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第179話 区議会議員⑨
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泣きそうな表情を浮かべ、ベットで蹲る太一。
そんな太一に、事務員の磯貝が更なるダメージを与える。
「そ、そういえば、更屋敷先生のスキャンダルを掴んだ週刊誌の下へ脅迫するよう人を送り込みましたが、その件についてはどう致しましょう? 申し付け通り。金には糸目を付けず二人ほど送ってしまったのですが……」
「な、何いっ!?」
な、何を頭の中で勝手に言葉を改竄しているんだっ。この大馬鹿者はぁぁぁぁ!
「い、幾らだ? 幾ら支払うと約束した?」
「えっと、これ位です」
磯貝はそう言って二本指を立てる。
「……これは、総額での話か?」
「いえ、一人につき二百万円です」
「に、二百万円だとぉぉぉぉ!」
少し前の太一であれば、笑って許したであろう金額も、財政難に陥った今、そのすべてが高く感じる。そもそも、今の太一に支払い能力はない。
「……と、当然、もう払い込みは済ませた後なんだよな? 済ませた後なんだよなっ!?」
希望に縋りながら問いかけると、磯貝は首を振る。
「勿論、後払いです」
それを聞いた瞬間、太一は天を仰ぎ、膝から崩れ落ちた。
……お、終わった。
義雄が警察に連行された件については、既にもう全国放送されている。
もはや隠しようのないスキャンダルだ。
今更、SNSを賑わせている音声データに関する記事を差し止めた所で意味はない。
むしろ、新たなスキャンダルを週刊誌に与えただけだ。
例え、脅迫が上手く行った所で金は払えないし、上手く行かなかった場合も……あまり変わらないか……。
どの道、太一に道は残されていない。
むしろ、金を追加で支払わなくていい分、失敗に終わってくれた方がありがたいとすら思う。
「……当然、足が付かないよう工作したんだろうな?」
最早、その工作すら意味のないものだが、とりあえず聞いておく。
「はい。いつもの業者を使いましたので、その点については抜かりありません」
「そうか……それなら安心だな……」
磯貝の言葉に太一は更に暗い表情を浮かべる。
磯貝の使ったいつもの業者とは、表向きはマトモな暴力団が経営しているフロント企業である。
何故、今のご時世、暴力団と懇意にしているのか、それは今も昔も暴力団の存在が政治家にとって使いやすい存在だからだ。情報を集める、口利きをする、トラブルを処理するといった、彼等にしかできない仕事は山ほどある。
その反面、下手に付き合い方を間違えると殺人事件にまで発展するので取扱い方には注意が必要だ。
「……よし。そうと決まれば退院だ。すぐに雲隠れするぞ」
磯貝が使った業者は、曲がりなりにも暴力団が経営しているフロント企業だ。
金がないにも係わらず依頼したとバレたら殺される。
「え、ええっ! 今日、入院したばかりですよっ!?」
「仕方がないだろう! 私の金は家と共に燃えてしまった。燃えてしまったんだっ! 金がないんだよっ!」
「い、いやいや、冗談は止めて下さいよ。お金もないのに暴力団の力を借りたらどうなるか……」
太一がそう演説すると、丁度良く電話がかかってきた。
磯貝が電話に出ると、聞いた事のある声が聞こえてくる。
『もしもし、磯貝さんの電話ですか?』
「は、はい。そうですが……」
電話の主。それは、広域暴力団・任侠会が経営しているフロント企業。極道建設の尾佐の声だった。
『尾佐です。ご依頼通り更屋敷さんの記事。握り潰しときました。安心して下さい。念入りにクンロク入れときましたから……後で謝礼取りに行くんで、よろしくお願いします』
「は、はい……準備してお待ちしております……」
磯貝は電話を切ると、太一に視線を向ける。
そこには、アタッシュケースに必要な物だけを入れ逃げる準備をした太一の姿があった。
「ち、ちょっと、なにやってんですかっ! もしかして、一人で逃げる気だったんですか? 逃げる気だったんですかっ!?」
磯貝は一人で逃げ様としていた太一に猛抗議する。
すると、太一は開き直った。
