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第2話 フルダイブ型VRMMO『Different World』
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フルダイブ型VRMMO『Different World』通称:DW。
それは、なろうプロジェクトが開発した仮想大規模オンラインゲームにして、今、最も熱いフルダイブ型VRMMOだ。
『Different World』の世界観を一言で説明すれば、中世ナーロッパ。
ファンタジーで用いられる中世欧州風ではあるが似て非なる異世界を舞台とした、今までありそうで、なかった仮想大規模オンラインゲームである。
DWの世界は、北欧神話をモチーフに作成されている為か、九つの世界から成っており、現在、解放されているのは人間の世界ミズガルズのみ。
今後、大型アップデートがあり、他の世界が実装される度に、現在解放されている人間やエルフ、ドワーフ、獣人といった人種以外にも、妖精や巨人、モンスターといったアバターを利用することができるようになる。
スライムのアバターを使えば『プルプル。ボク、悪いスライムじゃないよ』プレイも可能になるということだ。
この世界では、プレイヤーキラー(PK)が可能な為、好んでそんな事はしないけど……。
間違ってモンスターとして討伐されてはたまらない。
ミズガルズでは、セントラル王国、リージョン帝国、ミズガルズ聖国という三つの国々がそれぞれに策謀を巡らせ睨みを効かせ合っており、プレイヤーは三つの国のどこかを拠点に、ゲームを進めていく。
DWを始めて五年。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁の日だ。
イベント情報の解禁は本日、正午から。DW内で行われる。
「今の時間は午前十一時五十分か……ハローワークに時間を取られ過ぎたな……」
DWにログインして最初に訪れる場所。
それは、転移門『ユグドラシル』。
この転移門を潜ることで、ダンジョンに潜ったり、九つの世界を巡ることができるとされている。
今は、実装前なのでミズガルズ以外の世界を巡ることはできない。
現在、この転移門『ユグドラシル』で行けるのは、セントラル王国、リージョン帝国、ミズガルズ聖国の三カ国と、その国の転移門を使うことで潜ることのできるダンジョンのみとなっている。
ちなみにこの転移門『ユグドラシル』には移動制限がかかっており、普通のプレイヤーがこの転移門を利用していく事ができるのは、ダンジョンのみとなっている。
つまり、国家間を移動する場合、徒歩や乗り物で移動する必要がある。
この転移門『ユグドラシル』を制限なしで利用する場合、『ムーブ・ユグドラシル』と呼ばれる課金アイテムが必要となる。
稀にボスモンスターが一回限りの『ムーブ・ユグドラシル』を落とすこともあるが、その確率は限りなく低い。
ちなみにこの課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』は滅茶苦茶高い。
リアルマネーで十万円する代物だ。
しかし、この世界を楽しむ上でなくてはならないもの。
だからこそ俺は大型イベント情報が解禁される正午前に、課金アイテムの『ムーブ・ユグドラシル』を手に入れる為、DWにログインしていた。
今回の大規模イベント発表で、残り八つの世界の内、一つが解放されるという噂が攻略サイトに上がっていた為だ。
仕事はクビになってしまったが、軍資金はたっぷりある。
それこそ、質素な生活に努めれば、一年ちょっと何もしなくていい位には……。
転移門近くにある『ユグドラシルショップ』に足を運ぶと、早速、世界間移動課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』を購入することにした。
『はっはっはっ、どんなアイテムが欲しいのかね』
「よしっ! おやじ、それじゃあ、この『ムーブ・ユグドラシル』をくれっ!」
『はいよ! 『ムーブ・ユグドラシル』だな。百万コルになるが払えそうかね』
「ああ、もちろんさ。はい。百万コルね」
『毎度あり! また来たまえ』
このユグドラシルショップの店員(おやじ)はNPC(ノンプレイヤーキャラ)だ。
人間らしく振舞っているが、話しかけても定型文しか返してこない。
余談ではあるが、この世界には同じ顔をしたNPC(おやじ)が結構いる。
