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愛の交錯

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 遺品の中にひっそりと埋もれていた翔の日記には、覚束ない文字で、こう綴られていた。

『いつの頃からか、ふとした瞬間に亜樹が僕の死を望むようになっていたことは、わかっていた。
 でもそれは考えないようにしてきた。
 亜樹も同じ気持ちだったんじゃないかな。誰だって、そんな醜い心を認めたくなんてないと思う。
 けれど、そろそろ限界の様だ。僕が思うように動けなくなってから、もうどれくらいの歳月が経っただろう。いっそのこと早く死んでしまいたいのに、自殺さえも出来ないなんて情けないな。
 僕は、亜樹を殺人犯にはしたくない。どうすればいい? どうすれば……
 その時、ふと思い出したんだ。あの指輪のことを。
 そして祈りを込めて囁いた。
 事故に遭った日、僕がそのまま死んでいたなら――と。』

 ――翔の指輪の方が先に使われていたんだわ……
 亜樹は、ふるえる指でページをめくる。

『元々僕は、生き延びる運命にあった。けれど、その命を僕自身の手で終わらせたんだ。
 亜樹の為にと思っていたけれど、本当は、愛する人から死んで欲しいと思われてしまう惨めな自分自身を消し去ってしまいたかったのかもしれない。
 だから、亜樹が、僕を生き返らせてくれたのは本当にビックリしたけれど、とても嬉しかった。』

 それぞれに時間の旅を終えた二つのリングは、今も尚、淡い光を宿している。
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