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第59話 緊急クエスト『モンスター迎撃戦』
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「本当に来てしまった……」
翌日、俺は秋葉原にある日本屈指のパワースポット、神田明神にいた。
アニメの聖地として有名な神田明神は、どうやら厄除けをする事もできるらしい。
神田明神の正面入口に当たる鳥居を潜ると、奥に立派な随神門が見えてきた。
神田明神の境内の入口となるのが、随神門だ。
ここから先が境内の神域となるらしいが、ぶっちゃけよくわからない。
「冷てっ……」
手水舎の水が氷のように冷たい。
ここで手を洗うと本当に浄化された気分になるから不思議だ。
境内に入る前に随神門左手にある手水舎で手を清めると、随神門を通り境内に入り込む。
境内に入ると正面に御神殿が鎮座していた。
ネット情報によると、この御神殿は神田明神そのものを体現する社であり、厄除けの祈祷もこの神殿内で執り行われるらしい。神様の体内に入ってお祓いをするということだろうか?
ちょっとよくわからない。
なんとなく神々しい雰囲気のある御神殿の前を通ると、境内の神域にあるとは思えない新築の建物、文化交流館に入り、厄除け祈祷の申し込みを行う。
神田明神では、厄除け祈祷の事前予約は不要なようで、ご祈祷受付で随時受け付けているらしい。
厄除けのご祈祷の初穂料は一万円から。
中々、強気なお値段設定だ。
しかし、これで厄が祓えるなら安いもの……。そう思う事にしよう。
文化交流館に入り、厄除け祈祷の受付に向かい、厄除け祈祷を受けたい旨を伝える。
「すいません。厄除けをしてもらいたいんですけど……」
「はい。厄除けの祈祷ですね。あちらの記入机でこちらの申込用紙に記入をお願いします」
「はい。わかりました」
申込用紙を受け取り記入机で祈願内容、住所、名前等を記入すると、初穂料と共に提出する。
「それではこちらの浄衣(首かけ)を身につけ参拝者待合室でお待ち下さい。おおよそ、二十分ごとにご案内します」
「わかりました」
巫女さんに言われた通り、浄衣をつけて参拝者待合室に入ると、俺の他に二人椅子に座っている人がいた。どうやらこの人達も厄除けの祈祷を受けに来たらしい。
椅子に座り待機していると、巫女が俺達を呼びに来た。
「お待たせ致しました。それでは本殿内にご案内致します」
巫女の案内で靴を脱ぎ本殿内に入ると拝殿に着席する。
すると、太鼓が叩かれ厄除けの祈祷が始まった。
どこでどんな事をすればいいのか戸惑ったが、その場その場で教えてくれるらしい。
神職がお祓詞という短い祝詞を読み大麻で祓うと、神職が参拝者に代わり大和言葉で明神様に祈願内容を伝えていく。
静かに頭を下げて祝詞が終わるのを待つと、巫女が福鈴を持ちそれを鳴らした。
神職の案内で席から御神前まで進み、玉串に願いを込め二拝二拍手一拝し、席に戻る。その後、神職挨拶の後、神様の力が込められた神酒(日本酒)を飲むと、撤下品を受け取り、本殿から退出する。
どうやらこれで、厄除け祈祷は終了らしい。
厳かな雰囲気の中、執り行われた厄除け祈祷。
よくわからないが、なんとなく厄が取れたような気がする。
アイテムストレージに撤下品を入れると、俺は神田明神を後にした。
「よし。これで厄は祓えたはずだ……」
現に何事もなくカンデオホテルに戻ってくる事ができた。
これは大きな前進だ。
部屋に入ると、ベッドマットやバスタオルが新品に取り替えられている。
トイレットペーパー迄もだ。
素晴らしい。はやり厄除けしてよかった。
またなにか悪い事があったら厄除けをしに神田明神に行こう。
「さて、これからどうするかな……」
課金アイテムの有効性を確認する事もできたし、厄除けも済んだ。
まだまだ多くの課金アイテムがアイテムストレージに眠っているが、ユグドラシル・ショップがなくなってしまった以上、入手することは難しい。
とはいえ、入手が難しいというだけで、手に入れられない訳ではなさそうだ。
「とりあえず、冒険者協会で購入可能か確認してみるか……」
DWの世界に閉じ込められたプレイヤーの中には金に困っている奴も多い。
依頼を出せば多くの課金アイテムが集まるはずだ。
「――コネクト『Different World』」
DWの世界にログインした俺は、『微睡の宿』を出ると早速、冒険者協会に向かう事にした。
――カンカンカンカンッ!