このNPC、ロゼットとかいうカッコいい名前が付いているが、DWプレイヤーは皆、敬称を込めて『おやじ』と呼んでいる。
特に意味はない。
百万コルか……中々、高い買い物をしてしまった。
だが後悔はない。
この五年間、自分に許された時間の殆どと、毎月給料の四分の一をこのゲームに注ぎ込んできた。
そう、リアルに彼女も作らず、次々と結婚していく友達を横目に、毎日、ログインボーナスを貯め、ダンジョンに潜り、レベル上限クエストをこなしてきたのだ。
その甲斐あって、今の俺のレベルは300。
このDW内においても限られた者しか到達する事のできない到達点にいる。
リーンゴーン♪
正午を告げる鐘がDW内に響き渡る。
「おっ、もう正午か? さて、運営からどんな発表があるものやら……」
口にした言葉とは裏腹に、ワクワクとした気持ちが心の底から湧いてくる。
正午を告げる鐘が鳴り終ると、突然、空が燃えるようなリコリス色に染まっていく。
「おっ! なんだなんだ?」
反射的に視線を空に向けると、赤い空に亀裂が走り中から黄金の甲冑を身に纏った巨人が姿を現した。
DWにログイン中のプレイヤー達も、ワクワクとした表情を浮かべながら空を見上げている。
大規模イベントの発表に興奮気味のプレイヤー達が口々に声を上げる。
「……すげー! 運営、力入れてるなぁ! 巨人が現れたってことは、解放される世界は巨人の住む世界『ヨトゥンヘイム』か?」
「今日、会社を休んで良かったぁ~!」
「後で、ムーブ・ユグドラシルを買いに行かなくっちゃだな!」
「ヨトゥンヘイムかぁ~。次のアバターはなににしようかな?」
巨人が両手を開くと、プレイヤー達は押し黙る。
大規模イベントの概要を聞き漏らさないようにする為だ。
直後、おおよそ、巨人の声とは思えないほど落ち着いた、よく通る男の声が降り注いだ。
『諸君。この世界の創造者として、今日は君達に重大なお知らせがある』
重大なお知らせ。
それはもちろん、新たな世界『ヨトゥンヘイム』実装のことだろう。
俺は心の底から湧き上がってくるワクワクに身を焦がしながら、運営の言葉に耳を傾ける。
『本日を以って現実世界での「Different World」のサービスを停止し、今、この場にいる君達を新たな「Different World」の世界に招待しようと思う』
「へっ? 今のはどういう……」
新たな『Different World』ってなんだ?
それに『Different World』のサービスを停止しってどういう……。
運営の意図が掴めず、呆然とした表情を浮かべる。
『今、君達のアイテムストレージに、新たな世界へと続く「招待状」を用意した。新たな世界への旅立ちを希望する者は、ぜひその招待状を手に取ってほしい』
運営からの招待状。
その言葉を聞くや否や、メニューを開き、アイテム欄のタブを開くと、ストレージ内に『運営からの招待状』が届いていた。
アイテム名をタップすると、目の前に黒封筒が現れる。
おそるおそる黒封筒を手に取り開封すると、そこには『Welcome to New Different World』と書かれた紙が入っていた。
なんだこりゃと、巨人に視線を向けると、巨人はニヤリと口元を歪めた。
『さて、今、開封した招待状。これは、真に「Different World」を愛する者達に贈る私からのプレゼントだ。これより一分間、諸君に選択する時間を与えよう。その間に、この世界に留まるか、ログアウトしてこの世界との係わりを断つか決めてほしい』
一体、どういう意味だ?
運営の言わんとすることが理解できない。
ただ呆然と、巨人に視線を向けていると、招待状を持ったまま一分間が経過した。
『素晴らしい。おおよそ、一万人ものプレイヤーがこの世界に留まることを選択してくれたようだね。私は君達の選択を心の底から嬉しく思うよ。どうか、現実となったこの世界「Different World」を楽しんでほしい』
すると誰が叫び声を上げた。
「お、おい! メニューバーからログアウトボタンが消えてるぞ!」
「ほ、本当だ。どうなっているの!?」
ログアウト不能の言葉を聞いたプレイヤー達がザワザワと騒ぎ始める。
一体どういう事だ?
同調するようにメニューを立ち上げる。
メニューからログアウトボタンがなくなっていては大変だ!
「あれ?」
急いでログアウトボタンの有無を確認するも、そこにはログアウトボタンが用意されていた。
「なんだ。ちゃんとログアウトボタンあるじゃん」
なるほど、わかったぞ?
