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第66話 拝啓クソ兄貴様 働きやがれ、いやマジで①
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『テケトッコパカポコポン♪×2』
図書館を出てすぐポケットに入れたスマートフォンの着信音が鳴る。
「うん?」
スマートフォンを手に取り画面を見ると知らない番号からの電話だった。
電話に出ず、すぐさまブラウザで番号を検索すると、どうやら今、借りているマンションの管理会社らしいことがわかる。評判が滅茶苦茶悪い。
まさか自分が借りていたマンションの管理会社がこんなに評判が悪いとは思いもしなかった。
そういえば、ここの管理会社には『トータルサポート』とかいう賃貸物件で起こる様々なトラブルに対応してくれる強制加入サービスがあったような気がする。
もしかして、俺が借りている部屋でなにかあったのだろうか?
念の為、録音アプリを起動し電話を取ると、アクトク不動産の加地と名乗る人が電話口に出た。
アクトク不動産かすごい名前の管理会社だ。
『アクトク不動産の加地と申します。高橋様のお電話番号でよろしかったでしょうか?』
「はい。そうですけど……」
それにしても、一体なんの用だろうか?
家賃の引き落とし口座には潤沢なお金が預けられているし、水道光熱費も自動引き落とし。マンションの管理会社から電話がくる理由がわからない。
『……大変、恐縮なのですが、これから弊社まで来て頂けますか? 電話では話せない内容でして……。至急、確認を取りたいことがあるのですが……』
「はあっ?」
意味がわからない。
電話で話す事のできない内容とは一体なんなのだろうか?
「えっと、電話で伝えることのできない内容なんですか? それを聞かないことには判断すらできないんですけど……。こっちにも予定がありますし……」
今は平日の昼間。管理会社の人は俺が暇人だとでも思っているのだろうか?
仕事中だったら行けるはずがないよね?
まあ、今は無職だけれども……。
そう伝えると、加地は少し苛立った声色となる。
『……そう言われても困るんですよね。こっちは急いでいる訳で……。とにかく弊社まで来て頂けないでしょうか?』
「うーん、そう言われてもね。こっちにも予定がありますし、なんの用件で呼び出されているのかもわからないのに、これから来てくれなんておかしいじゃないですか」
『だから、これはデリケートな話ですので電話口では言えないんですよ』
「いや、なんで出向けば話せて、電話じゃ話せないんですか? 全然、理由になっていませんよね?」
そう応えると、加地が『うーん』と唸る。
『仕方がありませんね……。マンションの住人から苦情が入りまして、昼夜問わず、あなたの部屋からドンドンとなにかを叩く音が聞こえて困っているそうなんですよ。騒音問題が解決しなければ、部屋から出て行くと憤っておりまして……。身に覚えはありませんか? あなたの部屋から音が聞こえてくるみたいなんですけど』
「はあっ?」
いや、ある訳ねーだろ!
いま俺、ホテル住まいなんですけどっ!?
『えっと、それはいつの話ですか?』
「ここ最近、毎日みたいなんですよね。それについては、あなたが一番お分かりなんじゃありませんか?」
あなたがドンドン壁かなにかを叩いて騒音を出しているんですよね、とでも言いたげな嫌らしい言い方だ。
全然、身に覚えがない。にも拘らず、それをあたかも、『あんたが何かやっているんでしょ?』とでも言いたげな発言に腹が立つ。
「えっと、この電話録音しているんですけど……」
そう呟くように言うと、突然、加地が怒り出す。
『はあっ!? なに勝手に録音してるんだよっ! それは犯罪だぞ!』
もはや、管理会社とは思えない口調だ。
よくこんな感じで家の管理を任せてもらえたものだ。
俺が大家だったら絶対にこんな管理会社に依頼したくない。
「……通話内容を録音すること自体は犯罪にはなりませんよ。それに俺、ここ最近、ホテル暮らしで二週間位、家に帰っていないんですよ。それなのに毎日、ドンドンとなにかを叩く音が聞こえるんですか? おかしくありません?」
『……あなたが嘘を言っている可能性もありますよね? 賃貸契約を結んでいるのに何故、ホテル住まいをしているんですか?』
なるほど、確かに賃貸契約を結んでいるのに、ホテル住まいなのはおかしい。普通だったらそう思うよね。
