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都市伝説

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 差し込む光の眩しさに、男は目を覚ました。
 昨夜 飲み過ぎたせいか、頭がガンガン痛む。体を起こすのも億劫だったが、そういつまでも横になっているわけにもいかない。
 
 彼は、大手編集社へ勤める雑誌記者である。大学進学を機に田舎から上京し、そのまま就職して十年が経とうとしていた。
 一緒に入社した同期たちは、続々と昇進していったが、彼は まだ平社員のままであった。ここらで そろそろ手柄をあげて、昇進を勝ち取りたいものだと思う。
 そんな彼には、このところずっと調べている事があるのだ。
 
 事の発端は、一般の読者から寄せられた投稿にあった。街中に突如現れるという不思議な「穴」を目撃したというものだ。
 どうせ悪戯と思い、初めは気にも留めていなかったのだが、この情報は一通だけに留まらず、数年間に渡って複数人から寄せられた。
 穴について、現れる場所や時間帯は区々(まちまち)であるものの、共通して訴えられていたのは、「突如現れ、そして忽然と消えてしまう」ということだった。
 それは「謎の落とし穴」「地上のブラックホール」などと囁かれ、いつしか都市伝説となっていた。

 ブラックホール――超強力な重力で あらゆるものを吸い込んでしまう謎の天体。一度 落ちてしまえば、這い上がることは絶対に不可能だという。
 それと同じ様な物が、地上にも存在するというのか。
 これまでに何人もがそこへ落ちて行方不明になったと噂されているものの、その瞬間はおろか、穴自体を捉えた映像すらも未だに発見されていない。
 一種の蜃気楼のようなものなのか。だとすれば、彼らは どこへ消えてしまったというのだろう。
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