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愛しい家族

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「おかえりなさいませ、お嬢様。」

自宅である屋敷へ戻ると、執事長のセバスが迎えてくれた。

「いつも出迎えありがとう、セバス。ただいま戻りました。

ところで、お父様はいつ頃戻るのかわかる?お伝えしたいことがあるのだけど。」

挨拶もそこそこに会話をする自分に何かあったと察したのか、セバスが続ける。

「旦那様でしたら、本日は夕食前にはお戻りになる予定です。お嬢様と久しぶりにお食事がとれることを喜んでいらっしゃいましたよ。お食事のあと、お話ししてみてはいかがでしょうか。」

「ありがとう。そうね、そうするわ。では、お父様が帰られたら教えてくれるかしら。お母様にも声をかけておくわね。みんなでの食事は本当に久しぶりだわ。」

と、心からの笑みをセバスに向けた。


-----


家族揃っての穏やかな夕食が終わり、サロンに移動して一息ついた頃。

「ユーリア、セバスから話があると聞いているが、何かあったのかい?」

お父様が話を切り出してくれた。ちなみにこの優しい笑顔と声が向けられるのは、私とお母様に対してだけだ。他家は知らないが、我が家に関してはお父様はお母様をそれはそれは大切にしている。お母様もお父様を愛し、こどもの私でも目のやり場に困るくらいだ。例えば、おはようなどの挨拶の度にしているハグとキスはもちろんのこと、パーティーに参加すればお互いの色を纏って常に寄り添い、互いの些細な変化は見逃さず、記念日はもちろん欠かさない。結婚して20年近く経つそうだが、今でもラブラブだ。

はじめはどこの家でもこうなんだと思っていたのだけど、違うと気づいてからは両親のこととはいえ少し気恥ずかしい。憧れるけど・・。

「ユーリア?」

は、いけない。思考がとんでしまったわ・・。

「申し訳ございません、どう切り出したらいいのか考えてしまって。まずはこちらを聞いて頂けませんか?」

と、両親の前に出したのは録音の魔道具。

「こちらは本日の学園終わりに録音したものになります。会話の途中からなので全てではないのですが。

では、再生致します。」

魔道具から聞こえてきたのは、私が聞いた声と内容も全く同じもの。うまく録音できていてよかった。

お父様とお母様は静かにその内容を聞いている。話が進むにつれ、お父様のお顔が恐くなってきたわ。。

再生が終わると、

「ユーリア、これは会話の途中からだと始めに言っていたが、状況を補足してくれないか?もう少し詳しく知りたい。」

言われて、録音するまでの経緯を伝えた。


「・・潰す。」

・・今のドスのきいた声、お父様から聞こえたわ。そんなお声も出せたのね。


「・・ふふふっ。」

お母様、笑顔なのにとっても怖いわ。今度教えてください。

「ユーリア、話はわかったよ。アレはすぐ処分してこよう。」

「まぁ、あなた。私もお手伝いしますわ。」

内容を聞いて怒ってくれている両親に、自分を大切に思ってくれているとわかり、心があたたかくなる。

しかしまずは、大事なことを聞かなくては。

「お父様、お母様。婚約については解消する方向ですすめたいのですが、そうすることでリード家に不利益などはございませんでしょうか?」

「ユーリアも知っているとおり、政略的な意味はどこにもないよ。コーディ侯爵とは旧知で、侯爵自身はとても信頼できる人だ。次男坊の将来についてこちらへの婿入りを相談されて、ライル君と実際に話して問題ないと、ユーリアと我がリード家を任せられると思っていたのたが・・残念だよ。」

「では、」

「あぁ、婚約は解消させよう。むしろ、破棄にして慰謝料を払わせたいくたいだ。」

「おじさまにはとてもよくして頂きました。どうか、穏便に。」

「あぁ、まずはコーディ侯爵本人と話をしないといけないな。セバス、きてくれるか。」

「はい、旦那様。」

「コーディ侯爵家へ急ぎ連絡をつけたい。魔道通信がいいな、準備を。」

「承知致しました。すぐご用意致します。」

お父様がセバスに指示したあと、私たちに向かって言った。

「こちらは任せて、2人はもう少しゆっくりしているといい。ユーリアも、今日は疲れただろう?ゆっくりおやすみ。」

「ありがとうございます、お父様。お手を煩わせて申し訳ありません。」

「何を言う、大切な娘ユーリアのためだ。手間などどこにもないよ。任せなさい。」

お父様、最高です。

「お父様、大好きです」

あ、心の声が思わず表に出てきてしまったわ。。

「っ、ユーリア!あぁ、私も愛しているよ。もちろん、オフィーリア、君のこともね。」

ちなみオフィーリアとは、お母様の名だ。

「あら、忘れられたかと思ったわ。ありがとう、私も愛しています。」

と、若干蚊帳の外だったお母様が少し拗ねて言う。

「忘れるはずがないだろう、愛しい人。離れがたいが、コーディ侯爵と急ぎ話を進めねば。失礼するよ。」

「おやすみなさい、あなた。」

「あぁ、おやすみ。よい夢を。」

とお父様がお母様に軽くキスを送り、執務室へ向かうため退室した。

「ユーリア、お父様も仰っていたけれど、疲れたでしょう?今日はもうお休みなさいな。」

「お母様、そうですね。そうさせて頂きます。おやすみなさい、お母様。」

「えぇ、おやすみなさい。ユーリア。」

湯浴みもして部屋にもどると、ここにきてどっと疲れを感じた。

いろいろあった今日の午後を振り返りつつ、訪れる睡魔に身を任せ私は眠りについた。
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