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第155話 その頃のアメイジング・コーポレーション(代表取締役社長解任)②

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「き、君達っ……」

 念書を書かせた取締役は一人残らず反旗を翻し、西木社長の代表取締役社長解任案に賛成の意を示す。
 信じられないという顔をする西木社長。

「……ふ、ふざけた事を抜かすんじゃないっ! こんなふざけた決議は無効だよっ!」
「いえ、無効にはなりません。代表取締役の選定と解職は会社法に定められた取締役会決議事項です。取締役の過半数の賛成があれば代表取締役を解職する事ができます」
「馬鹿な事を言うなっ! そもそも、取締役会規則において、取締役会を招集する際に目的事項(議題)を通知する旨定められているじゃないかっ!」
「……残念ながら、目的事項を通知する旨定めていたとしても、あらかじめ通知された目的事項以外についても取締役会において審議・議決することができると考えられておりますので、緊急動議を議題に追加する事は可能です」
「だ、だが……」

 緊急動議の無効を主張するが、その主張は野梅監査等委員により否定されてしまう。

「野梅君っ……。き、君はどちらの味方なのだねっ!」

 代表取締役社長解任動議に挙手した時点で、味方でない事は解り切っているだろうに……。
 声を荒げる西木元社長。どうやら、相当混乱しているようだ。
 私自身も混乱している。
 まさか、賛成多数で西木元社長が解任されるとは思いもしなかった。
 やはり、取締役を一堂に集め念書を書かせた事で完全に見限られてしまったのだろうか?
 このままでは、管理本部長という私の地位も危うい。

「それでは、引き続き新社長の選任に移りたいと思います」
「だから、ボクの話を聞きな……」

 しかし、小田原監査等委員は無駄な抵抗を続ける西木元社長を無視し、社長の選任手続きに移る。

「皆様はどなたが、社長として適任だと思いますか?」

 その言葉を聞き、全員が一点を見つめる。
 急に視線が集まった事に驚く西木元社長。
 驚きが喜びに変わる。

「……そ、そうだ。ボクだ。この社長はボクしかいない。残念だったな小田原君。ここにいる取締役は全員。この……」
「ええ、西木元社長の隣にいる水戸取締役が適任だと思います」

 小田原監査等委員の冷めた口調に西木元社長はあんぐりと口を開ける。
 そして、顔を紅潮させると、歯を食いしばって小田原監査等委員を睨み付けた。
 恥をかかされたと思ったのだろう。
 射殺さんばかりの視線だ。
 しかし、小田原監査等委員はそんな西木元社長の視線を無視し、採決に移った。

「それでは、採決に移らせて頂きます。水戸取締役の代表取締役就任に賛成の方は挙手願います」

 小田原監査等委員の言葉に呼応し、手を挙げていく取締役達。
 その光景を見て、西木元社長は唖然とした表情を浮かべる。

「ば、馬鹿なっ……。こんな馬鹿な事があって堪るかっ……」

 代表取締役を解職された西木元社長はふらつき壁にもたれ掛り床に座り込む。

「……賛成多数。これにより水戸取締役の代表取締役就任が可決されました」
「ご期待に沿えるよう力を尽くす所存でございます」

 見事なクーデターである。
 あの自意識過剰な西木元社長が唖然とした表情を浮かべる位……。

「……ち、ちょっと待てっ! ボクを代表取締役から落として何をするつもりだっ! ボクに支払われる筈の報酬はどうなるっ!」

 御年八十五歳。
 混乱していても自分が置かれている立場は理解しているのだろう。
 自分の保身故にそんな事を質問してきた

 小田原監査等委員に代わり、新たに代表取締役に就任した水戸取締役が……。いや、水戸社長が答える。

「西木君。君には、次の株主総会が終わるまで、取締役の一人として仕事をして貰うつもりだ。税務上役員報酬の変更はできないからな。株主総会が行われるまでの間、君には閑職に就いてもらう」
「――ふ、ふざけるんじゃないっ! そんな事が許される訳がないだろうっ!」
「……許す。許さなの話ではないのだがね。そうだ。それならば、第一号議案で可決された分割する予定の新設会社を買収するか? そうすれば、その会社の代表取締役として今まで通りの生活を送る事ができるかも知れないぞ?」
「何っ……?」

 第一号議案で可決された会社分割。
 取締役会で話し合われた内容は、『代表取締役社長が陣頭に立ち、事業再生手法として会社分割を行う』というとても簡単なもの。

 ちなみに、昨日、イタリアンバルで話し合われた内容は、経営上優良な事業部門を新設会社に移し、採算の取れない赤字の事業部門と債務の殆どを分割会社に残すというものだ。

 その事を思い出したのだろう。
 西木元社長はニヤリと笑う。

「……言ったな? 言質は取ったぞ? ここにいる全員が証人だ」

 優良な事業部門を集めた新設会社の買収。西木元社長はそう考えているのだろう。
 しかし、そんな提案、普通に考えてあり得ない。
 ちょっと考えて見ればわかる事だ。

 しかし、余程余裕がないのか、西木元社長は気付かない。

「……ほう。即断されますか、流石は元経営者。相当自信があると見える。よろしい。丁度、ここに契約書があります。早速、契約に移りましょう。買収金額は三十億円となります。いかがですか?」