今、騒いでいるプレイヤー達、それは運営が用意したサクラだな?
きっと大規模イベントを盛り上げる為の一つの要素としてプレイヤーを雇ったのだろう。
そう脳内補完すると、宙に浮かぶ巨人に視線を向ける。
『――さて、自己紹介がまだだったね。私はこの世界「Different World」の創造主にして最高神オーディン』
なるほど、オーディンか。
ということは、解放される世界は、巨人の住む世界『ヨトゥンヘイム』ではなく、アース神族の住む世界『アースガルズ』かも知れない。
そう思い耽っていると、運営(自称:オーディン)が口を開く。
『さて突然、ログアウトボタンが消失した事に驚いている者も多いかと思う。しかし、これは不具合などではない。君達が住んでいた世界にログアウト機能がないように、この『九つの世界』にもログアウトは存在しないのだから』
「ええっ? 一体何を言っているんだ?」
ログアウトボタン、消失していないみたいなんですけど?
運営の意図が分らず困惑していると、周りのプレイヤー達が騒ぎ始める。
「お、おい……なに言ってるんだよ。嘘だろっ?」
「どうやってログアウトしたらいいのっ! 説明してよ! 運営っ!」
「お、おい! なんかおかしくないか? 身体が……感触が……」
『既にある可能性に気付いた者もいるようだね。まだ理解していない者も多くいるようだから教えよう。君達が先程開いた招待状。それは、君達の住んでいた元の世界『地球』からこの世界『Different World』へと転移する為のものだ。君達はもう元の世界に戻る事はできない。思う存分、現実となったこの世界『Different World』を楽しんでくれたまえ』
その瞬間、この世界『Different World』は静寂に包まれた。
『もちろん、元の世界に戻りたいと願う者もいるだろう。元の世界に戻りたいと願う者は私の下を訪れるといい。君達が私の下に……『アースガルズ』に来れる事を願っているよ』
運営(自称:オーディン)はそう一言を残すと、そのまま、亀裂の向こう側に消えていった。
途端に、赤く染まった空が元の色を取り戻す。
それは、なろうプロジェクトが開発した仮想大規模オンラインゲームにして、今、最も熱いフルダイブ型VRMMOだ。
『Different World』の世界観を一言で説明すれば、中世ナーロッパ。
ファンタジーで用いられる中世欧州風ではあるが似て非なる異世界を舞台とした、今までありそうで、なかった仮想大規模オンラインゲームである。
DWの世界は、北欧神話をモチーフに作成されている為か、九つの世界から成っており、現在、解放されているのは人間の世界ミズガルズのみ。
今後、大型アップデートがあり、他の世界が実装される度に、現在解放されている人間やエルフ、ドワーフ、獣人といった人種以外にも、妖精や巨人、モンスターといったアバターを利用することができるようになる。
スライムのアバターを使えば『プルプル。ボク、悪いスライムじゃないよ』プレイも可能になるということだ。
この世界では、プレイヤーキラー(PK)が可能な為、好んでそんな事はしないけど……。
間違ってモンスターとして討伐されてはたまらない。
ミズガルズでは、セントラル王国、リージョン帝国、ミズガルズ聖国という三つの国々がそれぞれに策謀を巡らせ睨みを効かせ合っており、プレイヤーは三つの国のどこかを拠点に、ゲームを進めていく。
DWを始めて五年。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁の日だ。
イベント情報の解禁は本日、正午から。DW内で行われる。
「今の時間は午前十一時五十分か……ハローワークに時間を取られ過ぎたな……」
DWにログインして最初に訪れる場所。
それは、転移門『ユグドラシル』。
この転移門を潜ることで、ダンジョンに潜ったり、九つの世界を巡ることができるとされている。
今は、実装前なのでミズガルズ以外の世界を巡ることはできない。
現在、この転移門『ユグドラシル』で行けるのは、セントラル王国、リージョン帝国、ミズガルズ聖国の三カ国と、その国の転移門を使うことで潜ることのできるダンジョンのみとなっている。
