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第5話 高校生にカツアゲされました①
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俺が向かったパチンコホール、それは『楽園』だ。
別に苦しみがなく、楽しさに満ち溢れた場所を指す言葉ではない。
独創的で新鮮な最高な遊び場を提供するパチンコホール。それが楽園である。
そんなパチンコホール『楽園』では、楽園のマスコットキャラクター『ヤバイラー』が降臨する日がある。
ハバネロを模した幸運を運んでくれる天使『ヤバイラー』が降臨する日。
パチンコホールでは皆が絶叫の雄叫びを上げていた。
「ぎゃぁぁぁぁ! 俺の今月の生活費がぁぁぁぁ!」
ヤバイラー降臨の日、運のない輩が投じたパチンコ球が釘穴に飲まれていく。
明日からもやし生活確定の男が項垂れた。
「ま、まだだ! まだ終わらんよ! マリンちゃんが『ラッキー!』と微笑んでくれるまで何万円でも投じてみせる!」
隣では三万円分のパチンコ玉を台に回収された男がそう叫ぶ。
可哀想に……ヤバイラー降臨の日であったとしても、運のないパチプレイヤーはいるものだ。
かくいう俺と言えば……。
『ざ~ん~こ~くな、天使のように○年よ神話になれ~♪』
僅か千円を投入し、真ん中の穴にパチンコ玉一個が入った瞬間、確変を引いた。
高橋○子の十一枚目のシングル曲のように、確かに現実は残酷だった。
隣で三万円を散財した人からして見れば……。
背後でそれを見ている浮浪者達が羨ましそうな表情を浮かべながら、残酷な天使のテーゼを口遊んでいる。
浮浪者が歌詞を口遊む中、決戦モードに突入し、大当たりを引いた俺も無心で、残酷な天使のテーゼを口遊んでいた。
アタッカーに球が入る度に、パチンコ玉が排出されていく。
今日の俺なら神話になれそうだ。
俺の席の後ろに積み上がっていくドル箱がそれを物語っている。
しかし、今日は運がいいな。
最近のパチンコは渋いイメージがあったけど、どうやら気のせいだったようだ。
「あっ、カヲル君だ……」
まだまだ確変は続きそうだ。
それから数時間、パチンコホール『楽園』に入り浸った俺は出玉を換金すると帰路についた。
今日の楽園。凄かったな。
流石、ヤバイラーが降臨するゾロ目の日だけある。
手元には一ヶ月分の月給並みの札束があった。
徒歩で帰路についていると、大型ショッピングモール『イオン』が見えてくる。
「そういえば、イオンの近くに宝くじ売り場があったな……今日の俺はついているみたいだし、宝くじでも買ってみるか」
宝くじ売り場に立ち寄った俺は無言で、一枚三百円のスクラッチくじを十枚購入することにした。
「あ、すいません。このスクラッチくじを十枚下さい」
「はい。こちらのスクラッチくじですね。十枚で三千円になります」
「それじゃあ、これでお願いします」
そう言うと財布から三千円を取り出し、スクラッチくじと引き換えに店員さんに渡す。
「三千円ちょうどですね。お客様に幸運が訪れますように」
「ありがとうございます」
スクラッチくじを受け取った俺は、財布から五十円玉を取り出すと、スクラッチくじを削っていく。
何故、五十円玉で削るのか、それは五十倍の縁を求めての験担ぎだ。
一等は同じ絵柄が九個で貰える三千万円。
二等は同じ絵柄が八個で貰える百万円。
三等は同じ絵柄が七個で貰える十万円。
四等は同じ絵柄が六個で貰える一万円。
五等は同じ絵柄が五個で貰える一千円。
六等は同じ絵柄が四個で貰える三百円。
同じ絵柄が三個以下はハズレくじだ。
当然狙うは一等の三千万円だ。
このスクラッチくじは、同じ絵柄が四個以上出れば、当選となる。
早速、一枚目のスクラッチくじを削っていくと、ハートの絵柄が四つとそれ以外の絵柄が五つ出た。
これは六等の三百円。
十枚買えば必ず一枚は入っているみずほ銀行の良心である。
さて二枚目に突入するか……。
スクラッチくじを削るこのドキドキ感が堪らない。
五十円玉でスクラッチくじを削ると、今度はスペードの絵柄が五つとそれ以外の絵柄が四つ。
「おお……」
一千円獲得だ。これは幸先がいい。
このスクラッチくじを選んでくれたおばちゃん。ありがとう。
「よし、それじゃあ、三枚目いってみるか……」
もしかしたら三千万円当たるかもしれないしね。
五十円玉でスクラッチくじを削ると、今度はスペードの絵柄が六つとそれ以外の絵柄が三つ出た。
「い、一万円だとっ!?」
いままで宝くじを購入してきた中の最高当選額は三千円だ。ゆうにその金額を超えてきた。
一万円の価値のあるスクラッチくじを震える手で持つと、そっとテーブルに置いた。
いかんいかん。
一万円なんて当選したの初めてだったから、つい動揺してしまった。
「よ、よし。次行ってみよう」
そう言ってスクラッチくじを削ると、今度はクローバーの絵柄が七つ出た。
と、当選金額十万円だとっ!?
