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第197話 米沢よ。またお前か、いい加減にしろよ
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『――ち、ちょっと待って、狭間俊介と岡田美緒が暴力団関係者って、それは本当の事なの!?』
「うん。まあ、矢田君がそう言っていたんだけど……え? 何、知り合いだったりするの?」
『ええ、まあ……』
凄い驚き様だ。
何だか電話口で頭を抱え悩んでいる様に感じる。
どうやら本当に知り合いだったらしい。
「それなら早目に対処した方がいいよ?」
暴力団の密接交際者と認定された場合、暴力団に入門している暴力団組員と同じく銀行口座やクレジットカード、不動産の売買や賃貸ができなくなってしまう。
クレジットカードの発行や使用はともかく銀行口座が作れなくなってしまうのは拙い。ネットで購入した宝くじの当選金は、その銀行口座に支払われる為だ。
俺の余計なお節介とも取れる言葉に会田さんは苦悩する。
そして、暫くすると、考えるのを止めたのか盛大なため息を吐いた。
『――あのね。一応、あなたも会っているのよ。覚えてない? 六本木でキャッシュフローゲームをした時にいたでしょ? 狭間俊介と岡田美緒は、あの時、あなた達をネットワークビジネスに勧誘する為、協力を依頼した二人よ。本職はホストとキャバ嬢……。でもまさか、あの二人が暴力団関係者だったなんて……』
言われてみれば、そんな奴、居た気がする。
そういえば、六本木でキャッシュフローゲームした時、居たわ。
ホスト風の男とキャバ嬢風の女。
あれが狭間俊介と岡田美緒か……。
最近、ホスト兼暴力団組員が増えているってネット記事で読んだ事があったけど、まさか自分が起こした団体にそんな奴が潜り込んでいたとは思いもしなかった。
『彼等は私が説得するわ。ネットワークビジネス時代からの長い付き合いだもの……』
「うん。よろしくね」
矢田牧夫も会田さんのネットワークビジネスグループに所属していたのだから、そっちで対処して欲しかったが、敢えてその事は言わないでおく。
何だか会田さん機嫌悪いし、ショックを受けているみたいなので……。
でも、これだけは伝えておこう。
「でも会田さんに一つだけ……狭間俊介と岡田美緒は多分、矢田君と同じ準暴力団・万秋会の関係者だと思う。矢田君は、暴力団からバッくれたみたいだったから、警察に行って暴力団組員から足を洗う様、話を纏める事ができたけど、その二人はちょっと難しいかも……」
ホストとキャバ嬢って職を持っているからね。
「……もし何かあったら連絡してね」
報連相は重要だ。
それ次第では、宝くじ研究会・ピースメーカーが解散に追い込まれてしまう。
何しろ、『レアドロップ倍率+500%』を提供し続けるだけで、何もしなくとも勝手に金を稼いできてくれる組織なのだ。
そんな美味い組織絶対に解散なんてさせない。
『はい。わかりました』
「うん。それじゃあ、よろしく」
会田さんの返事を待ち電話を切ると、俺は新橋大学付属病院に向かって歩を進める。
矢田牧夫は警察署に向かわせたし、狭間俊介と岡田美緒、ビルの工事対応は会田さんに任せた。もうこれで大丈夫だろう。流石に何もないだろう。
最近、ずっと、トラブルに巻き込まれ続けている。
もう。お腹一杯だ。当分、トラブルとは無縁の生活を送りたい。
「日毎放送の米沢と申します。ちょっと、取材よろしいですか?」
「……き、記者か? や、止めてくれっ! いいから私に係わらないでくれっ!」
新橋大学付属病院に向かう為、新橋のガード下を通りかかると、カメラを持った記者っぽい人がホームレス相手に取材をしている姿を見付けた。
「うえっ、また記者か……最悪……」
記者ってどこにでもいるな。
しかも、迷惑がっているホームレスに取材とか何を考えているんだ?
止めてやれよ。
ホームレスの中には居場所を知られたくない様な人達もいるんだぞ。
本当に迷惑な奴等だな……。
チラリとホームレスに視線を向けると、そこには、ダンボールの上で毛布を被る元区議会議員・更屋敷太一の姿があった。
げっ……!?
