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第6話 高校生にカツアゲされました②
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「おいおい! 大人なのに情けねーなぁ! 高校生にカツアゲされて、警察に被害届だぁ? お前、恥ずかしくねーのかよ!」
「はあっ?」
何を言っているんだ。こいつ?
一億八千万円がかかっているんだぞ?
まあ、そのスクラッチくじはアイテムストレージに収納したが、それでも十一万一千三百円分の価値のあるスクラッチくじが手元にある。
それを奪われそうになっているのに恥ずかしくないのかだと?
全然恥ずかしくないね!
だってお前達がやってることは普通に犯罪行為だもの!
恐喝罪なんだよ。それは!
むしろ、高校生がいい大人をカツアゲして恥ずかしくないのかと問いたい。
人間の全盛期の力を持つのが高校生だぞ?
二十三歳の大人が筋骨隆々な高校生に勝てる訳ないだろっ!
酒ばかり飲んで、胃薬とカロリミットでカロリー調整している俺を舐めるなよ!
もうボロボロなんだよ!
ストレスと酒の飲み過ぎで胃痛がとんでもない事になっているんだよ!
それなのに、人生の転機が回ってきたと思えばカツアゲなんてふざけんなよ!
まあ、言わないけど……。
「俺は本気だ。それでもいいならかかってこい!」
そう言った瞬間、俺からスクラッチくじをカツアゲしようとしていた高校生達が笑い出す。
「はぁ! 情けねー野郎だ!」
「お前。それでも社会人かよ!」
「おい、おっさん! そのスクラッチくじを渡せば痛い目を見なくて済むぜ? 本当は怖いんだろ? さっさと、そのスクラッチくじを渡せよ!」
「俺達を誰だと思ってるんだ? ああっ!」
「今置かれている立場がわかっているのかよ。ボケが! いいから、そのスクラッチくじを渡せ!」
みんな俺のスクラッチくじに夢中のようだ。
しかし、こいつらわかっているのか?
こちとら、失う物はなにもない二十三歳無職だぞ?
いや、あったわ。失うと怖い物。
DWのセーブデータ。あと住んでる家。
いまあれを失ったら発狂できる気がする。
いや、そんな話じゃなくて。
「……お前達、これからの人生の事を何も考えていないのか?」
たった、十数万円の価値のあるスクラッチくじをカツアゲする為に人生を賭けるとか、カイジ並のヤバさだぞ?
お前達の人生それでいいのか??
俺はやると言ったら本当に実行するぞ?
「はぁ? 今お前、なんつった?」
「俺達の事を馬鹿にしているの?」
「舐められたものだね。無職にそんな事をいわれたくねーんだよ!」
「な、なにっ!?」
何故、無職だとわかったんだ。
何気に今の言葉が一番心にグサリときた。
「よけーなお世話だわっ! っていうか、そこで見ている警備員さん! 善良な一市民が高校生にカツアゲされそうになっていますよ! 見てみぬ振りをする気ですか!」
イオンの駐輪場に常駐している警備員に魂の叫びをぶつけると、警備員はそっと視線を逸らした。
「おいおい、高校生相手にいい大人が警備員に助けを求めるとか、笑える」
「高校生が怖いのかよ。オラッ!」
「いい大人がだらしねーなぁ!」
「ほら、痛い目を見たくなければ、さっさとそのスクラッチを渡しな!」
「そうしたら、その金でうまい棒一本買ってやるからよぉ!」
どうやらこいつ等、人生を棒に振りたいらしい。
俺が本気で警察に被害届を出さないとでも思っているのだろうか?
俺はやるよ?
何せ失う物はなにもない。
未来のあるお前等と違ってなぁ!
「ちっ……ガキ共が、犯罪を冒してまでスクラッチくじを俺から強奪したいならかかってこいやっ! 全力で抵抗してやる! これは正当防衛だっ! ついでにお前等の顔は覚えたからなっ! 絶対に訴えてやるっ!」
「「「上等だっ! こらぁぁぁぁ!」」」
その言葉が切っ掛けとなり、スクラッチくじを巡る動乱が幕を開けた。
「ぐ、ぐうっ……無念……」
まあ、一瞬で終わったけど……。
くそっ! 自転車の空気入れを武器に使うなんて酷いぞ!