動揺のあまり、宝くじ売り場にいるおばちゃんを凝視する。
なんだか、おばちゃんが神に見えてきた。
ありがとう。おばちゃん。
あなたのゴッドハンドのお陰で、一ヶ月分の生活費を手に入れる事ができました。
しかし、ついてるな。俺!
まさかこの中に三千万円のスクラッチくじが入っているなんて事はないよね?
恐る恐る残りのスクラッチくじを削ると、俺は絶句した。
ダイヤの絵柄が九つ……。
しかも、それが六枚も……。
「えーっと、三千万×六ってなんだっけ?」
一千八百万?
いやいや、違うな。動揺しすぎて、簡単な計算ができなくなっている気がする。
落ち着け……落ち着け俺。
三千万×六は一億八千万だ。
円間算で一億八千万円。
一億八千万円か。凄いな!
一生働かなくても生活できそうだ。
宝くじ売り場のおばちゃんが七福神に見えてきた。
俺が手を合わせ拝んでいると、おばちゃんが頭のおかしい人を見るかのような視線を向けてくる。
いかんいかん。
おばちゃんが引いている。
それにしても、今日は凄いな!
なんだ今日!?
会社をクビになって数時間で億万長者だよ!
あー、俺をクビにしてくれた石田管理本部長の頬をこのスクラッチくじで叩いて上げたい。
一億八千万円の価値のあるスクラッチくじだ。さぞかし、叩き甲斐があるだろう。
「おばちゃん! このスクラッチくじを換金してくれ!」
とりあえず、三千万円を引き替えようと、おばちゃんに話しかけると、おばちゃんが驚いたかのような表情を浮かべた。
「おやまあ、一等が当たったのかい!? 凄いねぇ。でも、ごめんね。高額当選の場合、銀行じゃないと換金できないんだよ」
「ええっ!? そうなんですか!?」
チラリと時計を見るとゆうに午後三時を過ぎていた。今日、換金したかったけど仕方がない。
明日にするか!
「そうですか……残念ですが明日にします」
「ええ、当選おめでとう。また来てね」
「はい!」
スクラッチくじを手に持ち、ウキウキ気分で歩き出すと、人にぶつかった。
「あっ、すいませ……ん?」
目の前に視線を向けると、そこには五人の高校生がガムをくちゃくちゃ食べながら睨む姿が見えた。
「おい。おっさん。人にぶつかっておいて、すいませんの一言で終わらせる気か? ああん?」
「ヨッちゃんの言う通りだぜ。人にぶつかってそりゃあねーよ。慰謝料として三百三十円寄越しな。それで、うまい棒三十本買うんだ」
えっ?
三百三十円でいいの?
カツアゲするにしては理由がなんか可愛いな。一億八千万円のスクラッチくじを持つ俺からすれば端金だ。
三百三十円で許してくれるなら、ここは大人しく支払っておこう。
ウキウキ気分で前を見ず歩き出した俺にも責任の一端はあるしね。
カツアゲはやり過ぎだけど、三百三十円位であれば、許容範囲内だ。
いや、ここは大人の余裕を見せつける為、五百円玉を渡してやろう。
財布から五百円玉を取り出すと、高校生達にそっと手渡した。
「おいおい。いい大人がカツアゲされて情けなくねーのかよ?」
「ヨッちゃんの言う通りだぜ! 情けない奴だなぁ。よし、この金でうまい棒でも買いに行こうぜ!」
散々な言われようだが、今は我慢する。
アルバイト以外に社会人経験をした事のない奴になにを言われようが俺の心には響かない。
なんなら、お前達が一生涯かけても貯める事のできないお金を今、手にしているのだから。
まあ、まだ換金してないけどね。
ふっ、五百円玉位くれてやる。
精々、お前達は一本十一円のうまい棒でもしゃぶってな。
お前達が美味そうにうまい棒食べている時、俺は家で出前館で頼んだデリバリー料理に舌鼓をうってるだろうさ。
「それじゃあ、俺はこれで……」
そう呟きながら、この場から逃げ去ろうとすると、高校生の一人が俺の右手に視線を向けている事に気付いた。
「ちょっと待てよ。おっさん。その手に持っている物はなんだ?」
「……勘のいいガキは嫌いだよ」
今、言うべきではない言葉がつい口から出てくる。
「ああっ? なんか言ったかおっさん。その手に持ってる物を寄越せよ。俺様が貰ってやる」
こいつ、俺のスクラッチくじに気付きやがった。
リアルで『オレでなきゃ見逃しちゃうね』みたいな真似しやがって……。
どうにかこれを隠さなきゃ……。
俺が背後に一歩後退ると、高校生が二歩詰めてくる。
クソっ! こんな時、ゲームのアイテムストレージがあればいいのに……。
絶体絶命のピンチにそんな事を考えていると、視界の端に妙な違和感を感じた。
視線を向けると、そこにはメニューバーが表示されている。
ど、どういうこと!?