「ああそうだ。それがどうしたっ! 逃げるなら今しかないだろっ! 幸いな事にクレジットカードなら後払いだっ! 金なんて持っていなくても、今ならどうとでもなる!」
「ど、どうとでもなるって、私はどうなるんですかっ! 尾佐さんに連絡を入れたのは私なんですよっ!?」
「そ、そんな事知るかっ! 私は記事を握り潰せなんて頼んでいない! 頼んでないぞ、私はっ! そんな記憶は一切ないっ!」
「そ、そんなっ……私の事を切り捨てる気ですかっ!?」
「ああ、そうだっ! それがどうしたっ!」
命の危機だけあって、言い難い事をきっぱり言う太一。
「そ、そんなぁ……」
泣きそうな表情を浮かべる磯貝。
そんな磯貝に太一は、詰め寄り怒鳴り散らした。
「いいかっ! 君はここに残り、暴力団を何とか丸め込むんだっ! 他でもない。君が何とかするんだっ! 命を賭して、絶対に暴力団をこっちに寄こすなっ! いいなっ!」
言いたい事だけを言って特別個室Bから出て行く太一。
太一は、特別個室一泊分の料金をクレジットカードで支払うと、そのまま病院を後にした。
自分を置いて出て行ってしまった太一に、磯貝は絶望的な表情を浮かべ座り込む。
どの位、時間が経っただろうか。
太一のいなくなった特別個室Bから出た磯貝は、フラフラと体を揺らしながらエレベーターホールへと向かう。
すると、どこかで見たような顔の男に声を掛けられた。
「えっと、大丈夫ですか? 随分と憔悴している見たいですけど……」
「う、ううっ……」
太一に見捨てられた磯貝はその場で涙を流し嗚咽を漏らす。
磯貝が声をかけられたのは、このフロアに設けられたラウンジの前。
壁に聴診器を当て話を聞いていた翔は、太一が部屋を出た後、ラウンジに先回りし磯貝が出てくるのを今か今かと待ち構えていた。
翔は、磯貝に見えないよう笑みを浮かべると、優しく声をかける。
「例えば、信じていた人に裏切られて困っているとか、お金に困っているとか……俺で良ければ相談に乗りますよ?」
そう呟くと、磯貝は口を開けたまま翔に視線を向けた。
「随分と大きな声で喋っていましたからね。聞こえていましたよ」
「えっ?」
翔の言葉に疑問符を浮かべる磯貝。
そんな磯貝に、翔は手を差し伸べ自己紹介をする。
「初めまして、磯貝さん。特別個室Aに住んでいる高橋翔と申します。まずはそちらのソファにお座り下さい。もし、俺の提案を全面的に飲んでくれるなら、あなたを助けるのもやぶさかではないと考えているのですが、いかがでしょうか?」
そんな翔の言葉に、一瞬、磯貝はポカンとした表情を浮かべる。
しかし、天から伸びてきた蜘蛛の糸を前にして、磯貝は翔に縋り付いた。
「……た、助けて下さい! これから、ここに四百万円を集金しに暴力団が来てしまうんです! 私にできる事であれば、何でもしますっ! なので、どうか……どうかっ!」
縋り付いてくる磯貝に翔は手を取りニヤリと笑った。
――計画通り。
もちろん、心の中で呟いて見たかっただけだ。
「わかりました。俺自身、全力を尽くしましょう。とりあえず、四百万円をお渡ししておきますね」
そう言って、アイテムストレージから取り出した四百万円を取り出すと、磯貝は驚いた表情を浮かべる。
「――あ、ありがとうございます! これでなんとかっ」
磯貝は四百万円を受け取ろうと手を伸ばす。
翔はその手をサッと払うと、テーブルに一枚、契約書を置いた。
「それじゃあ、この四百万円を受け取るに当たり契約を交わしましょうか? ああ、安心して下さい。契約が終わったら、ちゃんと四百万円を差し上げますよ。それで、更屋敷太一の保有している土地についてですが……」
翔は詳しい話を聞くと、四百万円を満面の笑顔で磯貝に手渡した。
◇◆◇
泣きそうな表情で四百万円を手にし、暴力団に四百万円を渡す磯貝を窓から眺めながら俺は呟く。
「……中々、良い条件で取引できたな」
ちょっと狂言傷害で警察を騙し、エレメンタルに後の事を任せ、タイミングを見計らっていただけでこれだ。
まあ、半殺しにされそうになっていたのは事実だから、あながち狂言という訳でもないか。俺は明紀が義雄に言った事をそのまま実行したまでだ……。
ついでに、更屋敷太一の名を落とす特大スクープまで手に入れてしまった。
区議会議員が暴力団と付き合っていただなんてとんでもないスクープだ。