つーか、高校生五人を相手に勝てる訳ねーだろっ!
こちとら社会人になってから睡眠時間と食費を削りギリギリの生活を送ってきたんだぞ!
親の扶養に入っている高校生と一緒にするなコラッ!
「こいつは貰っていくぜ。おっさん!」
「ありがとよっ! おっさん!」
「おっさん! 次会ったらうまい棒一本おごってやるよ!」
「この財布も貰っていくぜ。おっさん!」
「強く生きろよ! おっさん!」
「ぐっ、おっさんじゃない。俺はまだ二十三歳のお兄さんだ……」
歌のお兄さんなんて四十代になってもお兄さんだぞ?
それに比べたら、俺もお兄さんと呼ばれてもいいはずだ。
スクラッチくじと財布を奪われ、ボロボロにされながらも粋がる俺。
しかし、高校生にボコられ動く事ができない。
高校生にボコられ、ボロボロの姿となった俺に、警備員のおっさんが声をかけてくる。
「大丈夫かい。君? ああいう時は、周りに助けを求めた方がいいよ?」
お前に言われたくねーよ!
助けを求めただろうがよっ!
とはいえ、小心者な俺にそんな事をいう勇気はない。
「……そうですね。次からは気を付けます」
そう呟くと、そこら辺に置いてある木を杖代わりに立ち上がり、家と反対側にある病院に向かって歩き始めた。
そう。病院で診断書を貰う為だ。
実際に怪我をしていても、病院を受診して診断書を入手していない場合には、暴行罪で立件されるに留まってしまう可能性がある。
捜査機関が傷害事件として立件するためには、医師が「全治二週間の全身打撲」など、傷害の種類と程度の証拠になり得る診断書が必要だ。
病院で診察してもらい診断書を貰った俺はほくそ笑む。
「くくくっ……くくくくくっ……! 計画通り……」
そう誰にも気付かれないようにほくそ笑みながら呟くと、アイテムストレージからスクラッチくじを取り出した。
「馬鹿め、これでお前達はお終いだ! それにお前達が俺から理不尽に奪い取ったスクラッチくじは十一万一千三百円のスクラッチくじなんだよっ! 一億八千万円のスクラッチくじは俺の物だっ!」
そういって、スクラッチくじに視線を向けると違和感に気付く。
「あ、あれっ?」
なんだかおかしいぞっ?
手に持っているスクラッチくじを凝視すると、一億八千万円のスクラッチくじの中にハートの絵柄が四つとそれ以外の絵柄が五つあるスクラッチくじが混じっていた。
「!???」
急いでスクラッチくじを確認すると、一枚三千万円の当選スクラッチくじが五枚しかない事に気付く。
その瞬間、俺は愕然とした表情を浮かべ絶叫を上げた。
「あの、クソガキィィィィ!」
この俺様から三千万円のスクラッチくじをカツアゲしやがった!
許せないっ!
俺は手に持った一枚三千万円の価値のあるスクラッチくじをアイテムストレージにしまうと、アイテムストレージから初級回復薬を取り出した。
「やっぱり……これはDWの初級回復薬」
初級回復薬をグイッと飲むと、身体の痛みが治まっていく。
何故かはわからないが、現実世界でもDWのアイテムが使用可能となったらしい。
となれば、やる事はただ一つ。
「あいつらから三千万円のスクラッチくじを取り戻してやる」
銀行で換金できる時間が過ぎていて本当によかった。
勝手に換金される可能性はない。これて気兼ねなくあいつらに復讐する事ができる。
「……あと、身分証も取り戻してやらないとなぁ!」
あの財布の中には、前職アメイジング・コーポレーション株式会社の身分証も入っていた。
ちなみに、運転免許証や保険証は家に置いてある。
家に置いてきて本当によかった。
すると、突然、スマホから『オープニング』の音が流れ出す。
スマホの画面を見てみると会社からのようだ。
嫌々ながら出て見ると、電話口に石田管理本部長が出た。
『あ~高橋君かね。石田だが。話を聞いたよ』
「えっ? 何の話をですか?」
カツアゲに遭った話をだろうか?
