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第173話 区議会議員③
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パンクなファッションをした男は俺に気付かず、カウンター席に座ると、入って早々、炒飯セットを注文する。
炒飯セットとは、この店限定のオリジナルメニューだ。
中々、お目が高い。普通に食事しに来ていたら、俺も同じ料理を注文していた事だろう。
――と、いうより自称知人の明紀君よ。
お前、バイトに行ったんじゃなかったのか?
何でバイトしているはずのお前が、餃子の王将に来て炒飯セット頼んでいるんだよ。おかしいだろ。
いや、まあ、最初から色々とおかしかったけど……。
例えば、そのパンクなファッションセンスとか、瓶持って俺に声をかけてきた事とか。
自称知人をチラ見しながら料理を待っていると、自称知人がスマホを耳に当てどこかに電話をし始めた。
「あ、義雄さん。俺です。明紀です」
うん? 明紀??
本当に誰だ?
俺の知り合いに明紀という名の知り合いはいない。
それに、どこかで聞いた様な名前が出てきた。
今、こいつ義雄とか言わなかったか?
もしかして、自称知人の電話相手は、会田さんが所属していたネットワークビジネスグループのボス・更屋敷義雄ではないだろうか?
俺は顔バレしないようスマホをポケットにしまいメニュー表で顔を隠しながら聞き耳を立てる。
「……すいません。高橋翔の件ですが、失敗しました。えっ? もう二人はどうなったかって? 何だか、警察に捕まってしまったみたいで連絡が付かないんですよ……はい。そうなんです。義雄さん、お父様の力で何とかできませんか?」
どうやら間違いないようだ。
これはもう百パーセント決まりだろう。
だって、『お父様の力で何とかできませんか?』なんて質問しているし……。
しかし、何を失敗したのかがわからない。
俺、何かされていたっけ?
そう思い、今日あった事を思い返して見る。
うーん。今日、あった事ねえ……。
確か、自称知人である明紀君に裏路地に良い店があると誘われ、釘バットを持ったアホとナイフを持った男に襲われたって……あれ?
そういえば、最後にナイフを持っていた奴。百万円と連呼していた様な……。
もしかして、更屋敷義雄の奴に唆されて百万円で俺を殺す気だったとかか?
あれ……あれあれ?
俺ってもしかして、命の危険に晒されていたの??
そして、俺の殺害計画を立てたのが、更屋敷義雄??
区議会議員の息子って、それを揉み消す程の権力持ってんのっ??
そんな事を考えていると、店員さんが料理を運んでくる。
「お待たせしました」
そう言って、餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉。生ビールをテーブルに置く。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
店員さんを見送り箸を割ると、醤油入れに醤油を注ぎ、まずは餃子を口に運ぶ。
うん。美味い。安定の美味しさだ。ビールが欲しくなる。
俺は中ジョッキを片手に持ち口に流し込むと、二、三秒ほど考え込む。
しかし、まさか、命を狙われるとは思いもしなかった……。
これからどうしたものか……。
油淋鶏にかぶりつきながらビールを飲んでいると、物騒な閃きが頭をよぎる。
一番手っ取り早いのは、更屋敷義雄のサクッと消してしまう事。
我ながら怖い考えが浮かんだものだ。
多分、エレメンタルの力を借りれば、証拠を残さず簡単にできてしまうと思う。
次に警察に逮捕してもらい一生とまで行かずとも、恨みが薄れるほどの長い期間、塀の中に入って貰う事。
うん。これなら結構いけるんじゃないだろうか?
