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序章
二十一歳 冬
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空は、からりと晴れていた。
穏やかな風が、ひんやりとした空気を運んでくる。
校庭では、マラソン大会が始まろうとしていた。
年に一度いくつもの町内が合同で開催する、この地区では最大のものだ。陽斗と一緒に出場することを誓った、大切なイベント。
コースとなる沿道上には既に、観客の姿があちらこちらに見られる。
メイン会場となる中学校の運動場には、更に大勢の人が詰め掛けていた。
選手はここからスタートし、地区を一周する。そして再びこの会場へ戻ってくることになっている。
ここは私と陽斗の母校でもある。私たちは今日 マラソン大会に出場する為、卒業以来六年ぶりに戻って来た。
運動場も校舎も、その裏にある体育館も。当時の面影そのままに映る。
ただ中庭に卒業記念として植えた木が一本。その成長が時の流れを感じさせる。
「美織は俺が一生守る。これからも ずっと一緒にいよう」
そう告げてくれた陽斗の真剣な眼差しが鮮明に蘇る。
「マラソン大会、いつか必ず一緒に出場しよう!」
まだ中学生だったあの頃に交わした約束。その言葉通り、大人になった今、私たちは――
「出場者のかたは、本部テントで受付を済ませてください」
会場内に響くアナウンスと次第に大きくなる観客たちのざわめきに、いよいよ この時が来たと緊張が高まる。それを鎮めるように、胸に手を当て深呼吸を一つ。
「陽斗、最後まで走りきろうね! 」
呼びかけて、私は靴紐を しっかりと結び直した。
穏やかな風が、ひんやりとした空気を運んでくる。
校庭では、マラソン大会が始まろうとしていた。
年に一度いくつもの町内が合同で開催する、この地区では最大のものだ。陽斗と一緒に出場することを誓った、大切なイベント。
コースとなる沿道上には既に、観客の姿があちらこちらに見られる。
メイン会場となる中学校の運動場には、更に大勢の人が詰め掛けていた。
選手はここからスタートし、地区を一周する。そして再びこの会場へ戻ってくることになっている。
ここは私と陽斗の母校でもある。私たちは今日 マラソン大会に出場する為、卒業以来六年ぶりに戻って来た。
運動場も校舎も、その裏にある体育館も。当時の面影そのままに映る。
ただ中庭に卒業記念として植えた木が一本。その成長が時の流れを感じさせる。
「美織は俺が一生守る。これからも ずっと一緒にいよう」
そう告げてくれた陽斗の真剣な眼差しが鮮明に蘇る。
「マラソン大会、いつか必ず一緒に出場しよう!」
まだ中学生だったあの頃に交わした約束。その言葉通り、大人になった今、私たちは――
「出場者のかたは、本部テントで受付を済ませてください」
会場内に響くアナウンスと次第に大きくなる観客たちのざわめきに、いよいよ この時が来たと緊張が高まる。それを鎮めるように、胸に手を当て深呼吸を一つ。
「陽斗、最後まで走りきろうね! 」
呼びかけて、私は靴紐を しっかりと結び直した。
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