『いやね。君、高校生相手に暴力を振ったそうじゃないか。しかも、三千万円のスクラッチくじを高校生から奪おうとするなんてどうかしているよ。ちゃんと通報しておいたから罪を償うように。それと、君は懲戒解雇扱いにする事にしたから退職金は出ないからそのつもりで、それじゃあね。――プッ、ツーツーツー』
「えっ、ちょっと待って下さい! 石田管理本部長! 管理本部長!?」
スマホの通話が切れると俺は力なくうな垂れた。そして、スマホを壊れない程度に力一杯握ると怒りを込めて呟く。
「よろしい、ならば戦争だ……」
これはもうアレだ。
宣戦布告だ。相手が高校生とはいえ、絶対に許せない。
戦争を……。
一心不乱な大戦争を起こしてやる!
怒り心頭なまま家に戻るも、まだ警察は到着していないようだった。
あの自分の管理も碌にできない管理本部長が警察に通報したと言ったからには絶対に警察がこの家に事情聴取にやってくる。
それまでに下準備を整えなければならない。
ヘッドギアをパソコンに繋げると、内蔵されていた動画データを編集し、様々なSNSで配信した。
そして、アイテムストレージからモブ・フェンリルスーツを取り出すと、動作確認をした後、それをアイテムストレージにしまう。
何故かはわからないが、本当にアイテムストレージが使えるようになっているみたいだ。
しかも、DW内のアイテムや装備まで使える。これで、俺の勝利は確定した。
「ああ、忘れてた」
俺から三千万円のスクラッチくじをカツアゲした高校生の戯言を間に受け、俺を懲戒解雇し、退職金すら支払わないと電話してきた石田管理本部長にも、誰を敵に回したか思い知らせてやらないといけない。
入社してから退社するまでの五年間、毎月、PDFにして保存していたタイムカードと雇用条件の書かれた書類、そして、未払残業代を集計したEXCELデータを印刷すると、アイテムストレージにしまっていく。
「これで準備は整った。後は警察が来るのを待つだけか」
くくくっ、俺から三千万円のスクラッチくじを奪い去った盗っ人め!
まだ高校生で未成年だから許されると思ったら大間違いだ!
俺は未成年にも容赦しない。
未成年だからといって侮らないし、差別も区別もしない。
大人だから子供だからなんてことは関係なく平等に叩き潰してやるよ。
ピンポーン。
心の中で声を上げると、家のチャイムの音が鳴った。
どうやら警察が事情聴取に来たらしい。
内心、俺はほくそ笑む。
これで準備が整った。
「はーい。今、行きますね」
俺は敢えて服を着替えず、高校生達の暴行によりボロボロの姿となった服のまま、玄関の扉を開けた。
思えばケガを治してしまったのは失敗だったかもしれない。
いや、血糊や汚れは落としていないから、このままでもいいか。
いいか。俺から三千万円のスクラッチくじを奪った盗っ人共、これから、お前達に地獄を味合わせてやる。
安らかに眠れるのは今日が最後だと思いやがれ!
今日の所は、俺からカツアゲした三千万円のスクラッチくじを枕元に置き、明日換金するのを楽しみに夢を見ることだけは許してやる!
「はあっ?」
何を言っているんだ。こいつ?
一億八千万円がかかっているんだぞ?
まあ、そのスクラッチくじはアイテムストレージに収納したが、それでも十一万一千三百円分の価値のあるスクラッチくじが手元にある。
それを奪われそうになっているのに恥ずかしくないのかだと?
全然恥ずかしくないね!
だってお前達がやってることは普通に犯罪行為だもの!