現に自称知人の明紀君は、更屋敷義雄の命令で動いている。
どう考えても殺人教唆。正しく言えば、殺人罪における教唆の罪に問える筈だ。
そっと手を挙げると、注文を取りに店員さんがテーブルまで来てくれる。
「すいません。ビールを二杯お願いします」
「はい。ビール二杯ですね」
小声で注文を済ませると、俺はパリパリの揚げそばを箸で抓み口に運ぶ。
うん。ボリューミーで超美味い。ビールとの相性も最高だ。
しかし、どうやって奴を、殺人罪における教唆の罪に陥れようか……。
いや、陥れるという表現は適切ではないな。どうやって奴に、殺人罪における教唆の罪を認めさせる。もしくは、証拠を掴もうか……。
うーん。悩ましい所だ。困ったな。
そんな事を考えていると、店員さんがビール二杯を運んでくる。
「お待たせしました」
「ああ、ありがとうございます」
そう言って、ビール二杯を受け取ると、俺は回鍋肉に手を付けた。
◇◆◇
翔が義雄への対応策を考えている頃、当の本人の更屋敷義雄はと言うと……。
「くそっ! 使えない奴等だっ!」
スマホをソファに投げ付け地団太を踏んでいた。
「しかも、三人中二人も警察に逮捕されただとぉ! ふざけるなっ! もし俺があいつ等に指示した事がバレれば俺は……俺はっ!」
殺人教唆逮捕されてしまうかも知れない。
その事を強く認識した義雄は、打開策を模索するべく考えを巡らせる。
「……いや、決定的な証拠は残していない。大丈夫な筈だ。逮捕された二人はそのまま切り捨てればいい。しかし、あいつだけは話が別だ。流石に三人に襲われれば、俺があの三人を使って危害を加えようとした事に気付いた筈……ぐうっ!」
いきなり警察官を呼ぶような奴だ。
どんな言いがかりを付けてくるかわかったもんじゃない。
現に、SNSにはあいつが上げたであろう動画が拡散されている。
区議会選挙が近い今、俺が原因で親父の評判を落とすのは拙い。マジで殺されてしまう。しかし、どうすれば……。
「そ、そうだっ! あいつの母親が区役所勤務だった筈……警察に口利きできなくとも、区役所で働くこいつの両親ならっ……親父は激怒するかもしれないが、仕方がない」
探偵を雇い調べ上げた調査結果を手に義雄は笑みを浮かべる。
意を決して、スマホを手に取ると、義雄は父親に電話をかけた。
◇◆◇
「高橋翔? 誰だそれはっ……何故、この私がそんな事をしなければならない!?」
息子である更屋敷義雄からの電話に出た区議会議員・更屋敷太一はスマホに向かって怒鳴り散らす。
『じ、実は、かなり拙い事になって……ピンチなんだよっ! 俺がもし万が一、警察に捕まったら親父だって大変な事になるだろっ! 頼むよっ! ちょっと、高橋翔の母親を脅してくれるだけでいいんだっ!』
「ば、馬鹿を言えっ! もうすぐ選挙戦が始まるんだぞ!? もし万が一、そんな事が明るみに出ればっ……!」
『で、でも、俺が捕まったら、親父だって大変な事になるっ! 俺は親父に迷惑をかけたくないんだよっ!』
馬鹿がっ……既に迷惑はかかっているっ!
余計な事をしてくれたものだ。
手がけている事業が上手くいっていると聞いていたから、放任していたものを……!
「……そんなに状況が悪いのか?」
『ああっ、俺の動画をSNSに上げる様な奴だ。今、手を打たないと大変な事にな……』
「ちょっと待てっ! SNSとはどういう事だっ!」
『あ、いや、これはちょっと……』
義雄の歯切れが悪い。これは最悪のケースを想定した方が良さそうだ。
試しに義雄の名前で検索して見ると、タイムラインに義雄の動画が出てきた。
それを見た瞬間、私は頭を抱える。
「……確かにこれは、私が手を打たなければならない事項のようだな」
『お、親父っ! それじゃあっ!』
「すべて、私に任せておけ……」
こんな所で終わってたまるかっ!