ちなみにこの転移門『ユグドラシル』には移動制限がかかっており、普通のプレイヤーがこの転移門を利用していく事ができるのは、ダンジョンのみとなっている。
つまり、国家間を移動する場合、徒歩や乗り物で移動する必要がある。
この転移門『ユグドラシル』を制限なしで利用する場合、『ムーブ・ユグドラシル』と呼ばれる課金アイテムが必要となる。
稀にボスモンスターが一回限りの『ムーブ・ユグドラシル』を落とすこともあるが、その確率は限りなく低い。
ちなみにこの課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』は滅茶苦茶高い。
リアルマネーで十万円する代物だ。
しかし、この世界を楽しむ上でなくてはならないもの。
だからこそ俺は大型イベント情報が解禁される正午前に、課金アイテムの『ムーブ・ユグドラシル』を手に入れる為、DWにログインしていた。
今回の大規模イベント発表で、残り八つの世界の内、一つが解放されるという噂が攻略サイトに上がっていた為だ。
仕事はクビになってしまったが、軍資金はたっぷりある。
それこそ、質素な生活に努めれば、一年ちょっと何もしなくていい位には……。
転移門近くにある『ユグドラシルショップ』に足を運ぶと、早速、世界間移動課金アイテム『ムーブ・ユグドラシル』を購入することにした。
『はっはっはっ、どんなアイテムが欲しいのかね』
「よしっ! おやじ、それじゃあ、この『ムーブ・ユグドラシル』をくれっ!」
『はいよ! 『ムーブ・ユグドラシル』だな。百万コルになるが払えそうかね』
「ああ、もちろんさ。はい。百万コルね」
『毎度あり! また来たまえ』
このユグドラシルショップの店員(おやじ)はNPC(ノンプレイヤーキャラ)だ。
人間らしく振舞っているが、話しかけても定型文しか返してこない。
余談ではあるが、この世界には同じ顔をしたNPC(おやじ)が結構いる。
このNPC、ロゼットとかいうカッコいい名前が付いているが、DWプレイヤーは皆、敬称を込めて『おやじ』と呼んでいる。
特に意味はない。
百万コルか……中々、高い買い物をしてしまった。
だが後悔はない。
この五年間、自分に許された時間の殆どと、毎月給料の四分の一をこのゲームに注ぎ込んできた。
そう、リアルに彼女も作らず、次々と結婚していく友達を横目に、毎日、ログインボーナスを貯め、ダンジョンに潜り、レベル上限クエストをこなしてきたのだ。
その甲斐あって、今の俺のレベルは300。
このDW内においても限られた者しか到達する事のできない到達点にいる。
リーンゴーン♪
正午を告げる鐘がDW内に響き渡る。
「おっ、もう正午か? さて、運営からどんな発表があるものやら……」
口にした言葉とは裏腹に、ワクワクとした気持ちが心の底から湧いてくる。
正午を告げる鐘が鳴り終ると、突然、空が燃えるようなリコリス色に染まっていく。
「おっ! なんだなんだ?」
反射的に視線を空に向けると、赤い空に亀裂が走り中から黄金の甲冑を身に纏った巨人が姿を現した。
DWにログイン中のプレイヤー達も、ワクワクとした表情を浮かべながら空を見上げている。
大規模イベントの発表に興奮気味のプレイヤー達が口々に声を上げる。
「……すげー! 運営、力入れてるなぁ! 巨人が現れたってことは、解放される世界は巨人の住む世界『ヨトゥンヘイム』か?」
「今日、会社を休んで良かったぁ~!」
「後で、ムーブ・ユグドラシルを買いに行かなくっちゃだな!」
「ヨトゥンヘイムかぁ~。次のアバターはなににしようかな?」
巨人が両手を開くと、プレイヤー達は押し黙る。
大規模イベントの概要を聞き漏らさないようにする為だ。
直後、おおよそ、巨人の声とは思えないほど落ち着いた、よく通る男の声が降り注いだ。
『諸君。この世界の創造者として、今日は君達に重大なお知らせがある』
重大なお知らせ。
それはもちろん、新たな世界『ヨトゥンヘイム』実装のことだろう。
俺は心の底から湧き上がってくるワクワクに身を焦がしながら、運営の言葉に耳を傾ける。
『本日を以って現実世界での「Different World」のサービスを停止し、今、この場にいる君達を新たな「Different World」の世界に招待しようと思う』
「へっ? 今のはどういう……」
新たな『Different World』ってなんだ?
