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第171話 区議会議員①

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 エレメンタル達に、ペロペロザウルスのTKGをご馳走した翌日、現実世界に戻って来た瞬間、スマホに百を超える不在着信が表示された。
 その殆どが、合コンで出会い、俺をネットワークビジネスに勧誘しようとした悪女・会田さんだった。一体、何の用だろうか?

 とりあえず、電話をかけると、ワンコールで会田さんが電話口に出る。
 瞬間、耳元で怒声が耳を襲った。

『なんで、電話に出てくれなかったんですかっ!』
「いや、なんでって、言われても……」

 俺はお前の彼氏か何かだろうか?
 そんな関係になった覚えは一度もないが……。

『今すぐに、外を見て下さいっ!』
「えっ? 外っ?」

 会田さんに言われた通り、窓から外に視線を向けると、そこには、俺の名前を叫んでいる集団の姿があった。

「……お、おう。何だか凄い事になっているね?」

 俺がそう言うと、会田さんがキレた。

「ふざけないでっ! こっちは何日も前から警告していたでしょ!」

 SNSを開くと、そこには会田さんからの警告メッセージが沢山届いていた。
 とはいえ、そんな事を言われても困ると言いたい。
 元を辿れば、会田さんが所属していたネットワークビジネスグループのボスがこういった迷惑行為に走っているからだ。

「……とりあえず、警察とか呼んだ方がいい感じ?」

 そう尋ねると、会田さんはため息を吐いた。

「はあ……あのね。私達のボス、更屋敷義雄は、区議会議員の息子なのっ! そんな事をしても次の日には……」
「ああ、そう……。でも、区議会議員の息子が大学付属病院の前で迷惑行為をしているのに、それを放置するの、おかしくない?」

 特権階級を甘やかすのは良くない。
 報道特番でどこぞの市の市議会議員達が、議会で居眠りをしている場面が度々流されていたが、それはもう酷いものだった。まあ、こっちは区議会議員だけど。
 そんな、権力に胡坐をかいている人間の生み出したモンスターが、大学付属病院の前で迷惑行為をしているのだ。ちゃんと、晒して上げるのが国民の役割だろうと俺は思う。

「確かにそうかも知れないけど、できる訳がないじゃないっ! そんな事をしたらどうなると思っているの!?」

 いや、それを教えて欲しいんだけど……。
 まあ、何かを仕掛けて来ようにも、高々、区議会議員に俺をどうこうする事はできない。
 何故なら、俺は無職なのだから。
 失う物等、何もない俺に何をやっても無駄だ。
 むしろ、区議会議員様が何かをしてくる前に手を打たなければ危険じゃないか。
 今は昔と違って、簡単に情報が拡散する社会。先手を打つが勝ちである。
 色々考えた結果、俺は動画を加工し、病院の前で抗議活動をしている更屋敷義雄の顔を流す事にした。

「……どうなるんだろうね。とりあえず、SNSに晒してみるから、何か動きがあったら教えて」

 そう言って、電話を切ると、数秒と待たず着信が入る。
 その着信を切ると、俺は前を向いた。

「めんどくせー。まあ、後は何とかなるだろ……とりあえず、コンシェルジュさんに言って警察も呼ばなきゃ……あ、コンシェルジュさん? ちょっと、警察を呼んでくれる? 外で変な抗議活動をしている奴がいるんだ。うん。よろしくね」

 直通の電話を取り、警察を呼ぶようコンシェルジュさんにお願いすると、俺は、『高橋翔。出てこいっ!』と、叫び続けている集団を動画に収めていく。
 さあ、どう拡散してやろう。
 折角なので、拡散する動画には区議会議員の名前も入れておこう。
 更屋敷って珍しい名字だし、簡単に見つかるだろ。

「更屋敷……更屋敷……あ、あった」

 スマホで検索すると、結構簡単に見つかった。
 当選回数十回。結構、大物区議会議員のようだ。
 まあ、そんな事はどうでもいい。
 ネットワークビジネスのグループが破綻した位で、区議会議員の息子がこんな暴挙に出たのだ。
 制御不能なモンスターを生み出し、世に送り出した罪は重い。
 と、いう事でポチっと。

 動画を加工し、俺の名前を呼ぶ部分にピーと音を入れ、SNSに流すと、俺はスマホをポケットにしまう。
 それと共に、外が騒がしくなってきた。
 窓から外を眺めると、更屋敷義雄達が警察官と揉めていた。
 ドナドナされるのも時間の問題だろう。

 興味を無くした俺は、窓から離れ、何気なくテレビを付ける。
 しばらく、テレビを眺めていると、電話が鳴った。

「うん? 何だろ?」

 何気なく電話に出ると、コンシェルジュさんが電話口に出た。
 どうやら、更屋敷義雄達が警察に連れられドナドナされたようだ。
 聞いてみると、最後まで『俺は区議会議員の息子だぞ』と叫んでいたらしい。
 しまったといった気分だ。
 どうせなら、最後まで動画を回していれば良かった。

 とはいえ、終わった事を後悔しても仕方がない。

「うん。ありがとう。コンシェルジュさん」
『いえ、それでは、私はこれで……』

 そう言ってから電話を切る。
 正直、病院の前で騒いでいる時点で、俺に言われるまでもなく警察に通報して欲しかったが、まあいい。

 病院側も区議会議員の息子相手に不興を買う事はできなかったのだろう。
 何故かはまったくわからないけど。

「……さてと」

 テレビの電源を切り、立ち上がると俺は立ち上がる。

「久しぶりに、昼から酒でも飲みに行くか……」

 そう呟くと、俺は大学付属病院を後にした。

 ◇◆◇

 翔が昼飲みしている頃、警察にドナドナされ、厳重注意を受けた更屋敷義雄は、荒れていた。

「――ふざけやがってっ! あの野郎。俺の事を誰だと思っているんだっ! 俺の親父に言って絶対にクビにしてやるんだからなっ!」
「義雄さん。落ち着いて下さいっ! ここでは、マズいですってっ!」

