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第三章

中学三年 春 ④

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 それから程なく、手術の日を迎えた。 
 両親からも陽斗からも詳しいことは何も知らされていなかったが、手術を受ければ助かるかもしれないこと、但し、私にある程度の体力がなければ受けられないことだけは聞いていた。 

 あれから、陽斗とはまだ会っていない。
 元々毎日来ていたわけじゃないし、次に来る具体的な日時を約束したわけでもなかった。あの日もいつものように、帰り際「また来るから」と微笑んでくれた。
 彼が帰った後も私は度々キスの瞬間を思い出し、一人喜んでは恥ずかしくなってを繰り返していた。
――私と会うの気まずくなっちゃったのかなぁ……
 そう思ったらなんだか悲しくなって、
――きっと、部活動が忙しくなって……
 等と無意識に、当たり障りのない理由を探そうとしていた。
 けれど考えれば考えるほど、新たな可能性が頭をよぎる。それもあんまり良くないほうのだ。
――もしかして、体調を崩して寝込んでいるとか……
 
「陽斗くん……、あの子も もうすぐここへやって来るわ」 
 付き添ってくれた母の言葉に少し安心しながら、私は手術室へと運ばれて行った。 


 *


 手術は成功したらしかった。
 陽斗の顔を早く見たかったけれど、それは叶わなかった。何でも、行方不明だった父親という人が現れて、急遽一緒に海外へ渡ることになったのだとか。

「それならそれで、一声くらいかけて行ってくれたら良かったのに……」
「向こうでの生活に落ち着いたら、きっと連絡をくれるわ。とにかく、美織は しっかり体を治さないと」
 落ち込む私に、母は励ますように言った。
 父は口を噤んだまま難しい顔で、しかし母に同意を示すように静かに頷いた。父もまた、陽斗が突然離れて行ってしまったことにショックを受けているのだろう。

 窓辺の桜は とうに散り、今は青々とした葉が風に揺れていた。
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