突然の状況に驚くも、これはチャンスだ。
なんでメニューバーが表示されているのか分からないが、この機会を生かして見せる!
DW内でアイテムをアイテムストレージに入れるような感覚で、一億八千万円分のスクラッチくじをしまうと、高校生達の動きが止まる。
「おい。今何をした? スクラッチくじをどこにやったんだよ?」
「スクラッチくじ? 何を言ってるんだお前?」
「ああっ? お前ら見てなかったのか? あいつ、高額当選のスクラッチくじを持ってる。さっき少しだけ見えたんだ。大事そうに握りしめていたし、まず間違いない」
高額当選。その言葉に高校生達が色めき立つ。
「へえ、それで幾らだ?」
「スクラッチくじだし、一万……いや、大事そうに握っているから十万は堅いかも……」
へっ?
もしかして、スクラッチくじがどういうものか迄は見られていなかった?
しまった。これなら、一億八千万円分以外のスクラッチくじだけは残しておくべきだった。
俺にカツアゲを仕掛ける高校生達に見えないように、アイテムストレージから手元にスクラッチくじを取り出すと、両手を上げた。
「お前達、本当に俺から高額当選くじをカツアゲする気か!? もしそんな事をすれば、俺は高額当選くじをカツアゲされたと、警察に被害届を出すぞ! それでもいいのか!?」
俺が負け犬っぽい事を言うと、俺をカツアゲしようとしている高校生達が笑い出す。
別に苦しみがなく、楽しさに満ち溢れた場所を指す言葉ではない。
独創的で新鮮な最高な遊び場を提供するパチンコホール。それが楽園である。
そんなパチンコホール『楽園』では、楽園のマスコットキャラクター『ヤバイラー』が降臨する日がある。
ハバネロを模した幸運を運んでくれる天使『ヤバイラー』が降臨する日。
パチンコホールでは皆が絶叫の雄叫びを上げていた。
「ぎゃぁぁぁぁ! 俺の今月の生活費がぁぁぁぁ!」
ヤバイラー降臨の日、運のない輩が投じたパチンコ球が釘穴に飲まれていく。
明日からもやし生活確定の男が項垂れた。
「ま、まだだ! まだ終わらんよ! マリンちゃんが『ラッキー!』と微笑んでくれるまで何万円でも投じてみせる!」
隣では三万円分のパチンコ玉を台に回収された男がそう叫ぶ。
可哀想に……ヤバイラー降臨の日であったとしても、運のないパチプレイヤーはいるものだ。
かくいう俺と言えば……。
『ざ~ん~こ~くな、天使のように○年よ神話になれ~♪』
僅か千円を投入し、真ん中の穴にパチンコ玉一個が入った瞬間、確変を引いた。
高橋○子の十一枚目のシングル曲のように、確かに現実は残酷だった。
隣で三万円を散財した人からして見れば……。
背後でそれを見ている浮浪者達が羨ましそうな表情を浮かべながら、残酷な天使のテーゼを口遊んでいる。
浮浪者が歌詞を口遊む中、決戦モードに突入し、大当たりを引いた俺も無心で、残酷な天使のテーゼを口遊んでいた。
アタッカーに球が入る度に、パチンコ玉が排出されていく。
今日の俺なら神話になれそうだ。
俺の席の後ろに積み上がっていくドル箱がそれを物語っている。
しかし、今日は運がいいな。
最近のパチンコは渋いイメージがあったけど、どうやら気のせいだったようだ。
「あっ、カヲル君だ……」
まだまだ確変は続きそうだ。
それから数時間、パチンコホール『楽園』に入り浸った俺は出玉を換金すると帰路についた。
今日の楽園。凄かったな。
流石、ヤバイラーが降臨するゾロ目の日だけある。
手元には一ヶ月分の月給並みの札束があった。
徒歩で帰路についていると、大型ショッピングモール『イオン』が見えてくる。
「そういえば、イオンの近くに宝くじ売り場があったな……今日の俺はついているみたいだし、宝くじでも買ってみるか」
宝くじ売り場に立ち寄った俺は無言で、一枚三百円のスクラッチくじを十枚購入することにした。
「あ、すいません。このスクラッチくじを十枚下さい」
