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第4話 初級ダンジョン『スリーピングフォレスト』②

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「う~ん? どういうこと??」

 物は試しと、ハゲタカをモチーフにしたモンスター『ファングバルチャー』をモブ・フェンリルバズーカで倒してみた所、HPを失ったファングバルチャーは、その場にドロップアイテム『ファングバルチャーの羽』を落とし消えてしまった。

『ファングバルチャーの羽』は装飾品を生成する際に使う素材アイテムだ。
 地面に落ちた『ファングバルチャーの羽』をアイテムストレージにしまうと、困惑とした表情を浮かべる。

 先程、プレイヤーが倒したモブ・ウータンの死骸は消えることなく残されている。
 その一方、俺が倒したモブ・ウータンとファングバルチャーはドロップアイテムを残して消えてしまった。
 ハッキリ言って訳がわからない。

「まあ、考えていても仕方がないか……」

 俺はアイテムストレージから課金アイテム『レアドロップ倍率+500%』を取り出すと、森林探索を続けることに決めた。
 正直、悩んでいても仕方がない。
 それならば、森林探索を進めるべきだと判断したためだ。

 マップを表示しながら森林探索を進めていると、フォレストウルフが三体、こちらに向かっていることに気付く。
 それにしても……。

「フォレストウルフか……こいつ経験値は良いんだけど、アイテムをドロップしないんだよなぁ……」

 フォレストウルフとは、狼をモチーフにしたモンスターで、群れで行動するモンスターだ。ピンチになると遠吠えを上げ、近くにいるモンスターを呼び寄せる厄介なモンスターでもある。

 草陰に隠れると、照準を合わせモブ・フェンリルバズーカをぶっ放した。

「ギャッ!?」

 バズーカ砲に当たったフォレストウルフは、悲鳴を上げるとそのまま黒い塵が溶けるように消えていった。
 フォレストウルフは遠吠えされる前に倒すのが鉄則だ。
 俺は以前、フォレストウルフの集団に囲まれ、袋叩きにされた経験がある。
 あれは中々、凄かった。
 ゲームだと分っていても、集団に囲まれ袋叩きにされるのは怖い。

 その経験からこの手のモンスターは、見つけたら草陰に隠れ、一撃で葬るように決めている。
 もちろん、レベルがカンストしているからこそできることだ。

「それにしても、今日はなんだかモンスターがリアルに感じられるな……」

 まるで本物みたいだ。
 あちこちからファングバルチャーの鳴き声が聞こえてくるし、なんというか、森林フィールドがいつも以上にリアルに感じる。

 新しい機能が実装されたのかな?

「まあ、いいか……今日はプレイヤーも少ないようだし、さっさと森林探索を終えて街に戻るか」

 そう呟くと、俺は一人走り出した。
 森林ダンジョン『スリーピングフォレスト』。
 それはセントラル王国が誇る初級ダンジョンだ。

 レベルがカンストしているくせに、なんで初級ダンジョンに挑むのかと、そう思っている人もいるかもしれない。
 しかし、これには訳がある。
 森林ダンジョン『スリーピングフォレスト』のモンスターが回復アイテムという名のドロップアイテムを落とすからだ。

 基本的に、このゲームでは回復アイテムを入手する場所が限られている。
 まあなんだ。なんだか前にも説明したような気がしないでもないけど、回復薬はユグドラシルショップで購入することができないのだ。
 その為、回復アイテムが欲しい場合、プレイヤー運営の露店か、素材を集めて作って貰う必要がある。
 しかし、現実は厳しい。
 上級職の『錬金術師』を取ってる人なんて中々いないし、プレイヤー運営の露店は高い……。
 このDWはリアルマネートレード可能なため、露店では希少な回復アイテムの値段をガンガンつり上げてくる。

 ちなみにレートは、一コル当たり一円。
 DWのリアルマネートレードだけで生活をしているプレイヤーも多い。
 まあ、俺の場合、世間体を考え、アメイジング・コーポレーション株式会社に就職したけど、今、思えば失敗だった。

 DWをプレイする時間は削られるし、給料もそこそこで残業代も出ない。
 ストレスだけが溜まる職場だ。

 しかし、これから一年間(慎ましい生活を送っている限り)俺は自由だ!
 好きな時間に起きて、好きな時間にDWをプレイして、好きな時間にお酒を飲む。

 なんだか、それだけ聞けば自宅警備員のような生活だ。
 まあ、事実だから仕方がない。

 道中、オラウータンをモチーフにしたモンスター『モブ・ウータン』を倒し、『初級回復薬』をアイテムストレージに収めながら、ボスモンスターのいる三階層を目指していく。

 ――二階層。

 そこも当然のごとく森林だ。
 しかし、出てくるモンスターが違う。

 マップを頼りにフィールドを走ると、三体のモンスターが表示される。

「アル・マジローか。厄介なモンスターだな……」

 一般的には……。

『アル・マジロー』とは、アルマジロをモチーフにしたモンスターで、アルマジロのように身体を丸めて、転がりながら突進してくる厄介なモンスターだ。
 しかし、このアル・マジローには大きな弱点がある。

 茂みから姿を現すと、二体のアル・マジローは身体を丸め、転がりながら突進してきた。
 俺は壁側に背を向けると、アル・マジローの突進攻撃を見極めながら、ギリギリのタイミングで躱していく。
 すると、二体とも壁に激突し、横転して腹部を露出させた。

 すかさず俺は、モブ・フェンリルバズーカをぶっ放す。
 すると、アル・マジローはドロップアイテムの『中級回復薬』を残し、黒い塵が溶けるように消えていく。

 そう。このアル・マジローの弱点は横転する事で露わになる腹部である。
 基本的にアル・マジローの防御力は高く。レベルにもよるが、普通の攻撃では到底歯が立たない。

「さて、残り一体か……」

 そう呟くと、草を食むアル・マジローに向けてモブ・フェンリルバズーカをぶっ放した。

 ドカーンッ!