私は区議会議員で終わる様な人間ではない。国会議員になるべき特別な人間なのだ。
そう言うと、太一は懇意にしている区役所の課長に電話をかけた。
◇◆◇
「すいませーん。ビールを二つ。あと、麻婆豆腐とかに玉、炒飯も」
俺がそう注文してすぐ、母親から着信があった。
「ああ、翔だけど。母さん。どうしたの?」
スマホを耳に当てそう言うと、母さんは震えるような声で言った。
『あ、あんた、何をしたんだいっ? 区議会議員の息子に危害を加えたっていうのは本当なのかいっ!?』
母さんからの話を聞いた瞬間、察した。
やりやがったな、あいつ等と……。
「……えっと、母さん。誰に何を言われたの?」
俺がそう言うと、母さんは錯乱しながら言う。
『わ、私にも、何が何だかわからないよっ! 突然、課長からそんな事を……すぐにSNSを削除するようにって……懲戒解雇にするとも言われ……。一体、何が起こっているんだい!?』
母さんは区役所に勤めている。
その区役所の上司相手に更屋敷義雄の父親から口利きがあったのだろう。
混乱している母さんに、俺は真実を述べる。
「……俺を殺そうとした区議会議員の更屋敷の息子がそれに失敗して泣きついただけの話さ。区議会議員の言葉を真に受けて、上長がクビを宣言するような職場辞めた方がいいよ。前々から辞めたいって言っていたじゃん。安心して、母さんの職場は俺が用意するから」
区議会議員の言葉一つで解雇命令を臭わせるような言葉を吐く上長のいる区役所なんかで働く位なら辞めた方がよっぽどいい。
『翔の事を殺そうとしたって……あんた、大丈夫なのかいっ!? それに、職場を用意するって……』
「まあ、それについてはこっちで対処しておくから安心して。それで新しい職場についてなんだけど、つい最近、宝くじ研究会・ピースメーカーっていうのを設立したんだ」
まあ、手続きをしてくれたのは会田さんなんだけど……。
「母さんにはそこの財務担当になってくれないかな? もちろん、給料は今、働いている区役所の倍払うよ?」
まあ、給料と言っても、支払いはすべて受取人が母さん名義となった宝くじで行う予定だ。その為、税金は一切発生しない。
『区役所の倍って、あんた……本当に大丈夫なのかい?』
「ああ、まったく何の問題もない。とりあえず、支度金として百万円用意しておくからさ検討して見てよ。腹が決まったら連絡してね」
『えっ? 翔、ちょっと待っ……』
そう言うと、俺は電話を切る。
そして、スマホ経由でネット銀行にアクセスし、母親の口座に百万円を振り込むと、その事をSNS経由で母さんに連絡し、テーブルに置かれたビールをがぶ飲みした。
「……さてと」
やってくれたなぁ……更屋敷親子。
殺しにかかってくるだけではなく俺の両親まで巻き込むとは……。
空になったビールジョッキをテーブルに置くと、俺は立ち上がる。
そして、炒飯セットを美味しく食べている自称知人・明紀君の隣りに座ると、優しく肩を叩いた。
---------------------------------------------------------------
2022年11月5日AM7時更新となります。
炒飯セットとは、この店限定のオリジナルメニューだ。
中々、お目が高い。普通に食事しに来ていたら、俺も同じ料理を注文していた事だろう。
――と、いうより自称知人の明紀君よ。
お前、バイトに行ったんじゃなかったのか?
何でバイトしているはずのお前が、餃子の王将に来て炒飯セット頼んでいるんだよ。おかしいだろ。
いや、まあ、最初から色々とおかしかったけど……。
例えば、そのパンクなファッションセンスとか、瓶持って俺に声をかけてきた事とか。
自称知人をチラ見しながら料理を待っていると、自称知人がスマホを耳に当てどこかに電話をし始めた。
「あ、義雄さん。俺です。明紀です」
うん? 明紀??
本当に誰だ?
俺の知り合いに明紀という名の知り合いはいない。
それに、どこかで聞いた様な名前が出てきた。
今、こいつ義雄とか言わなかったか?
もしかして、自称知人の電話相手は、会田さんが所属していたネットワークビジネスグループのボス・更屋敷義雄ではないだろうか?
俺は顔バレしないようスマホをポケットにしまいメニュー表で顔を隠しながら聞き耳を立てる。
「……すいません。高橋翔の件ですが、失敗しました。えっ? もう二人はどうなったかって? 何だか、警察に捕まってしまったみたいで連絡が付かないんですよ……はい。そうなんです。義雄さん、お父様の力で何とかできませんか?」
どうやら間違いないようだ。
これはもう百パーセント決まりだろう。
だって、『お父様の力で何とかできませんか?』なんて質問しているし……。
しかし、何を失敗したのかがわからない。
俺、何かされていたっけ?
そう思い、今日あった事を思い返して見る。
うーん。今日、あった事ねえ……。
確か、自称知人である明紀君に裏路地に良い店があると誘われ、釘バットを持ったアホとナイフを持った男に襲われたって……あれ?
そういえば、最後にナイフを持っていた奴。百万円と連呼していた様な……。
もしかして、更屋敷義雄の奴に唆されて百万円で俺を殺す気だったとかか?