「はい。こちらのスクラッチくじですね。十枚で三千円になります」
「それじゃあ、これでお願いします」
そう言うと財布から三千円を取り出し、スクラッチくじと引き換えに店員さんに渡す。
「三千円ちょうどですね。お客様に幸運が訪れますように」
「ありがとうございます」
スクラッチくじを受け取った俺は、財布から五十円玉を取り出すと、スクラッチくじを削っていく。
何故、五十円玉で削るのか、それは五十倍の縁を求めての験担ぎだ。
一等は同じ絵柄が九個で貰える三千万円。
二等は同じ絵柄が八個で貰える百万円。
三等は同じ絵柄が七個で貰える十万円。
四等は同じ絵柄が六個で貰える一万円。
五等は同じ絵柄が五個で貰える一千円。
六等は同じ絵柄が四個で貰える三百円。
同じ絵柄が三個以下はハズレくじだ。
当然狙うは一等の三千万円だ。
このスクラッチくじは、同じ絵柄が四個以上出れば、当選となる。
早速、一枚目のスクラッチくじを削っていくと、ハートの絵柄が四つとそれ以外の絵柄が五つ出た。
これは六等の三百円。
十枚買えば必ず一枚は入っているみずほ銀行の良心である。
さて二枚目に突入するか……。
スクラッチくじを削るこのドキドキ感が堪らない。
五十円玉でスクラッチくじを削ると、今度はスペードの絵柄が五つとそれ以外の絵柄が四つ。
「おお……」
一千円獲得だ。これは幸先がいい。
このスクラッチくじを選んでくれたおばちゃん。ありがとう。
「よし、それじゃあ、三枚目いってみるか……」
もしかしたら三千万円当たるかもしれないしね。
五十円玉でスクラッチくじを削ると、今度はスペードの絵柄が六つとそれ以外の絵柄が三つ出た。
「い、一万円だとっ!?」
いままで宝くじを購入してきた中の最高当選額は三千円だ。ゆうにその金額を超えてきた。
一万円の価値のあるスクラッチくじを震える手で持つと、そっとテーブルに置いた。
いかんいかん。
一万円なんて当選したの初めてだったから、つい動揺してしまった。
「よ、よし。次行ってみよう」
そう言ってスクラッチくじを削ると、今度はクローバーの絵柄が七つ出た。
と、当選金額十万円だとっ!?
動揺のあまり、宝くじ売り場にいるおばちゃんを凝視する。
なんだか、おばちゃんが神に見えてきた。
ありがとう。おばちゃん。
あなたのゴッドハンドのお陰で、一ヶ月分の生活費を手に入れる事ができました。
しかし、ついてるな。俺!
まさかこの中に三千万円のスクラッチくじが入っているなんて事はないよね?
恐る恐る残りのスクラッチくじを削ると、俺は絶句した。
ダイヤの絵柄が九つ……。
しかも、それが六枚も……。
「えーっと、三千万×六ってなんだっけ?」
一千八百万?
いやいや、違うな。動揺しすぎて、簡単な計算ができなくなっている気がする。
落ち着け……落ち着け俺。
三千万×六は一億八千万だ。
円間算で一億八千万円。
一億八千万円か。凄いな!
一生働かなくても生活できそうだ。
宝くじ売り場のおばちゃんが七福神に見えてきた。
俺が手を合わせ拝んでいると、おばちゃんが頭のおかしい人を見るかのような視線を向けてくる。
いかんいかん。
おばちゃんが引いている。
それにしても、今日は凄いな!
なんだ今日!?
会社をクビになって数時間で億万長者だよ!
あー、俺をクビにしてくれた石田管理本部長の頬をこのスクラッチくじで叩いて上げたい。
一億八千万円の価値のあるスクラッチくじだ。さぞかし、叩き甲斐があるだろう。
「おばちゃん! このスクラッチくじを換金してくれ!」
とりあえず、三千万円を引き替えようと、おばちゃんに話しかけると、おばちゃんが驚いたかのような表情を浮かべた。
「おやまあ、一等が当たったのかい!? 凄いねぇ。でも、ごめんね。高額当選の場合、銀行じゃないと換金できないんだよ」
「ええっ!? そうなんですか!?」
チラリと時計を見るとゆうに午後三時を過ぎていた。今日、換金したかったけど仕方がない。
明日にするか!