 ここは警察署の前、更屋敷義雄達に厳重注意をした警官が腕を組み義雄達を睨んでいた。
 義雄は舌打ちすると、足元に転がっていた小石を蹴り付ける。

「ちっ……わかったよっ。しかし、高橋翔……胸糞悪い奴だぜ。この俺様が会いに行ってやったのに、会おうともしないなんて」

 翔の住む新橋大学付属病院。
 義雄が纏め上げていたネットワークビジネスグループを壊滅に追い込んだ張本人である高橋翔の住む場所を特定し、面会を申し出たまでは良かったが、その後が拙かった。病院から締め出されてしまったのだ。しかも、警察を呼ばれ、厳重注意を受ける始末。これには、流石の更屋敷義雄も憤慨した。
 何故、特別な立場にある俺が冷遇されなければならないのかと……。

 父親が区議会議員の為か、子供の頃からチヤホヤされ育ってきた更屋敷義雄は増長していた。

「おい。誰かあいつを半殺しにして来いっ! ただし、人目のある所は極力避けろ。後が面倒だからな……」

 そう言って、百万円の束を懐から取り出す。
 すると、グループの内、一人が手を挙げた。

「は、半殺しにするだけで、本当にそれをくれるのっ?」

 更屋敷義雄は笑みを浮かべ答える。

「ああ、当たり前だ。あいつを半殺しにしてくれるなら、この位すぐに渡してやるよ」

 嘘である。例え、父親が古参の区議会議員だったとしても、人を半殺しにした奴の事を庇う事はできない。当然、警察に手を回して、無かったことにする事も不可能だ。

 要は自分の手を汚さず、相手に危害を与えたいだけ。
 ついでに言えば、金を渡す気もない。
 更屋敷義雄はただ懐からお金を取り出しただけ。懐に入っていたお金を見て勝手に判断したのはこいつなのだ。

 更屋敷義雄がそう言うと、男達は笑みを浮かべる。
 たった一人、半殺しにするだけで百万円が貰える。しかも、父親は古参の区議会議員。警察に捕まっても何とかしてくれる。
 そんな思い込みを真に受けた男達は動き出す。

 一人は包丁を購入する為、近くのホームセンターへ。
 一人はお気に入りの釘バットを家に取りに行った。
 そして、もう一人は、ゴミ捨て場に落ちていた瓶を拾い病院へと向かっていく。

 すると、丁度良くどこかへ向かう高橋翔の姿を発見した。
 男達は薄ら笑みを浮かべると、三方向に分かれ高橋翔を半殺しにするべく行動に移った。

 ◇◆◇

「う~ん! 久しぶりだなぁ~!」

 ここ最近、夜寝る時を除き、殆どの時間をゲーム世界で過ごしていた為、新橋駅付近を散策するのは久しぶりだ。

「さて、どこで飲もうかなぁ~」

 どうせなら、いつも行かない様な場所で飲みたい。
 スマホで昼飲みできる店を検索しながら歩いていると、帽子を被り、形容しがたいパンクなファッションを身に纏った男が目の前に立ち塞がる。

「……高橋翔だな?」
「ああっ?」

 誰だこいつ。何で俺の事を知っている。もしかして、俺の小中学校の旧友か?
 全然、ピンとこないけど……。

 うん?
 それよりも、なんでこいつ、瓶を持ってるんだ?

 そんな事を考えていると、パンクファッションの男が俺に近寄り、馴れ馴れしくも肩を組んでくる。

「いやぁー、元気にしていたかよっ! 俺の事、覚えてる? とりあえず、裏路地に行こうぜ。良い場所があるんだよ!」
「はあっ? 裏路地?」

 そういえば、新橋の裏路地には隠れた名店があるという。
 なる程、そこに案内してくれる訳か。

「……まあ、着いて行ってもいいけど。それで? 誰、お前?」
「ああ、俺か? まさか忘れちゃったの? まあ、着いてからのお楽しみだよ!」
「そうか。それもそうだな」

 息がタバコ臭くて不快感を煽るが、エレメンタルが排除しようとしないのだ。
 まあ、危険人物ではないのだろう。なんか、俺の事を知ってるっぽいし。
 そうして、俺が連れ込まれた裏路地は、いかにも裏路地らしさ溢れる裏路地だった。

「それで、どんな店に連れてってくれんの?」
「あの店だ。良い店なんだよ」
「ああ、あの店か……」

 看板の文字が一文字取れていて廃墟感が漂っているが、確かに渋い感じの店だ
 俺好みである。きっと、扉を開けたら別世界が広がっているのだろう。
 俺は、外観で店を判断しない。

「……それじゃあ、お邪魔しますよっと、うん?」

 そう言って、扉を開けようとするも、店の扉が開く気配がない。

 おかしいな。固い扉なのだろうか?
 思いきり力を入れて扉を開けようとすると、突然、背後からちょっとした奇声が聞こえてきた。

「ひぃぃ!」

 振り向くとそこには、溶けて融解したワインボトルを持った自称知人が驚いた表情で俺を見ていた。

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 2022年11月1日AM7時更新となります。
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