ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

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第86話 元住んでいたマンションが燃やされました

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 二日目の訓練を終えた俺は、ゲーム世界をログアウトし、カンデオホテルに戻ってきていた。

「転移組の副リーダー、ルートから預かった五十人……いや、五人脱落者が出たから残り四十五人か……」

 たった二日で五人も脱落者が出てしまうとは残念極まりない。訓練終了後、一体何人のプレイヤーが手元に残るのだろうか。
 そんな事を思いながら何気なくテレビを付けると、ニュース速報が目に飛び込んでくる。

『本日午後八時過ぎ、東京都江戸川区西葛西〇丁目のマンションで火事があり、消防が消火活動にあたっています。消防によりますと、「男が住居に侵入し、火を放った」と通報があり現在、消防車など二台で消火活動にあたっています』

 ニュースキャスターが言いながら映し出されたマンション。
 そこは俺が住んでいたマンションだった。

「へっ? もしかして、俺が住んでたマンション?」

 ニュースを読み進めていくと、犯人は既に捕まっており「俺はやってない」と容疑を否認している様だ。

 先日、ホテルの受付に届いた管理会社からの『賃貸借契約の解除』と『立ち退き通知』……そして、『立ち退き合意書』。
 テーブルに置いてあるその書類に視線を向け、俺はホッと息を吐く。

 先日、マンションの管理会社からこんな電話がかかってきていた。
 単刀直入にいれば、立ち退き要求。

 あなたの住んでいる部屋が大変な事になっている。ドアはボコボコであなたを中傷する貼り紙が貼ってあり、落書きまでされている。
 このままでは、他の入居者の迷惑になる。だから出て行ってくれないか。
 と、まあそんな感じの電話だ。

 以前電話で騒音問題の苦情が来た時、『い、いえ、隣の方も騒音問題が解決するならそれでいいと言っているので……』とか言っていたのに手の平返しが凄い。
 しかし、俺は即座に了承した。

 何故って?
 そんな事は当然決まっている。
 別にあのマンションで寝泊まりしているしている訳じゃないし、解約してもまったくもって困らないからだ。
 当然、住んでいた時の家具は俺のアイテムストレージにしまってある。
 もちろん、掃除をしてから出て行ったから部屋の中も綺麗なものだ。

 あのマンションの管理会社、アクトク不動産も何を思ったのかわからないが、ボコボコになったドアの修理代と壁の清掃代は立退料との相殺で済ませてくれ、敷金以外のお金を一切払う事なく平穏無事に退去する事ができた。

 アクトク不動産には頭が上がらない。
 お陰様で、放火された後の面倒事からも解放され、俺の住んでいた部屋に嫌がらせをしていた奴を逮捕する事ができた。
 きっとこの放火魔が、俺の住んでいた部屋に悪戯をしていたクソ野郎なのだろう。
 ハッキリ言って万々歳である。まあ大家さんには同情するけどね。

 とはいえ、最近の火災保険は時価ではなく新価で評価されるというし、築四十七年の物件が新価で評価されるなら大家さんも万々歳ではないだろうか?
 建て直すまで家賃収入は入ってこないだろうけど……。

 となると一番可哀相なのは保険会社か……。
 放火犯に損害賠償請求しても返ってくる金は少ないだろうし、裁判をするにしても手間が係る。

 まあ、終わった事だしどうでもいいか。

 俺はリモコンでテレビを消すと、シャワーを軽く浴び寝る事にした。
 なんだかんだで明日は早い。
 それに考え直さなければならない事もある。
 そう。俺の部下共の教育方針である。

 今、あいつ等に足りないもの。

 それは『自分一人でもモンスターを倒せる』という気概。
 あいつ等にはそれが圧倒的に欠如している。

 奴等は腐ってもDWプレイヤー。
 初めは、物理・魔法攻撃無効の『命名神の怒り』を装備しているし、上級ダンジョンに挑める位にレベルを上げてやれば大丈夫だろうと思っていた。

 しかし、無理だ。
 今日だけで五人脱落したし、ぬるま湯に浸かり過ぎていて、一度、人生をリセットしない事にはどうしようもない位、緩み切っている。
 今世で自信を付けてもらう為にはどうしたらいいか。
 それは……。

 ◇◆◇

「はーい。という事で今日、皆さんには、ここ初級ダンジョン『スリーピングフォレスト』で特別な訓練を受けてもらいたいと思いまーす。それでは、近くの人同士で五人組を組んで下さい。五人組から外れた奴は俺と一緒に回る事になっちゃうぞ?」

 そう言うと、俺と回るのがそんなに嫌なのか、部下共は順調に五人組を組んでいく。

「…………」

 うん。まあ、俺もお前等と回るの嫌だったからお相子だ。
 決して、強がりじゃないぞ。これは本心だ。

「さて、ちゃんと五人組が組めた所で、本日行う訓練の発表を行いまーす。えー、本日行う訓練は名付けて『反面教師に学ぼう』です。君達の戦い方はまだまだ『命名神シリーズ』の力を活かしているとはいえません。そこで、本日はその筋の専門家をお招きしました。先生、どうぞ」

 そう言うと、木陰から目を軽く瞑り、片手を挙げ、薄ら笑みを浮かべながら歩いてくる命名神シリーズの申し子こと『ああああ』が姿を現した。

「えー、この先生は君達と同じく『命名神』シリーズ武具を装備しているプレイヤーです。レベルも君達とほぼ違いはなく、違いと言えば、命名神シリーズを装備してからの総合日数位でしょうか?」

