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発見

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 (※本作を読む前に同作者の前作「形成された花」を読むことをおすすめします)



 晴れやかな表情で、一人のアイドル人生が終わった。何万人に見送られながら。
 私が作り上げた。とはとても言えない。そのくらい彼女は自分で自分を形成していった。私がしてあげられたことといえば、彼女が立っていられるように支えただけだ。そう、まるで綺麗な薔薇を入れる花瓶のように。



 四十歳で声も体も思うようにいかなくなってきた事を実感した六年前、レコード会社から一つの依頼がきた。
「アイドルグループをプロデュースしてみないか?」
 五年前の私であれば即、断っていただろう。十分自分で歌えるし、ライブもできる。新しい事を自分でやる体力もあった。
 しかし、その時の私の答えは「少し考えさせてください」だった。もうそろそろ他者の育成も視野に入れなければならないと考える歳になっていた。
 それから私はさまざまなアイドルのCDやライブ、バラエティ、ドラマのDVDを買い漁り、空いた時間は鑑賞に費やした。それまで知らない世界だったが、グループごとに個性があり、その中のメンバー一人一人にも個性がある事を初めて知り、自分ならどうするか?どのように売り込むか?どんな楽曲にするか?どんなライブにするか?と考えて観るようになった。
 私の原動力はいつだって好奇心であり、継続力は興味だ。それは十六歳でデビューしてからずっと同じ。アイドルプロデュースは私のそれを十分満たしてくれると確信し、依頼を受けた。
 
 固まったイメージは、観てきたアイドルのどれとも違う「唯一無二のアイドル」
 それがどんな形になるかはともに歩んでいく子たちが決まってからしか見えてこないだろう。あくまで私は影の存在。表に出るのは彼女たちなのだ。全てを決めて押し付けるのはプロデュースではない。今まで自分自身でどちらもやってきた私には少し歯痒いが。

 オーディションには約一万五千人の応募があった。その書類全てに目を通した。そのなかに私が磨き上げる原石が潜んでいるのであれば苦には感じない作業だった。
 五度にも及ぶ会議の結果、私が直接審査をする二次審査に通す八十六人が決定した。

 秋も深まり、落ちる葉っぱも無くなった事務所前の桜の木を見ていた時、三人の辞退者が出たことを知らされた。その中の一人には特別、光るものを感じていたが、手をすり抜けた水滴を掴もうとしても仕方がない。私の夢は八十三人にかけるしかないのだ。

 オーディション二次審査は都内のビルの一室で、私のわがままで二日に分け、集団ではなく一人ずつの面接方式で行われた。相手は素人の女の子、無駄な緊張が邪魔をしてその子のポテンシャルが見えなくなるのが嫌だった。なので、なるべく柔らかい雰囲気を意識した。
 全ての子との面談を終え、私がマークしたのは十九人。そのうち二重丸をつけたのは三人だった。
No.5 里中志保
No.29 古屋瞳
No.30 長谷川玲子
 その後の会議で五十名まで絞る。この時点での最終的なグループの人数は十五名を予定していたので、三次審査と最終審査でそこまで絞る。
 会議はほとんどがすんなりと決まった。ただ一点、古屋瞳に関して長い議論がされた。彼女をマークしていたのが私だけだったのだ。私よりもアイドルにもプロデュースに関しても知識が豊富なスタッフが多い中で、私の意見を通すのは難しかった。
 しかし、私は引かなかった。頑固っぽさが伺えるのはわかるが、彼女が私の目を見て真っ直ぐ言い放った「価値の高い、完璧なアイドルを目指したい」という言葉が私のプロデュースしたいアイドル像にリンクした。
 結局、私は意見を押し通し、三次審査通過者は五十一名となった。

 三次審査は歌唱審査が主だった。そこで目を引いたのは。
No. 9 山下優奈
No.50 小野寺由衣
 そしてなんと言っても古屋瞳だった。彼女の歌声はその場にいる審査員、スタッフ全員の注目を集め、みるからに初めて履いたであろうヒールの靴、コンタクトでゴロゴロしてる目を差し引けば、歌う姿は既にアイドルだった。
 古屋瞳を最終審査に通すことに文句を言うスタッフはいなかった。そうして最終審査には二十五人が通され、その二十五人には課題であるダンスのムービーが入ったDVDが渡された。

 後日、最終審査ではダンス審査と最終面接が行われた。
 ダンス審査ではレイコが目を引いた。ダイナミックかつ正確な体の動かし方は明らかに経験者だ。それに比べてナナやユウナはリズム感から手間取っている様子だった。
 しかし、だからといって必ずしもマイナスではないのがアイドルの面白いところだ。ダメでも一生懸命取り組んでいる姿にファンは心を打たれるのだ。それに、レイコの次に目立っているあの子が必ず完璧にしてくれるだろう。

 最終面接では日常のことを中心に質問して、その中からアイドルとして使えるコンテンツを見つける時間にした。
 収穫はいろいろあった。
 No.35 堀内美央は芸術性に長けていて、区のコンクールで賞もとったことがあるらしい。
 No.12 桜木梨々香は二次審査から明らかに不器用さが見えていたが、その愛嬌の良さを評価して最終審査まで通した。しかし、実は彼女は料理が得意らしい。どのレベルかと突っ込んで話を聞いてみると、驚いたことにかなり本格的だった。
 歌唱審査の印象が強いユイは楽器の演奏も得意なようで、ギター、ピアノ、フルートを自在に演奏できる。最近ではベースにも興味があるらしい。
 その中でも古屋瞳の最終面接は異質だった。趣味や特技、幼少期の話を聞いても全てがアイドルに通じた。他は強いて言えば学校での成績の話だろうか。常に成績はトップだったと言うが、それも本人は興味なさげだった。
 最後に私は質問をした。
「目標とするアイドルはいる?」
 その質問に対する古屋瞳の答えは。
「好きなアイドルはいますが、目標とするアイドルはいません」
 この答えで、私はこの子の合格を決めた。

 四本の薔薇をモチーフに付けられたグループ名「4/Rose」の合格者は当初予定していた十五名から少し減り、十一名となった。理由はシンプルで、この人数、このメンバーが一番バランスが良いと思ったからだ。

No.3 郷原千春
No.5 里中志保
No.9 山下優奈
No.12 桜木梨々香
No.18 上野奈々
No.21 長野鈴香
No.27 福山真奈美
No.29 古屋瞳
No.30 長谷川玲子
No.35 堀内美央
No.50 小野寺由衣

 この十一人に夢を託し、私は支える。
 四本の薔薇の花言葉は「死ぬまで変わらない想い」この十一人にぴったりなグループ名だと私は思った。



 いつまでもヒトミコールが鳴り止まない。舞台袖であの子はどう感じているのだろうか。たった今アイドルを引退した彼女はもう、別の道を歩き始めているのかもしれない。
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