恐喝罪なんだよ。それは!
むしろ、高校生がいい大人をカツアゲして恥ずかしくないのかと問いたい。
人間の全盛期の力を持つのが高校生だぞ?
二十三歳の大人が筋骨隆々な高校生に勝てる訳ないだろっ!
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もうボロボロなんだよ!
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そう言った瞬間、俺からスクラッチくじをカツアゲしようとしていた高校生達が笑い出す。
「はぁ! 情けねー野郎だ!」
「お前。それでも社会人かよ!」
「おい、おっさん! そのスクラッチくじを渡せば痛い目を見なくて済むぜ? 本当は怖いんだろ? さっさと、そのスクラッチくじを渡せよ!」
「俺達を誰だと思ってるんだ? ああっ!」
「今置かれている立場がわかっているのかよ。ボケが! いいから、そのスクラッチくじを渡せ!」
みんな俺のスクラッチくじに夢中のようだ。
しかし、こいつらわかっているのか?
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いや、あったわ。失うと怖い物。
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いまあれを失ったら発狂できる気がする。
いや、そんな話じゃなくて。
「……お前達、これからの人生の事を何も考えていないのか?」
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お前達の人生それでいいのか??
俺はやると言ったら本当に実行するぞ?
「はぁ? 今お前、なんつった?」
「俺達の事を馬鹿にしているの?」
「舐められたものだね。無職にそんな事をいわれたくねーんだよ!」
「な、なにっ!?」
何故、無職だとわかったんだ。
何気に今の言葉が一番心にグサリときた。
「よけーなお世話だわっ! っていうか、そこで見ている警備員さん! 善良な一市民が高校生にカツアゲされそうになっていますよ! 見てみぬ振りをする気ですか!」
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「おいおい、高校生相手にいい大人が警備員に助けを求めるとか、笑える」
「高校生が怖いのかよ。オラッ!」
「いい大人がだらしねーなぁ!」
「ほら、痛い目を見たくなければ、さっさとそのスクラッチを渡しな!」
「そうしたら、その金でうまい棒一本買ってやるからよぉ!」
どうやらこいつ等、人生を棒に振りたいらしい。
俺が本気で警察に被害届を出さないとでも思っているのだろうか?
俺はやるよ?
何せ失う物はなにもない。
未来のあるお前等と違ってなぁ!
「ちっ……ガキ共が、犯罪を冒してまでスクラッチくじを俺から強奪したいならかかってこいやっ! 全力で抵抗してやる! これは正当防衛だっ! ついでにお前等の顔は覚えたからなっ! 絶対に訴えてやるっ!」
「「「上等だっ! こらぁぁぁぁ!」」」
その言葉が切っ掛けとなり、スクラッチくじを巡る動乱が幕を開けた。
「ぐ、ぐうっ……無念……」
まあ、一瞬で終わったけど……。
くそっ! 自転車の空気入れを武器に使うなんて酷いぞ!
つーか、高校生五人を相手に勝てる訳ねーだろっ!
こちとら社会人になってから睡眠時間と食費を削りギリギリの生活を送ってきたんだぞ!
親の扶養に入っている高校生と一緒にするなコラッ!
「こいつは貰っていくぜ。おっさん!」
「ありがとよっ! おっさん!」
「おっさん! 次会ったらうまい棒一本おごってやるよ!」
「この財布も貰っていくぜ。おっさん!」
「強く生きろよ! おっさん!」
「ぐっ、おっさんじゃない。俺はまだ二十三歳のお兄さんだ……」
歌のお兄さんなんて四十代になってもお兄さんだぞ?
それに比べたら、俺もお兄さんと呼ばれてもいいはずだ。
スクラッチくじと財布を奪われ、ボロボロにされながらも粋がる俺。
しかし、高校生にボコられ動く事ができない。
高校生にボコられ、ボロボロの姿となった俺に、警備員のおっさんが声をかけてくる。
「大丈夫かい。君? ああいう時は、周りに助けを求めた方がいいよ?」
お前に言われたくねーよ!
