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一、運命への挑戦
三
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タイムスリップには、見事成功したようだ。
ただし、到着したのは、どうやら目的とした日付よりも一ヶ月程前らしい。八百屋の壁に掛けられたカレンダー、流れてくるTVの音声、人々の会話から、それはすぐに把握することが出来た。
一ヶ月間という誤差は大きいようにも思われる。けれど、何十年という時を遡って来たにしては、僅かなズレと言えるだろう。
たとえ どんなに目的の日時に近かろうと、彼女が波に呑まれてしまった後では意味がないことを考慮に入れると、充分に成功の範囲であると思われた。
それに――と、指輪の入った小箱に目を落とす。
水難事故を回避することに頭がいっぱいで すっかり抜けてしまっていたけれど、このマリッジリングにしても、彼女と一緒に選びに行った日より後の世界に着いたのでは都合が悪かったと思う。
博士は早速、若き日の自分――翔を探し出すことにした。海へ行く筈だった亜樹を引き止めるには、彼の力が必要不可欠と考えたからだ。
まさか、年をとった姿の今の自分が、いきなり彼女の前に現れて、
「自分は未来から来た翔だ」とか、「海へは行かないでほしい」なんて訴えても、信じてはもらえないだろう。
それは、若き日の自分に訴えたとしても同じかもしれない。けれども彼は、少なくとも自分の性格や好み、どんな風にすれば上手く誘導できるかは、よく分かっているつもりだった。
すぐにでも 嗾けに行く予定だったけれど、目的の日付まで後一ヶ月もある。さて、どうしたものか……
暫し考えを巡らせた博士は、ぱちんと手を鳴らす。
「よし、これでいこう! 」
まず手始めに「マリッジリング特集! 」と、大きく書かれたチラシを作る。出来る限り興味をそそるようにマリッジリングの宣伝を載せ、目的の日付と「当日限り」のフレーズを添えた。
これを彼に送り、亜樹と よく訪れた この商店街の一角へ店を構えることにした。
約一ヶ月前の世界に辿り着いたこと。これは、成功の範囲どころか、大成功といえるのではないか。
準備を進めるうち、彼はそれが絶妙な期間であったと感じるようになった。
はるか未来から遡ってきた過去の世界。けれど、ここへ辿り着いた時点から、時間は確実に前へ向かって流れ続けている。
やがて、運命の日は やって来た。初めに目的としていた日付――本来ならば、亜樹が海へ出かけた日である。
――カラン、コロン……
軽やかに鳴るドアベルとともに、店の扉が開かれた。
ただし、到着したのは、どうやら目的とした日付よりも一ヶ月程前らしい。八百屋の壁に掛けられたカレンダー、流れてくるTVの音声、人々の会話から、それはすぐに把握することが出来た。
一ヶ月間という誤差は大きいようにも思われる。けれど、何十年という時を遡って来たにしては、僅かなズレと言えるだろう。
たとえ どんなに目的の日時に近かろうと、彼女が波に呑まれてしまった後では意味がないことを考慮に入れると、充分に成功の範囲であると思われた。
それに――と、指輪の入った小箱に目を落とす。
水難事故を回避することに頭がいっぱいで すっかり抜けてしまっていたけれど、このマリッジリングにしても、彼女と一緒に選びに行った日より後の世界に着いたのでは都合が悪かったと思う。
博士は早速、若き日の自分――翔を探し出すことにした。海へ行く筈だった亜樹を引き止めるには、彼の力が必要不可欠と考えたからだ。
まさか、年をとった姿の今の自分が、いきなり彼女の前に現れて、
「自分は未来から来た翔だ」とか、「海へは行かないでほしい」なんて訴えても、信じてはもらえないだろう。
それは、若き日の自分に訴えたとしても同じかもしれない。けれども彼は、少なくとも自分の性格や好み、どんな風にすれば上手く誘導できるかは、よく分かっているつもりだった。
すぐにでも 嗾けに行く予定だったけれど、目的の日付まで後一ヶ月もある。さて、どうしたものか……
暫し考えを巡らせた博士は、ぱちんと手を鳴らす。
「よし、これでいこう! 」
まず手始めに「マリッジリング特集! 」と、大きく書かれたチラシを作る。出来る限り興味をそそるようにマリッジリングの宣伝を載せ、目的の日付と「当日限り」のフレーズを添えた。
これを彼に送り、亜樹と よく訪れた この商店街の一角へ店を構えることにした。
約一ヶ月前の世界に辿り着いたこと。これは、成功の範囲どころか、大成功といえるのではないか。
準備を進めるうち、彼はそれが絶妙な期間であったと感じるようになった。
はるか未来から遡ってきた過去の世界。けれど、ここへ辿り着いた時点から、時間は確実に前へ向かって流れ続けている。
やがて、運命の日は やって来た。初めに目的としていた日付――本来ならば、亜樹が海へ出かけた日である。
――カラン、コロン……
軽やかに鳴るドアベルとともに、店の扉が開かれた。
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