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1.不思議なリング
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「そんなに悲しんでくれるの? 」
遠くで翔の声がした。
「やっぱり僕、死んで良かったんだよね」
――何言ってるのよ。そんな訳ないじゃない!
薄暗い部屋の隅。喪服姿のまま、泣き疲れてうつらうつらしていた亜樹は、そこでバッと目が覚めた。
今日はお葬式だった。夫、翔の。結婚二年目、まだまだ新婚なのに。
どうして翔みたいな良い人がこんなに早く逝ってしまわなければならないのか、亜樹は堪らなく理不尽に思う。泣き枯らした筈の涙が再び頬を伝い、左手薬指のリングを濡らし弾いていく。
ふと、亜樹は思い出す。翔がこれを買ってくれた日のこと……とてもとてもロマンチックでミステリアスな、あの日のことを――
*
その日、亜樹は、近くの海辺へスケッチをしに出かける準備をしていた。
ビニールシート、スケッチブック、硬さの異なる数本の鉛筆と消しゴムの入ったペンケース。それらをバッグに詰めていた時だ。
テーブルの上のスマホが着信を告げた。画面には翔の名前が表示されている。
「もしもし亜樹。今日、時間あるかな」
「どうしたの? 」
これから出かける予定ではあったのだけど。それを口にすると遠慮されてしまいそうで、先に用件を聞いてみることにした。
「一緒に行きたい お店があるんだ」
「どんな お店なの……?」
「えっと……、ほら、僕たち、もうすぐ結婚式だろ。一緒に指輪を選びに行きたいって思ってさ」
恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら、けれど重大なことをしっかりと伝えてくる翔。
素敵な誘いに、胸が高鳴る。
――海辺へ行くのは、また今度でいいわね……
亜樹は、迷わず承諾の返事をしていた。
遠くで翔の声がした。
「やっぱり僕、死んで良かったんだよね」
――何言ってるのよ。そんな訳ないじゃない!
薄暗い部屋の隅。喪服姿のまま、泣き疲れてうつらうつらしていた亜樹は、そこでバッと目が覚めた。
今日はお葬式だった。夫、翔の。結婚二年目、まだまだ新婚なのに。
どうして翔みたいな良い人がこんなに早く逝ってしまわなければならないのか、亜樹は堪らなく理不尽に思う。泣き枯らした筈の涙が再び頬を伝い、左手薬指のリングを濡らし弾いていく。
ふと、亜樹は思い出す。翔がこれを買ってくれた日のこと……とてもとてもロマンチックでミステリアスな、あの日のことを――
*
その日、亜樹は、近くの海辺へスケッチをしに出かける準備をしていた。
ビニールシート、スケッチブック、硬さの異なる数本の鉛筆と消しゴムの入ったペンケース。それらをバッグに詰めていた時だ。
テーブルの上のスマホが着信を告げた。画面には翔の名前が表示されている。
「もしもし亜樹。今日、時間あるかな」
「どうしたの? 」
これから出かける予定ではあったのだけど。それを口にすると遠慮されてしまいそうで、先に用件を聞いてみることにした。
「一緒に行きたい お店があるんだ」
「どんな お店なの……?」
「えっと……、ほら、僕たち、もうすぐ結婚式だろ。一緒に指輪を選びに行きたいって思ってさ」
恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら、けれど重大なことをしっかりと伝えてくる翔。
素敵な誘いに、胸が高鳴る。
――海辺へ行くのは、また今度でいいわね……
亜樹は、迷わず承諾の返事をしていた。
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