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第177話 区議会議員⑦
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事務員である磯貝は呻き声を上げ、取り乱す太一の背中を擦ると声をかける。
「先生。落ち着いて下さい。まずはこちらへ……」
磯貝は、疼くまる更屋敷の手を取るとベットに誘導し座らせた。
そして、汚れた床を掃除すると、入念に手を洗浄し、愕然とした表情を浮かべる更屋敷を勇気付ける様に声をかける。
「……更屋敷先生。大丈夫です。ご自宅には火災保険を掛けております。幸いと言っていいかはわかりませんが、建ててから一年経っていない為、ほぼ満額を保険で回収する事ができます。事業に関しても同様、先生の力があれば大丈夫です。先生が区議会議員の立場を堅持する限り以下様にもやりようがあります。ですので元気を出して下さい」
磯貝の言葉を聞き、太一は顔を上げる。
確かに、築き上げた財産すべてを焼失したのはかなりの痛手だ。
しかし、磯貝君の言う通り、区議会議員である限り、そんな事はどうとでもなる。
区役所の役職者から公共工事の入札予定価格を聞き出し、その情報を懇意にしている業者に流す事で賄賂を受け取ったり、これまでと同様に政務活動費をチョロまかしたり、何なら、議員報酬を十万か二十万増額する議員報酬引き上げ条例を出してもいい。どうせ審議会は非公開。内部でどの様な審議が行われたのか区民にわかる筈もない。
それがニュースになった所で、ノーダメージだ。どうせ報道では誰が賛成に回ったのか分かる筈もない。精々、議員の賛成多数で可決したと報道される位だ。
区議会議員の中には、真面目に職務をこなしカツカツになっている議員もいる。真面目に職務をこなすなんて馬鹿な奴だとは思うが、その真面目な議員が逆に隠れ蓑になる。
個人献金を利用し、自分自身の後援会に献金することで、還付金を貰ってもいい。
政治団体収支報告書は、五万円以下の支出について領収書の添付や報告義務は求められていない。
すべての支出は小口で、五万円以下でしたと言い張ってしまえば、何に使ったかはわからない完全なブラックボックス。すべて五万円以下の政治活動で使い切ったと言いきり収支報告書を提出すれば、税務署から還付金が貰える。
政党支部に対する献金であれば、二千万円まで献金が認められている。太一の所得は、事業で稼いだ所得を加えると優に七千万円を超えている。その為、二千万円の政治献金をする事で、最大七百万円強、所得税を減額することができるのだ。
流石は区議会議員より上の立場である国会議員が合法的に還付金を貰う為に制定した制度である。
区民の為に働く?
馬鹿馬鹿しい。そんな事をしてなんになる。
滅私奉公するのが区議会議員の役目とでも思っているのか……ちゃんちゃら可笑しいね。確かに最初は真面目に職務をこなしていた。しかし、いつかそれに気付くんだ。
区民は自分の頑張りに気付こうともしない。発信された情報のみを鵜呑みにする愚民だと。そんな生活を何年も送っていれば嫌でも気付く。
一年の内、九十日間しか拘束されないにも係らず、真面目に議員活動をするなんて阿保らしい。一挙手一投足すべてを区民に見定められている区長なら話は別だが、我らは所詮、一区議会議員。
選挙に響きそうな事は、選挙を終えた直後に行えば、四年後に行われる選挙の頃には忘れ去られている……。
何より、話題に上がらなければ区議会議員の事を区民達は知りもしない。
投票する時になって初めて『へー、こんな人が区議会議員をやっているんだ』知る人の方が多い筈だ。そして、その議員がどんな活動をしているのか精査せず、何か名前を聞いた事があるな程度の議員に投票する。
その結果として重要となるのは、組織票。区民の一時の感情で流される様な流動票などどうでもいい。
「……確かにそうだな。失った物は大きいが私が区議会議員である限りどうとでもなる」
そうだ。幾らでもやりようはある。
今の地位は、区民の無関心と、懇意にしている企業の組織票により支えられている。愚民の言葉なんて聞かなくてもどうとでもなるのだ。
しかし、今回ばかりは色々、起こり過ぎて流石に憑かれた。
「ちょっと、疲れた……悪いが一人にしてくれないか?」
太一は、そう言うと事務員である磯貝を外に出した。
◇◆◇
炎で燃え盛る更屋敷邸。