でも、俺は例外である。
そして、そこまで考えて至ってしまう。
『ドンドン壁か何かを叩いて騒音』の正体に……。
「詳しい事を伝える事はできませんが、事情があって二週間前からホテルに泊まっているんですよ。もしかしたら、俺に嫌がらせをする為に昼夜問わずそう云った悪戯をしている人がいるのかもしれませんね」
『悪戯? どういう事ですか?』
「あくまで推測に過ぎませんので名言を避けますが、とりあえず監視カメラでも設置してはいかがでしょうか? もしかしたら、騒音を引き起こした犯人がわかるかもしれませんよ? もしこれ以上、言いがかりを付けてくる様なら裁判も辞しませんがどうします?」
そう言うと、加地のトーンが三トーンほど失われる。
『わかりました。今日の所は引き下がりましょう。ですが、その場合、あなたが原因で……』
「だーかーら。直接の原因は俺かもしれませんけど、嫌がらせをする方に問題があるに決まっているでしょ。それは直接その人に注意勧告して下さいよ」
「…………」
そう言うと、加地は黙ってしまった。
例えそれが俺発の原因だったとしても、騒音問題を起こしたのは俺以外の誰かだ。
そいつに騒音問題を起こすなと言って欲しい。
「……まあ、今回は誰がやったのか大凡の見当は付きますが証拠はありません。大家さんが出て行けと言うなら出て行きますし、後は監視カメラを付けるなり、騒音問題を引き起こすクソ野郎を豚箱にぶち込むなり好きにして下さい」
俺がそう言うと加地が言いよどむ。
まさか、『出て行けと言われたら出て行く』とまで言われると思わなかったのかもしれない。
『い、いえ、隣の方も騒音問題が解決するならそれでいいと言っているので……』
「そうですか、それじゃあ、後の対応はお願いします」
多分、その騒音問題を引き起こしているのは、強盗致傷罪で刑務所行きがほぼ決まっている高校生達の親だろう。
どうやって俺の家を特定したかわからないが、管理会社の話を聞くに昼夜問わず、家の扉をガンガン叩いているのかもしれない。この調子だと、もしかしたら落書きや張り紙をされている可能性もある。
「はあっ……」
最低でも高校生達の刑が確定するまで、やはりあの家に戻らない方がいいのかもしれない。
『わ、わかりました。その件につきましては、こちらで対応させて頂きます』
「ええ、よろしくお願い致します」
通話を切ると、俺はホテルに向かって真っすぐ歩き出す。
まったく……。次から次へと……。
「うん?」
不意にスマートフォンに手を伸ばすと、今度は、俺の兄から電話がかかってきた。
俺の兄、高橋陽一は、知人である工藤慎二のクソさ加減を長時間煮詰め濃縮したかの様な男である。
高校進学後、大学に四年行った後、四年留年した挙句除籍。
実家に戻って来いという親に反抗し、実家に戻らない宣言をした後、東京暮らしでバイトを転々とし、月収十四万円で生活を送っている。
当然そんな収入では東京で住むことができない。
家賃滞納は当たり前、当然、水道光熱費も払わない。その割におしゃれ好きで一度着た服は二度と着ないと抜かす底なしの馬鹿。しかも、とんでもない金額の借金もある。
消費者金融で借りることのできる上限額まで借り、それらすべてを馬券に充て、挙句の果てにすべてをスり、生活資金が尽きると「この俺に死なれては困るだろう?」と言わんばかりに連絡を寄こしてくる寄生虫。それが俺のクソ兄貴である。
正直、何度両親に絶縁したいと言ったかわからない。
しかし、法治国家日本で絶縁はできないらしい。
すべては民法八百七十七条第一項で定められている『直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある』とかいうクソ条文のお陰である。
自分の配偶者や子に対する扶養義務が『自分の親及び兄弟姉妹に対する扶養義務』よりも義務の程度が強く、『自分と同程度の水準の生活をできるようにする義務』とされている点が非常に厄介だ。
例えるなら、ボンビラス星から来たキングボンビーと直系血族及び兄弟姉妹であれば、どんなに嫌でも一緒に沈まなければならないし、放置して死なれでもしたら場合によっては保護責任者遺棄致死傷罪に問われる可能性ありの実質、自分の生活を犠牲にしてでもすべての面倒を見なさいよという義務である。
理不尽極まりない思いで、両親共々、金を出し合い兄である高橋陽一の借金や家賃、その他諸々をすべて清算し、実家に強制送還して半年経つが一体何の用だろうか?