助けを求めただろうがよっ!
とはいえ、小心者な俺にそんな事をいう勇気はない。
「……そうですね。次からは気を付けます」
そう呟くと、そこら辺に置いてある木を杖代わりに立ち上がり、家と反対側にある病院に向かって歩き始めた。
そう。病院で診断書を貰う為だ。
実際に怪我をしていても、病院を受診して診断書を入手していない場合には、暴行罪で立件されるに留まってしまう可能性がある。
捜査機関が傷害事件として立件するためには、医師が「全治二週間の全身打撲」など、傷害の種類と程度の証拠になり得る診断書が必要だ。
病院で診察してもらい診断書を貰った俺はほくそ笑む。
「くくくっ……くくくくくっ……! 計画通り……」
そう誰にも気付かれないようにほくそ笑みながら呟くと、アイテムストレージからスクラッチくじを取り出した。
「馬鹿め、これでお前達はお終いだ! それにお前達が俺から理不尽に奪い取ったスクラッチくじは十一万一千三百円のスクラッチくじなんだよっ! 一億八千万円のスクラッチくじは俺の物だっ!」
そういって、スクラッチくじに視線を向けると違和感に気付く。
「あ、あれっ?」
なんだかおかしいぞっ?
手に持っているスクラッチくじを凝視すると、一億八千万円のスクラッチくじの中にハートの絵柄が四つとそれ以外の絵柄が五つあるスクラッチくじが混じっていた。
「!???」
急いでスクラッチくじを確認すると、一枚三千万円の当選スクラッチくじが五枚しかない事に気付く。
その瞬間、俺は愕然とした表情を浮かべ絶叫を上げた。
「あの、クソガキィィィィ!」
この俺様から三千万円のスクラッチくじをカツアゲしやがった!
許せないっ!
俺は手に持った一枚三千万円の価値のあるスクラッチくじをアイテムストレージにしまうと、アイテムストレージから初級回復薬を取り出した。
「やっぱり……これはDWの初級回復薬」
初級回復薬をグイッと飲むと、身体の痛みが治まっていく。
何故かはわからないが、現実世界でもDWのアイテムが使用可能となったらしい。
となれば、やる事はただ一つ。
「あいつらから三千万円のスクラッチくじを取り戻してやる」
銀行で換金できる時間が過ぎていて本当によかった。
勝手に換金される可能性はない。これて気兼ねなくあいつらに復讐する事ができる。
「……あと、身分証も取り戻してやらないとなぁ!」
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ちなみに、運転免許証や保険証は家に置いてある。
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そして、アイテムストレージからモブ・フェンリルスーツを取り出すと、動作確認をした後、それをアイテムストレージにしまう。
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しかも、DW内のアイテムや装備まで使える。これで、俺の勝利は確定した。
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入社してから退社するまでの五年間、毎月、PDFにして保存していたタイムカードと雇用条件の書かれた書類、そして、未払残業代を集計したEXCELデータを印刷すると、アイテムストレージにしまっていく。
「これで準備は整った。後は警察が来るのを待つだけか」
くくくっ、俺から三千万円のスクラッチくじを奪い去った盗っ人め!
まだ高校生で未成年だから許されると思ったら大間違いだ!
俺は未成年にも容赦しない。
未成年だからといって侮らないし、差別も区別もしない。
大人だから子供だからなんてことは関係なく平等に叩き潰してやるよ。
ピンポーン。
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どうやら警察が事情聴取に来たらしい。
内心、俺はほくそ笑む。
これで準備が整った。
「はーい。今、行きますね」
俺は敢えて服を着替えず、高校生達の暴行によりボロボロの姿となった服のまま、玄関の扉を開けた。
思えばケガを治してしまったのは失敗だったかもしれない。
いや、血糊や汚れは落としていないから、このままでもいいか。
いいか。俺から三千万円のスクラッチくじを奪った盗っ人共、これから、お前達に地獄を味合わせてやる。
安らかに眠れるのは今日が最後だと思いやがれ!
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