あれは元区議会議員の更屋敷太一……。
そうか、そういえば、新橋のガード下辺りでホームレスとして暮らしているとか何とか言ってたな……。
とりあえず、知らん顔してやり過ごすか……。
記者の相手をして良い事はまったくないからな。
これは俺の経験談だ。
顔を道路側に向けガード下を突っ切ろうとすると、更屋敷太一に話しかける記者の声が聞こえてくる。
「――まあまあ、落ち着いて下さい。あなた元区議会議員の更屋敷太一さんですよね? 失踪したと聞き心配しましたよ。無事で良かった。それで何故、失踪したのか理由を教えて頂けますか?」
「ち、違う。更屋敷太一なんて知らん。いいから帰ってくれっ!」
更屋敷太一は記者を追い払う様に、しっしっと手を振る。
しかし、記者は一歩も引く様子はない。
恐らく、このホームレスが元区議会議員の更屋敷太一である事に気付いている為だろう。
「そう言われても、こっちもこれが仕事なのでね。話を聞かせて貰ったら帰りますから、教えて下さいよ」
流石はマスゴミ。好き放題やってんな。
そもそもホームレスは不法に路上を占拠しているのだからとか、どうせ住所も無く放送を見る事も無いだろうだとか、BPOに訴え出る事は無いと高を括っているのが透けて見える。
もしこの取材が原因となり、投石や放火などホームレスの人達を標的とした悪意ある行為を誘発したらどうするつもりだ?
なんだ? 『こっちもこれが仕事なのでね』って?
自分の都合ばかりでその辺りの事、何にも考えてないだろ。
「仕方がないな……」
更屋敷太一の件は俺の中で終わった話。
また火を付けられては堪らない。
俺はアイテムストレージから遊びで購入したハーフフェイスの狐のお面を取り出すと顔バレしない様、それを身に付ける。
「いいから帰ってくれ!」
「まあまあ、ちょっと話を聞かせて貰うだけですから、別にいいじゃありませんか……」
そして、ポケットにボイスレコーダーを入れカメラを片手に持つと、ホームレスとなった更屋敷太一を写さない様、記者にカメラを向け、言い争いをする二人の真隣に近付いた。
「うん? おい。何、勝手に撮ってんだよ。変なお面付けやがって! 今すぐ撮るのを止めろっ! それは肖像権の侵害だぞっ!」
自分もホームレスにカメラを向けているくせに可笑しな事を言う奴である。
「えっ? あなたもホームレスの方にカメラを向けている様ですが、その人の許可を取っているんですか? 明らかにそうは見えませんけど……」
「お、お前には関係ないだろうがっ! 俺は記者だからいいんだよ。取材の邪魔だ! いいから撮るのを止めろっ!」
そう言うと、記者は俺のカメラを叩き落とした。
「あー、カメラを叩き落として破壊しましたね。あーあ、完全に逝ってるわ……器物損壊で訴えます。どこの記者ですか? 名刺を出して下さい。出さなければ警察を呼びますけど、どうしますか?」
「ふ、ふざけんなっ! 人の事を無断で撮ってるから悪いんだろうがよ!」
流石は記者。
その発言が自分に返ってくると考えていないのだろうか?
完全にブーメランだぞ、それ?
それと……。
「えっと、あなたと違って俺は偶々、カメラをあなた方に向けていただけで撮影なんてしていないんですけど……それで、なんであなたはカメラを壊したんですか? まさかとは思いますが思い込みで壊した訳ではありませんよね? 思い込みで壊した訳ではありませんよね?」
「はっ? そ、それは……!」
撮っていると思い込んでいたのだろう。
大事な事なので二度ほどカメラを壊した事を問い詰めると、記者はタジタジとなる。
「……お、お前が勘違いする様な事をするから悪いんだろうがっ!」
遂には逆ギレときた。
偏向報道を是とするマスゴミの所以極まったりだ。
すべてのマスコミがこうとまでは言わないが、これは酷い。
「まあ、どうでもいいんで、早く名刺を下さい。それとも、警察を呼んで器物破損の現行犯逮捕して貰った方がいいですか?」
「ううっ……!?」
そう問いかけると、記者は後退る。
今にも逃げそうな姿勢を見て、自分の素性は明かさないと判断した俺は更屋敷太一に話しかけた。
「すいません。ホームレスさん。あの人、どこの誰だか知ってます? ご存じであれば教えて頂きたいのですが……」
そう言って、財布から一万円札を取り出し、段ボールの上に置くと、更屋敷太一は恐る恐るそれを受け取った。
「日毎放送の米沢と言っていました……」
「ふーん。日毎放送の米沢さんね……」
「なっ……!?」
ホームレス元区議会議員の献身的な協力により記者の会社名と本名が割れた。
そういえば、俺の敷地内に入り込んだ犯罪者達が警察署にドナドナされた日の夜、日毎放送の米沢とかいう男から電話が掛かってきたっけ……。
こいつが、日毎放送の米沢か……。
確か『チッ……面倒臭ぇな』とか暴言を吐いてきたクソ野郎である。
「日毎放送の米沢さん。知ってます? 器物損壊罪は必ずしも現行犯逮捕じゃなくても捕まえる事ができる犯罪なんですよ?」
そう言いながら、ポケットからボイスレコーダーを取り出すと、米沢が俺に掴み掛ってくる。
「ボ、ボイスレコーダー!? そ、それを寄こせぇぇぇぇ!」
片手にカメラを持ちながら掴み掛ってくるとは、愚かな奴である。
俺が背後に視線を向けると、雷の精霊・ヴォルトが米沢の持つカメラに電気を流した。
すると、米沢は「ギャッ!?」と短い悲鳴を上げ、カメラを地面に落とす。そして、偶然、足のつま先がカメラに当たり道路に向かって飛んで行く。
――ベキバキッ!?