あれ……あれあれ?
俺ってもしかして、命の危険に晒されていたの??
そして、俺の殺害計画を立てたのが、更屋敷義雄??
区議会議員の息子って、それを揉み消す程の権力持ってんのっ??
そんな事を考えていると、店員さんが料理を運んでくる。
「お待たせしました」
そう言って、餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉。生ビールをテーブルに置く。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
店員さんを見送り箸を割ると、醤油入れに醤油を注ぎ、まずは餃子を口に運ぶ。
うん。美味い。安定の美味しさだ。ビールが欲しくなる。
俺は中ジョッキを片手に持ち口に流し込むと、二、三秒ほど考え込む。
しかし、まさか、命を狙われるとは思いもしなかった……。
これからどうしたものか……。
油淋鶏にかぶりつきながらビールを飲んでいると、物騒な閃きが頭をよぎる。
一番手っ取り早いのは、更屋敷義雄のサクッと消してしまう事。
我ながら怖い考えが浮かんだものだ。
多分、エレメンタルの力を借りれば、証拠を残さず簡単にできてしまうと思う。
次に警察に逮捕してもらい一生とまで行かずとも、恨みが薄れるほどの長い期間、塀の中に入って貰う事。
うん。これなら結構いけるんじゃないだろうか?
現に自称知人の明紀君は、更屋敷義雄の命令で動いている。
どう考えても殺人教唆。正しく言えば、殺人罪における教唆の罪に問える筈だ。
そっと手を挙げると、注文を取りに店員さんがテーブルまで来てくれる。
「すいません。ビールを二杯お願いします」
「はい。ビール二杯ですね」
小声で注文を済ませると、俺はパリパリの揚げそばを箸で抓み口に運ぶ。
うん。ボリューミーで超美味い。ビールとの相性も最高だ。
しかし、どうやって奴を、殺人罪における教唆の罪に陥れようか……。
いや、陥れるという表現は適切ではないな。どうやって奴に、殺人罪における教唆の罪を認めさせる。もしくは、証拠を掴もうか……。
うーん。悩ましい所だ。困ったな。
そんな事を考えていると、店員さんがビール二杯を運んでくる。
「お待たせしました」
「ああ、ありがとうございます」
そう言って、ビール二杯を受け取ると、俺は回鍋肉に手を付けた。
◇◆◇
翔が義雄への対応策を考えている頃、当の本人の更屋敷義雄はと言うと……。
「くそっ! 使えない奴等だっ!」
スマホをソファに投げ付け地団太を踏んでいた。
「しかも、三人中二人も警察に逮捕されただとぉ! ふざけるなっ! もし俺があいつ等に指示した事がバレれば俺は……俺はっ!」
殺人教唆逮捕されてしまうかも知れない。
その事を強く認識した義雄は、打開策を模索するべく考えを巡らせる。
「……いや、決定的な証拠は残していない。大丈夫な筈だ。逮捕された二人はそのまま切り捨てればいい。しかし、あいつだけは話が別だ。流石に三人に襲われれば、俺があの三人を使って危害を加えようとした事に気付いた筈……ぐうっ!」
いきなり警察官を呼ぶような奴だ。
どんな言いがかりを付けてくるかわかったもんじゃない。
現に、SNSにはあいつが上げたであろう動画が拡散されている。
区議会選挙が近い今、俺が原因で親父の評判を落とすのは拙い。マジで殺されてしまう。しかし、どうすれば……。
「そ、そうだっ! あいつの母親が区役所勤務だった筈……警察に口利きできなくとも、区役所で働くこいつの両親ならっ……親父は激怒するかもしれないが、仕方がない」
探偵を雇い調べ上げた調査結果を手に義雄は笑みを浮かべる。
意を決して、スマホを手に取ると、義雄は父親に電話をかけた。
◇◆◇
「高橋翔? 誰だそれはっ……何故、この私がそんな事をしなければならない!?」
息子である更屋敷義雄からの電話に出た区議会議員・更屋敷太一はスマホに向かって怒鳴り散らす。
『じ、実は、かなり拙い事になって……ピンチなんだよっ! 俺がもし万が一、警察に捕まったら親父だって大変な事になるだろっ! 頼むよっ! ちょっと、高橋翔の母親を脅してくれるだけでいいんだっ!』
「ば、馬鹿を言えっ! もうすぐ選挙戦が始まるんだぞ!? もし万が一、そんな事が明るみに出ればっ……!」
『で、でも、俺が捕まったら、親父だって大変な事になるっ! 俺は親父に迷惑をかけたくないんだよっ!』
馬鹿がっ……既に迷惑はかかっているっ!