 そう紹介すると、『ああああ』はそんな言い方らないんじゃないかといった表情を浮かべた。
 しかし、俺はそれを無視して紹介を続ける。

「という事で、本日はこのクズ……いえ、先生から命名神シリーズを装備した状態での戦い方について学んでもらおうと思います。尚、先生には、初級ダンジョンのボスモンスター、ロックベアーを倒してもらおうと思っているので、そのつもりで……。それでは、先生、よろしくお願いします」
「えっ、ちょっと、聞いてなっ……」
「はーい。先生、御託はいいから先に進んで下さいね」

 そう言うと、俺は『ああああ』を強制的に黙らせ問答無用で先頭に立たせ前に進ませていく。
『ああああ』を前に進ませていくと、早速、前方にオラウータンをモチーフにしたモンスター『モブ・ウータン』が現れた。

 モブ・ウータンは近距離で体当たりをかまし、遠距離では石を投げてくる厄介なモンスターだ。まあ、そんな厄介なモンスターも初級ダンジョンでは、レベル一。
 ぶっちゃけ雑魚といっても過言ではない。

「えー、ここからは解説を加えながら行きたいと思います。モブ・ウータンは、初級ダンジョン『スリーピングフォレスト』に棲息する最もポピュラーなモンスターです。それじゃあ、先生……わかっていますね?」
「う、うん……」

 そう解説しながらモブフェンリル・バズーカの先で『ああああ』を強制的に前に進ませる。

『ピュイ? ピューイ!』

 すると、モブ・ウータンが近くに落ちていた割と大きめの石を手に取り、『ああああ』に向かって投げ付けた。

「う、うわぁぁぁぁ!」と、突然の投石にビビり尻餅をつく『ああああ』。
 しかし、投げ付けられた石は、『ああああ』を覆う薄い光の膜に弾かれ、床に落ちていく。当然、『ああああ』はノーダメージだ。

「こ、こなくそっ!」

 腰を抜かして尻餅をついた『ああああ』は立ち上がると、そのままモブ・ウータンに近付き、呪いの装備『命名神の嘆き』で殴り飛ばした。

 その瞬間、モブ・ウータンが「ピュ……グルフェッ!!?」という生物として出しちゃいけない声を上げ、四回転半して横たわる。
 百五十レベルともなればこんなものだ。むしろこうならない方がおかしい。

 尻餅をついてビビりまくっていた『ああああ』に視線を向けると、いつの間にか『ああああ』は満面の笑みでドヤ顔を浮かべていた。
 部下達も『ああああ』が初級ダンジョンのモブ・ウータン一匹倒しただけにも係わらず、「す、すげー!」と歓声を上げている。

「えー、君達も知っての通り、これが物理・魔法攻撃を無効化してくれる『命名神の怒り』の効果です。これさえ装備していれば、君達はノーダメージのまま、モンスターを倒す事ができます」

 そう解説すると、部下達は「おおー、なるほど……」と呟いた。本当にわかっているのかは疑問である。
 しかし、そうこうしている間にも次々とモンスターが現れる。

「ギャース! ギャース!」と鳴くモンスター。
 モブ・ウータンの死体から顔を背け視線を上に向けると、そこにはハゲタカをモチーフにしたモンスター『ファングバルチャー』が上空を旋回していた。

「えー、あれはファングバルチャー、見ての通り鳥型のモンスターです。おっと、狼をモチーフにしたモンスター、フォレストウルフも現れた様ですね。さて、先生は一体、どんな手段でモンスターを倒すのでしょうか」

 そう言うと、ファングバルチャーとフォレストウルフが一斉に『ああああ』に向かい襲い掛っていく。
 しかし、『ああああ』は、茫然と立ち竦むだけで何もしようとしない。

「あ、危ないっ!」

 部下の一人がそう声を上げると同時に、ファングバルチャーとフォレストウルフが『ああああ』に肉薄し、鋭い爪で攻撃を繰り出した。
 その瞬間、「ギャッ!?」という短い断末魔と共にフォレストウルフが地に沈み、ファングバルチャーが羽を散らして落下していく。

「えー、これは先生の着けている呪いの装備『命名神の逆鱗』の効果ですね。『命名神の逆鱗』には、一定時間物理・魔法攻撃反射・ドレインという破格の効果を持っています」

『命名神の逆鱗』は、命名神シリーズ史上最強の装備。
 この俺様に反旗を翻してくる可能性がある今、そうこう簡単に渡す事のできない装備である。現に、『ああああ』は俺に反旗を翻してきた。

 とはいえ、今はこいつ等の育成が急務。

「なお、この装備が欲しい方は、是非、この訓練で結果を残して下さい。皆さんの残した結果次第では先生と同様に、この装備を配付する準備があります」

 そう呟くと、部下達が喜びの声を上げる。
 俺はそんな部下達を無視すると、『ああああ』を前面に押し出し、初級ダンジョン攻略の目的について述べる事にした。

「えー、君達も知っての通り、二階層奥にはボスモンスター、ロックベアーのいる階層へと続く魔法陣が用意してあります。今日のゴールは、先生の戦い方を見習いボスモンスター、ロックベアー討伐を五回ほど周回する事にあります」

 俺が解説を挟む間も、『ああああ』は襲いくるモンスターを難なく撃退していく。
 すべて『命名神の怒り』と『命名神の逆鱗』効果だが、それをあたかも使いこなしている風に見せる事のできるそのセンスだけは天下一品だ。

 そうこうしている内に、ボスモンスターのいる場所へと赴く為の魔法陣がある二階層奥へと辿り着いた。
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