カメラは放物線を描くことなく、そのまま道路に転がると道路を走っていたトラックに踏み潰され、バラバラになった。
「あ、あああああああああっ!?」
その瞬間、悲鳴を上げる米沢。
もしかしたら私物だったのかも知れない。
バラバラになって道路の端に転がる壊れたカメラを見て米沢は呆然とした表情を浮かべた。
俺はアイテムストレージから紙とペンを取り出すと、それに壊れたカメラの金額と迷惑料、振込先を書き米沢の肩を叩く。
呆然とした表情を浮かべたまま、俺に顔を向ける米沢。
そんな米沢を見て俺は笑顔を浮かべる。
「壊れたカメラと迷惑料。今日中に振り込まなかったら、ボイスレコーダー持って警察に被害届を出し、日毎放送に抗議文を送りますので、そのつもりで……それじゃあ、これで失礼します」
呆然とした表情を浮かべ紙を手に取った米沢を見下ろすと、俺は新橋大学付属病院の特別室に向かって歩き始めた。
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2022年12月22日AM7時更新となります。
「うん。まあ、矢田君がそう言っていたんだけど……え? 何、知り合いだったりするの?」
『ええ、まあ……』
凄い驚き様だ。
何だか電話口で頭を抱え悩んでいる様に感じる。
どうやら本当に知り合いだったらしい。
「それなら早目に対処した方がいいよ?」
暴力団の密接交際者と認定された場合、暴力団に入門している暴力団組員と同じく銀行口座やクレジットカード、不動産の売買や賃貸ができなくなってしまう。
クレジットカードの発行や使用はともかく銀行口座が作れなくなってしまうのは拙い。ネットで購入した宝くじの当選金は、その銀行口座に支払われる為だ。
俺の余計なお節介とも取れる言葉に会田さんは苦悩する。
そして、暫くすると、考えるのを止めたのか盛大なため息を吐いた。
『――あのね。一応、あなたも会っているのよ。覚えてない? 六本木でキャッシュフローゲームをした時にいたでしょ? 狭間俊介と岡田美緒は、あの時、あなた達をネットワークビジネスに勧誘する為、協力を依頼した二人よ。本職はホストとキャバ嬢……。でもまさか、あの二人が暴力団関係者だったなんて……』
言われてみれば、そんな奴、居た気がする。
そういえば、六本木でキャッシュフローゲームした時、居たわ。
ホスト風の男とキャバ嬢風の女。
あれが狭間俊介と岡田美緒か……。
最近、ホスト兼暴力団組員が増えているってネット記事で読んだ事があったけど、まさか自分が起こした団体にそんな奴が潜り込んでいたとは思いもしなかった。
『彼等は私が説得するわ。ネットワークビジネス時代からの長い付き合いだもの……』
「うん。よろしくね」
矢田牧夫も会田さんのネットワークビジネスグループに所属していたのだから、そっちで対処して欲しかったが、敢えてその事は言わないでおく。
何だか会田さん機嫌悪いし、ショックを受けているみたいなので……。
でも、これだけは伝えておこう。
「でも会田さんに一つだけ……狭間俊介と岡田美緒は多分、矢田君と同じ準暴力団・万秋会の関係者だと思う。矢田君は、暴力団からバッくれたみたいだったから、警察に行って暴力団組員から足を洗う様、話を纏める事ができたけど、その二人はちょっと難しいかも……」
ホストとキャバ嬢って職を持っているからね。
「……もし何かあったら連絡してね」
報連相は重要だ。
それ次第では、宝くじ研究会・ピースメーカーが解散に追い込まれてしまう。
何しろ、『レアドロップ倍率+500%』を提供し続けるだけで、何もしなくとも勝手に金を稼いできてくれる組織なのだ。
そんな美味い組織絶対に解散なんてさせない。
『はい。わかりました』
「うん。それじゃあ、よろしく」
会田さんの返事を待ち電話を切ると、俺は新橋大学付属病院に向かって歩を進める。
矢田牧夫は警察署に向かわせたし、狭間俊介と岡田美緒、ビルの工事対応は会田さんに任せた。もうこれで大丈夫だろう。流石に何もないだろう。
