ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中

文字の大きさ
上 下
88 / 381

第88話 部下の意識改変訓練(強制)②

しおりを挟む
「カ、カケル君……これで満足かい……」

『命名神の嘆き』を何度となく身に受けたであろう『ああああ』が地に伏しながらそう呟く。
 部下達も皆揃ってボロボロだ。皆、死んだ目をしている。

「ど、どうしたんだ? 皆、ボロボロじゃないか……」

 物理・魔法攻撃を受けても無傷で済むよう装備を揃えてやり、モンスターを一撃で屠る事のできる自爆武器まで揃えて上げた。
 しかも、ここは推奨レベル三十の初級ダンジョン。
 レベル百五十オーバーの部下達がここまで苦戦すると誰が思うだろうか。

 白々しくそう言うと、『ああああ』が力なく顔を上げた。

「だ、誰のせいだと……」
「ふむ。俺のせいだな。いや、しかし、よくやってくれた。今日の所はここまでにしておこう。撤収するぞー」

 そう言うと、死んだ目をした部下達に研修手当金を手渡し、一人づつ転移門を潜らせていく。

 うーん。ちょっと、やり過ぎたかな?
 初級ダンジョンとはいえ、忍耐の欠片もない部下達を九回も周回させるのはきつかったのかも知れない。
 しかし、無理矢理にでも環境を変えてやらねば、こいつ等はいつまで経っても変わらない。ぬるま湯に浸かった子供のままだ。

 うん。俺は間違っていない筈だ。
『ああああ』は俺の事を、鬼や悪魔と称していた。
 ならば、鬼や悪魔に相応しい厳しめの訓練を課してやろう。
 研修終了後、ちょっとやそっとのストレスがストレスと感じなくなる位にな。

 三日目の訓練を終えた俺は、慰労の為、ボロボロになった『ああああ』を連れて冒険者協会の酒場に来ていた。

「お姉さんっ! エールお代わり!」
「はーい。すぐにお持ちしますね!」

 エレメンタルがピカピカ光りながら『ペロペロザウルスのTKG』を食べている傍らで、俺達は豪快にエールを呷っていた。

「さあ、『ああああ』。今日はよくやってくれた。これはお前に対する俺からの謝礼だ。好きなだけ飲んで食ってくれ」
「う、うん。ありがとう。でも、カケル君の奢りで飲み食いするの、なんだか怖いんだけど……」

 感のいい奴だ。まあいい。

「そんな事はないさ。俺も鬼じゃない……。お世話になった人に対してお礼をするのは当然の事じゃないか。さあ、飲んだ飲んだ! 美人のウエイトレスさんがエールを持ってきてくれたぞ」
「はーい。お待たせ致しました! こちら注文のエールとなりますっ!」
「ほいっ、ありがとうございますっと、ほら『ああああ』」

 ウエイトレスさんからエールを受け取ると、そのエールを『ああああ』の目の前に置く。すると『ああああ』はエールの入ったグラスを片手にして、一気に口に流し込んだ。

「いやー、いい飲みっぷりだな! 『ああああ』。今日は一日ありがとう! ああ、明日も同じ時間に集合な? 金は俺が払っておくから安心してくれ、明日は中級ダンジョンを周回する予定だから、飲み過ぎんなよ!」
「う、うん。わかったよ」

 そう言うと、俺はエレメンタル達がペロペロザウルスのTKGを食べ尽くした事を確認してから席を立つ。
 流石に、俺がいては『ああああ』も気軽に飲み食いできないだろうからね。
 今日は自由にしてあげよう。

『ああああ』を残し俺の経営する宿に帰ると支配人が俺に声をかけてくる。

「カケル様。少々、お話が……」
「うん? どうした?」

 珍しいな。支配人が俺に声をかけてくるなんて……。
 神妙な表情を浮かべ、そう尋ねると支配人は意気消沈とした声色で呟く。

「……実は、カケル様のお客様の件で」
「うん? あいつ等が何かやらかしたのか?」

 それなら、すぐにでも追い出してやる所だ。

「い、いえ、何かしらの問題行動を起こした訳ではないのですが……実際に確認頂けると……」

 歯切れが悪いな。
 あいつ等、一体何をしたんだ?

「確認? わかった。すぐに向かう。案内してくれ」
「ありがとうございます……」

 そういって向かった宿備え付けのレストラン。
 そこでは、飲んだくれ悲しみに暮れる部下達の姿があった。

 皆揃って、酒瓶片手に涙を流し、「お家帰りたい」と嘆いている。

「えー、見ての通りのご様子でして……」
「う、うん。本当だね……」

 ち、ちょっと、訓練が厳しすぎただろうか?
 それとも慣れない環境に置きすぎた?

 つーか、大きなお友達が皆揃ってホームシックってどいう事っ!?
 まあ、ゲーム世界に閉じ込められて家族や友達と会えなくなってしまった気持ちはわかるけれども……。

 ホームシックに罹った部下達を前に、唖然とした表情を浮かべていると部下の一人が呟いた。

「ううっ、焼きそばが食べたい。寿司が食べたい。味噌汁が飲みたい……」

 その呟きはこの場にいる部下全員に広がりを見せ、悲しみの大合唱が巻き起こる。

「カレーが食べたい」
「天ぷらが食べたい」
「とんかつが食べたい」
「ピザが食べたい」
「お好み焼きが食べたい」
「牛丼が食べたい」
「ハンバーガーが食べたい」

 うーん。面倒臭ぇなこいつ等……。
 何、勝手な事をほざいていやがるんだ?

