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呼び出された俺

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「性別が女で職業が聖女…だと?」 

呼び出したと思われる連中の言う通りに心の中で唱えて自分のステータスを見たところ、そんなあり得ない結果が表示されて愕然とする。
嘆く俺の肩をポンと叩くクラスメイトの小谷優花は笑いを堪えながら言う。聞こえていたのかよ。

「世界を騙せるなんて凄いじゃない、三神くん」
「そういう小谷はどうなのさ?」
「私は…え、なんで?!」

ショックで膝から倒れるのを見るに、小谷のステータスの性別欄は男なんだろうな。

周りを見ると、客として俺たちの教室に来ていた連中は異世界に召還されたという事実に対して色々言っているようだが、2年3組の生徒は何とも言えない顔で落ち込んでるのが多いな。
普段なら真っ先に反応してそうな連中まで静かなところを見ると、性別反転喫茶をやっていた俺たちのクラスの多くは性別反転しているんだろうな。

「土屋、お前の職業なんだったんだよ」
「…くノ一だ」
くのいち? 
「女忍者か?」
「ああ…」

近くで黄昏ていたクラスで1番でかい土屋に訊くと、職業がくノ一。
普通に召還されてたら忍者だったのか? いや、ファンタジー世界に忍者はおかしいか?

「エプロンドレス姿のどこに忍者要素が有ったのかしらね?」

ステータスが男だったショックから小谷が復活したようだ。

「服は関係ないだろ、俺だって源に借りたブレザーなのに関係無さそうな聖女だし」
「それもそうね」
「で、小谷の職業はなんだったんだ?」
「…言いたくない」
「ファンタジー世界で男を前面に出した職業ってそんなにないだろ?」
「だから言いたくないってば! エッチ! スケベ! 変態!」
「…なんでだよ」

ピー!

なんだ? 笛?

「皆さま、落ち着いてください! 話を聞いてください!」

この世界にも笛があるのか。
つか、バスガイドみたいな対応するなあの人…確か召還計画の責任者で王宮魔道士のなんとかさんだっけか。まあ、どうでも良いか有るべき物が無い事実に気づいた今となっては…。

「ここは異世界ですとか言われて落ち着けるか!」
「来たいなんて誰も頼んでない!」
「この後待ち合わせしてるのに!」
「ミスコン始まっちゃうだろ!」
「ちょっとちょっと、話聞くくらい良いじゃない」
「そうそう、こんなこと滅多にないんだからさ」

お客組は普通に異世界へ呼ばれた人たちっぽい反応してるなぁ、羨ましいわ。
俺はそれどころじゃないって言うか、性別女性になってるけど実際の身体は男のままだよな?と思って息子を触ろうとしたらに気付いてそれどころじゃ無いってのに。

「小谷、確かめて欲しいことがある」
「何よ、小声で…」
「股間を触ってくれ」
「真面目な顔して言うことがそれ!変態!」
「変な意味じゃない、お前自身の股間を確かめて欲しいんだ」
「なによそれ」
「触ればわかる」
「…良いけど、あっち向いてよね」
「土屋も股間確かめてくれ、付いてるかどうか」

後ろで崩れ落ちる気配を感じる。
ああ、やっぱりな。小谷には生えているんだな。
前で焦ったように股間弄ってる土屋もそうなんだろうな。
ステータスとやらの表示だけだと最初は思ってたろ、俺もそうだったよ…。

「馬鹿な、一度も使うことなく無くなった…」
「三島としてなかったのか?」
「…受験が終わるまではってお互いで決めてな」
「三島には生えたかも知れないからすること自体は出来そうだがな」
「…いや、そう言うことじゃないだろ」
「だな。俺、多分混乱してるわ」

後ろでブツブツ言い続ける小谷はほっといて、バスガイドの話を聞くか。
にしても、俺らがショックを受けてることになんの反応も無いのは何故なのか、客連中よりよっぽどケアが必要だと思うんだがな。
まぁなんだ、信用してはいけない連中だな。そもそも誘拐犯な時点で信用する要素は全くないがな。

俺たち2年3組の混乱を他所に自体は進行していき、今は食堂で見た目はそれなりだがそんなに美味しく無い飯を食べている。
飲み物はワインなので飲んで良いか迷うな。

移動中にクラスの連中に話を聞いたところ、職業勇者は居なかったので俺たちは客の誰かに巻き込まれたんじゃないかって結論になった。
よくある異世界ものだと大広間で職業を公表して格差を自覚させたりするんだけどってオタクグループの又吉や木村が言っていたんだが、特に訊かれることもなく自分で見るだけだったな。
聖女の俺も呼ばれた原因じゃないかと言われたが、元男の俺だぞ?と言ったらだよなぁ~って空気になったのは良かった。

「そのまま食事をしながらお聞きください」

いつのまにかバスガイドさんが部屋に居た。
広間では落ち着いて話せないから食堂で話をすることにしたとかなのか? 
椅子に座らせられて飯を食べ始めたら詰め寄ったりする人間は少なくなりそうだしな、良い手だ。

「まず、みなさんをここへ連れてきたのは私たちではありません」
「「「「「「え?」」」」」」

彼らは誘拐犯じゃなかった?