「うん?」
大通りに差し掛かると、王都中に鐘の音が響き渡る。
これはまさか……。
「た、大変だっ! リージョン帝国との国境付近の森でスタンピードが発生したぞ!」
「冒険者協会から強制依頼が出されたみたい。Aランク以上の冒険者は皆、国境に急行して!」
「なるほどね……。そういや、あったわ。緊急クエスト『モンスター迎撃戦』」
簡単に言えば、大多数のプレイヤーが協力してリージョン帝国近くの国境沿いにある森から出てきたモンスターを迎撃するマルチイベントである。
「でもなぁ、なんだかやる気がしないな……」
なにせ、現実となったゲームの中の迎撃戦。
マルチイベントとして行うスタンピード迎撃戦は命の危険がない分、気楽に参加できた。しかし、ゲーム世界が現実となった今は違う。
どうしよう。お腹が痛いとか言ってバックレようかな?
でも強制だしなー。
こんな事ならランクを最低ランクに下げておけばよかった。
まさか、現実となったゲーム世界でこんなマルチイベントまで発生するとは思わないじゃない。普通……。
……いや、待てよ。
これはある意味チャンスか?
この世界が現実となった時、オーディンにより全てのプレイヤーのステータスが初期化されてしまった。
俺の場合、マイルームの倉庫に保管してあった課金アイテムを使い、簡単にレベリングできたから問題ないが、この世界に取り残されたプレイヤーが二週間でレベル百を超えることはかなり難しいはず。
それにゲームの中に取り残されてしまったプレイヤー達がこの迎撃戦に参加するとは思えない。
それに迎撃戦で活躍すれば、冒険者協会や国からそれなりの報酬が貰える。
俺にはエレメンタル達がついているし、これはチャンスだ。
スタンピードには、結構レアなモンスターも多数出現する。
それこそ、ダンジョンの最深部にしか出現しないモンスターもである。
「やっぱり行くか……」
俺の決意は固まった。
後は現場に急行してモンスターを殲滅するだけだ。
課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』を使い、転移門『ユグドラシル』経由で国境近くまで転移すると、アイテムストレージから現実世界で愛用していたスクーターを取り出し、現場に急行する。
「お、おい。こんな時にどこに行く気だっ! 外に出たら死んじまうぞっ!」
途中、門を抜ける時、兵士に声をかけられる。
「大丈夫、大丈夫! 俺、Sランク冒険者だから」
「え、Sランク冒険者? だったら、集合場所が……」
「わかってる。わかってる!」
緊急クエストは、基本的に現地集合、現地殲滅が基本だ。
そう言って門を抜けると、大小様々なモンスターの軍勢が土煙を上げながらこちらに近付いてくるのが見える。
「おいおい、どうなってるの?」
門の外に冒険者がいない。
Aランク以上の冒険者は国境に向かったんじゃなかったの?
ゲームじゃいつも現地迎撃だったよね??
おかしいと思い、セントラル王国を護る城郭に視線を向けると、兵士達が門を閉じるのが見えた。今、門を閉めないと危険だと判断したのだろう。
城郭の上では、冒険者と兵士達は安全な所で武器を取りモンスターを迎撃しようと準備を進めている。
「……マ、マジでか」
あの兵士が言っていたのは、そういうことか。
マルチイベントに参加するつもりで最前線にやってきたが、集まる場所を間違えたらしい。
考えてみれば、当たり前だ。
あんな津波のように押し寄せてくる大量のモンスターを現地で捌けるわけがない。
危険極まりないし、城郭の上から攻撃した方がまだ安全だ。
とはいえ、既に門は閉じられてしまっている。
スクーターを止め、アイテムストレージにしまうとため息を吐いた。
生き残る為には戦わなければならないが、ヤバくなったらログアウトすればいい。
矛盾した覚悟を決めると、俺はエレメンタルに熱い視線を向ける。
「よし。頼んだぞ。エレメンタル。君達だけが頼りだ。俺もできる限りのサポートはさせて貰う。存分にやってくれ!」
そう言うと、エレメンタル達が色とりどりに光りはじめる。
しかし、あれだけのモンスターを相手にエレメンタル四体と俺一人じゃ厳しいか?