 とはいえ、こいつ等が使い物にならないままというのは困る。
 仕方がない……。支配人も困っているようだし、俺の我儘でこいつ等の面倒を見て貰っている今、流石にこれ以上の迷惑をかける訳にはいかない。

 食べ物で解決できるならこの際、なんでもしてやろう。

「事情はわかった……。あいつ等の故郷の料理を持ってきてやるから引き止めておいてくれ……」
「畏まりました」
「それじゃあ、俺は料理を仕入れてくる」

 まあ、飲んだくれているようだし、一時間位、放置しても問題ないだろう。
 早速、ゲーム世界をログアウトすると、俺は、パソコン画面から出前館とUberEatsにアクセスし、手当たり次第、料理を注文していく。

 春の絶品グルメクォーターにピザーラスペシャルクォーター、よくばりクォーターに、牛めし(並盛)。豚天にやきそば、天丼や寿司の特上セット、ハンバーガーセットを注文すると、決済画面に移り顔を顰めた。

「う、うーん。二十五万円か……」

 結構良い値段するな……。まあいいか。
 これからのこいつ等が稼いでくれるお金の事を考えれば安いものだ……。

 暫くすると、ホテルに続々と注文した品が届き始めた。

 デリバリーサービスを利用し料理を注文した俺は、届いた料理をアイテムストレージにしまい、ゲーム世界に転移してすぐ、厨房へと向かった。

「すまないが、ここに出した料理をすべて器に移し替え、今いるお客様へ提供してくれ!」
「えっ? これ、すべてですかっ!?」
「ああ、そうだよ。シェフからの特別料理という感じであいつ等に提供してやってくれ。早くっ!」

 そう声を上げると、厨房が慌ただしくなる。

「俺は、インスタント味噌汁を作るからお湯を沸かしてくれっ! あっ、その寿司、形を崩すなよっ!」
「は、はい!」
「それじゃあ、皿を移し替えたものから順番に運べっ」

 日本から直輸入した料理をこちらの皿に移し替え提供していく。
 すると、十分も経たず、レストランから歓声が聞こえてきた。

「こ、これはピザッ!?」
「み、味噌汁。味噌汁がこの世界に……」
「こ、これはまさか寿司っ!? なんで、寿司がこの世界にっ!?」

 ふっ、そんな難しい事考えるなよ。
 なんで、寿司がこの世界に?
 そんなの時空を飛び越え持ってきたからに決まっているだろ?

 つーか、お前等のホームシック。超軽いな。
 えっ? そんなんでいいのっ?
 故郷のご飯食べた位で解消される。そんなもんなのっ!?

 まあ、いいけど……。

「さあ、どんどん運べっ! 美味しい料理は心を満たしてくれる。あいつ等の心を料理で一杯にしてやるんだっ! 酒も惜しみなくだしてやれっ!」

 くははははっ、その上で、この宿に釘づけにしてやる。
 ほらほら、お前達、この宿を出たらもう日本食を食べる事ができなくなっちゃうぞ?
 もう定住するしかないだろ。

 悪い笑みを浮かべながら、日本に転移して注文してきた料理を提供し続ける俺。

 すべてのデリバリー料理を提供した俺がレストランに向かうと、そこには満足そうな笑みを浮かべ酔い潰れた部下達の姿がそこにあった。

「この程度で酔い潰れるとは……」

 レストランで働く従業員の気持ちになってほしい。
 誰が好き好んで酔い潰れたお客様の介抱をしなきゃいけないというのだろうか。
 しかし、ここにいる部下共とは全員『契約書』を交わしている。

「『命令』だ。全員、立ち上がり、自室へ、戻りやがれっ!」

 そう命令すると、酔い潰れていた筈の部下共が立ち上がり、自分達にあてがわれた部屋へと帰っていく。

 皆、フラフラしているが、まあ多分大丈夫だろう。大丈夫だよね?

「ふう。それじゃあ、後片付けは頼んだ。ちゃんと、割増手当を弾むからさ」
「はい。ありがとうございます。カケル様」

 片手を上げ、『よろしく頼む』と口にすると、そのまま部屋へと戻っていく。

 それにしても、人を育てるというのは難しいものだ。
 ゲームの様に中々、上手く育てる事ができない。
 ゲームであれば、簡単にレベリングできる事も、この世界が現実になった今、それも難しい。
 モンスターに攻撃すれば、当然のごとく反撃される。
 ゲーム世界では痛みが伴わなかった攻撃も、現実世界ではそのまま傷跡として身体に残る。

 ゲーム世界では、体感することのなかった痛み。
 その痛みが、元DWプレイヤーのやる気を削いでいく。
 まあ、そうさせない為の命名神シリーズだったんだけど。

「これで、あいつ等の甘えも消えてくれればいいんだけどな……」

 この世界を生き抜く為には、『元の世界に戻れない。この世界で生きていく』という気概を持つ必要がある。
 しかし、あいつ等にはそれがまるでない。
 まあ、現実世界に戻ることのできる俺に言えた義理じゃないけどね。

 今回、俺はあいつ等の退路をあえて断ち。強制的に、この世界で生きていく事を意識させたが、奴等の中には、それに耐えられない奴もいる筈。

 しかし、これは慈善事業じゃない。
 俺自身、恵まれた環境にあるからと言って、誰かを助ける必要性があるとも思わない。
 所詮、他人は他人。そういった事は、やりたい人がやればいいのだ。
 そもそも、そういった慈善事業は強制されてやるものじゃない。
 義憤に駆られた時、自分にできる事が何かないか思い至った時、行うものだ。

「訓練開始から三日目か……」

 訓練は思いの外、順調に進んでいる。
 後はあいつ等の意識次第かな?

 部屋に入りベッドに寝そべると、軽く目を閉じる。

「明日はどう扱いてやろうかな……」

 そう呟くと、俺はそのまま眠りに落ちた。
しおりを挟む
最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
感想 537

あなたにおすすめの小説

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

処理中です...