逃げる様に裏口から外に出た義雄の視線の先には、明紀の姿があった。
明紀は挙動不審な様子で、電柱に隠れながら燃え盛る家に視線を向けている。
「明紀……明紀、明紀、明紀明紀明紀……お前かぁああああっ!?」
挙動不審な明紀の姿を確認した義雄は逆上した。
財布以外の財産を失ったのも、家が燃えたのも、自分が今、こんな状況に置かれているのもすべて……すべて、明紀の奴が悪いと……。
奴がこちらに気付くよりも速く走り、血走った目を浮かべながら胸ぐらを掴むと、義雄は明紀を締め上げる。
「明紀ぃぃぃぃ! お前ぇぇぇぇ!!」
「ひっ! ひぃいいいいっ!?」
胸ぐらを掴まれ、締め上げられた明紀は突然の事に驚き悲鳴を上げる。
「ぎ、義雄君っ!? 苦しい! 苦しいよ? ちょっと落ち着いて……!?」
「落ち着ける訳がないだろうがぁぁぁぁ!! お前、何でここにいるっ!? 何故、この俺様を裏切ったぁぁぁぁ!?」
狂った様に逆上する義雄。
そんな義雄を見て明紀は戸惑いの表情を浮かべる。
「ち、違っ! 義雄君? ちょっと、待って!? 落ち着いてっ! 俺はただ百万円を受け取る為にここに来ただけで……」
「百万円!? ふざけた事を抜かすなぁぁぁぁ!!」
すべてを失った喪失感、怒り、悲しみ。
そのすべてを拳に乗せると義雄は、明紀の横顔を思い切り殴り付けた。
「――がっ!?」
そのまま地面に打ち付けられた明紀は、短い悲鳴を上げると、殴られ赤くなった頬を片手で摩り、呆然とした表情を浮かべる。当然だ、明紀からしてみれば、何故、義雄に殴られなければいけないのか理解ができない。
「ふーふーふーっ!」
明紀を殴り付け、肩で息をする義雄。
「い、いきなり何なんだよっ! ひ、人を殴り付けるなんて頭おかしいんじゃねーの!?」
金欲しさに翔を襲おうとした事や、義雄を裏切った事を棚に上げて猛抗議する明紀。
義雄はスマホを取り出すと、今、SNSに出回っている音声データを流した。
『あ、ああ、更屋敷義雄君ですか? 続報です! やりましたよ。【ピー】を半殺しにする事に成功しましたっ!』
その瞬間、明紀の背筋が強張る。
義雄はしゃがみ込むと、髪を掴んで明紀の顔を持ち上げた。
「……おい。これは何だっ? お前、まさか俺との会話を録音したのか? 俺を嵌める気だったのかっ!?」
「い、いや、違っ!?」
それは確かに明紀が録音した音声データ。
しかし、SNSに流した覚えはまったくない。
「じゃあ、何で、こんなものがSNSに流れてるっ! お前以外に、こんな音声データを録音できる奴、いないよなぁ! いないよなあっ!!」
「ち、違っ! お、俺は脅されてやっただけでっ……俺は何も悪くな……」
「ふざけんなぁぁぁぁ!」
「――があっ!!」
スマホを持ったまま明紀の頬を殴り付ける義雄。
「……脅された? 言うに事を欠いて脅されただあっ? なあ、おい。誰に脅されたんだよ。誰に脅されてこんなふざけた真似仕出かしてくれたんだよっ!!」
「――うっ、ぐうっ!」
脅されただなんてまったく信じていない義雄は立ち上がると、明紀の事を蹴り付ける。
「ふざけた事を抜かしてるんじゃねーぞ? 俺を誰だと思ってるんだっ?? 俺はなぁ。区議会議員である更屋敷太一の一人息子、更屋敷義雄様だぞっ!? 嘘付くならもっとマシな嘘をつけっ!」
再び明紀の腹に蹴りを入れようとすると、明紀の手が義雄の足を掴む。
「も、もう止め……本当に、本当なんだっ……本当に俺じゃない。あいつだ。翔とかいう奴がやったんだ。だからもう止め……」
「あん? 翔だと? あいつはお前が半殺しにしたんだろ? そんな事、できる筈がないだろっ!」
「ぐうっ!」
もう一度、蹴りを入れると、明紀は泣きながら懇願してきた。
「……ほ、本当なんだって、ス、スマホを調べて貰っても構わない。本当に俺じゃないんだって……」
「ちっ……!」
義雄は蹴るのを一時的に止めると、しゃがみ込み明紀のポケットからスマホを取り出した。そして、明紀の手を借り指紋認証を解除すると、録音データを探していく。
「……確かに無い様だな。それじゃあ、誰がこんな事をやったんだ?」
「だ、だから、翔って奴がやったって言ってるだろっ……」
息も絶え絶えにそういう明紀。
義雄は少し考え込むと、明紀に鋭い視線を向ける。
「……という事は、何か? お前に半殺しにされた筈の高橋翔が、お前に気付かれることなく会話を録音したと、そういう事か?」
義雄の問いかけに明紀は視線を逸らしながら頷く。