 そんな音が鳴ると共にモブ・フェンリル型の砲弾がアル・マジローに直撃する。
 砲弾が直撃したアル・マジローに視線を向けると、ドロップアイテムの『中級回復薬』を残し消えていく姿が目に映った。

 ――とまあ、圧倒的なパフォーマンスを誇る課金装備を使えば、アル・マジローが弱点を晒すのを待たなくても簡単に倒す事ができる。

 簡単に倒せるなら何故、今、そんな無駄な事をしたかって?
 そんなのは決まっている。

 ――ただの様式美だ。

 運営が考え、先人達が見つけたアル・マジローの洗練された倒し方。
 それをやる事に意味がある。

 まあ、面倒くさいから、今日はもうやらない可能性が高いけど……。

 ボスモンスターのいる三階層に向かう途中、マップが拾ったモンスターに片っ端から砲弾を撃ち込むと、次々とドロップする回復薬をアイテムストレージにしまい、ボスモンスターのいる場所へと向かう。

 ――二階層奥。

 そこには、ボスモンスターのいる場所へ赴くための魔法陣がある。
 魔法陣に乗り、乗った者の内、一人が魔法陣に魔力を流せば、森林ダンジョン『スリーピングフォレスト』のボスモンスターのいる階層に向かうことができる仕様となっている。

 本来、一度に四人まで一緒に向かう事のできる魔法陣に乗ると、俺一人で魔法陣を起動させた。

 なぜかって?
 平日に遊んでくれる友達がいないからだ。

 俺一人で魔法陣に乗り、ボスモンスターのいる階層へと転送されると、俺を見つけたボスモンスターが樹から伸身宙返りしながら目の前に立ち塞がった。

「はっ! いつもよりリアルだなっ!」

 なんだろう。なんだかいつもよりも、ボスモンスターのアクションがリアルに感じる。
 こうなんて言うか、岩を纏い熊をモチーフとしたボスモンスター『ロックベアー』が本物であるかのように!

「でも、こんな雑魚相手に負けやしねーよ!」

 いくらリアル仕様になったからといって所詮、初級ダンジョンのボスモンスター。
 怖がる方がどうかしている。

『ぐぉおおおおお!』と、威嚇するロックベアーに、モブ・フェンリルバズーカを向けると、顔に向けて一発お見舞いする。

『ぐぎゃぁぁぁぁ!』

 すると、ロックベアーは大きな悲鳴を上げてひっくり返った。

「おしっ! チャンス!」

 ロックベアーの行動パターンはすべて把握している
 一定ダメージを身に受ければ、ロックベアーはひっくり返る。
 その間に『モブ・フェンリルバズーカ』で攻撃すれば……。

 必死に上体を起こそうとするロックベアーにバズーカをお見舞いし、ドカーン! ドカーン! という音が鳴り響く。
 ロックベアーに向けて十数発撃った頃には、ドロップアイテムである『中級回復薬』を十五個とレアドロップ『上級回復薬』を落とした。

「おしっ!」

 なんだか今日は妙にリアルだったけど、お目当てのアイテムが手に入ったぜ!

 本当は、いつも一緒にDWをしている仲間と共にプレイしたかった。
 しかし、今、仲間は就業中。一般的な社畜は午後五時以降になるまで帰宅を許されない。
 俺みたいな自由人とは違うのだ。

 仕方がなく武器を収めると、突然、緑色のエフェクトが俺を覆った。

「うん? これはレベルアップのエフェクト? 一体どういう……まあいいか」

 俺のレベルはMAX。
 これ以上、レベルが上るはずもない。

 ロックベアーの落したレアドロップの回復アイテムをアイテムストレージにしまうと、街に戻ることにした。

 ボスモンスターを倒した後に現れる転移魔法陣に乗ると、転移門『ユグドラシル』に転送される。

「ふう。結構、回復アイテムが集まったな。そろそろ、あいつらもログインしてくる頃かな?」

 メニューバーを開きフレンドバーに視線を向ける。
 しかし、フレンドバーを見てみても、フレンドがログインしている形跡はなかった。

「まじかぁ~仕方がないなぁ~」

 あいつらがゲームにログインしてくるのは、仕事終わりの午後六時以降。
 それまで時間を潰すかと、街を徘徊しているとあることに気付く。

「あれ? ユグドラシルショップがない?」

 街の至る所にあったユグドラシルショップが消えていた。

「あれ? 場所が変わったのか?」

 そんな事、聞いていないけど……。

 まあ仕方がない。
 運営にも事情があるのだろう。

 仕方がなく、転移門『ユグドラシル』の前に行くと、DWをログアウトした。

「まだ、午後二時か……」

 不退転の覚悟で物資を買い漁った、誰もログインしていないのであれば仕方がない。

「パチンコに行くか……」

 俺は暇を潰すそれだけの為に、パチンコに向かった。
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