 既に試算を終えているのか、新設会社の買収価格は三十億円だという水戸社長。
 手際が良い。基本合意契約書と事業譲渡契約書、念書を西木元社長の目の前に提示する。
 そういえば、遠藤とかいう証券会社の社員が水戸社長にアポイントメントを求めていた。もしかしたら、その時、用意したものかもしれない。

「さ、三十億円……」

 三十億円。西木社長の持つ総資産とほぼ同額だ。
 昨日、イタリアンバルでそう自慢してきた。

 新設会社を買い取る為とはいえ、これまで貯めてきた貯金すべてをそれに注ぎ込むのはさぞ躊躇う事だろう。
 苦悩する西木元社長。

 すると、苦悩する西木元社長を見て、水戸社長が呟く。

「――ああ、別にいいのですよ? 無理だと思ったら、買収を断って頂いても……。新設会社の買取先なんて幾らでもあるのですから……」
「な、何だとっ?」

 水戸社長の言葉を聞いた西木元社長は契約書の内容をろくに確認もせず、契約書にサインした。煽られたと思ったのだろう。サインし終ると、テーブルをドンと叩く。

「――これで良いだろう! これで新設会社はボクのものだっ!」
「そうですね。支払いを終えればあなたのものです。しかし、よろしかったのですか? 契約書を確認せずサインしてしまって? まあ、念書にサインしてしまった以上、すべて、手遅れですが……」

 しかし、それを負け惜しみと受け取ったのか西木元社長は呟く。

「ふんっ! 支払いは今すぐに済ませる。新設会社はボクのものだ。契約書を交わした以上、もう返さないぞ?」
「ええ、それでは入金が確認され次第、手続きに移らせて頂きます。新設会社の引き渡しは契約書に記載の通り一ヶ月後と致しましょう」
「言ったな?」
「ええ、むしろ、新設会社を三十億円で引き取って頂き、感謝したい位です」
「ふんっ! 負け惜しみを……。どうせ三十億円なんて持っていないのだろうと思ったのだろうがね。何年この会社で社長をやってきたと思っているんだ。その位の金、持ってるわっ!」

 そう言うと、西木元社長は会議室を出て行ってしまう。
 恐らく、三十億円の振り込み手続きをする為、退室したのだろう。
 取締役会なんてどうだっていい。
 西木元社長の顔を見るにそんな思いが読み取れた。

「……まったく。契約書も読まず契約書にサインするとは、あれでよく代表取締役社長なんて務まったものだ。まあいいか」

 そう呟くと、水戸社長は念書を折り畳み、内ポケットにしまおうとする。

「……お待ち下さい。水戸社長。そちらの念書には何が書かれているのですか?」
「うん?」

 管理本部長である私がそう問い質すと、水戸社長はクスリと笑った。

「いや、大した事は書かれていないよ。新設会社の経営は西木元社長が自らの私財を投げ売ってでも全うする事。契約書締結後、いかなる事態が発生しても、当社は何ら責任を負わない事。入金後、当社に対して迷惑行為を一切行わない事。最後に問題行動を起こした場合、自ら解決に努める事と書かれているだけさ……」
「いえ、それって十分、大した事なのでは……?」

 というより、本当に良くそんな念書にサインしたものだ。
 代表取締役社長をクーデターで解任させられ、余裕が無かったとはいえ、流石に浅慮過ぎる。まあ、念書だから法的拘束力は無いのだろうけれども……。

「私としては、これにサインしてくれた事に対して驚いているよ。まさか、三十億円で採算の取れない赤字の事業部門と債務の殆どを買収してくれるとは思いもしなかった。まあ、買収してくれなかったとしても、私の命令で分割会社の社長に任命する予定だったがね。これで、高橋君との裁判も決着するし、二十億円もの巨額不正の穴も補填できる。勿論、監査報酬や第三者委員会の費用もね。流石は西木元社長だ。相当経営に自信があるのだろう。不採算部門を買い取ってくれるのだからね」
「へっ?」

 水戸社長が西木元社長と交わした契約書を見せてくる。
 そこには、西木元社長が考えていた会社分割とは逆の事が書かれていた。

「こ、これは……」

 不採算部門すべてを新設会社に移し、優良な事業部門をアメイジング・コーポレーションに残す。債務超過の会社を設立する事はできないので、ギリギリ債務超過にはならないよう調整されている。
 しかし、もう一度、資金を注入しなければ、本当に倒産しかねないそんな新設会社。それを西木元社長は三十億円で購入したようだ。

 契約書に目を通せば、簡単にわかる事が、そこには書かれていた。
 もし金を振り込みその後、騙されたと騒いでも、こうも契約書に記されていては……。

 そんな事を考えていると、会議室に西木元社長が入ってきた。

「ふんっ! 金は振りこんだ。約束はちゃんと守れよっ!」
「ええ、勿論です」

 西木元社長は席に置かれている資料と契約書を手に取ると、言いたい事だけを言い再度、会議室から出て行ってしまう。
 そして、暫くすると、社長室から「な、なんだこれはぁぁぁぁ!」という西木元社長の声が聞こえてきた。

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 2022年9月30日AM7時更新となります。
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