それに『Different World』のサービスを停止しってどういう……。
運営の意図が掴めず、呆然とした表情を浮かべる。
『今、君達のアイテムストレージに、新たな世界へと続く「招待状」を用意した。新たな世界への旅立ちを希望する者は、ぜひその招待状を手に取ってほしい』
運営からの招待状。
その言葉を聞くや否や、メニューを開き、アイテム欄のタブを開くと、ストレージ内に『運営からの招待状』が届いていた。
アイテム名をタップすると、目の前に黒封筒が現れる。
おそるおそる黒封筒を手に取り開封すると、そこには『Welcome to New Different World』と書かれた紙が入っていた。
なんだこりゃと、巨人に視線を向けると、巨人はニヤリと口元を歪めた。
『さて、今、開封した招待状。これは、真に「Different World」を愛する者達に贈る私からのプレゼントだ。これより一分間、諸君に選択する時間を与えよう。その間に、この世界に留まるか、ログアウトしてこの世界との係わりを断つか決めてほしい』
一体、どういう意味だ?
運営の言わんとすることが理解できない。
ただ呆然と、巨人に視線を向けていると、招待状を持ったまま一分間が経過した。
『素晴らしい。おおよそ、一万人ものプレイヤーがこの世界に留まることを選択してくれたようだね。私は君達の選択を心の底から嬉しく思うよ。どうか、現実となったこの世界「Different World」を楽しんでほしい』
すると誰が叫び声を上げた。
「お、おい! メニューバーからログアウトボタンが消えてるぞ!」
「ほ、本当だ。どうなっているの!?」
ログアウト不能の言葉を聞いたプレイヤー達がザワザワと騒ぎ始める。
一体どういう事だ?
同調するようにメニューを立ち上げる。
メニューからログアウトボタンがなくなっていては大変だ!
「あれ?」
急いでログアウトボタンの有無を確認するも、そこにはログアウトボタンが用意されていた。
「なんだ。ちゃんとログアウトボタンあるじゃん」
なるほど、わかったぞ?
今、騒いでいるプレイヤー達、それは運営が用意したサクラだな?
きっと大規模イベントを盛り上げる為の一つの要素としてプレイヤーを雇ったのだろう。
そう脳内補完すると、宙に浮かぶ巨人に視線を向ける。
『――さて、自己紹介がまだだったね。私はこの世界「Different World」の創造主にして最高神オーディン』
なるほど、オーディンか。
ということは、解放される世界は、巨人の住む世界『ヨトゥンヘイム』ではなく、アース神族の住む世界『アースガルズ』かも知れない。
そう思い耽っていると、運営(自称:オーディン)が口を開く。
『さて突然、ログアウトボタンが消失した事に驚いている者も多いかと思う。しかし、これは不具合などではない。君達が住んでいた世界にログアウト機能がないように、この『九つの世界』にもログアウトは存在しないのだから』
「ええっ? 一体何を言っているんだ?」
ログアウトボタン、消失していないみたいなんですけど?
運営の意図が分らず困惑していると、周りのプレイヤー達が騒ぎ始める。
「お、おい……なに言ってるんだよ。嘘だろっ?」
「どうやってログアウトしたらいいのっ! 説明してよ! 運営っ!」
「お、おい! なんかおかしくないか? 身体が……感触が……」
『既にある可能性に気付いた者もいるようだね。まだ理解していない者も多くいるようだから教えよう。君達が先程開いた招待状。それは、君達の住んでいた元の世界『地球』からこの世界『Different World』へと転移する為のものだ。君達はもう元の世界に戻る事はできない。思う存分、現実となったこの世界『Different World』を楽しんでくれたまえ』
その瞬間、この世界『Different World』は静寂に包まれた。
『もちろん、元の世界に戻りたいと願う者もいるだろう。元の世界に戻りたいと願う者は私の下を訪れるといい。君達が私の下に……『アースガルズ』に来れる事を願っているよ』
運営(自称:オーディン)はそう一言を残すと、そのまま、亀裂の向こう側に消えていった。
途端に、赤く染まった空が元の色を取り戻す。
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