チラリと国境に視線を向けると、こっちに向かって爆走してくるモンスター達の姿が見える。考えている時間はあまりなさそうだ。
何かないか、何かないかとアイテムストレージに有用なアイテムが入っていないか、焦りながらスクロールしていく。
すると、この状況を打破することができそうな有用なアイテムを見つけた。
「こ、これだっ!」
そのアイテム名は『エレメンタル進化チケット』。
エレメンタル進化チケットとは、その名の通りエレメンタルを進化させる為だけに存在する課金アイテム。エレメンタルのレベルを最大値まで成長させた場合にのみ使う事のできるアイテムで、このアイテム配信後、難易度の高さから一度も使われた事のない悲しき課金アイテムである。
メニューバーから『エレメンタル進化チケット』を選択すると、進化させたいエレメンタルを指定し『アイテムを使用する』をタップした。
すると、エレメンタルに変化が現れる。
空飛ぶ赤い玉こと、火の精霊サラマンダーの身体が炎を上げたかと思えば、その炎が鳥の姿を形取り火の上位精霊フェニックスへと姿を変える。
水の精霊ウンディーネに至っては、青い玉から水があふれ出し、溢れ出た水が巨大なタコを形取ったかと思えば水の上位精霊クラーケンへと姿を変えた。
「お、おっふっ……」
やべえ、これはやべえ奴だよ……。
エレメンタル進化チケットのエフェクトがとにかく派手だ。
なによりデカい。ここだけウルトラ怪獣大集合だよ!
しかし、エレメンタルの進化はまだまだ止まらない。
風の精霊シルフは緑の玉から雷を纏った煙を吹き出し、筋骨隆々なターバンを被った厳ついオッサンこと、風の上位精霊ジンに姿を変え、地の精霊ノームは土色の玉が急激に膨れ上がり巨大なカバこと地の上位精霊ベヒモスへと姿を変えた。
手のひらサイズの光の玉から巨大怪獣へ大変身である。
とんでもない進化を間近で見せつけられた俺は、ガックリとうな垂れた。
翌日、俺は秋葉原にある日本屈指のパワースポット、神田明神にいた。
アニメの聖地として有名な神田明神は、どうやら厄除けをする事もできるらしい。
神田明神の正面入口に当たる鳥居を潜ると、奥に立派な随神門が見えてきた。
神田明神の境内の入口となるのが、随神門だ。
ここから先が境内の神域となるらしいが、ぶっちゃけよくわからない。
「冷てっ……」
手水舎の水が氷のように冷たい。
ここで手を洗うと本当に浄化された気分になるから不思議だ。
境内に入る前に随神門左手にある手水舎で手を清めると、随神門を通り境内に入り込む。
境内に入ると正面に御神殿が鎮座していた。
ネット情報によると、この御神殿は神田明神そのものを体現する社であり、厄除けの祈祷もこの神殿内で執り行われるらしい。神様の体内に入ってお祓いをするということだろうか?