「そうですか……残念ですが明日にします」
「ええ、当選おめでとう。また来てね」
「はい!」
スクラッチくじを手に持ち、ウキウキ気分で歩き出すと、人にぶつかった。
「あっ、すいませ……ん?」
目の前に視線を向けると、そこには五人の高校生がガムをくちゃくちゃ食べながら睨む姿が見えた。
「おい。おっさん。人にぶつかっておいて、すいませんの一言で終わらせる気か? ああん?」
「ヨッちゃんの言う通りだぜ。人にぶつかってそりゃあねーよ。慰謝料として三百三十円寄越しな。それで、うまい棒三十本買うんだ」
えっ?
三百三十円でいいの?
カツアゲするにしては理由がなんか可愛いな。一億八千万円のスクラッチくじを持つ俺からすれば端金だ。
三百三十円で許してくれるなら、ここは大人しく支払っておこう。
ウキウキ気分で前を見ず歩き出した俺にも責任の一端はあるしね。
カツアゲはやり過ぎだけど、三百三十円位であれば、許容範囲内だ。
いや、ここは大人の余裕を見せつける為、五百円玉を渡してやろう。
財布から五百円玉を取り出すと、高校生達にそっと手渡した。
「おいおい。いい大人がカツアゲされて情けなくねーのかよ?」
「ヨッちゃんの言う通りだぜ! 情けない奴だなぁ。よし、この金でうまい棒でも買いに行こうぜ!」
散々な言われようだが、今は我慢する。
アルバイト以外に社会人経験をした事のない奴になにを言われようが俺の心には響かない。
なんなら、お前達が一生涯かけても貯める事のできないお金を今、手にしているのだから。
まあ、まだ換金してないけどね。
ふっ、五百円玉位くれてやる。
精々、お前達は一本十一円のうまい棒でもしゃぶってな。
お前達が美味そうにうまい棒食べている時、俺は家で出前館で頼んだデリバリー料理に舌鼓をうってるだろうさ。
「それじゃあ、俺はこれで……」
そう呟きながら、この場から逃げ去ろうとすると、高校生の一人が俺の右手に視線を向けている事に気付いた。
「ちょっと待てよ。おっさん。その手に持っている物はなんだ?」
「……勘のいいガキは嫌いだよ」
今、言うべきではない言葉がつい口から出てくる。
「ああっ? なんか言ったかおっさん。その手に持ってる物を寄越せよ。俺様が貰ってやる」
こいつ、俺のスクラッチくじに気付きやがった。
リアルで『オレでなきゃ見逃しちゃうね』みたいな真似しやがって……。
どうにかこれを隠さなきゃ……。
俺が背後に一歩後退ると、高校生が二歩詰めてくる。
クソっ! こんな時、ゲームのアイテムストレージがあればいいのに……。
絶体絶命のピンチにそんな事を考えていると、視界の端に妙な違和感を感じた。
視線を向けると、そこにはメニューバーが表示されている。
ど、どういうこと!?
突然の状況に驚くも、これはチャンスだ。
なんでメニューバーが表示されているのか分からないが、この機会を生かして見せる!
DW内でアイテムをアイテムストレージに入れるような感覚で、一億八千万円分のスクラッチくじをしまうと、高校生達の動きが止まる。
「おい。今何をした? スクラッチくじをどこにやったんだよ?」
「スクラッチくじ? 何を言ってるんだお前?」
「ああっ? お前ら見てなかったのか? あいつ、高額当選のスクラッチくじを持ってる。さっき少しだけ見えたんだ。大事そうに握りしめていたし、まず間違いない」
高額当選。その言葉に高校生達が色めき立つ。
「へえ、それで幾らだ?」
「スクラッチくじだし、一万……いや、大事そうに握っているから十万は堅いかも……」
へっ?
もしかして、スクラッチくじがどういうものか迄は見られていなかった?
しまった。これなら、一億八千万円分以外のスクラッチくじだけは残しておくべきだった。
俺にカツアゲを仕掛ける高校生達に見えないように、アイテムストレージから手元にスクラッチくじを取り出すと、両手を上げた。
「お前達、本当に俺から高額当選くじをカツアゲする気か!? もしそんな事をすれば、俺は高額当選くじをカツアゲされたと、警察に被害届を出すぞ! それでもいいのか!?」
俺が負け犬っぽい事を言うと、俺をカツアゲしようとしている高校生達が笑い出す。
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