感情下手な神泉さんは、危機を救ってくれた目立たない彼にベタ惚れの様です〜素直になれません!〜

松原 瑞

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なんでもない一日②

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 学校から駅に向かう途中の公園にやって来た私と佐奈は、ベンチに座り今日も楽しくレッツ恋バナ! ……という雰囲気とは程遠い空気に包まれていた。

「栞里、あたしの言いたいこと……わかるわよね?」
「はい……」

 脚を組み、腕を組み……縮こまった私を見下すような目つきをした佐奈は、逆三角形をした口から深い深いため息をこぼす。
 コワ……怖ひ……。久々に佐奈を怒らせてしまったよぉ……。

「じゃあ、朝あたしが言った言葉の意味……わかったの?」
「皆目見当もございません……」
「そうでしょうねぇ! だからアタイはこうして怒っているんですからねぇ!」

 シャーッ! っと蛇のような怒気を纏わせている佐奈に、私はさらに身体が萎縮する……。

「だだだだって、全然わかんなくて……」
「えぇい涙目になるなっ! 白目いっぱいのそのお目目に涙を溜めるな!」
「そんなこと言われても、怖いしわかんないしで……」

 涙が流れないよう我慢すると、口が富士山みたいにキュッ……となる。これ、いつもよりよっぽど怖い顔になってない? あ、鼻水出て来た。

「あんたねぇ……。じゃあ、今日の学校での行動を口に出して振り返ってごらん」
「え、今日の?」
「そう」

 佐奈の言ったことに私が首を傾げると、「とにかく」と促してくる。

「えぇと……まず教室に入って席に座って……」

 私がゆっくり思い出しながら話すと、佐奈はウンウンと頷いて聞いてくれる。

「少しすると倉敷くんがやって来て、おはようって言ってくれたから、私もおはようって返して」
「はいまずそこぉッ!」
「え、どこ!?」

 佐奈が指をチョキチョキしながら「カーーーーット!」と叫び、私の話を遮ると、

「そのおはようって返した時、あんたはどうしてた!?」
「え、倉敷くんを直視できなくて反対方向を向いて……、あっ」
「ふぅ……、やっと気づいたようね」
「私……おはようじゃなく『おはにょ』って言ってた……」
「なんっでだっ…………よぅ! ねぇ、なんでだよう! なんでそこなんだよう!」

 私ばりに白目を拡大させて驚く佐奈に、私がビクッと肩を震わせると、

「あんた反対方向向いたでしょ! 明後日の方を向いたでしょ!?」
「うん向いたけど、え……それ!?」
「自覚なしかーそうだよそれだよ!」

 確かに目が合うと反対方向を向いてしまうのは私の癖だ。恥ずかしくって見られないし、この目がコンプレックスだから、あんまり見られたくないってのもある。

「それに栞里、席替えしてからまともに倉敷くんと話してる? 隣にいるだけで満足してない?」
「あっ……——」

 言われてみれば確かに……。最近、倉敷くんとちゃんとお話してない。隣に座るのが嬉しくて、緊張して、ちゃんとお話する余裕を持ってなかった。
 今日だって消しゴムを拾ってくれた時、ちゃんと倉敷くんの顔を見てありがとうって言ってない。自分が照れるからって、倉敷くんのことを蔑ろにしてた。

「私、ちゃんと倉敷くんのこと見てなかった……」

 恥ずかしい……。あんなに自信満々に倉敷くんのことを見てるって言ったのに、それは本当に上辺だけだった。私が勝手に眺めてハイお終い……、まるでテレビや雑誌でも眺めてるかのよう。
 前に倉敷くんは、私ともっと仲良くなりたいって言ってくれた。それなのに、私は倉敷くんを遠ざけるようなことばかり。
 それに、ひどいことをしてしまったのは倉敷くんだけじゃない。佐奈は私を応援するため、私のために席を代わってくれた。自分で好きな席を選べたのに、私のために……。そりゃあ怒るよ。せっかく私のために身を張ったのに、当の本人は浮かれてコレだもの。
 ダメだ……考え出したら最近の私は落ち度ばかり。情けなすぎて、申し訳なさすぎて、我慢してた涙が溢れてくる。

「さ、佐奈ぁ……、ごめ……私……、ごべ……ごべん、ごべんべぇえええ……っ!」
「も~、やっとわかってくれたかアホ栞里め」

 止めどなく溢れる涙が溢れる。本当に申し訳なくて、私は佐奈の腰へ抱きつくように顔を埋めて謝った。何度も何度も謝った。
 佐奈は嗚咽混じりに泣く私を、いつものように優しく頭を撫でて慰めてくれた。私の謝りに答える声も、いつもの明るい声に戻っている。私が泣き止むまで、ずっとずっと……撫でてくれた。
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