議員は、議員の三分の二以上が出席し、その四分の三以上の賛成があれば、失職に追い込む事ができる。
この記事が世に回れば、更屋敷太一の失職はほぼ確実。
暴力団との黒い付き合いが表沙汰になってなお、賛成に回らない区議会議員がいたら、一区民としてしっかりその情報をネットの海に流して差し上げよう。
犯罪者を擁護する様な区議会議員はこの区に不要である。
スマホで四百万円を渡す瞬間を写真に収めると、俺はそれも週刊誌にリークする。
後は、更屋敷太一の下で働いていた磯貝がそれを認めれば、それで終了だ。
更屋敷太一も、安月給でこき使ってきた事務員がまさか四百万円を支払えるとは思っていまい。
今や更屋敷太一は、土地以外の全財産を失い、唯一換金可能な土地も暴力団怖さに迂闊に手を出せなくなった(と、そう思い込んでいる筈だ)。
失職するまでの間、議員報酬が支払われるかも知れないが、それも精々、数ヶ月。
暴力団が怖くて事務所に近付けなくなった事により契約を解除する事もできず、事務所の維持費が積み上がり、逃げ回っている期間が長くなれば長くなる程、支払わなければならない税金も滞納する事となる。
最終的には、国にすべてを差し押さえられ、区議会議員から破産者にジョブチェンジだ。
もしかしたら、数ヶ月後、新橋のガード下辺りで居住生活を送っているかも知れない。しかし、議員生活を長く続けてきた御老人が、七十歳になってアウトドア生活できるだろうか?
いや、それは心配ないか……。
更屋敷太一の手元にはまだクレジットカードが残されている。
まだ使う事のできるクレジットカードと議員報酬で、アウトドア生活に欠かせないテントや寝袋。空き缶拾いで生計を立てるなら、運ぶのに便利な台車やゴミばさみ辺りを買っておけば、余裕で生活できる。
昔、人は外で生活を送ってきた。
ちょっと、時代に逆行するかも知れないが、肥えて腹の出た元区議会議員には丁度良いダイエット生活になるだろう。
満足気な表情を浮かべると、俺は暖かい珈琲を啜った。
---------------------------------------------------------------
2022年11月17日AM7時更新となります。
そんな太一に、事務員の磯貝が更なるダメージを与える。
「そ、そういえば、更屋敷先生のスキャンダルを掴んだ週刊誌の下へ脅迫するよう人を送り込みましたが、その件についてはどう致しましょう? 申し付け通り。金には糸目を付けず二人ほど送ってしまったのですが……」
「な、何いっ!?」
な、何を頭の中で勝手に言葉を改竄しているんだっ。この大馬鹿者はぁぁぁぁ!
「い、幾らだ? 幾ら支払うと約束した?」
「えっと、これ位です」
磯貝はそう言って二本指を立てる。
「……これは、総額での話か?」
「いえ、一人につき二百万円です」
「に、二百万円だとぉぉぉぉ!」
少し前の太一であれば、笑って許したであろう金額も、財政難に陥った今、そのすべてが高く感じる。そもそも、今の太一に支払い能力はない。
「……と、当然、もう払い込みは済ませた後なんだよな? 済ませた後なんだよなっ!?」
希望に縋りながら問いかけると、磯貝は首を振る。
「勿論、後払いです」
それを聞いた瞬間、太一は天を仰ぎ、膝から崩れ落ちた。
……お、終わった。
義雄が警察に連行された件については、既にもう全国放送されている。
もはや隠しようのないスキャンダルだ。
今更、SNSを賑わせている音声データに関する記事を差し止めた所で意味はない。
むしろ、新たなスキャンダルを週刊誌に与えただけだ。
例え、脅迫が上手く行った所で金は払えないし、上手く行かなかった場合も……あまり変わらないか……。
どの道、太一に道は残されていない。
むしろ、金を追加で支払わなくていい分、失敗に終わってくれた方がありがたいとすら思う。
「……当然、足が付かないよう工作したんだろうな?」
最早、その工作すら意味のないものだが、とりあえず聞いておく。
「はい。いつもの業者を使いましたので、その点については抜かりありません」
「そうか……それなら安心だな……」
磯貝の言葉に太一は更に暗い表情を浮かべる。
磯貝の使ったいつもの業者とは、表向きはマトモな暴力団が経営しているフロント企業である。