ちょっとよくわからない。
なんとなく神々しい雰囲気のある御神殿の前を通ると、境内の神域にあるとは思えない新築の建物、文化交流館に入り、厄除け祈祷の申し込みを行う。
神田明神では、厄除け祈祷の事前予約は不要なようで、ご祈祷受付で随時受け付けているらしい。
厄除けのご祈祷の初穂料は一万円から。
中々、強気なお値段設定だ。
しかし、これで厄が祓えるなら安いもの……。そう思う事にしよう。
文化交流館に入り、厄除け祈祷の受付に向かい、厄除け祈祷を受けたい旨を伝える。
「すいません。厄除けをしてもらいたいんですけど……」
「はい。厄除けの祈祷ですね。あちらの記入机でこちらの申込用紙に記入をお願いします」
「はい。わかりました」
申込用紙を受け取り記入机で祈願内容、住所、名前等を記入すると、初穂料と共に提出する。
「それではこちらの浄衣(首かけ)を身につけ参拝者待合室でお待ち下さい。おおよそ、二十分ごとにご案内します」
「わかりました」
巫女さんに言われた通り、浄衣をつけて参拝者待合室に入ると、俺の他に二人椅子に座っている人がいた。どうやらこの人達も厄除けの祈祷を受けに来たらしい。
椅子に座り待機していると、巫女が俺達を呼びに来た。
「お待たせ致しました。それでは本殿内にご案内致します」
巫女の案内で靴を脱ぎ本殿内に入ると拝殿に着席する。
すると、太鼓が叩かれ厄除けの祈祷が始まった。
どこでどんな事をすればいいのか戸惑ったが、その場その場で教えてくれるらしい。
神職がお祓詞という短い祝詞を読み大麻で祓うと、神職が参拝者に代わり大和言葉で明神様に祈願内容を伝えていく。
静かに頭を下げて祝詞が終わるのを待つと、巫女が福鈴を持ちそれを鳴らした。
神職の案内で席から御神前まで進み、玉串に願いを込め二拝二拍手一拝し、席に戻る。その後、神職挨拶の後、神様の力が込められた神酒(日本酒)を飲むと、撤下品を受け取り、本殿から退出する。
どうやらこれで、厄除け祈祷は終了らしい。
厳かな雰囲気の中、執り行われた厄除け祈祷。
よくわからないが、なんとなく厄が取れたような気がする。
アイテムストレージに撤下品を入れると、俺は神田明神を後にした。
「よし。これで厄は祓えたはずだ……」
現に何事もなくカンデオホテルに戻ってくる事ができた。
これは大きな前進だ。
部屋に入ると、ベッドマットやバスタオルが新品に取り替えられている。
トイレットペーパー迄もだ。
素晴らしい。はやり厄除けしてよかった。
またなにか悪い事があったら厄除けをしに神田明神に行こう。
「さて、これからどうするかな……」
課金アイテムの有効性を確認する事もできたし、厄除けも済んだ。
まだまだ多くの課金アイテムがアイテムストレージに眠っているが、ユグドラシル・ショップがなくなってしまった以上、入手することは難しい。
とはいえ、入手が難しいというだけで、手に入れられない訳ではなさそうだ。
「とりあえず、冒険者協会で購入可能か確認してみるか……」
DWの世界に閉じ込められたプレイヤーの中には金に困っている奴も多い。
依頼を出せば多くの課金アイテムが集まるはずだ。
「――コネクト『Different World』」
DWの世界にログインした俺は、『微睡の宿』を出ると早速、冒険者協会に向かう事にした。
――カンカンカンカンッ!
「うん?」
大通りに差し掛かると、王都中に鐘の音が響き渡る。
これはまさか……。
「た、大変だっ! リージョン帝国との国境付近の森でスタンピードが発生したぞ!」
「冒険者協会から強制依頼が出されたみたい。Aランク以上の冒険者は皆、国境に急行して!」
「なるほどね……。そういや、あったわ。緊急クエスト『モンスター迎撃戦』」
簡単に言えば、大多数のプレイヤーが協力してリージョン帝国近くの国境沿いにある森から出てきたモンスターを迎撃するマルチイベントである。
「でもなぁ、なんだかやる気がしないな……」
なにせ、現実となったゲームの中の迎撃戦。
マルチイベントとして行うスタンピード迎撃戦は命の危険がない分、気楽に参加できた。しかし、ゲーム世界が現実となった今は違う。
どうしよう。お腹が痛いとか言ってバックレようかな?
でも強制だしなー。
こんな事ならランクを最低ランクに下げておけばよかった。
まさか、現実となったゲーム世界でこんなマルチイベントまで発生するとは思わないじゃない。普通……。
……いや、待てよ。
これはある意味チャンスか?
