余計な事を言わない様に見張りを着けていたのに台無しじゃねーかっ! この落とし前、どうしてくれるんだよ。ああっ!?』
ま、拙い……。拙い。拙い。拙い。拙いぞこれは……。
『広域暴力団・任侠会に目を付けられたから』って……『もし任侠会に私の居場所が知れたらすぐにでも奴らがやってくる。だから、私はこの様な生活を送っているんだ』とか言っていたが、既に居場所を知られているじゃないか……!?
ど、どどど……どうする。どうしたらいい。
とばっちりだ。完全にとばっちり……俺が更屋敷太一を逃がしたと勘違いされてしまった。
よりにもよって、広域暴力団・任侠会にだ……。
警察に相談するか?
い、いや、駄目だ……。
自宅に電話がかかってきたという事は既に俺の住んでいる場所が割れているという事……。
子機を持ったまま窓の外をチラリと覗く。
そこには、二人の男がいた。
「……ひっ!?」
米沢の口から思わず声が出る。
か、堅気じゃない……。
今、俺の自宅を張っている男達の人相。どう考えても堅気の人相じゃないぞっ……!?
『返事はどうした? 返事はどうしたかって聞いているんだよっ!』
「す、すいません……! すいませんでしたっ!」
あ、謝れば許してくれるだろうか、謝れば許してくれるだろうかっ!?
今の俺にできる事なんてこれ位の事しかない。
な、何で俺がこんな目に……??
『……すいませんでしたで済めば警察はいらねーよっ! それで、更屋敷の野郎はどこにいる? どこへ連れて行ったっ!?』
「い、池袋ですっ! 池袋に連れて行きましたっ! た、多分、池袋駅の通路脇にいる筈です!」
『――いる筈ぅ!?』
「い、います! 必ずいます! 池袋駅には連れて行った時、そうアドバイスしました。絶対にいる筈なんですっ!」
な、何でこんなにも更屋敷太一の事を……。
もしかして、更屋敷太一を暴行したのは、暴力団関係者?
高橋翔ではなく暴力団関係者だったのかっ……!?
い、いや、今はそれ所ではない。
『――言ったな? 今、お前は言ったなぁ……。もし更屋敷太一が池袋駅に居なかったらどうする。どうしてくれるんだよっ!』
「い、池袋駅にいなかったらですかっ!?」
そ、そんなの知る訳ないだろっ!
池袋駅に居なかった場合の責任なんて俺には関係ない!
しかし、そんな事を言ったら……。
米沢は涙ぐむ。
何で、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ……。
俺はただ高橋翔に……。
『ああ、そうだよ。ホームレスだったあいつが警察に被害届を出せる筈がねぇ。居住地が無いからな……。誰かが手引きした筈なんだよ。誰かがなぁ……。祐樹坊ちゃんの事を警察に垂れ込んだ奴がなぁ……。誰だろうなぁ? そいつは誰なんだろうなぁ!』
『すいませんでした。それは俺です』なんて言えない。
言ったら殺される。自宅に電話が掛ってきた時点でどう考えても俺の事を疑っているであろう事がわかる。しかし、それを言葉にしたら殺される。
祐樹坊ちゃんと言った。
つまり、更屋敷太一は、暴力団関係者である祐樹坊ちゃんとやらから暴行を受けた。そして、更屋敷太一が被害届を出さないよう見張っていたと、そういう事だ。
そして、最近になって、祐樹坊ちゃんとやらが逮捕された。もしくは、警察から事情聴取を受けた……!
拙い。どう考えても拙い。
今すぐに被害届を取り下げなくては……取り下げて貰わなければ……!
更屋敷太一が余計な事を言わない様に、口裏を合わせる必要もある。
更屋敷太一を唆し、被害届を提出させたのが俺だとバレたら非常に拙い。
殺されるかもしれない。
しかし、その一方で、被害届は、刑事処分に大きな影響を与えるため、電話で取り下げて貰う事はできない。また、被害者である更屋敷太一が直接、被害届を取り下げなくてはならない。
早い所、更屋敷太一を探して被害届を取り下げさせねばっ!
「――さ、探します! 探させて下さいっ! 更屋敷太一を探すのを協力させて下さいっ! お願いします!」
米沢は受話器を持ち目を瞑ると頭を下げる。
『……ちっ!』
受話器から舌打ちが聞こえてくる。
暴力団も更屋敷太一が見付からず焦っているのだろう。
何となく希望が見えてきた。
『……いいだろう。一日だ。一日だけ時間をやる。もし見付からなかったらどうなるか、わかっているだろうな?』
暴力団員の言葉に米沢は背筋を伸ばす。
「は、はいっ! 必ず、見付けて見せます!」
『ああ、それともう一つ。お前が言っていた池袋だが、更屋敷の野郎はそこに居なかった。その事だけ伝えておく。いいか? 一日だ。明日のこの時間までに更屋敷の野郎が見付からず、被害届が取り下げられなかったら……』
「ひ、被害届が取り下げられなかったら……?」
『――お前を山に埋める。警察に言っても埋める。必ずだ。必ず、実行する……わかったな? ――プッ、ツーツーツー』
その言葉を聞き、米沢は戦慄する。
本気だ……。もし俺が更屋敷太一を見付け、被害届を取り下げられなかったら、奴等は本気で俺を山に埋めるつもりだ……。
山に埋めた死体が偶然見つかって殺人事件が発覚するのは稀と聞く。
そして相手は広域暴力団・任侠会。やるといったら、必ずやる。必ずだ。
米沢は持っていた受話器を床に落とすと、財布を持ち家を出た。
「――さ、探さなければ……探さなければっ! 絶対に更屋敷を探さなければっ!」
探してすぐに被害届を取り下げねば、俺は土の中……!
その事を強く認識した米沢はスマホでレンタカーの予約をしながら走り出す。
家を出た際、暴力団関係者と思わしき二人組がこちらを睨み付けてきた。
おそらく、この二人は俺の監視。そう俺は監視されているっ!
そう認識した米沢は一心不乱にレンタカーを借りるため近くのステーションへと向かった。
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明けましておめでとうございます!
今年が皆様にとって、幸多き一年でありますように!
今年もどうぞよろしくお願いします!
2022年1月3日AM7時更新となります。
びーぜろ
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