「……そ、そう」
「――そんな訳がねーだろっ!」
「ぐふうっ!?」
明紀の話を嘘と見抜いた義雄は、明紀の頭にサッカーボールキックすると、スマホを投げ捨てた。
「……馬鹿にするのもいい加減にしろよ? あの録音はどう考えてもお前がしたものだろ。俺を馬鹿にしているのか、お前は? 本当の事を言えよ。じゃないと、ぶっ殺すぞ!?」
すべてを失い気が立っている義雄は、サッカーボールキックを受けながらもギリギリ意識を保っている明紀の髪を掴むと恫喝するようにそう告げる。
「ず、ずいばぜんでじた……が、翔は半殺しになんでしていません。百万円をぐれるっていうがら、協力じました……」
義雄の恫喝に負け本心を述べる明紀。
そんな明紀を眼下に収めながら、義雄は立ち上がる。
「なるほどなぁ……それなら、納得だ。つまり、お前は俺の事を騙していたと……それでいて、俺から百万円を騙し取るつもりだったと、そういう事――ふざけるなぁぁぁぁ!」
義雄は一息入れると、足を思い切り後ろに振り、明紀の体に蹴りを入れた。
「――かひゅ……」
蹴り上げられそのまま気絶する明紀。
そんな明紀に唾を吐き捨てると、義雄は決意を新たにする。
「わかったぜ。つまり、今、俺様がこんなに追い詰められているのも元を辿ればすべて高橋翔の奴が悪いと、そういう事かぁ……」
目に復讐の炎を浮かべた義雄は、自分を裏切った明紀に唾を吐き捨てると高橋翔のいる病院に向かって歩き始めた。
---------------------------------------------------------------
いつもコメントありがとうございます!
最近、本業の方が決算で忙しく、コメントを返す事ができず申し訳ございませんorz
皆様のコメントは、しっかり目を通させて頂いております。何事も無ければ、今日で決算から解放されますので、返信はもう少しお待ち頂けるとありがたいです。
これからも更新頑張りますので、よろしくお願い致します。
2022年11月13日AM7時更新となります。
「先生。落ち着いて下さい。まずはこちらへ……」
磯貝は、疼くまる更屋敷の手を取るとベットに誘導し座らせた。
そして、汚れた床を掃除すると、入念に手を洗浄し、愕然とした表情を浮かべる更屋敷を勇気付ける様に声をかける。
「……更屋敷先生。大丈夫です。ご自宅には火災保険を掛けております。幸いと言っていいかはわかりませんが、建ててから一年経っていない為、ほぼ満額を保険で回収する事ができます。事業に関しても同様、先生の力があれば大丈夫です。先生が区議会議員の立場を堅持する限り以下様にもやりようがあります。ですので元気を出して下さい」
磯貝の言葉を聞き、太一は顔を上げる。
確かに、築き上げた財産すべてを焼失したのはかなりの痛手だ。
しかし、磯貝君の言う通り、区議会議員である限り、そんな事はどうとでもなる。
区役所の役職者から公共工事の入札予定価格を聞き出し、その情報を懇意にしている業者に流す事で賄賂を受け取ったり、これまでと同様に政務活動費をチョロまかしたり、何なら、議員報酬を十万か二十万増額する議員報酬引き上げ条例を出してもいい。どうせ審議会は非公開。内部でどの様な審議が行われたのか区民にわかる筈もない。
それがニュースになった所で、ノーダメージだ。どうせ報道では誰が賛成に回ったのか分かる筈もない。精々、議員の賛成多数で可決したと報道される位だ。
区議会議員の中には、真面目に職務をこなしカツカツになっている議員もいる。真面目に職務をこなすなんて馬鹿な奴だとは思うが、その真面目な議員が逆に隠れ蓑になる。
個人献金を利用し、自分自身の後援会に献金することで、還付金を貰ってもいい。
政治団体収支報告書は、五万円以下の支出について領収書の添付や報告義務は求められていない。
すべての支出は小口で、五万円以下でしたと言い張ってしまえば、何に使ったかはわからない完全なブラックボックス。すべて五万円以下の政治活動で使い切ったと言いきり収支報告書を提出すれば、税務署から還付金が貰える。
政党支部に対する献金であれば、二千万円まで献金が認められている。太一の所得は、事業で稼いだ所得を加えると優に七千万円を超えている。その為、二千万円の政治献金をする事で、最大七百万円強、所得税を減額することができるのだ。
流石は区議会議員より上の立場である国会議員が合法的に還付金を貰う為に制定した制度である。
区民の為に働く?