何故、今のご時世、暴力団と懇意にしているのか、それは今も昔も暴力団の存在が政治家にとって使いやすい存在だからだ。情報を集める、口利きをする、トラブルを処理するといった、彼等にしかできない仕事は山ほどある。
その反面、下手に付き合い方を間違えると殺人事件にまで発展するので取扱い方には注意が必要だ。
「……よし。そうと決まれば退院だ。すぐに雲隠れするぞ」
磯貝が使った業者は、曲がりなりにも暴力団が経営しているフロント企業だ。
金がないにも係わらず依頼したとバレたら殺される。
「え、ええっ! 今日、入院したばかりですよっ!?」
「仕方がないだろう! 私の金は家と共に燃えてしまった。燃えてしまったんだっ! 金がないんだよっ!」
「い、いやいや、冗談は止めて下さいよ。お金もないのに暴力団の力を借りたらどうなるか……」
太一がそう演説すると、丁度良く電話がかかってきた。
磯貝が電話に出ると、聞いた事のある声が聞こえてくる。
『もしもし、磯貝さんの電話ですか?』
「は、はい。そうですが……」
電話の主。それは、広域暴力団・任侠会が経営しているフロント企業。極道建設の尾佐の声だった。
『尾佐です。ご依頼通り更屋敷さんの記事。握り潰しときました。安心して下さい。念入りにクンロク入れときましたから……後で謝礼取りに行くんで、よろしくお願いします』
「は、はい……準備してお待ちしております……」
磯貝は電話を切ると、太一に視線を向ける。
そこには、アタッシュケースに必要な物だけを入れ逃げる準備をした太一の姿があった。
「ち、ちょっと、なにやってんですかっ! もしかして、一人で逃げる気だったんですか? 逃げる気だったんですかっ!?」
磯貝は一人で逃げ様としていた太一に猛抗議する。
すると、太一は開き直った。
「ああそうだ。それがどうしたっ! 逃げるなら今しかないだろっ! 幸いな事にクレジットカードなら後払いだっ! 金なんて持っていなくても、今ならどうとでもなる!」
「ど、どうとでもなるって、私はどうなるんですかっ! 尾佐さんに連絡を入れたのは私なんですよっ!?」
「そ、そんな事知るかっ! 私は記事を握り潰せなんて頼んでいない! 頼んでないぞ、私はっ! そんな記憶は一切ないっ!」
「そ、そんなっ……私の事を切り捨てる気ですかっ!?」
「ああ、そうだっ! それがどうしたっ!」
命の危機だけあって、言い難い事をきっぱり言う太一。
「そ、そんなぁ……」
泣きそうな表情を浮かべる磯貝。
そんな磯貝に太一は、詰め寄り怒鳴り散らした。
「いいかっ! 君はここに残り、暴力団を何とか丸め込むんだっ! 他でもない。君が何とかするんだっ! 命を賭して、絶対に暴力団をこっちに寄こすなっ! いいなっ!」
言いたい事だけを言って特別個室Bから出て行く太一。
太一は、特別個室一泊分の料金をクレジットカードで支払うと、そのまま病院を後にした。
自分を置いて出て行ってしまった太一に、磯貝は絶望的な表情を浮かべ座り込む。
どの位、時間が経っただろうか。
太一のいなくなった特別個室Bから出た磯貝は、フラフラと体を揺らしながらエレベーターホールへと向かう。
すると、どこかで見たような顔の男に声を掛けられた。
「えっと、大丈夫ですか? 随分と憔悴している見たいですけど……」
「う、ううっ……」
太一に見捨てられた磯貝はその場で涙を流し嗚咽を漏らす。
磯貝が声をかけられたのは、このフロアに設けられたラウンジの前。
壁に聴診器を当て話を聞いていた翔は、太一が部屋を出た後、ラウンジに先回りし磯貝が出てくるのを今か今かと待ち構えていた。
翔は、磯貝に見えないよう笑みを浮かべると、優しく声をかける。
「例えば、信じていた人に裏切られて困っているとか、お金に困っているとか……俺で良ければ相談に乗りますよ?」
そう呟くと、磯貝は口を開けたまま翔に視線を向けた。
「随分と大きな声で喋っていましたからね。聞こえていましたよ」
「えっ?」
翔の言葉に疑問符を浮かべる磯貝。
そんな磯貝に、翔は手を差し伸べ自己紹介をする。
「初めまして、磯貝さん。特別個室Aに住んでいる高橋翔と申します。まずはそちらのソファにお座り下さい。もし、俺の提案を全面的に飲んでくれるなら、あなたを助けるのもやぶさかではないと考えているのですが、いかがでしょうか?」