この世界が現実となった時、オーディンにより全てのプレイヤーのステータスが初期化されてしまった。
俺の場合、マイルームの倉庫に保管してあった課金アイテムを使い、簡単にレベリングできたから問題ないが、この世界に取り残されたプレイヤーが二週間でレベル百を超えることはかなり難しいはず。
それにゲームの中に取り残されてしまったプレイヤー達がこの迎撃戦に参加するとは思えない。
それに迎撃戦で活躍すれば、冒険者協会や国からそれなりの報酬が貰える。
俺にはエレメンタル達がついているし、これはチャンスだ。
スタンピードには、結構レアなモンスターも多数出現する。
それこそ、ダンジョンの最深部にしか出現しないモンスターもである。
「やっぱり行くか……」
俺の決意は固まった。
後は現場に急行してモンスターを殲滅するだけだ。
課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』を使い、転移門『ユグドラシル』経由で国境近くまで転移すると、アイテムストレージから現実世界で愛用していたスクーターを取り出し、現場に急行する。
「お、おい。こんな時にどこに行く気だっ! 外に出たら死んじまうぞっ!」
途中、門を抜ける時、兵士に声をかけられる。
「大丈夫、大丈夫! 俺、Sランク冒険者だから」
「え、Sランク冒険者? だったら、集合場所が……」
「わかってる。わかってる!」
緊急クエストは、基本的に現地集合、現地殲滅が基本だ。
そう言って門を抜けると、大小様々なモンスターの軍勢が土煙を上げながらこちらに近付いてくるのが見える。
「おいおい、どうなってるの?」
門の外に冒険者がいない。
Aランク以上の冒険者は国境に向かったんじゃなかったの?
ゲームじゃいつも現地迎撃だったよね??
おかしいと思い、セントラル王国を護る城郭に視線を向けると、兵士達が門を閉じるのが見えた。今、門を閉めないと危険だと判断したのだろう。
城郭の上では、冒険者と兵士達は安全な所で武器を取りモンスターを迎撃しようと準備を進めている。
「……マ、マジでか」
あの兵士が言っていたのは、そういうことか。
マルチイベントに参加するつもりで最前線にやってきたが、集まる場所を間違えたらしい。
考えてみれば、当たり前だ。
あんな津波のように押し寄せてくる大量のモンスターを現地で捌けるわけがない。
危険極まりないし、城郭の上から攻撃した方がまだ安全だ。
とはいえ、既に門は閉じられてしまっている。
スクーターを止め、アイテムストレージにしまうとため息を吐いた。
生き残る為には戦わなければならないが、ヤバくなったらログアウトすればいい。
矛盾した覚悟を決めると、俺はエレメンタルに熱い視線を向ける。
「よし。頼んだぞ。エレメンタル。君達だけが頼りだ。俺もできる限りのサポートはさせて貰う。存分にやってくれ!」
そう言うと、エレメンタル達が色とりどりに光りはじめる。
しかし、あれだけのモンスターを相手にエレメンタル四体と俺一人じゃ厳しいか?
チラリと国境に視線を向けると、こっちに向かって爆走してくるモンスター達の姿が見える。考えている時間はあまりなさそうだ。
何かないか、何かないかとアイテムストレージに有用なアイテムが入っていないか、焦りながらスクロールしていく。
すると、この状況を打破することができそうな有用なアイテムを見つけた。
「こ、これだっ!」
そのアイテム名は『エレメンタル進化チケット』。
エレメンタル進化チケットとは、その名の通りエレメンタルを進化させる為だけに存在する課金アイテム。エレメンタルのレベルを最大値まで成長させた場合にのみ使う事のできるアイテムで、このアイテム配信後、難易度の高さから一度も使われた事のない悲しき課金アイテムである。
メニューバーから『エレメンタル進化チケット』を選択すると、進化させたいエレメンタルを指定し『アイテムを使用する』をタップした。
すると、エレメンタルに変化が現れる。
空飛ぶ赤い玉こと、火の精霊サラマンダーの身体が炎を上げたかと思えば、その炎が鳥の姿を形取り火の上位精霊フェニックスへと姿を変える。
水の精霊ウンディーネに至っては、青い玉から水があふれ出し、溢れ出た水が巨大なタコを形取ったかと思えば水の上位精霊クラーケンへと姿を変えた。
「お、おっふっ……」
やべえ、これはやべえ奴だよ……。
エレメンタル進化チケットのエフェクトがとにかく派手だ。
なによりデカい。ここだけウルトラ怪獣大集合だよ!
しかし、エレメンタルの進化はまだまだ止まらない。
風の精霊シルフは緑の玉から雷を纏った煙を吹き出し、筋骨隆々なターバンを被った厳ついオッサンこと、風の上位精霊ジンに姿を変え、地の精霊ノームは土色の玉が急激に膨れ上がり巨大なカバこと地の上位精霊ベヒモスへと姿を変えた。
手のひらサイズの光の玉から巨大怪獣へ大変身である。
とんでもない進化を間近で見せつけられた俺は、ガックリとうな垂れた。
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