馬鹿馬鹿しい。そんな事をしてなんになる。
滅私奉公するのが区議会議員の役目とでも思っているのか……ちゃんちゃら可笑しいね。確かに最初は真面目に職務をこなしていた。しかし、いつかそれに気付くんだ。
区民は自分の頑張りに気付こうともしない。発信された情報のみを鵜呑みにする愚民だと。そんな生活を何年も送っていれば嫌でも気付く。
一年の内、九十日間しか拘束されないにも係らず、真面目に議員活動をするなんて阿保らしい。一挙手一投足すべてを区民に見定められている区長なら話は別だが、我らは所詮、一区議会議員。
選挙に響きそうな事は、選挙を終えた直後に行えば、四年後に行われる選挙の頃には忘れ去られている……。
何より、話題に上がらなければ区議会議員の事を区民達は知りもしない。
投票する時になって初めて『へー、こんな人が区議会議員をやっているんだ』知る人の方が多い筈だ。そして、その議員がどんな活動をしているのか精査せず、何か名前を聞いた事があるな程度の議員に投票する。
その結果として重要となるのは、組織票。区民の一時の感情で流される様な流動票などどうでもいい。
「……確かにそうだな。失った物は大きいが私が区議会議員である限りどうとでもなる」
そうだ。幾らでもやりようはある。
今の地位は、区民の無関心と、懇意にしている企業の組織票により支えられている。愚民の言葉なんて聞かなくてもどうとでもなるのだ。
しかし、今回ばかりは色々、起こり過ぎて流石に憑かれた。
「ちょっと、疲れた……悪いが一人にしてくれないか?」
太一は、そう言うと事務員である磯貝を外に出した。
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逃げる様に裏口から外に出た義雄の視線の先には、明紀の姿があった。
明紀は挙動不審な様子で、電柱に隠れながら燃え盛る家に視線を向けている。
「明紀……明紀、明紀、明紀明紀明紀……お前かぁああああっ!?」
挙動不審な明紀の姿を確認した義雄は逆上した。
財布以外の財産を失ったのも、家が燃えたのも、自分が今、こんな状況に置かれているのもすべて……すべて、明紀の奴が悪いと……。
奴がこちらに気付くよりも速く走り、血走った目を浮かべながら胸ぐらを掴むと、義雄は明紀を締め上げる。
「明紀ぃぃぃぃ! お前ぇぇぇぇ!!」
「ひっ! ひぃいいいいっ!?」
胸ぐらを掴まれ、締め上げられた明紀は突然の事に驚き悲鳴を上げる。
「ぎ、義雄君っ!? 苦しい! 苦しいよ? ちょっと落ち着いて……!?」
「落ち着ける訳がないだろうがぁぁぁぁ!! お前、何でここにいるっ!? 何故、この俺様を裏切ったぁぁぁぁ!?」
狂った様に逆上する義雄。
そんな義雄を見て明紀は戸惑いの表情を浮かべる。
「ち、違っ! 義雄君? ちょっと、待って!? 落ち着いてっ! 俺はただ百万円を受け取る為にここに来ただけで……」
「百万円!? ふざけた事を抜かすなぁぁぁぁ!!」
すべてを失った喪失感、怒り、悲しみ。
そのすべてを拳に乗せると義雄は、明紀の横顔を思い切り殴り付けた。
「――がっ!?」
そのまま地面に打ち付けられた明紀は、短い悲鳴を上げると、殴られ赤くなった頬を片手で摩り、呆然とした表情を浮かべる。当然だ、明紀からしてみれば、何故、義雄に殴られなければいけないのか理解ができない。
「ふーふーふーっ!」
明紀を殴り付け、肩で息をする義雄。
「い、いきなり何なんだよっ! ひ、人を殴り付けるなんて頭おかしいんじゃねーの!?」
金欲しさに翔を襲おうとした事や、義雄を裏切った事を棚に上げて猛抗議する明紀。
義雄はスマホを取り出すと、今、SNSに出回っている音声データを流した。
『あ、ああ、更屋敷義雄君ですか? 続報です! やりましたよ。【ピー】を半殺しにする事に成功しましたっ!』
その瞬間、明紀の背筋が強張る。
義雄はしゃがみ込むと、髪を掴んで明紀の顔を持ち上げた。
「……おい。これは何だっ? お前、まさか俺との会話を録音したのか? 俺を嵌める気だったのかっ!?」
「い、いや、違っ!?」
それは確かに明紀が録音した音声データ。