電話に出るとへらへら笑う兄の声が聞こえてくる。
『よう。久しぶりだな、オレオレ! 誰かわかるか?』
一瞬、オレオレ詐欺かと思ったが声を聞けばわかる。
この胸糞悪い声……。クソ兄貴、高橋陽一の声である。
「ああ、久しぶりだな。なんの用だ?」
『いや~本当に久しぶりだな。少し近況を聞きたくなってさ、東京での暮らしはどうよ』
「いや、そういうのはいいから本題に入れよ……」
どうせ碌でもない事だろ?
もったい付けずさっさと話しなさいよ。クソ野郎。
イライラしながらぶっきらぼうにそう言うと、楽しそうに笑うクソ兄貴の声が耳に響く。
『いや、実はさ俺、結婚する事になりましたぁ~!』
「はあっ?」
結婚?
誰がだ?
甲斐性なしのクソ兄貴、お前がか?
なんだか頭が混乱してきた。
いや、考えようによっては天使かっ!?
あんな世界中のクズを集めて煮詰め濃縮したようなクズ・オブ・クズを引き取ってくれる物好きな女性がこの世にいたとは……。
なんだか無性に神に祈りを捧げたくなってきた。
ありがとう。濃縮クズを引き取ってくれる見知らぬ女性。
神様も素敵な出会いをクソ兄貴に与えてくれてありがとう!
お陰で俺達は救われました!
見知らぬ女性と神に祈りを捧げていると、スマホからクソ兄貴の声が聞こえてくる。
『おいおい。驚き過ぎだろ。まあ、親父やお袋も驚いていたけどよ』
「いや、そりゃあそうだろ」
そりゃあ驚くよ。
借金とギャンブルに目がないクソ野郎……じゃなかった、クソ兄貴が結婚するんだぜ?
俺、ビックリよ!
心臓が飛び出るかと思ったよ!
「それで、結婚相手はどんな人なんだよ」
興味本位で聞いてみる。
すると、クソ兄貴は楽しそうな声で結婚相手の事を話し始めた。
『いや~、天使よ。天使。大天使よ! 婚活で出会ったんだけど将来の夢があって、滅茶苦茶可愛くて、ちょっとお金にルーズだけど最高よ!』
「いや、いまお前なんて言った?」
いま、『金にルーズだけど最高よ』とか言わなかった?
図書館を出てすぐポケットに入れたスマートフォンの着信音が鳴る。
「うん?」
スマートフォンを手に取り画面を見ると知らない番号からの電話だった。
電話に出ず、すぐさまブラウザで番号を検索すると、どうやら今、借りているマンションの管理会社らしいことがわかる。評判が滅茶苦茶悪い。
まさか自分が借りていたマンションの管理会社がこんなに評判が悪いとは思いもしなかった。
そういえば、ここの管理会社には『トータルサポート』とかいう賃貸物件で起こる様々なトラブルに対応してくれる強制加入サービスがあったような気がする。
もしかして、俺が借りている部屋でなにかあったのだろうか?
念の為、録音アプリを起動し電話を取ると、アクトク不動産の加地と名乗る人が電話口に出た。
アクトク不動産かすごい名前の管理会社だ。
『アクトク不動産の加地と申します。高橋様のお電話番号でよろしかったでしょうか?』
「はい。そうですけど……」
それにしても、一体なんの用だろうか?
家賃の引き落とし口座には潤沢なお金が預けられているし、水道光熱費も自動引き落とし。マンションの管理会社から電話がくる理由がわからない。
『……大変、恐縮なのですが、これから弊社まで来て頂けますか? 電話では話せない内容でして……。至急、確認を取りたいことがあるのですが……』
「はあっ?」
意味がわからない。
電話で話す事のできない内容とは一体なんなのだろうか?
「えっと、電話で伝えることのできない内容なんですか? それを聞かないことには判断すらできないんですけど……。こっちにも予定がありますし……」
今は平日の昼間。管理会社の人は俺が暇人だとでも思っているのだろうか?
仕事中だったら行けるはずがないよね?
まあ、今は無職だけれども……。
そう伝えると、加地は少し苛立った声色となる。
『……そう言われても困るんですよね。こっちは急いでいる訳で……。とにかく弊社まで来て頂けないでしょうか?』
「うーん、そう言われてもね。こっちにも予定がありますし、なんの用件で呼び出されているのかもわからないのに、これから来てくれなんておかしいじゃないですか」
『だから、これはデリケートな話ですので電話口では言えないんですよ』
「いや、なんで出向けば話せて、電話じゃ話せないんですか? 全然、理由になっていませんよね?」
そう応えると、加地が『うーん』と唸る。
『仕方がありませんね……。マンションの住人から苦情が入りまして、昼夜問わず、あなたの部屋からドンドンとなにかを叩く音が聞こえて困っているそうなんですよ。騒音問題が解決しなければ、部屋から出て行くと憤っておりまして……。身に覚えはありませんか? あなたの部屋から音が聞こえてくるみたいなんですけど』
「はあっ?」
いや、ある訳ねーだろ!