余計な事をしてくれたものだ。
手がけている事業が上手くいっていると聞いていたから、放任していたものを……!
「……そんなに状況が悪いのか?」
『ああっ、俺の動画をSNSに上げる様な奴だ。今、手を打たないと大変な事にな……』
「ちょっと待てっ! SNSとはどういう事だっ!」
『あ、いや、これはちょっと……』
義雄の歯切れが悪い。これは最悪のケースを想定した方が良さそうだ。
試しに義雄の名前で検索して見ると、タイムラインに義雄の動画が出てきた。
それを見た瞬間、私は頭を抱える。
「……確かにこれは、私が手を打たなければならない事項のようだな」
『お、親父っ! それじゃあっ!』
「すべて、私に任せておけ……」
こんな所で終わってたまるかっ!
私は区議会議員で終わる様な人間ではない。国会議員になるべき特別な人間なのだ。
そう言うと、太一は懇意にしている区役所の課長に電話をかけた。
◇◆◇
「すいませーん。ビールを二つ。あと、麻婆豆腐とかに玉、炒飯も」
俺がそう注文してすぐ、母親から着信があった。
「ああ、翔だけど。母さん。どうしたの?」
スマホを耳に当てそう言うと、母さんは震えるような声で言った。
『あ、あんた、何をしたんだいっ? 区議会議員の息子に危害を加えたっていうのは本当なのかいっ!?』
母さんからの話を聞いた瞬間、察した。
やりやがったな、あいつ等と……。
「……えっと、母さん。誰に何を言われたの?」
俺がそう言うと、母さんは錯乱しながら言う。
『わ、私にも、何が何だかわからないよっ! 突然、課長からそんな事を……すぐにSNSを削除するようにって……懲戒解雇にするとも言われ……。一体、何が起こっているんだい!?』
母さんは区役所に勤めている。
その区役所の上司相手に更屋敷義雄の父親から口利きがあったのだろう。
混乱している母さんに、俺は真実を述べる。
「……俺を殺そうとした区議会議員の更屋敷の息子がそれに失敗して泣きついただけの話さ。区議会議員の言葉を真に受けて、上長がクビを宣言するような職場辞めた方がいいよ。前々から辞めたいって言っていたじゃん。安心して、母さんの職場は俺が用意するから」
区議会議員の言葉一つで解雇命令を臭わせるような言葉を吐く上長のいる区役所なんかで働く位なら辞めた方がよっぽどいい。
『翔の事を殺そうとしたって……あんた、大丈夫なのかいっ!? それに、職場を用意するって……』
「まあ、それについてはこっちで対処しておくから安心して。それで新しい職場についてなんだけど、つい最近、宝くじ研究会・ピースメーカーっていうのを設立したんだ」
まあ、手続きをしてくれたのは会田さんなんだけど……。
「母さんにはそこの財務担当になってくれないかな? もちろん、給料は今、働いている区役所の倍払うよ?」
まあ、給料と言っても、支払いはすべて受取人が母さん名義となった宝くじで行う予定だ。その為、税金は一切発生しない。
『区役所の倍って、あんた……本当に大丈夫なのかい?』
「ああ、まったく何の問題もない。とりあえず、支度金として百万円用意しておくからさ検討して見てよ。腹が決まったら連絡してね」
『えっ? 翔、ちょっと待っ……』
そう言うと、俺は電話を切る。
そして、スマホ経由でネット銀行にアクセスし、母親の口座に百万円を振り込むと、その事をSNS経由で母さんに連絡し、テーブルに置かれたビールをがぶ飲みした。
「……さてと」
やってくれたなぁ……更屋敷親子。
殺しにかかってくるだけではなく俺の両親まで巻き込むとは……。
空になったビールジョッキをテーブルに置くと、俺は立ち上がる。
そして、炒飯セットを美味しく食べている自称知人・明紀君の隣りに座ると、優しく肩を叩いた。
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2022年11月5日AM7時更新となります。
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「最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
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