しかし、SNSに流した覚えはまったくない。
「じゃあ、何で、こんなものがSNSに流れてるっ! お前以外に、こんな音声データを録音できる奴、いないよなぁ! いないよなあっ!!」
「ち、違っ! お、俺は脅されてやっただけでっ……俺は何も悪くな……」
「ふざけんなぁぁぁぁ!」
「――があっ!!」
スマホを持ったまま明紀の頬を殴り付ける義雄。
「……脅された? 言うに事を欠いて脅されただあっ? なあ、おい。誰に脅されたんだよ。誰に脅されてこんなふざけた真似仕出かしてくれたんだよっ!!」
「――うっ、ぐうっ!」
脅されただなんてまったく信じていない義雄は立ち上がると、明紀の事を蹴り付ける。
「ふざけた事を抜かしてるんじゃねーぞ? 俺を誰だと思ってるんだっ?? 俺はなぁ。区議会議員である更屋敷太一の一人息子、更屋敷義雄様だぞっ!? 嘘付くならもっとマシな嘘をつけっ!」
再び明紀の腹に蹴りを入れようとすると、明紀の手が義雄の足を掴む。
「も、もう止め……本当に、本当なんだっ……本当に俺じゃない。あいつだ。翔とかいう奴がやったんだ。だからもう止め……」
「あん? 翔だと? あいつはお前が半殺しにしたんだろ? そんな事、できる筈がないだろっ!」
「ぐうっ!」
もう一度、蹴りを入れると、明紀は泣きながら懇願してきた。
「……ほ、本当なんだって、ス、スマホを調べて貰っても構わない。本当に俺じゃないんだって……」
「ちっ……!」
義雄は蹴るのを一時的に止めると、しゃがみ込み明紀のポケットからスマホを取り出した。そして、明紀の手を借り指紋認証を解除すると、録音データを探していく。
「……確かに無い様だな。それじゃあ、誰がこんな事をやったんだ?」
「だ、だから、翔って奴がやったって言ってるだろっ……」
息も絶え絶えにそういう明紀。
義雄は少し考え込むと、明紀に鋭い視線を向ける。
「……という事は、何か? お前に半殺しにされた筈の高橋翔が、お前に気付かれることなく会話を録音したと、そういう事か?」
義雄の問いかけに明紀は視線を逸らしながら頷く。
「……そ、そう」
「――そんな訳がねーだろっ!」
「ぐふうっ!?」
明紀の話を嘘と見抜いた義雄は、明紀の頭にサッカーボールキックすると、スマホを投げ捨てた。
「……馬鹿にするのもいい加減にしろよ? あの録音はどう考えてもお前がしたものだろ。俺を馬鹿にしているのか、お前は? 本当の事を言えよ。じゃないと、ぶっ殺すぞ!?」
すべてを失い気が立っている義雄は、サッカーボールキックを受けながらもギリギリ意識を保っている明紀の髪を掴むと恫喝するようにそう告げる。
「ず、ずいばぜんでじた……が、翔は半殺しになんでしていません。百万円をぐれるっていうがら、協力じました……」
義雄の恫喝に負け本心を述べる明紀。
そんな明紀を眼下に収めながら、義雄は立ち上がる。
「なるほどなぁ……それなら、納得だ。つまり、お前は俺の事を騙していたと……それでいて、俺から百万円を騙し取るつもりだったと、そういう事――ふざけるなぁぁぁぁ!」
義雄は一息入れると、足を思い切り後ろに振り、明紀の体に蹴りを入れた。
「――かひゅ……」
蹴り上げられそのまま気絶する明紀。
そんな明紀に唾を吐き捨てると、義雄は決意を新たにする。
「わかったぜ。つまり、今、俺様がこんなに追い詰められているのも元を辿ればすべて高橋翔の奴が悪いと、そういう事かぁ……」
目に復讐の炎を浮かべた義雄は、自分を裏切った明紀に唾を吐き捨てると高橋翔のいる病院に向かって歩き始めた。
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最近、本業の方が決算で忙しく、コメントを返す事ができず申し訳ございませんorz
皆様のコメントは、しっかり目を通させて頂いております。何事も無ければ、今日で決算から解放されますので、返信はもう少しお待ち頂けるとありがたいです。
これからも更新頑張りますので、よろしくお願い致します。
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