いま俺、ホテル住まいなんですけどっ!?
『えっと、それはいつの話ですか?』
「ここ最近、毎日みたいなんですよね。それについては、あなたが一番お分かりなんじゃありませんか?」
あなたがドンドン壁かなにかを叩いて騒音を出しているんですよね、とでも言いたげな嫌らしい言い方だ。
全然、身に覚えがない。にも拘らず、それをあたかも、『あんたが何かやっているんでしょ?』とでも言いたげな発言に腹が立つ。
「えっと、この電話録音しているんですけど……」
そう呟くように言うと、突然、加地が怒り出す。
『はあっ!? なに勝手に録音してるんだよっ! それは犯罪だぞ!』
もはや、管理会社とは思えない口調だ。
よくこんな感じで家の管理を任せてもらえたものだ。
俺が大家だったら絶対にこんな管理会社に依頼したくない。
「……通話内容を録音すること自体は犯罪にはなりませんよ。それに俺、ここ最近、ホテル暮らしで二週間位、家に帰っていないんですよ。それなのに毎日、ドンドンとなにかを叩く音が聞こえるんですか? おかしくありません?」
『……あなたが嘘を言っている可能性もありますよね? 賃貸契約を結んでいるのに何故、ホテル住まいをしているんですか?』
なるほど、確かに賃貸契約を結んでいるのに、ホテル住まいなのはおかしい。普通だったらそう思うよね。
でも、俺は例外である。
そして、そこまで考えて至ってしまう。
『ドンドン壁か何かを叩いて騒音』の正体に……。
「詳しい事を伝える事はできませんが、事情があって二週間前からホテルに泊まっているんですよ。もしかしたら、俺に嫌がらせをする為に昼夜問わずそう云った悪戯をしている人がいるのかもしれませんね」
『悪戯? どういう事ですか?』
「あくまで推測に過ぎませんので名言を避けますが、とりあえず監視カメラでも設置してはいかがでしょうか? もしかしたら、騒音を引き起こした犯人がわかるかもしれませんよ? もしこれ以上、言いがかりを付けてくる様なら裁判も辞しませんがどうします?」
そう言うと、加地のトーンが三トーンほど失われる。
『わかりました。今日の所は引き下がりましょう。ですが、その場合、あなたが原因で……』
「だーかーら。直接の原因は俺かもしれませんけど、嫌がらせをする方に問題があるに決まっているでしょ。それは直接その人に注意勧告して下さいよ」
「…………」
そう言うと、加地は黙ってしまった。
例えそれが俺発の原因だったとしても、騒音問題を起こしたのは俺以外の誰かだ。
そいつに騒音問題を起こすなと言って欲しい。
「……まあ、今回は誰がやったのか大凡の見当は付きますが証拠はありません。大家さんが出て行けと言うなら出て行きますし、後は監視カメラを付けるなり、騒音問題を引き起こすクソ野郎を豚箱にぶち込むなり好きにして下さい」
俺がそう言うと加地が言いよどむ。
まさか、『出て行けと言われたら出て行く』とまで言われると思わなかったのかもしれない。
『い、いえ、隣の方も騒音問題が解決するならそれでいいと言っているので……』
「そうですか、それじゃあ、後の対応はお願いします」
多分、その騒音問題を引き起こしているのは、強盗致傷罪で刑務所行きがほぼ決まっている高校生達の親だろう。
どうやって俺の家を特定したかわからないが、管理会社の話を聞くに昼夜問わず、家の扉をガンガン叩いているのかもしれない。この調子だと、もしかしたら落書きや張り紙をされている可能性もある。
「はあっ……」
最低でも高校生達の刑が確定するまで、やはりあの家に戻らない方がいいのかもしれない。
『わ、わかりました。その件につきましては、こちらで対応させて頂きます』
「ええ、よろしくお願い致します」
通話を切ると、俺はホテルに向かって真っすぐ歩き出す。
まったく……。次から次へと……。
「うん?」
不意にスマートフォンに手を伸ばすと、今度は、俺の兄から電話がかかってきた。
俺の兄、高橋陽一は、知人である工藤慎二のクソさ加減を長時間煮詰め濃縮したかの様な男である。
高校進学後、大学に四年行った後、四年留年した挙句除籍。
実家に戻って来いという親に反抗し、実家に戻らない宣言をした後、東京暮らしでバイトを転々とし、月収十四万円で生活を送っている。
当然そんな収入では東京で住むことができない。