最近、ずっと、トラブルに巻き込まれ続けている。
もう。お腹一杯だ。当分、トラブルとは無縁の生活を送りたい。
「日毎放送の米沢と申します。ちょっと、取材よろしいですか?」
「……き、記者か? や、止めてくれっ! いいから私に係わらないでくれっ!」
新橋大学付属病院に向かう為、新橋のガード下を通りかかると、カメラを持った記者っぽい人がホームレス相手に取材をしている姿を見付けた。
「うえっ、また記者か……最悪……」
記者ってどこにでもいるな。
しかも、迷惑がっているホームレスに取材とか何を考えているんだ?
止めてやれよ。
ホームレスの中には居場所を知られたくない様な人達もいるんだぞ。
本当に迷惑な奴等だな……。
チラリとホームレスに視線を向けると、そこには、ダンボールの上で毛布を被る元区議会議員・更屋敷太一の姿があった。
げっ……!?
あれは元区議会議員の更屋敷太一……。
そうか、そういえば、新橋のガード下辺りでホームレスとして暮らしているとか何とか言ってたな……。
とりあえず、知らん顔してやり過ごすか……。
記者の相手をして良い事はまったくないからな。
これは俺の経験談だ。
顔を道路側に向けガード下を突っ切ろうとすると、更屋敷太一に話しかける記者の声が聞こえてくる。
「――まあまあ、落ち着いて下さい。あなた元区議会議員の更屋敷太一さんですよね? 失踪したと聞き心配しましたよ。無事で良かった。それで何故、失踪したのか理由を教えて頂けますか?」
「ち、違う。更屋敷太一なんて知らん。いいから帰ってくれっ!」
更屋敷太一は記者を追い払う様に、しっしっと手を振る。
しかし、記者は一歩も引く様子はない。
恐らく、このホームレスが元区議会議員の更屋敷太一である事に気付いている為だろう。
「そう言われても、こっちもこれが仕事なのでね。話を聞かせて貰ったら帰りますから、教えて下さいよ」
流石はマスゴミ。好き放題やってんな。
そもそもホームレスは不法に路上を占拠しているのだからとか、どうせ住所も無く放送を見る事も無いだろうだとか、BPOに訴え出る事は無いと高を括っているのが透けて見える。
もしこの取材が原因となり、投石や放火などホームレスの人達を標的とした悪意ある行為を誘発したらどうするつもりだ?
なんだ? 『こっちもこれが仕事なのでね』って?
自分の都合ばかりでその辺りの事、何にも考えてないだろ。
「仕方がないな……」
更屋敷太一の件は俺の中で終わった話。
また火を付けられては堪らない。
俺はアイテムストレージから遊びで購入したハーフフェイスの狐のお面を取り出すと顔バレしない様、それを身に付ける。
「いいから帰ってくれ!」
「まあまあ、ちょっと話を聞かせて貰うだけですから、別にいいじゃありませんか……」
そして、ポケットにボイスレコーダーを入れカメラを片手に持つと、ホームレスとなった更屋敷太一を写さない様、記者にカメラを向け、言い争いをする二人の真隣に近付いた。
「うん? おい。何、勝手に撮ってんだよ。変なお面付けやがって! 今すぐ撮るのを止めろっ! それは肖像権の侵害だぞっ!」
自分もホームレスにカメラを向けているくせに可笑しな事を言う奴である。
「えっ? あなたもホームレスの方にカメラを向けている様ですが、その人の許可を取っているんですか? 明らかにそうは見えませんけど……」
「お、お前には関係ないだろうがっ! 俺は記者だからいいんだよ。取材の邪魔だ! いいから撮るのを止めろっ!」
そう言うと、記者は俺のカメラを叩き落とした。
「あー、カメラを叩き落として破壊しましたね。あーあ、完全に逝ってるわ……器物損壊で訴えます。どこの記者ですか? 名刺を出して下さい。出さなければ警察を呼びますけど、どうしますか?」
「ふ、ふざけんなっ! 人の事を無断で撮ってるから悪いんだろうがよ!」
流石は記者。
その発言が自分に返ってくると考えていないのだろうか?