「私たちは異世界人を呼ぶから対応してと言われただけで、何の為に貴方達がここへ来たのかも知らないのです」

なんだそれ?

「また、いつまでここに居るのかとか、帰る方法があるのかなども聞かされておりません。我々も教会からそのようなお告げがあったと言われただけで何もわからないのです」

彼らも混乱してるってことか?

「あなた達に知らされていないだけでその教会とやらは帰る方法を知っているのですか?」
「本日異世界から来客有りと告げられただけでそれ以外はわからないそうです」
「告げるとは誰から?」
「主神様とは言われていますが、正確にはわからないそうです」
「わからないとは?」
「私たちも教会からそう聞かされただけなので…」
「そうですか」

お客組の中で最年長と思われる大学生?らしき男性に色々任せて他は黙々と飯を食べる。俺も勿論食べるがやはり味付けがパッとしない。

「味付け、塩だけかこれ?」
「たぶんね」
「この野菜スープ、煮込んでるわりには野菜の風味が無いような」
「澤田さん、何か分かる?」
「おそらく、柔らかく煮込んだ後にお湯を捨てたんじゃないかな? もしくは塩だけのお湯に後から入れたとか」
「なんでそんな勿体無いことを?」
「柔らかくするのが目的で味は気にしてないか、あるいは不味いとか?」

この世界の食事がそうなのかこの城の食事がそうなのかはわからんが、あんまり長居したい場所ではないな。

その夜は用意された個室へ案内されてそのまま眠った。
客の女性やクラスの女子たちは風呂に入りたがっていたが、まだ準備が出来ていないとかで断られていた。



「胸が…ある?」

寝返りをうったらなんか胸に違和感があったので触ってみたら膨らんでいた。
夜のうちに何が有った?
ステータスを呼び出して見たが特に何も変化はないように思える…と言うか昨日のままだ。身体がデータに適合した的なことなのか? 普通はデータを修正するんじゃないの?



「おはよう、三神…ちゃん?」
「おはよう小谷、髭生えてるぞ」
「マジ?!」
「冗談だ…つか、なんでちゃんなんだよ」
「悪質な冗談はやめてよね!」
「わかったよ。で、なんでちゃんて呼んだ?」
「三神くん、どこから見ても女の子よ? しかも結構可愛い、由美たちの標的にされるくらい」
「マジ?」

坂上由美を中心に、男に振られたり好きな男に可愛い彼女が居るのを知って悔しいみたいな女子たちが集まって出来たグループ。困ったことに他のクラスの女子なども巻き込み学園内で一大勢力になりつつあった。
可愛い女生徒に対してお前ら風紀委員なの?ってくらい校則違反を指摘して回っている。取り囲んで行うとはいえ、髪を結べとかスカートが短いとか言うだけなので先生たちも強く言わない。
誰が言い出したか知らないが、裏で坂上はメデューサと言われ、その取り巻きたちはゴルゴンとか言われてる。
ちなみに小谷もメデューサに取り囲まれたこともあるが跳ね返した。ただ、それって私は校則守らないからって宣言なので、どちらが悪いのか俺にはわからない。

「俺も小谷が男に見えるかも知れん、顔の作りは小谷のままなんだがどこか野性味が増したと言うかな」
「うん、やめてくれる?」
「でも、現実は受け入れないとさ」
「うん、やめてくれる?」

その後土屋が出てくるまで似たようなやり取りを繰り返していた。
土屋、土屋さぁ…。
なんでお前はそんななんだ土屋。

「土屋が土屋のまま女だ」
「顔が土屋くんのままなのにダイナマイトボディて…」
「それで良いのか三島?」
「全然有りだよ、前から私が透を征服したいと思っていたんだもん! 願ったり叶ったりだよ!」
「そっか~」

三島由紀、どこか狙ったような名前に思えるが親の再婚相手が三島だったからそうなっただけらしい。
本人は非常に小柄で土屋とは40センチくらいの身長差がある。
同級生と付き合ってるのに一部からロリコンとか言われてる土屋さん、三島の征服発言を聞いて複雑な顔してますね。
三島は小谷ほど男顔にはなっていないので、その時が来ても顔だけ見ていればなんとかなるんじゃないかな土屋。

「まぁ、頑張れよ」
「何をだ」



今日は客と2年3組が分かれている。何か一緒にしては不味い理由とかが出来たんですかね?