家賃滞納は当たり前、当然、水道光熱費も払わない。その割におしゃれ好きで一度着た服は二度と着ないと抜かす底なしの馬鹿。しかも、とんでもない金額の借金もある。
消費者金融で借りることのできる上限額まで借り、それらすべてを馬券に充て、挙句の果てにすべてをスり、生活資金が尽きると「この俺に死なれては困るだろう?」と言わんばかりに連絡を寄こしてくる寄生虫。それが俺のクソ兄貴である。
正直、何度両親に絶縁したいと言ったかわからない。
しかし、法治国家日本で絶縁はできないらしい。
すべては民法八百七十七条第一項で定められている『直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある』とかいうクソ条文のお陰である。
自分の配偶者や子に対する扶養義務が『自分の親及び兄弟姉妹に対する扶養義務』よりも義務の程度が強く、『自分と同程度の水準の生活をできるようにする義務』とされている点が非常に厄介だ。
例えるなら、ボンビラス星から来たキングボンビーと直系血族及び兄弟姉妹であれば、どんなに嫌でも一緒に沈まなければならないし、放置して死なれでもしたら場合によっては保護責任者遺棄致死傷罪に問われる可能性ありの実質、自分の生活を犠牲にしてでもすべての面倒を見なさいよという義務である。
理不尽極まりない思いで、両親共々、金を出し合い兄である高橋陽一の借金や家賃、その他諸々をすべて清算し、実家に強制送還して半年経つが一体何の用だろうか?
電話に出るとへらへら笑う兄の声が聞こえてくる。
『よう。久しぶりだな、オレオレ! 誰かわかるか?』
一瞬、オレオレ詐欺かと思ったが声を聞けばわかる。
この胸糞悪い声……。クソ兄貴、高橋陽一の声である。
「ああ、久しぶりだな。なんの用だ?」
『いや~本当に久しぶりだな。少し近況を聞きたくなってさ、東京での暮らしはどうよ』
「いや、そういうのはいいから本題に入れよ……」
どうせ碌でもない事だろ?
もったい付けずさっさと話しなさいよ。クソ野郎。
イライラしながらぶっきらぼうにそう言うと、楽しそうに笑うクソ兄貴の声が耳に響く。
『いや、実はさ俺、結婚する事になりましたぁ~!』
「はあっ?」
結婚?
誰がだ?
甲斐性なしのクソ兄貴、お前がか?
なんだか頭が混乱してきた。
いや、考えようによっては天使かっ!?
あんな世界中のクズを集めて煮詰め濃縮したようなクズ・オブ・クズを引き取ってくれる物好きな女性がこの世にいたとは……。
なんだか無性に神に祈りを捧げたくなってきた。
ありがとう。濃縮クズを引き取ってくれる見知らぬ女性。
神様も素敵な出会いをクソ兄貴に与えてくれてありがとう!
お陰で俺達は救われました!
見知らぬ女性と神に祈りを捧げていると、スマホからクソ兄貴の声が聞こえてくる。
『おいおい。驚き過ぎだろ。まあ、親父やお袋も驚いていたけどよ』
「いや、そりゃあそうだろ」
そりゃあ驚くよ。
借金とギャンブルに目がないクソ野郎……じゃなかった、クソ兄貴が結婚するんだぜ?
俺、ビックリよ!
心臓が飛び出るかと思ったよ!
「それで、結婚相手はどんな人なんだよ」
興味本位で聞いてみる。
すると、クソ兄貴は楽しそうな声で結婚相手の事を話し始めた。
『いや~、天使よ。天使。大天使よ! 婚活で出会ったんだけど将来の夢があって、滅茶苦茶可愛くて、ちょっとお金にルーズだけど最高よ!』
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いま、『金にルーズだけど最高よ』とか言わなかった?
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「最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。国が大変な事になったからお前を買い戻したい?すいませんが他を当たって下さい―」を公開しました。皆様、是非、ブックマークよろしくお願い致します!!!!ブックマークして頂けると、更新頻度が上がるという恩恵が……あ、なんでもないです……。
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