そんな翔の言葉に、一瞬、磯貝はポカンとした表情を浮かべる。
しかし、天から伸びてきた蜘蛛の糸を前にして、磯貝は翔に縋り付いた。
「……た、助けて下さい! これから、ここに四百万円を集金しに暴力団が来てしまうんです! 私にできる事であれば、何でもしますっ! なので、どうか……どうかっ!」
縋り付いてくる磯貝に翔は手を取りニヤリと笑った。
――計画通り。
もちろん、心の中で呟いて見たかっただけだ。
「わかりました。俺自身、全力を尽くしましょう。とりあえず、四百万円をお渡ししておきますね」
そう言って、アイテムストレージから取り出した四百万円を取り出すと、磯貝は驚いた表情を浮かべる。
「――あ、ありがとうございます! これでなんとかっ」
磯貝は四百万円を受け取ろうと手を伸ばす。
翔はその手をサッと払うと、テーブルに一枚、契約書を置いた。
「それじゃあ、この四百万円を受け取るに当たり契約を交わしましょうか? ああ、安心して下さい。契約が終わったら、ちゃんと四百万円を差し上げますよ。それで、更屋敷太一の保有している土地についてですが……」
翔は詳しい話を聞くと、四百万円を満面の笑顔で磯貝に手渡した。
◇◆◇
泣きそうな表情で四百万円を手にし、暴力団に四百万円を渡す磯貝を窓から眺めながら俺は呟く。
「……中々、良い条件で取引できたな」
ちょっと狂言傷害で警察を騙し、エレメンタルに後の事を任せ、タイミングを見計らっていただけでこれだ。
まあ、半殺しにされそうになっていたのは事実だから、あながち狂言という訳でもないか。俺は明紀が義雄に言った事をそのまま実行したまでだ……。
ついでに、更屋敷太一の名を落とす特大スクープまで手に入れてしまった。
区議会議員が暴力団と付き合っていただなんてとんでもないスクープだ。
議員は、議員の三分の二以上が出席し、その四分の三以上の賛成があれば、失職に追い込む事ができる。
この記事が世に回れば、更屋敷太一の失職はほぼ確実。
暴力団との黒い付き合いが表沙汰になってなお、賛成に回らない区議会議員がいたら、一区民としてしっかりその情報をネットの海に流して差し上げよう。
犯罪者を擁護する様な区議会議員はこの区に不要である。
スマホで四百万円を渡す瞬間を写真に収めると、俺はそれも週刊誌にリークする。
後は、更屋敷太一の下で働いていた磯貝がそれを認めれば、それで終了だ。
更屋敷太一も、安月給でこき使ってきた事務員がまさか四百万円を支払えるとは思っていまい。
今や更屋敷太一は、土地以外の全財産を失い、唯一換金可能な土地も暴力団怖さに迂闊に手を出せなくなった(と、そう思い込んでいる筈だ)。
失職するまでの間、議員報酬が支払われるかも知れないが、それも精々、数ヶ月。
暴力団が怖くて事務所に近付けなくなった事により契約を解除する事もできず、事務所の維持費が積み上がり、逃げ回っている期間が長くなれば長くなる程、支払わなければならない税金も滞納する事となる。
最終的には、国にすべてを差し押さえられ、区議会議員から破産者にジョブチェンジだ。
もしかしたら、数ヶ月後、新橋のガード下辺りで居住生活を送っているかも知れない。しかし、議員生活を長く続けてきた御老人が、七十歳になってアウトドア生活できるだろうか?
いや、それは心配ないか……。
更屋敷太一の手元にはまだクレジットカードが残されている。
まだ使う事のできるクレジットカードと議員報酬で、アウトドア生活に欠かせないテントや寝袋。空き缶拾いで生計を立てるなら、運ぶのに便利な台車やゴミばさみ辺りを買っておけば、余裕で生活できる。
昔、人は外で生活を送ってきた。
ちょっと、時代に逆行するかも知れないが、肥えて腹の出た元区議会議員には丁度良いダイエット生活になるだろう。
満足気な表情を浮かべると、俺は暖かい珈琲を啜った。
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2022年11月17日AM7時更新となります。
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