完全にブーメランだぞ、それ?
それと……。
「えっと、あなたと違って俺は偶々、カメラをあなた方に向けていただけで撮影なんてしていないんですけど……それで、なんであなたはカメラを壊したんですか? まさかとは思いますが思い込みで壊した訳ではありませんよね? 思い込みで壊した訳ではありませんよね?」
「はっ? そ、それは……!」
撮っていると思い込んでいたのだろう。
大事な事なので二度ほどカメラを壊した事を問い詰めると、記者はタジタジとなる。
「……お、お前が勘違いする様な事をするから悪いんだろうがっ!」
遂には逆ギレときた。
偏向報道を是とするマスゴミの所以極まったりだ。
すべてのマスコミがこうとまでは言わないが、これは酷い。
「まあ、どうでもいいんで、早く名刺を下さい。それとも、警察を呼んで器物破損の現行犯逮捕して貰った方がいいですか?」
「ううっ……!?」
そう問いかけると、記者は後退る。
今にも逃げそうな姿勢を見て、自分の素性は明かさないと判断した俺は更屋敷太一に話しかけた。
「すいません。ホームレスさん。あの人、どこの誰だか知ってます? ご存じであれば教えて頂きたいのですが……」
そう言って、財布から一万円札を取り出し、段ボールの上に置くと、更屋敷太一は恐る恐るそれを受け取った。
「日毎放送の米沢と言っていました……」
「ふーん。日毎放送の米沢さんね……」
「なっ……!?」
ホームレス元区議会議員の献身的な協力により記者の会社名と本名が割れた。
そういえば、俺の敷地内に入り込んだ犯罪者達が警察署にドナドナされた日の夜、日毎放送の米沢とかいう男から電話が掛かってきたっけ……。
こいつが、日毎放送の米沢か……。
確か『チッ……面倒臭ぇな』とか暴言を吐いてきたクソ野郎である。
「日毎放送の米沢さん。知ってます? 器物損壊罪は必ずしも現行犯逮捕じゃなくても捕まえる事ができる犯罪なんですよ?」
そう言いながら、ポケットからボイスレコーダーを取り出すと、米沢が俺に掴み掛ってくる。
「ボ、ボイスレコーダー!? そ、それを寄こせぇぇぇぇ!」
片手にカメラを持ちながら掴み掛ってくるとは、愚かな奴である。
俺が背後に視線を向けると、雷の精霊・ヴォルトが米沢の持つカメラに電気を流した。
すると、米沢は「ギャッ!?」と短い悲鳴を上げ、カメラを地面に落とす。そして、偶然、足のつま先がカメラに当たり道路に向かって飛んで行く。
――ベキバキッ!?
カメラは放物線を描くことなく、そのまま道路に転がると道路を走っていたトラックに踏み潰され、バラバラになった。
「あ、あああああああああっ!?」
その瞬間、悲鳴を上げる米沢。
もしかしたら私物だったのかも知れない。
バラバラになって道路の端に転がる壊れたカメラを見て米沢は呆然とした表情を浮かべた。
俺はアイテムストレージから紙とペンを取り出すと、それに壊れたカメラの金額と迷惑料、振込先を書き米沢の肩を叩く。
呆然とした表情を浮かべたまま、俺に顔を向ける米沢。
そんな米沢を見て俺は笑顔を浮かべる。
「壊れたカメラと迷惑料。今日中に振り込まなかったら、ボイスレコーダー持って警察に被害届を出し、日毎放送に抗議文を送りますので、そのつもりで……それじゃあ、これで失礼します」
呆然とした表情を浮かべ紙を手に取った米沢を見下ろすと、俺は新橋大学付属病院の特別室に向かって歩き始めた。
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2022年12月22日AM7時更新となります。
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