今更だけど、2年3組に所属する生徒が全員この世界に呼ばれたわけじゃなく、準備室で調理してたのと教室で接客してたのが居る感じか。
廊下で呼び込みしてたのは居ないから、教室に居た客の誰かと準備室に居たクラスメイトの誰かが必要だったのかも知れないな。
調理組は教室組と違い性別は元のままだから少し羨ましいなと思って見てたら攻撃的な視線を返された。大ボス坂上由美は休憩で教室から離れていたからここには来てないけど、ゴルゴンたちは居るんだよな。

「あなた達だけを呼び出したのは新しい神託がおりたからです」
「それは、ここに呼び出された我々にだけ聴かせたい話と言うことでよいのでしょうか?」
「ええ、あなた達だけです」

なんだろ? 性別が変わったことか?

「今夜、元の世界へ返すゲートが開くようです」
「?!」
「そこで巻き込まれたと考えられる貴方達をか」
「待ってくれ!」
「…なんでしょう?」
「それは、元の身体に戻して帰してくれる言うことで良いのか?」
「元の身体とは?」

自然と交渉役をしている委員長は「え、知らないの?」みたいな顔して固まっていた。
周りも似たようなもんだ。
昨日誰も伝えなかったのか? 俺? 言ってないよ。城の人に訊かれなかったし。
委員長は性別が変わったのはこちらの人が何かしたからだと思っていたんだろうか? 俺は神とやらがなんかやったと思ってたから城の人が何も知らなくてもそんなもんでしょって感じだけど。

「帰れるけど女のままか」
「私は嫌よ」
「だよなぁ」

性別変化組は1人を除いて嫌がってるな。その1人の三島は土屋を説得してる、お前マジか…。
準備室組は帰りたいんだろうが、俺らの手前言いにくいんだろうな。
じゃあ、まぁ、ね。

「そのゲートは希望者だけ通るとか可能でなのですか? 全員で通らないとダメとかは無いんでしょうか?」
「希望者だけでも良いとのことです」
「そうですか」

準備室組は帰ることになった。
その際手紙を届けてくれると言うので居残り組は全員書いた。
三島は土屋の説得を続けるも夜になったら眠くなったらしく土屋に部屋へ連れて行かれた。

「手紙頼むな」
「皆んな元気でね!」
「向こうで待ってるから!」

などなど、別れの言葉とか言って送る。
その際、ゴルゴンの1人に一緒に写真撮ってと言われたり抱き着かれたりしたのはいったい…?
今の俺は憎むべき敵なのでは?



残った俺たちは性別を元に戻す方法を探しながら異世界での生活をしていく。
何年かすると身体に精神が引っ張られるのか、それほど男に戻りたいと言う気持ちもなくなり女として生きるのも有りかなとか考えたりもする。

ただ、むさい男に抱かれる気には全くなれないので、そうなると相手は限られてくるわけで。
3人目をお腹に入れてる土屋からは「日本に居る時からお似合いだと思ってた」と言われた相手と俺は今日結婚式を挙げることになる。

俺は仮にも聖女という職業だったので教会に就職?し、聖女らしいことをしていたら結構な人気になった。
そんな俺の結婚式は教会をあげてのイベントとなっている。
居残り組で裁縫関係の力を手に入れて洋裁店を経営してる元クラスメイトの作った衣装を着たシスター、楽器職人として名を轟かせた元クラスメイトによるドラムやギターなどなど、結婚式と言うよりライブ会場のステージだ。
まぁ、主役の俺がウェディングドレス着てるから良いだろう。

「歌って踊れる聖女とか私知らないんだけど…」
「天使にラブな歌をを知らんの?」
「知らないわ」
「有名な映画なんだけどなぁ」
「名前からして見そうに無いわねぇ」
「どんな映画見てたんだよ」
「死霊の盆踊り大会とか」
「知らねーよ」

小谷の職業は執事だった。
言うのを嫌がるような職業とも思えなかったけど、小谷にしかわからないものがあるんだろう。そのうち聞けたらと思っている、一緒の時間はこれから幾らでもあるのだから。
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